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お母さんの心配事
「お母さん!? どうしたの、いきなり……」
玄関を開けたみなもが驚きの声をあげる間もなく、みたまは靴を投げ捨て、娘に抱きついた。
「やだ、久しぶり〜! 生のみなもだわ。相変わらず、可愛いわね〜。元気だった!?」
みなもはその勢いに、あやうく倒れそうになってしまう。
抱きしめる腕も力強く、背骨が痛むほどだ。
「ダンナさまに話聞いて、いてもたってもいられなくなってね。手っ取り早く仕事片付けるためにちょっと無茶しちゃった♪」
みたまの言う『無茶』とはおそらく正真正銘の無茶なのだろうと、みなもは不安に思いつつもあえて詳しいことは尋ねなかった。
……でも、嬉しいな。帰ってきてくれて。
思わず、みなもの顔はほころんだ。
お父さんとは入れ違いで、一家団欒とはいかないけれど、忙しい両親が立て続けに顔を見せてくれたことがみなもには嬉しかった。
「ね、ダンナさまの言ってた夢世界、私も連れてってくれるんでしょ? 連れてってくれるわよね?」
みたまは少女のように瞳を輝かせ、懇願するようにみなもにすがった。
何をどう聞いたのかはわからないが、ものすごく行きたがっているようだ。
「じゃあ、藤凪さんにお願いしてみるね」
「そうそう。みなもったら『いい人』がいるんですって? お母さんにも紹介してよ」
「ふ、藤凪さんはそんなんじゃ……」
「あら、その人がそうだなんて言ってないけど?」
慌てて答えるみなもに、語るに落ちたり、とばかりにいたずらっぽい笑みを浮かべるみたま。
「もう、お母さんったら。藤凪さんに変なこと言わないでよ」
「やぁね、大丈夫よ。それより早く行きましょ」
みなもの心配をよそに、みたまは急かすようにその背を押すのだった。
「あれ、みなもちゃん。今日はお友達連れ?」
親しげに並んだ二人を見て、十四歳の少年、藤凪一流は意外そうな顔をした。
手品を終えたばかりのようで、人だかりが散っていくところだった。
ブルーシートや手製の看板を片付けている手を止め、軽く頭を下げてみせる。
「え? いえ、この人は……」
「それともお姉さんかな? いーなぁ、美女と美少女。こーいうのを目の保養っていうんだろうな」
一流は愛嬌のある笑顔でいって、ぽんっと花を差し出す。
真っ直ぐな青髪にサファイアのような瞳をしたみなもには真っ白な百合の花。
そして金色に輝く柔らかな髪とルビーのような瞳をしたみたまには真っ赤な薔薇の花を。
「あら、ありがとう」
みたまは細い指先でそっとその花を受け取り、品のいい笑みを見せた。
その仕草も表情も、大人の女性らしく、娘とはしゃいでいた面影はない。
お姫様や貴婦人を思わせる変貌ぶりに、みなもは唖然とする。
「いえ……どう、いたしまして」
一流は微かに頬を赤らめ、頭をかく。
冗談半分だったのに、思わず見惚れてしまったようだ。
「手品で花を贈るなんて、素敵じゃない。この手で娘を落としたの?」
みたまは軽く薔薇にキスをして、不適に笑ってみせた。
「そんなんじゃないんだってば」
「は……娘?」
一流はそれに、きょとんとして聞き返す。みなもはそれに、どこか照れたように答える。
「はい。あたしの母なんです」
「え……ええぇっ!?」
普段から大げさなリアクションを見せる一流だが、このときばかりは本気で驚いているようだった。
何せ、お世辞でも何でもなく、みたまはどう見ても20代前半。10代でも十分通じる容姿なのだ。
中学生の娘がいるなんて、一体誰が想像できるだろう。
みなもも、慣れているとはいえ毎回驚かれてしまうので紹介のときには若干困ってしまうのだ。
「私はみたま、よろしくね。藤凪だっけ、よく噂に聞いてるわ。色々と訊きたいことがあったのよね。いいかしら? いいわよね?」
