コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 宿命の双子 矛盾の平原で

 吹雪の中、鳳凰院美香はアズマと共に歩いていた。
「一瞬で飛べないの?」
「人間にも知って頂こうと思いましてね」
 アズマの術で、寒さなどは感じない物の、風は強く吹き、前は雪で見えなかった。
 地獄のひとつの層・矛盾の平原。業火の王は、地獄の業火を操るはず。しかし何故この極寒にいるのか謎であったが、こうも考えられる。
『矛盾する二つの力を同時に操れば、更に強くなれる』
 元々、業火の王の気性も無人。歩く矛盾なのである。

「彼が怒れば、恐ろしいことになります」

 アズマがずっと旅の間、言い続けている。
 彼の目的も薄々分かる。
 業火の王の居城が見えてきた。周りは火の柱が、立ち上り、黒鉄色の外壁がみえる。もし、普通の人間であれば、ここの熱気でやられているだろうという熱をその風景で分かる。

 美香は紀嗣を救うために、この門を通り抜ける。

「きたか、人の身に神の力を宿した者よ」
 怒りを抑えているような、恐ろしい声が全員に聞こえた。
「……この巨序で俺に刃向かおうという考えは起こさぬ事だ」
 そう、この層の王にたてつけば、何かが起こる。そう考えてもおかしくない。

 あなたは、美香が『堕ちない』事を祈り、信じ、共に彼女の双子の弟である紀嗣の心を救い出す決意をするのであった。

〈しりとり〉
「此は寒いですね」
 術により、防寒結界をはる天薙・撫子は吹雪の中を歩いていた。御影・蓮也も乃木坂・蒼夜も、寒さで凍えそうである。世界の法則が若干違うために、魔力や法力とういったものがかなり下がってしまったようだ。もっとも違うのは、御柳・紅麗だけである。この異界などにおける解釈では、彼の『本質』には氷が存在し、吹雪程度は問題ない。
「で、前に姿を消したのは何故だ?」
 親友の蓮也が紅麗に訊いた。
「俺の世界が、こっちの世界に干渉していい物か、訊ねに行ったんだ、大至急で」
「そういうことか」
 蓮也はそれ以上突っ込むこともなかった。
「逃げたと思ったぞ」
「そんなことしねぇよ」
 乃木坂が言うと紅麗がムスリと言い返した。
「黙っていくのは、不安になるじゃないか……」
 男3人の話を聞いて黙っていたのは、鳳凰院美香だった。少し困った顔になっていた。
「あ、……悪い。逃げたわけじゃないんだ。俺も色々あってね」
 紅麗は言い訳を考える前に過った方がいいと思う。
「……っ!? 別にお前がいてもたいした意味はないし、来なくても良かったんだぞ!」
 しかし、美香は不安な顔が一転、慌てて怒ってそっぽを向いた。
「えっ?」
 紅麗は驚く。
「……やっぱり来て欲しかったんだ」
「ちがう! ……いや、違わないけど、めいわくかかる……」
 美香は言い淀んでしまった。
 紅麗は其れが少し嬉しかった。
「あまり、温い会話はしない方がいいなと思ったが、この寒さで気を紛らわすには良いな」
 蓮也はため息を吐きながら笑みをこぼす。
「……そうですね。殆どの方々がこの世界に来られた事が助けになります」
 撫子も頷いた。
「そんじゃー、道案内はあのアズマに任せて、うちらはしりとりでもしようや」
 神城・柚月が提案する。
「……面白そう」
 イシュテナ・リュネイルが答えた。
「私も混ぜて欲しいですね」
「道案内が読みしたら迷うやろ」
「はぁ。仕方ありません」
 と、吹雪の中に間の抜けたしりとりが行われていた。
 色々難しいことを考えていた、一行にとって此は非常によいリラックスになっていた。


 出かける前に蓮也は、影斬に『アズマのことを調べて欲しい』と言っていた。しかしあまり重要な物はなく、前に影斬が言った、業火の王にライバル側だと言うだけだ。
「あれの考えていることはよく分からないが、何か裏をもつのは確かだ。しかし、あの世界に関して内紛をこちら側から起こすことは好ましくないとおもう。あの階層地獄は常に冷戦と思えばいい」
 つまり、業火の王と敵対している派閥は、嘘の王であり、その王は『地獄の全体を支配する大大公』の呪いで、醜い姿になっているという。
「内紛はまず起きないだろう。その前にあの『大大公』が策謀により止めている」
「……そうか」
 それで、蓮也は先のことに気付く。
「もし此が成功したとしても、大きな影響はない?」
 と。
 もしくは、『大大公』はこの先の事は既に織り込み済みだということだ。
「ならば責任重大じゃないか」
 蓮也は、気を引き締めた。
 柚月あたりは、恐らく……戦うのだろうと思う。見た目冷静でも、とんでもない事をしそうだからだ。所謂、全力全壊とかだ。乃木坂はよく分からないが、イシュテナ曰く、冷静だという。彼女の心を信じよう。
「ふぇ」
「また『ん』だな、イシュテナまけ」
「わたし、難しいです」
 しりとりではイシュテナが、連敗しているようだった。


