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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


俺も娘も17歳?!〜ムーンストーンにお願い!〜


 父親としての自覚が出てきたのか、それとも未来の娘を見て不安になったのか。
 勝矢は娘・美菜とは、あえて足並みを合わせなかった。この考えに深い意図はない。父と言えども娘と同じ思春期だから、無理に合わせる必要もないと判断しただけだ。意識的にそうしていたのだが、最近になって勝矢はふと気づいたことがある。美菜のパパべったりはともかくとして、ハッキリと性格的に似た部分が見えてこないのだ。それは未来の妻の影響なのかもしれないし、自分の未来の教育がそうさせたのかもしれない。だが、それはそれで少し寂しいもので……勝矢の胸中は複雑だった。


 ある日の放課後。この日も父娘なかよく一緒に帰路へつこうとした。
 神聖都学園・高等部の校門を出てすぐのところに、こじんまりとした露店が予告もなくオープンしていた。今は学園祭の季節ではないし、どこかの部活動の勧誘でもない。勝矢と美菜は顔を見合わせ、不思議そうな表情を浮かべる。

 「なんだ、あれ?」
 「商品……なのかな。シルバーのネックレスにブレスレット、リングまであるね。」

 さすがの美菜も、いつでもなんでもパパに「買って買って!」とねだったりはしない。こんな怪しいところで物を買うのはよろしくないとわかっているのだ。だから素直に見たままを言葉にした。勝矢は額に右手を当てて、昨日の記憶をたぐり寄せる。

 「なかったよなぁ、あんなの……間違いないと思うんだけどなぁ。」
 「いらっしゃい! 神聖都学園で今話題のムーンストーンアクセサリーだよ! 天文学クラブもオススメの最高級品で、みんなもおしゃれになろう!」
 「な、なんで天文学クラブがお墨付き出すんだよ。そんなわけねーだろ。だいたい話が繋がらねぇって……」

 美菜も『うんうん』と頷くと、ふたりで喋っている振りをして連中をやり過ごそうとした。ところがあらぬ方向から、元気な少女の声が響く。勝矢は自分が呼び止められたのかと思い、慌てて振り向いた。すると誰もが振り向くであろうショートカットの美少女が、美貌台無しの剣幕で販売員にケンカを売っているではないか。振り向いたら振り向いたで、また驚く勝矢。

 「何がムーンストーンよっ! そんなの地球で勝手に決めただけでしょ? それに私にはこの石から力を感じないわよっ! これって偽物じゃないの!」
 「けっ、血気盛んなお嬢様だな。い、命知らずというか……」
 「に、偽物! な、何を言うんだ。これは天文学クラブがね、ち、ちゃんと……」
 「何を言っても無駄よ! 私だってね、みんなの名誉を守らないとダメなんだから戦うわよ! かぐや一族の名にかけて、あなたを許さないわっ!」

 怪しい商売に怪しい美少女。このやり取りをどこまで理解するかはさておき、こういう展開になると暴力沙汰になってしまう危険性がある。それを阻止するため、秋山父娘は何も言わずに動いた。身体が勝手に動いたのだ。

 「おおっと、そこまででやめとこうぜ。男の逆ギレなんてかっこ悪いって。」
 「パパー、生活指導部の先生に電話したよー。怪しい人がいるってー。」
 「やべっ! 今日は店じまいだ!」

 美菜の好プレーもあり、男は慌てた。大きめのかばんに商品を投げ入れると、さっさとその場を立ち去る。例の美少女は「逃がさない!」と息巻いたが、そこは勝矢が体で止めた。

 「もうっ! 何するのよっ!」
 「お前、ここに来たの最近だろ。あいつな、外に逃げればいいのに、大学のクラブハウスらへんに逃げてった。背格好もだいたい大学生って感じだったし、もしかしたら販売ルートは神聖都学園にあるのかもしれないな。」
 「だいたい先生に言ったくらいであんなに驚くなんておかしいよー。本当に悪い人はもうちょっとガッツがあると思うけどね。」

