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<東京怪談ノベル(シングル)>


●死闘、そして
 それは琴美に取って、初めての経験だった。

「ハアァァァッ!!」
「ふ‥‥ッ!」

 突き出された拳を紙一重で交わし、トンボを切って距離を保とうとする。だが追いつかれている。肉薄するディテクターの姿に一瞬で判断し、逆に床を蹴ってこちらから近付き、拳を突き出す。
 交わされる。カウンターで唸りを上げて迫ってくる拳をかろうじて交わし、白い腿をひらめかせての目にも留まらぬ回し蹴り。掴まれ、引きずり倒される。胸が押し潰され、カハッ、と琴美は息を吐いた。

(このディテクターという男、強い‥‥ッ!)

 琴美はこれまでの任務で、数多の敵と対峙してきた。すでにこなして来た任務は数え切れない。そしてそのどれもに傷一つ負わず、余裕すら見せ付けて勝利してきた。
 だがこの、ディテクターという男。
 自由な足を急所に向けて鋭く蹴り出した。とっさにディテクターは身を交わし、琴身の足を戒める力が緩む。すかさず振りほどき、両手の力だけで飛び退った。
 距離を置き、対峙する。艶やかな長い黒髪が乱れ、早くも着衣は乱れて豊満な胸元が着物のたもとから零れ落ちていたが、それを直す余裕も、気にかける余裕すらない。
 太もものくないを素早く抜き、投げ打ちながらそれを目くらましにディテクターへ肉薄する。素早く拳を連打で叩き込み、捕まえられる前に圏外へと逃れる。

「ハアァァァッ!」

 裂ぱく。両の手にくないを握り、豊かな胸を激しく揺らして投げ打ったそれを、ディテクターは紙一重で回避した。同時に、突進してくる。避ける。間に合わない。
 ガ‥‥ッ!
 拳と拳がぶつかる鈍い音がした。対等の技術を持つディテクターを相手に純粋な力比べとなるとどうしても分が悪い。力を乗せた拳を流すように弾いて回避。グラリ、と体勢を崩したディテクターの顔を鷲づかみ、豊かな胸に押し付けるように動きを封じて腹部への膝蹴り。
 ドスッ!
 確かな手ごたえ。だがディテクターはグラリとも揺るがない。逆に琴美の腰を掴み、その体勢から強引に琴美を背後へ投げ打とうとする。

「オオォォォ‥‥ッ!」
「んク‥‥ッ」

 ディテクターのパワードプロテクターの背後を掴んでそれをこらえた。衝撃に、琴美の背が激しくディテクターに打ち付けられる。カハッ、と肺の息が漏れる。
 だが琴美は瞬時に息を整えた。素早く振り返ってディテクターの首もとの着衣を掴み、せいやッ! と強引に体を倒す。
 大きく両足を開き、右足を軸に、左足をディテクターの腰に添えた。開脚。ディテクターの足がたまらず宙に浮き、琴美の上を通り過ぎる。
 ドウ‥‥ッ!!
 堅牢に作られたはずの施設すらかすかに揺らすほどの衝撃で、ディテクターは琴美に投げ打たれた勢いで背中から落下した。ガハッ! 息を吐く音を聞きながら、琴美は素早く跳ね上がり、まだ立ち上がれずに居るディテクターに馬乗りになる。

「ハ‥‥ッ!」
「ガ‥‥ッ」

 顔面の急所を目掛け、両手で目にも止まらぬ速さで拳を叩き込んだ。堪らずディテクターが呻く。だがその程度でひるむ男ではない。
 自らの上に馬乗りになった琴美を引きずり倒し、あべこべに、今度はディテクターが琴美を組み敷いた。重い拳を、ためらうことなく腹に叩き込む。
 ――ドスッ!

