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<東京怪談ノベル(シングル)>


Spiel

  ファルス・ティレイラ。
 別世界から異空間転移してきた紫色の翼を持つ竜族。
 元々いた世界では激しい争いが絶えない混乱時代が続いていたが、それが終わりを向かえて一段落したところで
 色々な世界にいってみたいとの好奇心と冒険心から異空間転移してくる。
 美味しい食べ物を目の前にすると即機嫌がよくなるらしい。
 だがその性質が災いする事もしばしば。
 端から見ればこりないね、とか言われそうなティレイラの日々日常。
 どうにも目先の欲に抗いきれないその好奇心旺盛な性格が災いして度々罠に嵌る。
 そして、今回も――


 「戻りましたー!配達完了でーす」
 元気よくお菓子屋さんの扉を開けるティレイラ。
 すると店の女店主がその声に応え、奥から顔を出す。
「とっても喜んでましたよ!」
 よかった、と店主は微笑む。
 用が済んだのでそれじゃ、と踵を返すティレイラを何か思いついた様子で店主は呼び止めた。
「なんですか?」
「ねぇ、折角だしちょっと休憩していかない? 簡単なゲームでもして」
 とりあえず今日すべき配達の仕事はもうない。
 けどちょっと小腹が空いてきたから帰っておやつタイムにしたい。そんな風に思った矢先、店主はゲームに勝てば美味しいデザートを食べさせてあげると囁く。
 まるでティレイラの思考を読み取るが如く。
 勿論甘い誘惑の呪文が呟かれた瞬間、二つ返事でティレイラは席についた。
「どんなゲームなんですか!?」
 意気込んで身を乗り出しかねない様子の彼女に、店主はくすりと笑う。
 そして一組のカードの山が中央に置かれ、ポーカーのようにシャッと扇形に広げられる。
「ルールは簡単。何枚かあるカードから当たりのカードを引くだけ。ただしこのカードには魔力が込められていて…間違ったカードを引くたびに身体が徐々にお菓子になってしまうの」
 最後は暫くの間完全にお菓子になって動けなくなってしまう。そんな恐ろしい内容をサラッと言ってのけた。
 普通ここで誰もが尻ごみするはずだが、ティレイラは意気揚々と始めましょうかとテーブルに手をつく。
 何故そんな危ない賭けに挑戦するのか。答えは簡単。そうなると思っていないから。
 しかも店主の『暫くの間』という言葉をティレイラは聞き逃さなかった。
 期間はどうであれ、一定の時間を過ぎれば元通りになるのだから、たとえ負けても大丈夫。などと思っている。
 勿論負ける気はない。
 何より勝てば美味しいスイーツが食べられる。
 それが彼女の原動力になっていた。
 暫くってどのくらい?
 お菓子になって何かの拍子に食べられたらどうなる?
 そういう考えには及ばなかったらしい。
 何より、お得意様である店主が危険なことを仕掛けてくるはずがないと思っているのだろう。
 あまい。
 甘いぞ、ティレイラ。
 蜂蜜の様に甘い。
 その中そんなに甘くないのに。
「――では、始めましょうか?」
 店主の艶やかな声がゲーム開始を宣言した。

 「ハイ、また当たり〜」
「うぐぐ……」
 店主が引くカードは何もナシや当たりのカードばかり。
 それに引き換えティレイラはハズレ続きで既に膝の辺りまでお菓子化しており、甘い香りが漂ってくる。
 これほど引きの悪いのも珍しい事だと、店主は苦笑しつつもゲームを続ける。
 ティレイラの身体はカードを引くごとにお菓子になっていく。
「あらあら…」
「む〜〜〜…次こそはっ」
 引き当てたカードは案の定ハズレ。
 もう当たりは出尽くしたのか若しくは入ってないのではないか。そんな福引でティッシュばかり貰う人のような気分になってくるが途中でおりる訳には行かない。
 むしろおりれない。
 身体は既に動ける状態ではない。
 カードを引くのがやっとだ。
 店主はハズレを引くことなくすいすいとゲームを進めていく。
 カードも減り、殆どなくなって後は恐らく当たりかハズレか、そんな枚数になってきた頃、ティレイラはカードを引くのも難しい状態になっていた。
「(どうしよう〜〜〜! 全然当たらないよーっ)」
「…なんと言うか、面白いぐらいに引き当てるわね貴女」
 あっという間に8割方お菓子になってしまったティレイラを見つめ、不憫を通り越しておかしくなってきた。
「さぁ、最後のカードよ、貴女はどっちにする?」
 既に手も口も自由がきかない状態で、ティレイラは視線を動かし左右に並んだカードの片方を選んだ。
「じゃあ私はこっちね」
 そう言って二枚残されたカードに触れ、同時に裏を返した。
「………」
「(〜〜〜!!)」
 店主が当たりでティレイラがハズレを引くという、何ともお約束な顛末と相成った。
「ここまで来るともはや奇跡だわ」
「(…嘘でしょ…)」
 笑う店主の前で哀れティレイラは美味しそうな御菓子で出来た人形へとなってしまった。
 意識はあるものの、動く事も喋る事も出来ない。
 まさか一枚も当たらないなんて事があるのかと自分の不運を呪った。
「ふふっ このままでも可愛いけど、折角だから色々飾ってみましょうか」
 いそいそと楽しそうに御菓子のパッケージに使うリボンやら何やら持ち出してティレイラに飾り付けていく。
 まるでクリスマスツリーを飾る子供のように。
「あら可愛い。 せっかくだからこのまま暫くの間店の看板(お菓子)娘でいてもらおうかしら♪」
「(そんなぁ〜〜〜っ!)」

 
  それから本当に『暫くの間』ティレイラはその店の看板娘として店頭に飾られる事になった。
「わぁ〜すっごい細かい作り!」
「あれどうやって作ったんだろうね?」
 ディスプレイの前を行き交う人々がお菓子なティレイラを眺めて感心する。
 その様子を厨房側の窓ガラスから覗く店主は、苦笑交じりに呟く。
「…イカサマって思ってるかしら?」


 正真正銘、ティレイラのある意味強運が引き寄せた結果なのだが、彼女にかかった魔法が解けた時にどういう反応をするか。
 それもまた店主の次の楽しみとなった。
 


 ティレイラにとっては非常に気の毒だが――…