 そんなふたりの心強い言葉を聞くと、美少女は瞳を輝かせながらうれしそうに話し出す。

 「そっか、みんなもあんなの許せないんだよね! わかったわ! 私、竹取 かぐら! そっちが勝矢で、こっちが美菜ね。憶えた!」
 「いろんな意味で早いな、お前……」
 「じゃ、今から作戦会議ね! この学園で月のウソをばら撒くなんて許さない!」
 「月……とかはわかんないけど、ウソは嫌いだから手伝うね。パパは……む、無理には誘わないけど。」
 「俺も性に合わないから付き合う。だけど、俺たちでできることなんて知れてるぜ。確実に相手を追い込まないといけないな……」

 そう言いながら、勝矢は男がかばんに入れ忘れたブレスレットを拾う。これが粗悪品であることは間違いない。だが、追い詰めるとなると……かなり難しい。彼は「助っ人がいる」と考えていた。
 助っ人かどうかはわからないが、犯人のいない現場で盛り上がっていれば、勝手に人が寄ってくるのも当たり前。お気に入りのマイバッグを抱えて、学園の生協に行こうとしていた優名もまたそのひとりだった。

 「こ、こんにちわ、美菜さん……お取り込み中だったみたいですね。」
 「ゆ、ゆ〜な……き、気のせいかなぁ。なんか呆れてない?」

 図星を突かれたゆ〜なだったが動揺はせずにゆっくりと表情を温和にしていく。そしてそれを悟られまいと、勝矢から事情を聞いた。見慣れない女子生徒はいかにもな名前だったが、ゆ〜なの興味は別のところに向けられる。

 「憶えたって、ラーニングでしょうか。いらっしゃるんですね、そういう方。」
 「教科書見たら、全部憶えるってか? 俺もそんな便利な能力がほしいな。」
 「パパはすぐ楽したがるんだからー。なんでも便利なわけじゃないよ、きっと。」

 そう、どんなものでも一長一短。正義の心もまたしかり。どんなにいいことでも、度を超せば迷惑になる。ゆ〜なはそれが言いたかった。しかし状況的に我慢を求める場面でもないので、ひとまずは協力を申し出る。
 人の輪が広がるとともに、遠巻きに見ていた人たちも声がかけやすい状況になったらしい。今日はたまたま音楽の公開授業があったため、すでに秋山父娘と面識のある初瀬 日和と羽角 悠宇も離しかけてきた。ひととおりの説明は勝矢が行ったが、悠宇が「実物を見せてほしい」と頼む。勝矢がそれを渡すと、日和も一緒になっていろんな角度から見て確認する。

 「月の名誉かぁ。どこの子ども向けアニメだか知らないけどさ。地球でそんなこと言ったら、笑われるだけだぜ?」
 「だって、うちで許可を出したわけじゃないもーん。」
 「月の名誉とかはよくわかりませんけど、美菜さんたちのおっしゃるように嘘はよくないと思いますのでお手伝いします。」
 「右に同じ。校内で商売ってのもどうかと思うし。あんまり大事にならないようにしたいところだよな……で、このブレスレットの材料は問題のムーンストーンに銀粘土ってとこか。この辺が手がかりになりそうだな。」

 悠宇の言葉を受けて、ゆ〜なが「ムーンストーンって、誕生石ですよね?」と切り出す。まさにその通りで、6月の誕生石として知られるのが月長石、つまりはムーンストーンである。ちなみに石が秘めたる輝きによって名称なども変わるのだが、今回の商品は販売価格から考えてもノーマルなものだろうと容易に推測……したところで、ゆ〜なが農学部の地質分析室に持ち込むことを提案した。なんでも生協に野菜を提供しているのは彼ららしい。勉学と実益を兼ねた便利な話に、思わずみんなが揃って頷いた。

 「決まりだな。じゃあ農学部に行って……」
 「勝矢さ、その間に犯人が逃げちゃったらどうするの?!」
 「こんなもんが知れたくらいで自分から学校辞める根性のある連中じゃないと思うんだけどなぁ。ちょっとは落ち着けよ、かぐら。」
 「わかってるよ。だから私は犯人逮捕を楽しんでるんだもん!」

 さすがの美菜も開いた口がふさがらない。確かにどこを取っても日本人、いや地球人離れした感性の持ち主をしたかぐら。ゆ〜なも難しーい顔をし、日和も悠宇も呆れ顔。この面子では手に余る……と思っていた頃、似た者同士の連中が続々と現れる。まずは実業家の藤田 あやこ。そしてかぐらと面識があるという石神 アリスに、特徴的な跳ね方をしている髪の毛を持つデルタ・セレス。なぜか本日はメイド服を着ての登場に周囲は驚く。

