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佐吉の友達〜お人形さんにお持ち帰られる……?〜
「いい、天気。散歩日和だけど、焼けたら困るのです」
黒い日傘をさして緑地公園の名の付く大きな公園へと歩みを進めているのは緋影慧梨衣。かわいいものが大好きな彼女は暇を見つけると、こうやって日傘を差して出かけるのだ。別段日に弱いというわけでもないが、肌が白いので日焼けで文字通り火傷をしてしまうのと、一応(人間社会の中では)幼い(とされている)ながらモデル業をしている立場なので、仕事の都合上日焼けはNGとされている。まぁ、確かにどの雑誌を見たって半そで跡やサンダル跡のついたモデルはいないのだから最低条件というやつかもしれない。
ともかく白い肌を守るために慧梨衣は常に日傘を常備しているのだ。
「今日も、何か、可愛いものいるといいのです。そしたら、今日もエリィは幸せです、ニィ」
ゆっくり、ゆっくりと周りの景色を見ながら歩みを進める慧梨衣。道行く野良猫や、スズメなどの小鳥に目を奪われたり、時にはふらふらと寄っていってしまいながらも、日が空のてっぺんにのぼりきったころには、ようやくいつも足を運んでいる公園の入り口にたどり着いた。
「ちょっと今日は可愛いものばかりで、疲れたのです」
小さな肩を緩やかに上下させる慧梨衣。今日は少しばかり道行く可愛いものが多すぎたようである。
それでもせっかくの暇なオフの日である。
疲れてもお楽しみは多いほうがいい。
「赤い首輪をつけてる白猫さんと、すずめさんにはもうお会いしたのです。だから、公園では犬さんにお会いしたいのです……あれ?あれは犬さん、ではないのです」
公園に入ろうとする慧梨衣の目にふと飛び込んできたものがある。以前仕事をした雑誌を貰ったとき、子供向けの通販ページにあれと似たようなものがあった気がする。
あれの名前はなんだっただろうか。
「えと、ドグーじゃないです。スエキじゃなかったです、は、は、ハニワです!」
「はい、はにわです!ってなんだ!?」
公園の入り口にある意茂みでうごめく小さなナマモノ、ではなくヤキモノは慧梨衣が大声を出したのに対してなのか、それとも呼ばれたのか、はたまた両方なのかもしれないが、驚いて慧梨衣のほうを振り返った。
「はにわ、かわいいです……お持ち帰り」
近づいていって、傘を持ってないほうの手でその埴輪を持ち上げると、くるりと反転して帰路に付こうとした。
「大収穫、です。犬さんに会えないのは残念ですけど……これは、収穫です」
だから今日の散歩はお仕舞い、とばかりに来た道を引き返して行く慧梨衣。その50センチあるか無いかの焼き物は小さな体の慧梨衣の腕の中にでもすっぽりはまり、抱き心地はやはり土なのでいいとは言えないが、フィット感が心地いい。
「これが、掘り出し物、ってやつなのです」
「いや、確かに俺は掘り出されたものだけど……一応家があるからオモチカエリってやつは困るぞ」
「……ハニワ、しゃべった」
先ほども言葉を発していたとは思われるが、それに気づかなかったのだろうか。腕の中の埴輪に呆れられたように話しかけられると、慧梨衣は目を丸くして驚き、歩みを止めた。
「しゃべるよ、生きてるからな」
「生きてる、ハニワですか。お持ち帰り、だめ?」
「駄目だぞ、一応いえでちゅーだけど帰らないと駄目だからなー」
「そう……残念なのです、ニィ」
しょんぼりと、あまりにも目に見えて本当にしょんぼりとするものだから、埴輪も焦る。こんな小さな子を傷つけてしまったと。
「えと、でもまた明るいうちは帰らなくても大丈夫だから、は、話すくらいなら大丈夫だぞ。お前のうちにはいけないけどな」
「お話、なら大丈夫?」
「おう!ちょうどそこに公園があるしな、少ししゃべろうぜ!あ、俺、はにわはしゅぞくめいだからな!佐吉ってのが名前だ!」
「慧梨衣は慧梨衣です。緋影慧梨衣です、よろしくなのです、佐吉」
「よろしくな、慧梨衣」
明るいうちなら、という佐吉と名乗る埴輪の申し出により、慧梨衣の当初の目的である公園に入り、少し人目につきにくい茂みに囲まれたベンチに腰かけて話をすることにした。