〈謁見〉
 黒光りする、恐ろしい城の前に立つ。周りはマグマの掘で、熱気を帯び暑く汗ばんでくる。全員ふるえが止まらなかった。人間の心を持つ物における本能、異世界という中の異物と異質。すべて、拒否したい悪しき存在の象徴が目の前にある。
「嫌悪すべき存在」
 があると、誰が好きこのんで足を踏み入れたがる? 否いない。
「業火の王! 弟を返して!」
 美香が叫ぶ。
 重厚な、鉄の門が大きな音を立てて開く。
「王がお待ちです」
 アズマはそれ以上何も言わず、案内する。
 重厚で豪華な建造物は秩序だって、作られている。周りに、魂のなれの果てか悪魔が歩きながら仕事をしている。悪魔が美香達を睨むが、アズマがいることで、睨むだけに留まった。

 遠くで、怒号が聞こえていた。

「……あれは?」
「この階層の王、業火の王ですよ」
 アズマが答えた。

 門が開くと、とてつもない熱風が。もし結界を展開していなければ一瞬にして消し炭であっただろう。
「何故人間をつれてきたぁ!」
「その方が早いと言うことですよ」
 王は激怒している。彼は辺りの物を破壊し、燃やし凍らせていた。
「……火の権化!」
 美香を見つけたときに歓喜がわき起こる。
「我が物になりに来たか! 再生の姫巫女」
「だれが、そんなことを望むかっ」
 業火の王の叫びに美香は冷静に拒否する。
「ふん、しかしお前の弟は我の手にうち。交渉次第では……」
「……弟を無条件で返せ」
「無理だな。掴まった弟の愚かさを呪うがいい」
 勝ち誇る王の笑いが木霊する。
 威圧に気圧され歯ぎしりする撫子や柚月達。紅麗はあの王の姿を見た時点で、まず勝てないと思った。1割と思っていたが、皆無じゃねえか、と。
 蒼夜もイシュテナも黙るしかなかった。強大すぎる存在の前に、言葉が出ないのだ。
「あのさ、あんた」
 しかし柚月が前に出て、指をさした。
 業火の王は、其れを興味なさそうに見る。
「欲張る事が悪いとは言わんけど、あんまり欲張ると痛い目に遭うちゅう事を忘れんときや」
「ふん、この世界、強欲・嫉妬・憤怒などあたりまえだ。人間も己の欲する事をなす事後かがらないだけであろうが」
「いってくれるやないの」
「待ちなさい、柚月様」
 刺激したら駄目ですよ、と撫子がいさめた。
「あ、ああう」
 イシュテナが蒼夜に抱きついて離れなかった。恐怖で、何を言いたいかもなくなってしまった。しかし、前もって言っている「皆を信じたい」と。
「……気をしっかり持て、美香」
 何とかにらみ返しているのは紅麗と、蓮也であった。
「お前が、お前がしっかりすれば……、あの王が持つ『あれ』から、弟の意思で、解くかも知れない」
「ええ、分かってる……」
 美香は頷いた。
 業火の王の手には、赤黒い水晶があった。闇に灯された松明のようなもの。恐らく赤い部分が鳳凰院紀嗣の心だろう。
「どうした? 何か言いたいことでもあるのだろう?」
 業火の王に怒りはない。優越感しかない。
「……業火の王、あなたが何をしようとしているか、壮大すぎて分からない。人間のような、ちっぽけ存在からすれば、世界統一なんて、まず『不可能』だからな」
「……しかし我はそれだけ出来る。この大大公にもそれは面と向かって言っている。お前の弟の力を会得すればな」
「そうだな……しかし、その神格が暴走したら、お前でも焼かれるぞ。抑えもできない」
「ふん、地獄の住人は火に強い。そんなものは杞憂でしかないわ、運命繰り」
「……神になるのか?」
「いかにも」

 ――ねえちゃん
 美香が皆に支えられて、強く前に出ると、声がした。
 ――紀嗣!
 ――ごめん、おれが、おれがしっかりしてなかったから……
 悲しみの声。

「……紀嗣!」
 美香は、赤黒い水晶に向かって、叫んだ。
「紀嗣、一緒に帰ろう!」
「……? 何をほざくか? 再生の姫巫女?」
「美香さん?」
 状況を理解できてない業火の王もアズマも戸惑った。

 ――2人とも爪が甘い。だから放置しているのだ。

 悪魔には別の声。紅麗は、その声で……『まさか』と身を震わせる。
「『大大公』かよっ」
 柚月を肘でついて、結界の準備をしろという。
「帰り方は、幸いわかりそうだし殿は任せろ」
「……あいよ。撫子ちゃん、サポートお願いや」
「あ、はい分かりました」