 「なんでデルタはそんな服を着てるの?」
 「さ、さぁ……アリスさんの指定ですから。僕に反対する権利はなくって……」

 悠宇が思わず「ますますややこしくなってきた」と額に手を当てるのも無理はない。アリスとデルタは今までの経緯を聞くと、犯人逮捕に燃えるかぐらとの同伴を希望した。勝矢たちの「お騒がせ娘だからやめとけ」という忠告を聞かず、彼女が望むままの犯人探しをすると言うではないか。最終的には勝矢が折れて、かぐらの引率をお願いすることとなった。
 そして最後のひとりであるあやこだが、この中ではかぐらのことを一番信用してないらしく、何かにつけて突っかかっていく。ご挨拶は「あらあら、月面 やぐらさん?」に始まり、自己紹介からマトモでないから証拠を見せろだの、私はエルフだから空を飛べるだの……証拠に「今ここで飛びます!」とか言うから、悠宇とデルタが慌てて押さえつけるなど、またトラブルの元が増えた感じになった。最終的には「オッドアイの私が最高に美しい」などと言い出し、まるで小姑のいびりになったのだが、この辺は割愛する。

 「ところでそれ、今だけ預かってもいいかしら。蛾を使役して記憶させて、購入先を調べるわ。最終的には部室とやらに潜入する予定よ。えっと、連絡は……こっちの番号にしてくれる?」
 「了解、ってお前、どんだけケータイ持ってんだよ?」
 「事務所直通、プライベートに商談用、お寺専用、病院……って、番号ほしいの?」
 「いりません。」

 あやこからご丁寧にも『じゃあ聞くな!』と言わんばかりの痛い視線を食らったところで二手に分かれることとなった。秋山父娘とゆ〜な、日和と悠宇は農学部へ。かぐらとあやこ、アリスにデルタは犯人追跡を開始する。


 農学部の地質分析室は生協に近い場所にあった。おそらくは重い野菜を運搬する手間などを省いた配置になっているのだろう。ゆ〜な以外は家での食事が多いので、こういったところは珍しい。冷蔵装置を完備したロッカーには『産み立てたまご』が入れられ、どの時間帯でも購入できる仕組みになっている。しかも価格が安い。美菜は「今度はみんなでお食事パーティーだね!」と、せっせと次のお楽しみまで作っていた。
 地質分析室には講師が詰めており、今回は彼に分析を依頼した。これを専攻する学生はいるのだが、今日は畜産の研修で外に出ているという。恐るべし第一次産業。農業の大変さを垣間見た悠宇は「とにかくすげーな」と勝矢に同意を求める。求められた方も、もちろん首を縦に振る。そんなことをしていると、講師が戻ってきた。

 「これ……私が以前、鉱石の講義をした時に使ったのと同じだと思うね。もちろん売り物にもならない月長石だけど。大講義室でやった時にどさくさでなくなっちゃってねぇ。ま、高価なもんでもないし、別にいっかと思ってたところなんだ。」
 「これはちょっと穏やかな話ではありませんね。」
 「少なくともお金を取るべきものではないというわけか。この分じゃ、天文学クラブのお墨付きもまったく関係ないな。」

 悠宇の言葉を補足するかのように、講師は「わかるったって、石言葉くらいじゃない?」と語ってくれた。こんなことはインターネットで検索するだけでもわかる。天文学クラブは無関係だ。この先は調査対象を絞って行動することができる。しかし、ここでゆ〜なが意外なことを聞く。ここ最近、この部室に忍び込んでいる人間はいないかと……まるで名探偵のようなゆ〜なの推理は、この後ズバズバ当たっていくのだ。


 一方、すっかりコギャルモードに模様替えしたあやこは、召喚した蛾を追って学園内を移動。なぜか少し離れてアリスたちがついてくる。そのうち、同じようなペンダントをつけた生徒に出会うと、あやこはいきなり恋愛ゲームのような芝居を始めた。見てくださいと言わんばかりにコケて、偶然の出会いを演出しているらしいが、本人からの説明がないので判断がしづらい。どうやら、これが本人流の調査のようだ。デルタは倒れこんだ瞬間、素で起こしに行こうとしたが、それはさすがにアリスに止められる。

