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第2夜 理事長館への訪問
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午後1時15分。
石神アリスは心底嫌な顔をしていた。
この間の怪盗捕り物に出かけたのが運の尽きだ。
まず自分位しか知らないと思っていた写真部部室に出かけた所、堅物眼鏡と鉢合わせ。おかげで一晩反省室で過ごす羽目になってしまった。シャワー室を借りる事ができなければそのまま堅物眼鏡を魔眼で石化させていた所だ(しかし何故か奴には魔眼が効かないのだから腹が立つ)。おまけにこの件がばれたせいか放課後は理事長館に呼び出しを受けている。何でわざわざこの事で大げさに問いただされないといけないのか。
そして現在。
新聞部から逃げ回る日々が続いているのである。
「もう、何でこうなるのよ……」
できれば目立ちたくないし、自分は裏で動くのが性に合っている。でも一般生徒で怪盗と鉢合わせたのが珍しいらしく、あれから毎日のように新聞部員がやってくる。最初は当たり障りのない事を答えていたアリスも、いい加減うんざりしてきたのだ。
「……こうなったのも、あのオデットのせいだわ。何としても、手に入れてやるんだから……」
アリスはギリリと唇を噛んだ。
それにつけても不可解なのは、盗まれたものの共通点だ。アリスの情報網を使って特定のついた盗まれたものは全部で3点。オデット像と食堂の鍋、そしてこの間盗まれた初代写真部部員の記念写真だ。学園のシンボルだったオデット像ならいざ知らず、食堂の鍋や写真に何の価値もないと思うのだが。古いもの。それ以外に共通点が見つからないのだ。
「単なる愉快犯にしては大事になっているのよね。可能性としては、1つ。盗む事自体はフェイクで何か他のものを隠そうとしている。2つ。これら盗まれたものに付加価値が存在する。3つ。実は両方……。いや、ありえないわよ」
そうアリスがぶつぶつ言っている時だった。
「すみませんー、新聞部ですー」
背後から声が聞こえた。
またか。
アリスはげっそりした顔をしたが、ひとまずその表情を引っ込めて笑顔を取り繕う。
「もうお話できる事はしたと思いますが?」
アリスはチクチクと嫌味を織り交ぜて振り返る。
振り返った先にいたのはキャスケットを被ってカメラを首にかけた少年である。
「えーっと、先輩達は取材してました」
「それならそれで充分だと思うのですが?」
「いえ」
少年は首を横に振り、胸ポケットからメモとペンを取り出した。
「怪盗が出るって予告状が来るまでの間に変わった事はありませんでしたか?」
「ありません。うちの部は特に賞も取らない目立たない部ですので」
「誰か喧嘩したとか、ささいな事も?」
「ありませんわ」
「……おっかしいなあ。今回は外れなのか?」
「え?」
少年は速記でアリスの返答をメモに書き記していた。少年は眉を八の字にしている。
「外れって何?」
「うーんと、新聞じゃ文字数の関係ではしょられてますけど。大体怪盗が予告状出してくるのって、小さい事件起きている時なんですよ」
「小さい事件? オデット像や鍋の時も?」
「詳しいっすねえ。ええ、起こってますよ」
「教えてもらえる? それとも情報規制とかってあるのかしら?」
「別に構わないっすよ? あまりにくだらないので記事にしてもしょうがないって号外でも載せてない記事なんで」
少年は頷いてメモをめくり始めた。
何この子。扱いやすい。
アリスは少しあっけに取られながら少年を見ていた。
「まず第1のオデット像盗難。その時は像の所有権を巡って学園外のコレクターと揉め事がありましたね。あんまり公には出てない話ですが」
「それは知ってるわ。前からコレクターの買いたいって話を理事会が蹴ってたのでしょう?」
「盗難前はもっと荒れてましたね。前年比で2割増コレクターが来てたんすよ」
「いきなり増えたわね」
「で、増えたのが盗まれる前日になったらパッタリと話が全部消えたんです」
「理事が潰したの?」
「いえ。コレクターから断ってきたんです」
「あれだけ来てたのに?」
「それだけじゃありません。いつも小さな事件があったら怪盗が現れる要因になっているみたいなんで。第2の鍋の時はもっとしょぼかったですが」
「何?」
「過食症が続出したんですよ……」
「はあ?」
アリスは唖然とした顔をした。
「何それ?」
「それはもう、一時期ジャージ着用の生徒が増えましたね。怪盗に鍋を盗まれてからはそれもなくなりましたが」
「鍋が原因だった訳? それ……」
「怪盗が出るまではただの鍋だったはずなんですけどねえ。魔術同好会が「怪盗が学園に呪いをかけた。過食症がその証拠だ」って寄稿してきてますけどね。根拠は不明です」
その時、予鈴が鳴った。
「ああ、もう時間っすね。それでは自分はこれで」
少年は名刺を差し出して立ち去っていった。
『聖学園新聞部 小山連太』
そう書かれていた。
なるほど、あまりに小さい事件じゃわたくしの情報網じゃ引っかからないから、新聞部を利用する手もあるわね。
アリスはそう考えた。
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午後4時20分。
部活の休みなアリスは、直接理事長館へと出かける事となった。
「それにしても、いきなり全生徒と個人面接なんて……胡散臭いわね……」
アリスは常々理事長を胡散臭いと思っている。
普段からよく生徒達と交流をしているらしい。そんな人気取りしているお方が一転して全員を容疑者扱い、ねえ?