 そう、双子だから、絆が強いからできる事。心……魂の共鳴のようなものだ。
「過去に囚われず、過ちも未来も、みな私たちで決めるんだ! 夢があるだろ? 紀嗣! お前が、私のことが大好きだと言うことも、心配してくれていることも分かる! 私もお前が好きだ。いつも傍にいてくれた! でも、しっかりしなきゃ! あのときの事故も向かい合ってでも!」
 ――姉ちゃん。お姉ちゃん!
 心が、繋がる。

 黒水晶が割れ、炎がほとばしる。紀嗣の地獄の業火だ。
「ばかな!? 自ら我が檻を?!」

 ――破壊とはそういうものだよ。業火の王。

 その、破壊の業火は、王やアズマを傷つけるまでは至らないが、足止めすることは出来た。
 撫子と柚月が結界を貼り、慌てて入ってくる悪魔を蒼夜とイシュテナがガードする。蓮也と紅麗は美香を囲んで守った。
 業火は、そのまま空に穴を開けて火柱となって消えた。
「そのものを、とらえろ! 人間の世界では味わえない苦痛と悲鳴を!」
 業火の王が怒る。

 しかし、紅麗と撫子の神の力を侮ってはならなかった。
「『アブソリュート・マウアー(絶対障壁)』」
 と、柚月が叫んで結界展開。
「絶対領域?」
「へんたいか、あんた!」
「うわー冗談だよ!」
 紅麗のボケに柚月が、突っ込む。
「影斬……。すまねえ! 世界に怒られたら俺の所為だ!」
 紅麗が、前に貰った影斬との友情の証であるバッチを外し……たたき割った。
「なにをしたのですか?!」
 そこで大事な人のプレゼントを破壊?
 紅麗はわかった、別の空間を行き来する物だから。そう、あれは、緊急時呼び寄せる、笛みたいなものだなのだ。
 紅麗の周りに、懐かしい光が立ちこめる。
「まったく、パジャマ姿だったらどうするんだ」
 と、なボケ眼だった影斬の声。

〈脱出〉
 影斬の光で、闇に身に置く存在は近寄れない。
「呼んだのは紅麗か? 後、数秒しかこの召喚はできないぞ? 暫く私は義明に戻ってしまうかもなぁ。なにせ禁を犯したからな」
「ああ、それはすまん、俺が罰受けるべきだろうな。でも、今厄介なんで、助けてくれ。俺たちが帰る手段ぐらいつくってるだと?」
 そんな冷静な紅麗に影斬はため息を吐いた。
「茜か。大丈夫だ。アズマの術をしっかり覚えていた。まったく、真似たり技を盗んだりするのは上手かったのかあいつは」
 と、余裕を持っている影斬に業火の王が襲いかかる。
「抑止が禁を犯しおってええ!」
「激怒もホドホドにしろ。業火の王!」
 影斬が業火の王の三叉槍の突きを水晶刃で受け止めた。

『解放OK、撫子さん、柚月ちゃん、そっちとリンクするので門開放呪となえてー!』
 空間から茜の声。
「わかった!」
「わかりました!」
 素早く唱えて門を開ける。
「入って!」
「うん!」
 影斬と紅麗が殿を努めて全員が入っていった。

 まわりには、綺麗な光に『汚染』された謁見の間。
 ――影斬も大変だな。多分おとがめはないだろうけど。
 大大公は苦笑していた。

 怒りで当たり散らす業火の王が、光の汚染の箇所を苦しみながら破壊していく様だけだった。
「おのれええ人間めええ!」



〈代償〉
 影斬は、行っては行けない世界に介入したことにより、熱でうなされている。撫子が着きっきりで看病していた。
 撫子が紅麗を睨もうとすると、影斬が制止した。自らは行けないだけであって、いつでも可能なら助けたいからだと。いう。故に証に託したのだ。黙っているのは、依存しないようにとのことだ。

 美香は井ヶ田病院に走る。あの極限の疲労も忘れて自転車で走った。ロータリーに急ブレーキで止まると……、そこに、大切な弟が、車いすで出迎えてくれていた。
「紀嗣! 紀嗣!」
 泣きながら、美香は弟を抱きしめる。
「姉ちゃん……声、聞こえた。俺が悪かったよ。目が覚めた」
「いいんだ、無事で、無事にいてくれれば……」
 絆がたいせつなものが、戻った。それが嬉しかった。

 イシュテナと蒼夜は其れを眺める。イシュテナは泣いていた。
「これが、感動というもの……」
「……いこうか」
 蒼夜は、イシュテナの頭を撫でて、その場を去った。


 全てが終わり、再び始まるのだ。


END

■登場人物紹介■
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
【5902 乃木坂・蒼夜 17 男 高校生/第12機動戦術部隊】
【7253 イシュテナ・リュネイル 16 女 オートマタ・ウォーリア】
【7305 神城・柚月 18 女 時空管理維持局本局課長/超常物理魔導師】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 このたび『神の剣 宿命の双子 矛盾の平原で』に参加して下さりありがとうございます。
 無事に紀嗣は解放されました。此も皆さんが姉弟を支えてくれたおかげです。


 次回から、彼らの双子の未来を見据える為のお話しになります

 また、次回に
 滝照直樹
 20090607