「はぁ……僕でよければ」
一流は半ば圧倒されつつも、丁寧に答えた。
大人の奥様を気取っていたはずなのに、すでに化けの皮がはがれはじめているらしい。
みなもはハラハラしつつ、それを見守る。
「ぶっちゃけ、みなもとどこまでいってるの?」
やはり来るか、とばかりの質問に、一流は引きつったような苦笑を浮かべて。
「いえ、どこまでも何も……」
「どこまでも、何もかも?」
「違います!!」
訊き返すみたまに、一流とみなもは声をそろえて反論する。
「ふふ、いいのよ別に、隠さなくて。うちの娘は奥手だけど、そういう年ごろだものねぇ」
しかしみたまは、わかってるから、とばかりに手を振って制する。
「だけど、避妊だけはしっかりね? みなもはそういうのハッキリ言えないだろうから、男の君がちゃんとしてくれないと……」
「もー、お母さんってば!」
みなもは顔を真っ赤にして、慌てて止めに入る。
一流は言葉もなくし、ただ唖然とするばかりだった。
「ごめんなさい、藤凪さん。ごめんなさい」
こないだ、お父さんのときにも迷惑かけたばかりなのにーっ。
恥かしさと申し訳なさでいっぱいになりながら、みなもは必死に頭を下げる。
「どうして謝るの? 変な子ねぇ」
「いや……なんていうか、おもしろいご両親だよね」
一流は心の底から感心した様子で、うんうんとうなずいていた。
人の目の届かない芝生に入ると、3人は座り込む。
「互いに手をつないで、目を閉じて。今から行く世界をイメージしてください。獣人の住む夕闇の森に、月が輝き花びらの舞う人魚の水辺。青空の中、逆さに建物が立ち並ぶ翼人たちの浮遊島。3つの空に、それぞれの種族が暮らしています……」
皆のイメージを同調させていくと、3人はやがて、温かな光に包まれた。
次に目を開けたとき、そこは月光輝く水辺の上だった。
頭に思い描いたものと同じ、3つの空に2つの太陽と月が混在する世界。
花びらの舞う夜空に浮かんでいたのだった。
みなもの姿はオオコウモリの獣人となり、黒い翼で羽ばたく。
愛らしい顔はそのままに、胸元や下腹部をおおう、ふかふかの黒い毛並み。
腕の代わりの巨大なコウモリ羽に鋭いカギ爪。足先が逆を向いた、細い足先。
一流と共に翼の生えた小船に乗っていたみたまは、惚れ惚れとした様子でみなもを見つめる。
「かっわいい! さすが、私の娘ね。何着てもどんな姿でも似合ってるわ〜」
船の縁から身を乗り出すようにして興奮ぎみに声をあげる。
「そうですね」
「ちなみに藤凪は、どっちが好みなの?」
「えぇ?」
急に話を振られて、一流は戸惑いを見せる。
「お母さん、藤凪さんを困らせないで」
「だって、気になるじゃない」
みなもの言葉に、みたまは頬を膨らませる。
「え、えーと……それはともかく、今日はどんなルートに致しましょうか? 行きたいところや見たいところは?」
一流は空の上でオールを漕ぎ、何とか話題を変えようとする。
「私、ダンナ様と同じところ!!」
すると、みたまはぐっと拳を握りしめて力強く答えた。
「みなもが案内したんですって? すごく楽しかったって言ってたわ。だから私も、同じものを見てみたいの」
嬉しそうにはしゃぐ姿に、みなもと一流は顔を見合わせる。
「了解。そんじゃ、案内はみなもちゃんに任せましょう。前回のルート、覚えてる?」
「もちろんです」
小船を先導するようにみなもが身を翻すと、水面から顔を出した人魚たちがてんでに声をかけてくる。
「あらデート? 仲がいいわねぇ」
「馬鹿ね、もう1人いるじゃない。観光案内でしょ」
「あら、また家族紹介かもしれないわ」
「たまにはこっちにも遊びに来てちょうだいよ」
「美人さんも一緒にね」