「佐吉は、なんで一人であそこにいたのですか……?家出、って本当ですか?」
「んー、今思い返すとくだらないっちゃーくだらないんだけどよ。俺さ、有人とブレスってやつらと一緒に住んでるんだけど、そいつらは家の外に出て、仕事したり、知り合いとかダチとかと一緒に遊びに行ったりしてるんだけどさ。俺はあいつらに掘り返されて、有人ん家に住むようになってから一度も出してもらったことが無いから飽きてよー。外に出たいっつたらブレスのやつ、『むかえのじーさんが見たら入れ歯飛ばしちゃうからやめなよ』とかいいやがって、むかついたから飛び出してきてやった」
「入れ歯、飛ぶおじーちゃん……可愛いかもしれないです」
「いや、可愛いってか面白いかもしんないけど、地面に落ちた入れ歯の手入れが大変なんじゃないか?」
慧梨衣って変なもの可愛いと思うんだなー、と慧梨衣のひざの上でうんうんと両手を組んでうなずく佐吉。
「だったら、佐吉も……変なものに入るのです。慧梨衣は可愛いと思うのですから」
「……そか。そういや、持ち帰られそうになったもんな、俺」
「佐吉、落ち込まないでください。普通に見てもきっと可愛いです」
「ありがとよ、俺、いちおー男だから『可愛い』も微妙だけどな」
「でも……かわいいって言われる男の子、慧梨衣は知ってます」
「俺も知ってます。うちのブレスなんかも若く見られる分、可愛いってよく言われるもんなぁ」
あいつ、全然かわいいって言われてもOKなんだろうなぁ、なんて呟く佐吉の頭を撫でながら、慧梨衣の知ってる子が困った顔はしますよ、と慧梨衣は言う。
「ブレスという人は、可愛いって言われても……平気?」
「平気。笑って、『おねーさんたちのほうがかわいいですよー』なんていう」
「社交辞令……と、いうものですよ、多分。もう一人、一緒、ですよね?その人も可愛いっていわれるですか?」
「有人かぁ?あいつは可愛いって感じじゃねーなー。なんだろ、ブレスはなんちゃってそーしょくけいとか言ってわらってたけど。そーしょくけいってなんだ?慧梨衣知ってるか?」
「そーしょくいけい……草食系ってこと、かな」
その時、慧梨衣の脳裏に浮かんだのは『草食系』動物の代表的な動物のひとつ、キリン。そう、黄色くて首の長いあのキリンである。
何かを勘違いしている慧梨衣。
いくらモデルでも世間的には疎いのだろう、雑誌などで少し前に扱われた『草食系男子』のことを佐吉は聞かされたというのに、慧梨衣が考え付いた先はまさに『草食系』。そのままである。
「キリンさん……可愛い。お持ち帰りしたい……」
「なんか言ったか、慧梨衣」
「佐吉の、一緒に住んでる人……興味あるです。送ってく、お家どこ?」
「うち?こっからちょっと離れた家がありそうでなさそうなとこだけど……いいのか?」
うちにきても面白いもんねぇぞー、なんて佐吉は言うが、思い込みとは恐ろしいもの、慧梨衣の頭はもうキリンさんで一杯である。
「いい、ですよ。ナビ……お願いするのです」
「あいよー」
こうして、慧梨衣は佐吉を送っていくことにしたのだが、勘違いが解けたとき、、どうなるかは定かではない。
其れは、このお話の外で起こることで慧梨衣本人と佐吉たちしかわからない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【8010/ 緋影 慧梨衣 / 女 /999歳/傍観的吸血鬼・モデル 】
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■ ライター通信 ■
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緋影 慧梨衣さま
はじめまして、桜護と申します。
せっかくご購入いただいたのに、このように長い期間お待たせして大変申し訳ありませんでした。
せめて、お待たせした分楽しんでいただこうと内容に力を入れさせていただきましたので、楽しんでいただけたら幸いです。
重ね重ねお詫び申し上げます。
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