 「すみません〜、あたし、身体が弱くってぇ……けほけほ。」
 「そりゃ大変だ。医務室行く?」

 相手のリアクションを見て、突然として態度を変えるあやこ。もう用はないとばかりに「大丈夫です〜」と元気に歩き出し、頭上で待機していた蛾に指示を下す。どうやら彼女はこれを何度か繰り返すようだ。しかし、かぐらには意味がさっぱりわからない。

 「あーゆーの、地球で流行ってるの?」
 「あ、あれ。ご存じないんですか? ムーンストーンの石言葉は『恋の予感』なんです。それに古代から『愛をもたらす』とも信じられているんです。だからあんな芝居をやって、宣伝文句に違わぬ効果があるかどうか実験してるんだと思いますけどね。」
 「あやこなら、普通に声をかけられると思うんだけど、なんで無理してあそこまで……?」
 「ただの趣味じゃないんですか?」

 かぐらにしてみれば、地球の石の効能調査なんてどうでもいい。ムーンストーンと名づけられた石で悪さをするのが我慢できないのだ。直接、犯人のところを探れるはずなのに……徐々にかぐらのフラストレーションが溜まっていく。アリスはこれを見逃さなかった。そしてメイド服のデルタに目配せをし、兼ねてから温めていたプランを実行に移したのである。

 あやこが石に特別な効能がまったくないと判断したのは、例の芝居を5回繰り返した後だった。その時は気づかなかったが、いつの間にか他の連中が消えている。さすがに熱中しすぎたと軽く反省したあやこは勝矢に連絡を入れた。きっと高貴なエルフ様とご趣味が合わなかったから、仕方なくそっちに行ったのだろうというノリだった。

 「もしもーし、こっちは一通りの調査が終わったから、犯人のとこに行くわ。そっちにいる勝矢とやぐらと合流したいんだけど?」
 『かぐら? 会ってないけど……お前、本当に犯人探ししてたのか? ってか、裏づけはこっちで調査するんじゃなかったのか?』
 「じゃあ聞くけど、あの石に特別な効能があったらどうするのよ。これは無視できないわ。だってそんな素敵な石なら、私のビジネスに活かせるじゃない! それにやぐらだかなんだか知らないけど、彼女の正体もわかるし!」
 『なんか聞いちゃいけないセリフがいくつかあった気もするけど、その辺は人の父親らしく俺の胸に閉まっとくよ。まぁな、今の時点でかぐらを全面的に信用してる奴なんていないって。みんな、お前と同じ不思議っ子って判断なんだからさ。そこまでとんがるなよ。まったく、ゆ〜なとか悠宇の方がよっぽど大人だぜ……』

 やんわりと説教をされたあやこの怒りは沸点に達した。それを一気に冷ましたのが……なんとかぐらだった。アリスとデルタの同伴もなく、いつの間にかたったひとりで戻っていた。おそらく電話の最中に戻っていたのだろう。彼女は丁寧にお辞儀をすると、「電話を続けてください」と言う。急にへりくだった態度を取るかぐらに満足したのか、上機嫌で勝矢と話す。

 「あら、戻ってきたわ。他のふたりはいないけど、そろそろ犯人のとこに行くわよ。青い外壁のセミナーハウスに来てね。」
 『アリスとデルタがいないのは、仕方ないか……わかった、そっちに向かう。』

 電話が終わっても、かぐらの態度は変わらない。いや、むしろあからさまに変わった。動作のひとつひとつがやけに丁寧で、むやみに盛り上がったりもしない。あの天真爛漫さはどこへやら、ある意味で不気味なかぐらになっていた。


 集合場所となっていたセミナーハウスにひとつだけ看板のない部屋があった。そこが無許可でアクセサリーを販売していた連中の根城だという。ここは男の仕事とばかりに、悠宇と勝矢が刑事ドラマのようなアクションを披露する。勝矢が扉をノックして中の人間に扉を開けさせると、有無を言わせず突入。そのまま窓と非常口の前に陣取った。入口を塞がないのは、女性陣が入ってくるからだ。中には3人の男子学生が逃げようと狭い室内を駆け回ったが、脱出が不可能だとわかるとあっさりと観念する。中央のテーブルにはムーンストーンやシルバーチェーン、そして工具類が転がっており、ここが製造場所と断定するには十分すぎた。

