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<東京怪談・PCゲームノベル>


絆――ここにある全て

 悪趣味なネオンがちかちかと光る中、そのBARは存在した。
 渋谷の外れに『リゾート』と看板が置かれ、文字の部分がぴかぴかと明滅している。
 BAR・リゾート――此処はあまり良い噂を聞かない場所だった。怪しげな薬物を売っていたり、少し強面の人が出入りしたりと悪い噂ばかりが飛び交っていた。
 しかしそんな場所にも人は集まる、店内を見渡せば若い少年少女がDJの音楽に合わせて身体をくねらせながら踊っている。
 良い噂を聞かない場所だと言う事は彼らも周知の筈なのに、それでも彼らはやってくる。
 若いがゆえにスリルを求めて来る者も居るだろう。
 いつも人が集まっている為、自らの心を蝕む孤独を誤魔化す為に来ている者もいるだろう。
「さぁ、今日も一夜の夢を楽しんでいってくれよ!」
 店長らしき若い男性がマイク越しに叫ぶと、店内の若者達も沸きあがったのだった。

視点→ソール・バレンタイン

「やっぱり渋谷は賑やかだなぁ」
 夜も少し蒸し暑くなってきた頃、ソールは久々に渋谷へと遊びに来ていた。今日は仕事もなく、部屋に篭っているのも退屈だったので外に出ようとなったのだ。
「ふぅ、今日は暑いなぁ‥‥まだ夏は来てないのに――この調子じゃ夏が来た時が怖いなぁ」
 ソールは上着を脱ぎながらため息混じりに呟く。確かにソールが言う通り、今日は特に暑い。こういう日は冷たいお酒でも飲んでゆっくりと過ごしたい。
「う〜ん‥‥何処に行こうかなあ――‥‥?」
 数多く並ぶバーの中で何処に入ろうかと考えていると、視線を感じてソールは視線の方向に目を向ける。
 すると若い少年達が此方を指差して何かを言っている姿が視界に入ってきた。
(「‥‥またかぁ、若いって事は素晴らしいケドね」)
 ソールが着ているのは胸の大きく開いた服、上着を脱いでいるせいか胸がより強調されており、少年達には少し刺激が強いのだろう。
 そんな少年達を横目に見ながら『リゾート』と文字が煌く看板が立てられた店の中へと入っていった。
「取りあえず何か飲みたいな‥‥暑さのせいで喉がからからだよ」
 長い髪をかきあげながらソールは店へと続く階段を降りて扉を開ける。中からは派手な格好、肌を露出した少女、明らかに良い雰囲気は感じられない。娯楽の為ならば何でもするような人種ばかりが集まっているようにも感じられた。
(「でも‥‥僕も夜の住人だしね、人のことは言えないか」)
 くす、と小さな笑みを浮かべながらソールはカウンターへと座り頬杖をつく。
「おや、お客さん初めてだろ」
 バーテンが少し馴れ馴れしい口調でソールに話しかけてくる。
「まぁ、よく分かったね」
「此処のお客は結構固定客だから顔を覚えてるんですよ、そういえばそっちの子も初めてじゃないかな」
 バーテンが視線を向けたのはソールの少し間を置いた隣に座っている女性。こういうバーに慣れているようには思えなく、どこか清楚な感じもうかがわせた。
「何を飲みます?」
「ソルティ・ドッグをお願い」
 了解、とバーテンはソルティ・ドッグを作り始め、その間ソールは隣の女性に視線だけを移していた。肩より少し長めの髪で顔はうかがえないけれど、出されたお酒を握り締めたまま飲もうとしない。服装も他の少女達とは違って仕事帰りのOLそのもの。
 そして女性は恐る恐るグラスの中のお酒を少しずつ飲んでいく――がキツかったようで表情を少し歪ませた。
「それマティーニでしょ、あまり飲みなれていないように見えるけど‥‥初心者にはツラいんじゃない?」
 ソルティ・ドッグのグラスを持ちながら女性の隣に座り、ソールが話しかける。最初は驚いたように目を瞬かせながらソールを見るが、すぐに俯き「‥‥やっぱり分かりますか」とため息混じりに呟いてきた。
「うん、どこかのOLさんかなって思ってた。こういう場所にもあまり慣れてるようには見えないけど」
「‥‥実はその通りなんです、こういう場所に来るのもお酒を飲むのも‥‥初めて‥‥」
 ふふ、と何処か自嘲気味に女性はグラスを握り締めながら薄く笑う。
「ねぇ、ピニャ・コラーダ出来る?」
