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佐吉の友達〜突然なティータイム〜
「いい、天気。外で読書をするのもいいかも」
白い日傘をさして、人気の無い緑地公園の小川のほとりに座るのは一人の少年。
一見、顔立ちとゴスロリ服のせいで少女見えるこの少年、名を緋影魅琉衣といい、ある一定のジャンルの雑誌をかっている者には有名なモデルであったりするのだ。
今日は、撮影もないし、特に目立った用事もないので散歩がてら近所の緑地公園へ涼みにきたのだ。この公園は都内にありながら、自然をそのままにし、作り上げられてるので、小川やたくさんの木陰があって真夏でも涼しく、快適だったりする。そのため、小動物が集まってくることが良くあり、今日も良く見ると、野良猫が川にいる小魚を眺めていたり、木陰で昼寝をしたりしている光景が広がっている。
幸い、平日なのもあり、今のところ人影は魅琉衣しか見当たらないので、静かで、猫たちもすごしやすいのだろう。ある程度距離をとっていれば、彼らは他の動物をなんてきにしていないのだから。
「猫、もいいけど、今日はかわったのはいないのかな……」
野良猫、というのは数が少なくなってきているとは言え、世間的には珍しいものではない。だが、世の中何かが流行る度、ブームになった動物がそのブームが過ぎ去ったころに捨てられたり、近くの山から食料を求めて下りてくる動物がいる。そういうものも、時々この公園に現れるので、それを見るのも、魅琉衣がこの公園に通う理由の一つであったりする。
「狸、アライグマ、リスざる、梟……なんか出てこない、かな」
魅琉衣は新しい動物を見る度、図鑑で調べるのが結構好きだ。
いつの間にか手にしていた図鑑を撫でながら、周りを見渡してみるが、猫か魚くらいしかいない。
「今日ははずれ、かな」
動物にだって動物の都合や気分がある。今日はそういう気分の動物が猫しかいなかったのだろうと魅琉衣は納得をし、腰かけていた石から立ち上がり、公園の出口へとむかった。
公園の出口まで戻っても今日は猫ばかりみる。
(猫の日……だった?)
いくら猫の日でも猫がたくさん出てくるわけではないだろう、というつっこみはおいておいて、確かに今日は猫が多い。木陰で毛づくろいしてるカップルでさえ猫であるのだから。
「何か、猫が多くなる理由でもいたりするのかな」
新種のまたたびが発生したとか、おいしい魚が生息し始めたとか、はたまた猫の遊園地がひっそりできたとか。
「新種のまたたび、お魚……とかだったら、見てみたいなぁ」
やっぱりもう一回公園をまわろうかと園内に足先を戻すと、ふと目の先に移ったのは人だかりならず、猫だかり。猫が輪になって何かを転がして遊んでいるようだ。
「またたび……?」
興味を持った魅琉衣はゆっくりとその猫だかりに近づいていく。すると、その猫の輪の中心からか細い声が聞こえる。
「新しい、動物?」
魅琉衣がある程度近くまで寄ると、猫たちは魅琉衣の気配に気が付いたようで一目散に散らばった。
「逃げちゃった……」
猫がいなくなったその場には、魅琉衣と猫たちにいじられていたそれ。なにやら声を発していたので生き物なのだろう。気分はなんだか浦島太郎だ。
「竜宮城にいけるかな?」
とりあえず、生物だけは何とかしなくてはいけないと更に近づいていって輪の中心にいたものを見ると、円筒形の茶色いもの。はじめてみるこれは一体なんなんだろう。
「生物図鑑……でいいのかなあ?なんか皮膚っぽくない、この体。土、かな」
生物図鑑は何度も開いたことがあるが、肌が土色ならともかく、土、と言うのは見たことが無い。
「食器とかならのってるかな、それとも人形?」
百科事典ならどうだ、と土を使った人形のページを探しながらめくっていく魅琉衣。日本人形やら、青い目の人形やらが写っている中、それはいた。
「なんて読むんだろ……haniwa……はにわ、でいいの?」
「おうよー……俺は埴輪の佐吉だぞー……」
「はにわ、ってしゃべるんだ」
そういえば、さっき猫に囲まれていたときも何か小さな声が聞こえていた。
あれはこの埴輪自身の声で間違いなかったようだ。
「さぁ?俺は俺しか知らないし、適当にみんなしゃべるんじゃねーの?お嬢ちゃん、助けてくれてありがとな。俺はさっきも言ったけど、佐吉だ。よろしくな」
むくりと起き上がった埴輪が間違ったことをいうものだから魅琉衣は、なるほどと納得してうなずいた。これで彼の中では『埴輪は動いて話すもの』だと認識されてしまった。博物館等で展示されているものが全て話しだしていたら博物館内だけではなく、世間的に大パニックだろうに。