 「へぇ。学園内で販売してるわりには、ずいぶん本格的な工房だなー。」
 「あら。これって適当に作ってるわけじゃないみたいね。ひとつとして同じ長さのチェーンがないわ。石の形状に合わせて、デザインも変えてるのかしらね。」
 「あやこさん、こっちにはデザイン画がたくさんあります。」

 ここまで凝った製造過程がわかると、不思議と学園の指導部に叩き出す気が薄れてくる。だが、悪事は悪事。まずはそこをハッキリさせてから諭すことにした。

 「とりあえず学園内での商売は……決まりがあるんだから。これからは無許可でするなよなー。」
 「な、なんで俺たちってわかったんですか……?」
 「俺たちはゆ〜なのおかげだな。地質分析室の講師から聞き出してくれたんだ。夜中も熱心に電気炉を使ってる、いまどき珍しい学生がここにいるってな。」
 「講師の先生が紛失した月長石の原石は大きいと伺ってます。それを細かくするのは一苦労だと聞きました。電気炉を使う以前に、もっと別のもの……そう、工学部で使うような特殊な機械が必要だと考えました。まさかデザインを担当している美術学科の方がいらっしゃるとは思いませんでしたが、農学部と工学部のお二方を限定するのはそれほど難しいことではありませんでした。」

 超巨大教育機関である神聖都学園で、農学部と工学部の人間を探すのはほぼ不可能。しかしそのひとりが特定できるのなら、話は別だ。そのきっかけをつかんだゆ〜なは、彼らにたどり着く道を明るく照らしてくれた。日和や悠宇の聞き込みの甲斐もあって、あやこのお芝居の間に3人組でたむろしていることまで突き止めたのである。どうしても居場所だけがわからなかったが、そこはあやこが調べてくれたので助かったということらしい。自分の活躍を紹介されると、素直に「わかってるのならいいわよ」とまんざらでもない笑みを浮かべた。
 ここまでは悪事の暴露だったが、今度は日和と悠宇が一歩前に出て、作りかけのアクセサリーを手に取りながら話し始める。その顔は「もったいない」という表情でいっぱいだった。

 「あの……これだけの腕前がおありなら無許可で販売したり、天文学クラブのお墨付きと言わず、胸を張って気に入ってくださる方の手元に届けた方がいいと思うんです。」
 「ショップにも聞き込みに行ったけどさ。ずいぶんこだわりがあったみたいじゃないか。別に俺もさ、突入してから気づいたって訳じゃないんだ。だから、できればまっとうなやり方でやってほしいんだけどさ。」

 ふたりの評価は意外だったのか、3人はそれぞれに顔を見合わせる。そして今までやってきたことのバカバカしさに気づく。気落ちしたのか、みんなうなだれてしまった。

 「自信がなかったのかもしれないけどよ。今度からは『作り手の誇り』みたいなのを持ってさ、がんばってくれよ。」
 「そうですよ。きちんとしたものが作れるなら、きっと見る人は見てくれると思います。ものを作って人に届けるって、そういうことではありませんか?」
 「反省して立ち直れるなら、私がお世話してあげてもいいわよ。そこで諦めてもいいんじゃない? その気になったら、ここに連絡して。お仕事用だから、デートのお誘いには使わないでね♪」

 あやこのフォローもあり、まずは学園側に謝罪した上でがんばってみるという結論になった。何はともあれ、これで一安心。かぐらの思惑通りとまでは行かなかったが、秋山父娘の不満は解消できたといえるだろう。


 すべての騒動の発端となった場所に戻ってきた一行は、かぐらの丁寧な態度にそわそわしていた。まるで人が変わったかのようである。あんまり気持ちが悪いので、悠宇がたまらず聞き出した。

 「あ、あの……その、気に障ったら謝るけどよ。どう考えても、お前があのかぐらじゃない気がするんだよな。」
 「や、やっぱりわかりますよねぇ。申し訳ありません。皆さんを騙すつもりはありませんでした。実は事を穏便に済ませたく、このようなことをした次第で……」
 「えーーーっ! べ、べっ、別人なの! そ、そっくりじゃない!」
 「はじめまして、月を統治するかぐや一族の末裔・竹取 かぐらの双子の弟の竹取 めぐるです。すみません、そっくりで……」