胡散臭いと言ったら、怪盗騒動に対して全く何の処置もしていない点だ。鍋や写真はともかく、オデット像は芸術的価値のある品だから警察に被害届けを出してもおかしくないのに、それを放置。これを胡散臭いと思わずに何を胡散臭いと思うのか。
「……絶対、あの人。何か知ってる。なら、聞き出すまでよ」
アリスの金色の瞳がギラリと光った。
そうこうしている内に、理事長館へと着いた。
理事長館は白亜の館。19世紀イギリスの湖畔地方によくあったような館をモチーフにしており、価値の分かる人間が見るとほれぼれとする外観をしている。
アリスは迷いなくドアのチャイムを鳴らした。
「はい」
ドアはすぐに開いた。
「いらっしゃい。石神アリスさんだったわね?」
「初めまして、理事長」
アリスは金色の瞳を瞬かせてにっこりと笑った。
理事長も微笑み返す。
「早く中にお入りなさい。こんな所で立ち話はよくないわ」
「分かりました」
栞に通され、アリスは理事長館へと入っていった。
理事長、聖栞は美しい女性である。
豊満な身体を上等な服でいやらしくなく包んでいるのが好感が持て、完全に露出を抑えているにも関わらず、身体のラインは崩れていない。アリスのコレクションに加えても文句ない人物である。
しかし……。
アリスは栞について理事長館に入ってから、違和感を感じていた。
アリスは出会い頭に栞に魔眼をかけた。そのはずである。
しかし彼女は催眠特有のふらついた足取りもとろんと眠そうな目もせず、しっかりした足取りで歩いている。
わたくしが魔眼をかけ損ねた? いや、多分目線がきちんと定まってなかったから……。
面接時、面接時なら目線を逸らす事はできないはず。今度こそ……。
アリスの思惑をよそに、奥の部屋に通された。
ピアノがある以外は普通の応接室である。
「待ってね。すぐ紅茶を淹れるから。座りなさいな」
「はい」
「まず本題に入る前に」
「はい?」
栞はやんわりと笑いながら熱湯をカップに注いでいる。
「駄目よ。うかつに魔力を使い過ぎちゃ。ましてや魔眼なんて強いものを」
「え……」
この女。
アリスはできるだけ平静を装った。
「どう言う事でしょうか?」
「そのままの意味よ」
アリスは目力を強くした。
栞は微笑みながらカップの熱湯を捨て、替わりに淹れたての紅茶を注いでいる。
この女。魔女だわ。それも、かなり強い。
でも何故? 何故誰も気付かなかったのかしら……?
「最近、あなたは推理ゲームに熱心なようね。この前も怪盗に会いに行ったと、会長から聞いているわ」
「……はい」
「一人で強い力を持って歩き回るのはやめなさいな。あなたのためにも」
「どう言う事でしょうか?」
2度目の問いだった。
「……見初められたら魂を抜かれるわ」
「魂を? 誰に?」
「私はしゃべり過ぎたわね……」
栞は天井を見上げた。その顔から笑顔は消えていたが、すぐにまた笑みが浮かび上がった。彼女は紅茶の入ったカップをお盆に載せてアリスの座っていたソファーに持ってきた。
アリスはまじまじとカップを見た。淡い色の紅茶である。ウバだろうか。
「遊びに来てくれた子達にはここの鍵をあげていつでも遊びに来れるようにしているんだけどね。あなたはどうする?」
「どうって……」
栞はテーブルに鍵を置いた。
金色の鍵であり、持ち手には学園章が刻まれている。
アリスは栞の思惑が分からず、ただ栞と鍵を見比べた。
<第2夜・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7348/石神アリス/女/15歳/学生(裏社会の商人)】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】
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■ ライター通信 ■
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石神アリス様へ。
こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第2夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は小山連太、聖栞とのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さい。
また、アイテムを入手しましたのでアイテム欄をご確認下さいませ。
第3夜公開は7月上旬の予定です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。
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