コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


●拝命
 自衛隊特務統合機動課。それは決して表に出ることはない非公式部隊である。暗殺、破壊工作、その他あらゆる後ろ暗い、だが正義の為に成さねばならない事を成す特殊部隊。
 だからその日、水嶋・琴美が受け取った指令も少しも珍しいものではなかった。むしろ、特務統合起動課においてはごく普通とも言える、

「潜入、ですね」
「はい」

 たった今拝命した指令を確認する琴美に、頷くメッセンジャー。指令は直接上官から下される時もあれば、こうして別人を介して秘密裏に届けられる事もある。
 そう、と琴美はワークチェアーをくるりと回し、大胆に足を組んだ。膝下までのタイトスカートがその動きにめくれ上がり、透き通るような白い腿がチラリ、と見え隠れする。
 クスリ、ルージュを刷いた唇の端を吊り上げ、嫣然と微笑んだ。

「では今から向かいます。吉報をお待ち下さい、とお伝えして」
「承りました」

 琴美に深々と頭を下げるメッセンジャー。素早く去って行く彼を眼差しだけで見送った琴美は、さて、と自らも立ち上がった。
 ワークルームを出て、向かった先は更衣室。この、膝下までのタイトスカートにきっちり首元まで絞まったブラウス、味気ないブレザーと言うモノトーンで堅苦しい婦人軍服は、琴美の身分を証明するには手っ取り早くて助かるのだが、一般人レベルにおいても戦闘にはいささか向かない。
 まして琴美がこれから向かうのは、一般人などではとても及びもつかないレベルの隠密行動。その為には、彼女の身体能力を最大限に引き出すのに相応しい装いと言うものがある。
 更衣室にスルリと滑り込み、自分のロッカーをカチャリと開ける。そこにあるのは、琴美が琴美のために選び抜いたパーフェクトな戦闘服。

「ふぅ‥‥」

 ため息を吐き、まずはシャツのボタンを一つずつ外した。少々日本人離れしたグラマラスな体型をしている琴美は、もちろん制服もシャツも特注だ。身の丈に合わせればどうしても胸元が苦しくなるし、胸元に合わせれば身の丈に合わないものを着なければならない。
 だからすべてがオーダーメイド。それでも息苦しいことに変わりはなく、ブレザーとシャツを脱ぎ捨てた琴美は大きく深呼吸をした。開放された胸元が大きく上下し、自由の喜びに打ち震えているかのよう。
 続けてタイトスカートのホックを外し、スルリ、と落とす。パンストも、任務には邪魔だ。豊満な胸元をささやかに覆い隠す下着も。出来るだけ身体を締め付けるものは少なく。そうしてこそ、琴美は全力を持って任務に当たれる。
 あられもない姿で、まずはロングブーツを取り出した。細いピンヒール式の、膝まである編み上げブーツに片方ずつ足を差し込み、キュッ、キュッ、と丁寧に紐をかける。途中で紐が緩んで、足元が疎かになるような無様な真似はしない。
 コン、コン、とかかとを打ちつけて具合を確かめた。良い様だ。