 ゆ〜なも日和も悠宇もあやこも勝矢も美菜も、これにはビックリ。口を開かなければ、どっちがどっちかわからない。それこそ性格を知っていればわからなくもないが、初対面では疑惑にはなれども確信にまでは至らないだろう。めぐると名乗った少年は姉の無礼を詫びるとともに、すでにそれなりの罰を与えてあると伝えた。

 「罰……? 穏やかじゃないなー。」
 「今回は姉が発端の騒ぎですので、こちらできっちり処罰しておきました。今後はボクからもこのようなことをしないように言っておきますので、どうか毛嫌いせず今後ともお付き合いのほどをよろしくお願いします!」
 「お、弟さん、なんだかかわいそう……」
 「ゆ〜なさんもそう思います? わ、私もなんかそんな気が……」
 「なんか慰めようがないな……」
 「本当に月の統治者だったなんて……こっちに言われたんじゃ、納得せざるを得ないわね。」

 ふたり並んで出てこないので、あまり現実味がないが、なんとなく理解はできた。だが、ただ一点だけわからないことがある。それは『罰』のことだ。今、姉のかぐらはいったいどこで何をしているのだろうか。


 いつの間にか姿を消したアリスの店には、美しいポーズを取ったかぐらの石像が立っていた。これは彼女の能力で催眠状態にされ、彼女が美しいと思うポーズを取らせたところで石化させたのである。そう、最初からムーンストーンなどに興味はなかった。興味があったのはかぐらだけ……彼女をコレクションに加えることが最大の目的だったのだ。

 目的を達成したというのに、アリスはなぜか不満げだ。メイド服を着たままのデルタはりんごをかじりながら、ついさっき起こったことを思い返す。あやこの調査に飽きたかぐらを人気のないところまでおびき出して催眠状態にしたまではよかったが、なぜか双子の弟・めぐるに姉の変化を察知されてしまったのだ。そして姉には備わってない月の理力を操り、催眠状態とアリスの魂胆をたちどころに見破る。内政に関わっているというのは伊達ではないらしい。不測の事態が発生し、デルタも実力行使に出なくてはならないかと身構えた。
 ところが、めぐるはふたりを止めようとはしなかった。なんと彼は「3日間だけ姉を貸す」と言うではないか。さすがのアリスもこれには驚いた。ただ、レンタルは彼女の望むところではない。そんな要求は突っぱねようとしたが、ネックなのはめぐるの存在だ。催眠状態になった程度で姉の元へ飛んでくるのだから、それ以上の危険は絶対に飛んでくる。アリスにとってこれほど厄介なことはない。この対策が見つかるまではおとなしくしようと、この場は要求を飲んだというわけだ。交渉が成立すると、めぐるは姉になりすましてあやこの元に走った……というのが抜け落ちた物語の全容である。

 「この美しさもあと2日……また次の手を考えなくてはいけませんね。」

 さすがはアリス。まだ諦めるつもりはないようだ。めぐるに体よく姉への罰に使われたのだから、そりゃご機嫌もよろしくない。いつかコレクションに加えるその日のために、今は一時的な満足を味わっておくのも一興かと、かぐらの像を見つめていた。

 『もーーーっ! こっち見るんじゃないわよ、陰険美少女っ!』

 このふたりの因縁も、徐々に深まりつつあるようだ。まだ、罰は始まったばかりである。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

2803/月夢・優名   /女性/17歳/神聖都学園高等部2年生
7061/藤田・あやこ  /女性/24歳/IO2オカルティックサイエンティスト
3524/初瀬・日和   /女性/16歳/高校生
7348/石神・アリス  /女性/15歳/学生(裏社会の商人)
3525/羽角・悠宇   /男性/16歳/高校生
3611/デルタ・セレス /男性/14歳/彫刻専門店店員および中学生

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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お久しぶりです、市川 智彦です。ご近所異界の第6話でした。
新規NPCの「竹取・かぐら」「竹取・めぐる」のデビュー作ともなりました。
皆さんのプレイングのおかげで、意外なストーリー展開になりましたよ!(笑)

ご参加の皆様、今回もありがとうございます。これからもご近所異界、やりますよ!
また勝矢や美菜たちの巻き起こす珍騒動や別の依頼でお会いできる日をお楽しみに!