岩場に腰掛け、時にはその尾で水をはね、泳ぎながら歌うようにおしゃべりをする。
2人はそれに、軽く手を振って見せる。
「随分と気さくな方たちね」
小船から身を乗り出すようにして、みたまも愛想よく笑みを向ける。
「みたまさん、気が合うんじゃないんですか?」
「あら、そう?」
みたまは軽く首を傾げたが、みなもは思わず笑ってしまった。
綺麗なもの(可愛いもの)に目がないところも、勢いがあって若干強引なところも確かに似ているかもしれない。
とはいえ……母親がただ着飾り、踊って歌うだけで満足できる相手ではないことを、みなもはよくわかっていた。
コウモリ娘のみなもが暮らすのは、空に浮かぶ翼人の島だ。
地面から、海に向かって伸びる木々や建物。そこに辿り着いた頃、紙芝居がめくられるような唐突さで真っ青な空が夕焼けに変わった。
人魚の泉が明るい太陽に照らされ、その向こうの森は深い闇に包まれている。
この時間帯、浮島は家に帰るものたちと起き出すものとで混雑していた。
みなもの家は、大きな木の天辺にあった。
「ふぅん……こっちでは、こういうところに暮らしてるわけね」
みたまは興味深げにそれを眺める。
地面が上にあって真ん中には空、下に海がある、という奇妙な状況を覗けば、木の上の家は子供の憧れる秘密基地のような外観をしていた。
浮島の住人には必要ないが、蔓の梯子や木の枝の階段も設けられている。
「まぁ、いらっしゃい。その方はお姉様かしら? 美人さんねぇ」
美しい蝶の翅を持つ女性がハニーウェーターを出してくれる。
彼女はこの世界でのみなもの母親なのだ。
対面したみたまはどこか緊張したようだった。
天井には止まり木があり、床(建物の屋根部分)には低いテーブルと蝙蝠の足でも座りやすい椅子が置いてある。
「何だか、少しみなもに似てるみたい」
穏やかな口調で指摘され、ギクリとする。
「ああ、そうだわ。観光客の方に教わった、タルトをつくってみたんです。氷室に入れてますから取りにいってきますわね」
しかし蝶の夫人は微笑んだまま手を叩くと、いそいそと部屋を出て行く。
「最近、料理やお菓子づくりに凝ってるみたいなの。この家で手が使えるのはお母さんだけだし」
腕がそのまま翼になっているみなもは、背中に薄い翅の生えた母の姿を見送りながら、そうつぶやいた。
「お母さん!?」
その言葉に、みたまは衝撃を受ける。
「あ、うん。だって……こっちの世界では、家族ってことになってるから……」
みなもは慌てて、そうフォローを入れる。
「やっぱり……みなも、ああいうお母さんが理想なのね!?」
「え?」
「そうじゃないかと思ってたのよ。だってここは、夢の世界でしょ。そこでの家族っていったら普通、理想像よね。確かに私、家事は苦手だし、あんまり『お母さん』らしくないかもしれないけど……けど!」
両手を頬に当て、青ざめるみたま。
「お、お母さん。あたしは何もそんな……」
「やっぱりこっちのお母さんの方がいいの!?」
すがりつかれ、みなもは返答に困った。
――この世界の家族が自分の理想、なんて。考えたこともなかった。
だけど確かに、穏やかで優しいお母さん。家事が得意で、起きてる時間帯にズレはあってもいつも傍にいてくれるお母さんには、憧れがあるかもしれない。
だけど……。
そこへ、白いフクロウが目をこすりながら姿を現した。
どうやら若干寝坊したらしい。木の板を掘り込んだ『新聞』をくわえて居間に顔を見せた。
「あ、お父さ……」
言いかけて、みなもは慌てて口をふさぐ。
「おはよう、みなも。珍しいお客さんがいるね」
フクロウの父は、みたまに目を向けてそんなことを言った。
この世界の人間ではないのはわかるが、観光客なら家に連れてくることはそうないので不思議に思ったのだろう。
「ええぇっ!? みなも、コレが理想なの? どうして? ダンナさまの何が悪いっていうのっ!?」