 ソールがバーテンに話しかけると「あいよ」とシェイカーを振りながら早速作り始め、少し時間が経ってからソールの前に差し出そうとしたが――。
「あ、こっちの子に」
 ソールが女性の方に手を出し『ピニャ・コラーダ』のグラスが女性の前に置かれた。
「え、え?」
「マティーニより断然飲みやすいと思うよ、ラム酒のカクテルだから美味しいし」
 ソールの言葉に女性はおずおずとした動作で『ピニャ・コラーダ』を飲み始める。
「あ、美味しい‥‥それに飲みやすい」
 女性は目を数度瞬かせた後に「ありがとうございます」と笑顔で話しかけた。
「お酒に詳しいんですか?」
 女性がソールに話し掛けると「うん、父が好きだったから多少はね」とソールは言葉を返した。
「あ、私は紫苑サクラと言います、此処から――は遠いですけど事務員やってるんです」
「僕はソール・バレンタイン。秋葉原のふ――接客業かな」
 本当の仕事を言いかけてソールは『接客業』と言い換えた。サクラはマジメそうな女性だから本当の仕事を言えば引かれるかもしれないと考えたのだ。
「‥‥‥‥いいなぁ、ソールさんみたいに美人だったら私も‥‥」
 サクラは呟いた後に俯き「私、男性恐怖症なんです」と目を伏せたまま呟く。
「マトモに男の人と話す事も出来なくて‥‥彼氏とか出来たこともないし」
(「僕とは普通に話してるんだけど‥‥男として見られてないって事なんだけど、喜んでいいのかな」)
 ソールは苦笑しながら心の中で呟く。
「ソールさんは美人さんだから彼氏とかいるんですよね」
「え? いや、別にそういう事はないけど」
 ソールが苦笑しながら呟くと「そうなんですか? 意外です」とサクラは言葉を返してくる。
「かーのじょたちっ、女二人で寂しく飲んでないで俺達と一緒に飲もうよ」
 結構な量を飲んだのか話しかけてきた男達数名は酒臭く、顔も赤い。酔っ払っていることは一目瞭然だった。
「結構だよ、お酒に酔っ払った人と飲んでも楽しくないから」
 ソールが肩に触れてくる男の手をピシャリと跳ね除けながら言葉を返すと「いいじゃ〜ん」となおも絡んでくる。
「しつこいね、そういうのって男としての魅力がないよ」
 行こう、とサクラの手を引いて男達の間をすり抜けて店を出ようとするが――「そういう言い方ってないんじゃね?」と酔っ払った男はタチが悪い。
「‥‥女相手に無理矢理なんてしたくなかったんだけどよ、仕方ねぇよな」
 男達の言葉にサクラはがたがたと体を震わせてソールの服をぎゅっと掴んでいる。
「‥‥へぇ、僕は別にイイけど――何人でも相手してあげるけど――僕も手加減はしてあげないよ? こう見えても結構ソッチにも自信はあるんだから」
 ふ、と妖艶な笑みを見せて呟くソールに何処か恐怖を感じたのか男達は僅かにたじろぐ。それもそうだろう、本格的なトレーニングを行っているソールを前にしたら多少の腕自慢の少年達もたじろぐのは無理もない。
「さ、いこ」
 ソールはサクラの腕を引っ張って『リゾート』の外へと連れ出す。あのまま店に残しておいても餓えた狼達の餌食になるのが眼に見えていたからだ。
「さて、明日仕事でしょ? 僕も仕事だし――今日は此処でバイバイだね」
 店から出た所でソールが大きく伸びをしながら呟くと「あの、また会っていただけますか?」とサクラが話しかけてくる。
「え? 勿論♪ これ僕のアドレスと番号だからいつでも連絡してきてね」
 ソールは紙に連絡先を書き、それをサクラに渡す。
「今度はどこかに出かけるのもいいよね、折角知り合ったんだから」
「‥‥はい」
 サクラは照れたように笑みを浮かべ、そのままソールと別れたのだった。


――出演者――

7833/ソール・バレンタイン/24歳/男性/ニューハーフ/魔法少女?

―――――――

ソール・バレンタイン様>
こんにちは、今回は『絆』へのご参加ありがとうございました。
サクラをご指名でしたが、内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださっていたら書き手として嬉しいです。
それでは、またご縁がありましたらお会い出来る事を祈っております♪

今回は書かせて頂き、ありがとうございましたっ。

2009/5/30