「グフ‥‥ッ」
「まだまだァ‥‥ッ!」

 腹だけではない。男は腕に、胸に、足に、顔に、容赦なく打撃を加えてくる。そのあまりの勢いに琴美の豊満な肢体を覆っていた着物がたちまちボロボロになり、あちこちから白い柔肌が零れ落ち、血のしずくを滴らせる。

「んふぅ‥‥ッ!」

 琴美は呻き、全力を込めて身をひねった。己を組み敷くディテクターの肉体を強引に押しのけ、滑り出る。素早くトンボを幾度も切って距離を置き、ゆらりと立ち上がる男を睨みすえた。
 すでに、着物はその意味をほとんど失い、たもとはすっかりはだけてインナーに覆われた豊かな胸元があられもなく零れ落ちている。激しい呼気と共に揺れる胸。だが、

「あなたの攻撃は見切りました‥‥ッ」
「‥‥ッ!?」

 叫ぶや否や、琴美は受けたダメージなど忘れたように俊足の勢いで駆け出した。激しい動きにインナーが悲鳴を上げる。
 知った事か。今、このディテクターという男を倒す事がすべてだ。琴美は任務のためにここに居て、ディテクターはそれを邪魔する敵。それだけが真実。

「ヤァァ‥‥ッ!!」

 琴美はディテクターに回し蹴りを放つ。もちろんそれはフェイクだ。捕まえに来た腕は予想済み。危うげなく回避し、床に残る軸足をそのまま蹴って琴美は跳ぶ。
 即座に攻撃を切り替え、拳を雨あられのように放ってきたディテクターの腕を、空中で身をひねってかわした。一旦着地、そこからさらに身をひねって男の背後を取り。
 きつく、胸の形が変わるほどに男の背中に体を押し付け、四肢を絡み付けた。

「アアアァァァァ‥‥ッ!」

 気合を込めて全身に力を込め、ディテクターの四肢を戒め、人体の動きを無視して強引に背後へと反り返らせる。ギチギチと筋肉が引っ張られる音を、耳ではなく密着した肌から感じ取る。
 だがそこで手を緩めたりはしない。やがてディテクターの背中から、肩関節から、あらゆるところから関節が悲鳴を上げ、パキリと外れる音がする。

「ガアアァァァ‥‥ッ!!」

 さしものディテクターもこれには堪らず、苦悶の悲鳴を上げた。ぐったりと動かなくなる。
 重たい男の体の下から這い出して、琴美はボロボロながらも奇跡的に無事な編み上げブーツのヒールも勇ましく、すっくと胸を揺らして立ち上がって見せた。
 ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥
 両者の荒い息だけが、しばしその場の空気を揺らす。

「はぁ‥‥ッ、ハァ、ハァ‥‥、ハ‥‥‥」
「ふぅ‥‥ッ、んッ、ハァ‥‥ッ、わ、私の勝ち、です‥‥ッ! ここは、通して貰います‥‥ッ」
「ハッ、ハ‥‥ッ、ぁあ、好きに、しろ‥‥ッ」

 やがて、大きく肩を上下させ、豊かな胸をふいごの様に動かしながらそう宣言した琴美に、ディテクターは床に大の字になって同じく激しく胸を上下させながら言い捨てた。
 満身創痍で、倒れ伏した自分を見下ろす美しい琴美を見た。ディテクターの攻撃によって戦闘衣のあちこちが破れ、白い柔肌がむき出しになっている。上着の着物はすでに布切れに成り果て、腰の帯でかろうじて引っかかっているだけだ。プリーツスカートもボロボロでスパッツが丸見えだし、インナーはかろうじて豊かな膨らみを覆い隠している程度。
 だが、美しい。完璧に装って匂い立つ彼女は艶やかだったが、傷ついてもなお胸を張り、立ち続ける彼女はただ美しい。

「良い、女だ‥‥」

 呟き、意識を消失させたディテクターを確認して、琴美は大きく息を吐いた。ただの布切れになった着物を捨て、帯を解く。ミニプリーツスカートも同様に脱ぎ捨てる。
 インナーとスパッツ、グローブと編み上げブーツだけで覆われた、他に隠すもののない艶やかで豊満な肉体を惜しむことなくさらけ出し、琴美は爆薬庫の扉に向き直った。

「この、タイプであれば‥‥」

 耳の上からヘアピンをすっと抜き出し、鍵穴を覗き込む。大して複雑な鍵ではない。実際、琴美は3分ほどでロック解除に成功した。
 ヘアピンを耳の上に戻し、ノブに手をかける。

 ――ギギィィィ‥‥ッ

 重い音を立てて、琴美の前に爆薬庫はその、秘められた口を開いたのだ。