「佐吉、よろしくね……魅琉衣だよ。あと、魅琉衣……男だから、お嬢ちゃんじゃないよ」
「マジでーーー!!??」
「マジ……で」
驚きで目も口もマックスに開ききった佐吉に、魅琉衣は苦笑いするしかなかったのだった。
「佐吉は何で猫に遊ばれてたの?」
佐吉に会う前まで座っていた小川のほとりまで彼を連れて戻ってきた魅琉衣は、どこからとも無くティータイムセットを取り出して、佐吉と一緒にお茶をすることにした。何処からそんなものを出したのだ、手品か、と佐吉に小さな子供のように目を輝かせて尋ねられたが、其れは企業秘密としておいた。企業秘密という言葉を知らないらしい彼はそれが呪文なのだと勘違いし、凄く感心していたが、聞けば幼稚園児くらいの歳だという佐吉だ、そう勘違いするのも無理は無いと思うし、そのまま勘違いしていてくれたほうが細かな説明をしなくてすむ。
「家を飛び出してきて、しばらくしたら近所じゃ見たことの無い真っ白な毛の長いやつがきてよ、俺を右ストレートで倒れさせたんだよ」
「うん」
「そしたら俺が転がることに気付きやがって」
「佐吉……筒状だもんね、体」
円筒形埴輪なのだから、其れは仕方が無い。
「ころころっと俺を転がし始めやがった!!そのままさっきの場所まで連れていきやがってよ……!!」
「他の、猫にも囲まれて……遊ばれてた?」
「おうよ」
身振り手振りで経緯を説明してくれる佐吉は本当に幼稚園から帰ってきた子供のようで、おもわずほほえましいなぁ、と魅琉衣の顔も微笑んでしまう。
「佐吉みたいに、小さな子には……外の世界は危険だよ?保護者の人……いないの?連れてきてもらえば……?駄目なの……?」
「駄目っつーか、なんつーか……俺、外出たら駄目って言われたからむかついて飛び出してきたもんで、今回のこともオーケーでたわけじゃねぇし……駄目っていうか、もともと無理だろ」
外国人のように(多分佐吉は日本物)両手を広げて諦めのポーズをしてため息を付く佐吉だが、魅琉衣はその話を聞いていて、少し首をかしげる。とある疑問が浮かんだのだ。
「ねえ……佐吉」
「んー?」
「外に出たいって……お願いしたの?」
「したよ。お前らばっか外出てずるいから俺も外に出て知り合い作りたいって」
「で……駄目だった、の?」
「駄目だったから飛び出してきたんだぜ?」
「じゃあ……一緒に行って下さい、って言った?せめて、最初は外の世界を見るだけでも……って。それだったら家の人も納得してくれたんじゃない、かな?最初で外が怖いと思ったら、それでおしまいだし。それでも、外の世界に出たい、ていうなら……なんか考えてくれない、かな?」
「うっ……そ、そんな考えもあったのか!」
「やっぱり……そういう相談は、しなかったんだ」
恐らく、最初の「外に出たい」「駄目」の応酬で腹が立って飛び出してきてしまったのだろう。妥協案をだし、相談することもせずに、保護者の言うことを聞かず、飛び出した矢先で猫に絡まれるとは、なんとも言わんこっちゃ無いと保護者に言われても弁解の余地が無い。
「あー……帰ったら、怒られるよな?俺」
「でも、帰るのを遅くすればするほど……帰り、にくいと魅琉衣は……思う、よ?」
困ったように唸る佐吉を抱き上げて、魅琉衣はその小さな背中を撫でてやる。
日はもうてっぺんから傾き落ち、スズメから烏の鳴く声が聞こえ始める。ポケットから懐中時計を出してみても、お子様はもう夕ご飯に間に合うために家に走って帰らなくてはいけない時刻。
「佐吉……時間も時間だし……お家に帰ろうか?送っていくよ」
「お、おう。一人じゃ帰りにくいしな、あっちの方だ。頼むな」
「うん……任せて」
不安そうな佐吉ににっこりと微笑んで見せると、魅琉衣は佐吉の指した方角にむかって歩き出した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【8011/ 緋影 魅琉衣 / 男 /999歳/傍観的吸血鬼・モデル 】
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■ ライター通信 ■
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緋影 魅琉衣さま
はじめまして、桜護と申します。
せっかくご購入いただいたのに、このように近くお待たせして大変申し訳ありませんでした。
それ以外の言葉はありません。
せめて楽しんで頂けたのなら幸いです。
この度は申し訳ありませんでした。
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