みたまは突然、理解できない、とばかりに騒ぎ立てた。
「ちょっ、お母さ……」
その騒ぎを前に、フクロウの父はわけもわからず、きょとんとしている。
「あー、すみません。あまり時間もないことですし、そろそろお暇させていただきますね!」
一流が立ち上がり、声をあげたとき、タルトを手にして蝶の母親が戻ってきた。
「もう出られるんですか? お忙しいんですね」
「はい、すみません」
「残念だわ。もっとお話したかったのに。特に、そちらの方……みなもとも、随分親しくしてくださっているんでしょう?」
いきなりの言葉に、みなもと一流は答えにつまる。
「どうして、そう思うのかしら」
「あら、だってみなもがとても打ち解けているんですもの。少し、妬けてしまうくらい」
みたまの問いかけに、蝶の母は柔らかな笑みで答える。
「またいらしてくださいね。みなものこと、色々聴かせてください」
何かを察しているのか、それともまるで気づいていないのか、蝶の母はみたまに声をかける。
「……ええ、そうね」
みたまもそれに、ふっと笑みを返す。
それから挨拶もそこそこに、浮島を後にした。
「よかった。お母さん、暴れちゃうかと思ってヒヤヒヤしてたんだよ」
「暴れるってそんな」
「そうよ、そんなことしないわよ」
みなもの言葉に一流は苦笑を浮かべ、みたまはさらりと答える。
「そんなことより、早く次に行きましょ」
それに促されるようにして、一同は『神の降り立つ場所』を目指した。
この世界における伝説の地であり、聖域でもある。
人魚の水辺や浮島にもあるが、前回と同じルートを辿るためもあり、獣人の森にある鍾乳洞へと向かった。
岩山にある滝の音も薄れ、静寂に包まれる。
時折、ぴちょん、と滴の落ちる音が聞こえるばかりだ。
夜となれば完全な闇だが、一流が2人の背後から懐中電灯を照らす。
鍾乳洞は滑りやすいので、足元に気をつけながらしばらく歩くと、水の流れるところに出た。
頭上は吹き抜けになっていて、プラネタリウムのように夜空がぽっかり浮かんで見える。 蔓が垂れ下がり、ちょろちょろと流れる水が地面を濡らしていた。その付近は苔むしていて、岩肌を緑に染めている。
それだけではない。月光と懐中電灯に照らされ。キラキラ光るのは質の高い原石だった。
「素敵ね」
みたまは歓声をあげたが、それに触れようとはしなかった。
瞳を輝かせてそれを見守っている。
「時間帯によって、輝き方が全然違うんだよ。『神の降り立つ場所』っていわれてるの」
「ロマンチックね」
「まだあるの」
みなもはそのまま、吹き抜けになった空へと飛び上がる。
それを追うため、一流はみたまと自分の背に翼を生やした。
空の上から岩場をぐるりとまわって、見晴らしのいい場所へと降り立つ。
みなもたちの住む浮島が、遠くに浮いて見えた。
逆さに木や建物の生えた島の裏側、まっさらな大地の上に大きな卵型の物体があった。
真っ暗な闇の中、昼の水辺の空を抜けて、夕陽を受ける、虹色の光が反射している。
水面にも虹色の光が揺らめいている。
水辺の太陽の光は、獣人の森の夜空には届かないのに、虹色の光だけはその境界を越えて届く。暗がりの森に、赤や青、黄色や緑に色を変える光を投げかけるのだ。
「あれは一体……?」
「『虹色の卵』。色々と伝説はあるけど、本当のことはわからないの。ただ不思議なのが、あの卵、浮島からは見えないんだよ。大地の裏側に立ってみても、何もないの」
みなもは父にしたのと同じように、説明を繰り返す。
「何も? だって、そこに見えてるのに」
「でもそうなの。人魚の水辺でもね、水面に顔を出すと見えないんだって。なのに水の中にいると、大きな貝に虹色の光が降り注ぐみたい」
「おもしろいのねぇ」