「ん‥‥ッ」

 次に黒いインナーに腕を通し、シュルリ、と身をくねらせて上半身を覆う。時々身体を揺すり、下着代わりにもなるインナーの収まるべきところに、収まるべきものがフィットするよう調節する。柔らかく、確かな弾力を持って押し上げる豊かなふくらみを支え、キュッと上半身に張り付く特殊なインナーは、琴美の戦闘能力についてこれるように、そして何より琴美が全身を自由に動かすことが出来るように、緻密に計算され、作成されたものだ。
 さらに、やはり特殊素材で琴美のヒップを支えるスパッツをシュルリと引き上げ、軽く腰を揺すり、足踏みして体に馴染ませる。その上に着けるのは、悩ましい絶対領域を演出する股下5センチのプリーツスカート。
 その状態で、まずはグン、と大きく伸びをした。それから軽く飛ぶ。どこにも動きに引っかかりはないか? 大丈夫だ。ブーツはしっかり琴美の足にフィットしているし、スパッツもプリーツスカートも琴美の足捌きを完全にサポートしてくれる。インナーもまるで肌のように張り付き、それで居てしっかり豊かなふくらみを支えてくれる。
 それを確認して、琴美は着物を取り出した。もちろん特殊加工を施したもので、両袖は動きを疎外しないよう半そで程度にまで裁ってあるし、裾もせいぜい腰周りを覆う位までしかない。
 琴美は両腕を袖に通し、背中に沿わせるようにスルリと肩まで引き上げる。美しく、慎ましやかな仕草。だが琴美がそれを行うと、楚々たる動作と艶やかな肢体のギャップが、逆に彼女の色香を際立たせるように思える。
 たもとを整え、帯を回す。ほっそりしたウェストと対照的な腰つき、何より存在感を主張してやまない胸元がくっきりと強調される。
 体の前で帯を結び、スルリと滑らせて背後へ。わずかにたもとを引っ張ったりして、胸元を締め付けすぎないよう強調する――琴美が戦闘服にこの着物と言うスタイルを選んだのは、一つには豊か過ぎる胸元のせいではないか、と言われている。
 それから足置き台に片足を乗せる。とたん、隠すものもなく露わになる白い太ももに、ロッカーから取り出した細い無骨なベルトを、戒めるように括り付けた。それには琴美の戦闘武器、くないが取り付けられるようになっている。それを一本ずつ、太ももに沿わせるようにベルトに下げ、ちょっとやそっとでは落ちないように、だがわずかの動作ですぐに取り出せるように装着していく。
 右が終われば、左。そうして最後に両手にグローブを嵌め、キュッ、と両手を動かして馴染ませれば、そこに居るのは黒尽くめの、だが艶やかさを匂い立たせる1人のエージェントだ。

「抜かりはない、わね」

 改めて全身を更衣室の姿見に移し、確認する。背中に流した艶やかな黒髪は、琴美の身体を守るようにゆぅるりまとわりつく。胸元に落ちた一筋が、呼吸に合わせてゆっくりと上下する胸元に合わせて揺れる。
 戒めるように白い太ももに装備したくないを取り出そうとし、豊かな胸が彼女の動作をいささかも阻害することなくインナーに収まっているのを確認。シュルリ、とわずかにたもとが緩み、豊かな膨らみが零れ落ちかけたのを調節する。
 ほっそりした腰をひねり、ヒップで押し上げられたプリーツスカートが、だが琴美の体をきちんと覆っていることも確認した。その動作にふわり、と揺れてわずかにスパッツが見え隠れする。
 うん、と一つ、大きく頷いた。抜かりない事を確認し、人知れず更衣室からスルリと抜け出す。
 指令を受けた敵対組織は、それほど遠くはない。常人ならば多少移動には厳しい距離だが、琴美にとっては軽い準備運動程度のものである。

(――少し、私には簡単すぎる気はしますけれど)

 組織内部に潜入し、施設を破壊して帰ってくる。敵が保有している戦力はかなり細部まで把握が出来ていて、それは決して琴美の行く手を阻めるレベルではない。
 人目につかぬルートを選び、秘密の出入り口から抜け出す。広がる闇。琴美の姿を隠すもの。
 ふふ、と微笑んだ。

「指令は指令。この程度の雑用と言えど、全力を尽くすのがプロですね」

 ――ザアァァ‥‥ッ
 呟いた言葉を、時ならぬ強風がさらった。琴美の長い黒髪が風に嬲られ、嫣然と微笑んだ彼女の顔を覆い隠す。それが逆に、琴美の艶やかさを際立たせ。
 風に促されるように、夜陰に紛れてしなやかに駆け出した琴美は、さながら雌豹のようだった。