みたまは娘の話に、感心したような声をあげた。
そしてその背中から、するりとライフルを取り出した。
ボルトアクション式の狙撃銃だ。
「ど、どこから取り出したんですか!? っていうか何する気ですか!」
「あら、決まってるじゃない。本当にそこにあるのか確かめるのよ」
みたまは笑顔で答えてから、目標に向かって銃を構える。
固定する器具も必要ないし、あの大きさではスコープも必要ない。
「や、やめてよお母さん! 卵が割れたらどうするの!?」
みなもは真っ青になって、母親の腕に取りすがる。
大きな翼をひろげて、背中におぶさるような形になった。
「だって、見えてるのにそこにないって言われると、試してみたくなるじゃない」
「そんな試し方、絶対ダメ! あれは神秘的なものなんだから。神様に銃向けるのと同じなんだからーっ」
いつもはおとなしいみなもが、必死になって声をあげる。
「神様か……でも見えないのにそこにいる、って言われたら、とりあえず銃向けてみるかも?」
「向けてみないの!」
考え込むみたまに、改めてツッコミが入る。
母娘というよりは友達に近い会話のやりとり。しかしその内容は、中々すさまじい。
しかし愛娘の説得を受け、みたまは残念そうに銃をおろした。
「あ、あの……お母様、何してらっしゃる方なんですか?」
すっかり度肝を抜かれた一流は、妙に丁寧な口調で尋ねてくる。
「奥さんと主婦。けど傭兵歴が一番長いし、得意なのよね」
少し照れたように答える姿は愛らしくも美しいものだったが、口にする内容とのギャップが余計に恐ろしかった。
「大丈夫です、藤凪さん。お母さん、仕事のときにしか銃使ったりしませんから。一般人には向けませんし、今のだってその……冗談なんです!」
みなもが必死にフォローをすればするほど、尚更冗談には思えない。
「みなも……やっぱりお母さんじゃダメなの? 母親失格?」
みたまは不安そうに、娘に尋ねかけた。
ほとんど家にいないお母さん。家事は全然ダメで、社会常識もなくて。学校や友達の相談は全部、お父さんに任せきりだった。
理想の母親像とは、言えないかもしれない。
だけど……。
「そんなこと、ないよ」
みなもは静かにつぶやいた。
「こっちのお母さんやお父さんも好きだけど……理想だからこっちがいいとか、現実での2人が嫌いだとか、そんなんじゃないんだよ」
不器用なりに一生懸命なところや、真っ直ぐな愛情表現。
まるで友達のようで、姉のようで、それでもやっぱり母親らしくもあって。
「お母さんがお母さんで、あたしは嬉しいもん。今のままのお母さんが好きなんだもん」
しがみついたままで、そう告げる。
「みなも……」
お母さんはかすれた声で言って、しっかりとみなもを抱きしめた。
「……でも、あんまり無茶はしないでね」
最後に一言付け加えるところが、真面目なみなもらしい。
2人のやりとりに、一流は所在なさげにしつつも、どこか嬉しそうだった。
一見すると、とてもじゃないが母娘には見えない2人だが、その絆は確かなものなのだ。
「とりあえず今後は銃器の持込み禁止でお願いします」
「でもそれじゃいざっていうとき……」
「ないんです、こっちでは戦争もなければ武器もないんです。っていうか銃がここに普及しちゃうの怖いんで勘弁してください」
「そう、じゃあナイフくらいにしとくわ」
一流はそれでも反論したいようだったが、何とか呑み込んだ。
「藤凪もしっかり守ってくれないと困るわよ。いつ子供ができるかもわからないんだし、ちゃんと責任がとれるように……」
「だから、違うって――っ!!」
青空に切り替わった獣人の森で、2人の声が大きくこだまするのだった。
END
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