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<東京怪談・PCゲームノベル>


絆――ここにある全て

 悪趣味なネオンがちかちかと光る中、そのBARは存在した。
 渋谷の外れに『リゾート』と看板が置かれ、文字の部分がぴかぴかと明滅している。
 BAR・リゾート――此処はあまり良い噂を聞かない場所だった。怪しげな薬物を売っていたり、少し強面の人が出入りしたりと悪い噂ばかりが飛び交っていた。
 しかしそんな場所にも人は集まる、店内を見渡せば若い少年少女がDJの音楽に合わせて身体をくねらせながら踊っている。
 良い噂を聞かない場所だと言う事は彼らも周知の筈なのに、それでも彼らはやってくる。
 若いがゆえにスリルを求めて来る者も居るだろう。
 いつも人が集まっている為、自らの心を蝕む孤独を誤魔化す為に来ている者もいるだろう。
「さぁ、今日も一夜の夢を楽しんでいってくれよ!」
 店長らしき若い男性がマイク越しに叫ぶと、店内の若者達も沸きあがったのだった。


視点→ブリジット・バレンタイン

「久々の休みなんだもの、たまにはゆっくりと飲みに行くにもいいわよね」
 ブリジット・バレンタインは一人呟きながら入る店を見つけ始める。若者達が集う場所という事もあり、色々な少年達がブリジットを見ている。銀髪の美女という事もあり、ブリジットは人目を引いて仕方がない。あわよくば声をかけようとしている少年、男性達が多く見受けられた。
「リゾート‥‥此処にしようかしら」
 ちかちかと明滅するネオンに惹かれてブリジットが足を止める。派手に装飾された扉を開けて、中に入るブリジットだったが――入った途端に彼女の表情は険しくなる。
(「ここがイギリスで私が現役の警官だったら全員逮捕ね」)
 中の様子、明らかに尋常ではない少年たちや肌を必要以上に露出する中学生のような少女などが視界に入り、ブリジットは大きくため息を吐いた。
「‥‥まったく、日本の警察は何をしているのかしら。こういう場所を何とかしないと日本の将来も危ぶまれるわね」
 はぁ、と少し大げさなため息を吐きながらブリジットは人の波を掻き分けて店の奥へと向かい始める。
「ひゅー♪ オネエサン、一人? 俺達と一緒に飲まない?」
 恐らく高校生くらいの年齢だろう、若い少年達が数人ブリジットの前に立って馴れ馴れしく肩に手を置いてくる。
「一人だけど、私も誰と飲むかは決める権利があると思うの。今はあなた達と飲む気分じゃないわね」
 ブリジットは肩に置かれた手を払いのけ、奥へと進んでいく。
「ちぇ、何だよ。シラけたから次の女さそいに行こうぜ」
 少年達はグラスの中に入っていた酒を飲み干し、備え付けのテーブルに空になったグラスを乱暴に置いて別の場所へと歩いていった。
「踊るのも楽しそうでいいけど、今日はゆっくりと飲みたい気分なのよね」
 カウンターに近寄ると、一人の少年がぽつんと座っている姿がブリジットの視界に入った。年の頃は18歳くらいだろうか。見た感じではもう少し若いかもしれない。
「未成年がお酒を飲んじゃダメよ」
 ブリジットは少年の隣に腰掛けながら話しかけると「え?」と少年はきょとんとした表情でブリジットを見た。
「あなたが私の弟ならお仕置きしているところよ」
 冗談っぽくブリジットが言葉を投げかけると、少年は少し俯きながらぼそぼそと話し始める。
「‥‥僕は、こう見えても21歳です‥‥だからお酒を飲む事に違反はしてない、はずです」
 少年の言葉にブリジットは少し驚いたような表情をして「ごめんなさい、日本人は若く見えるから‥‥」と素直に謝る。
「いいえ、別に気にしていませんから」
「そう? それなら嬉しいわ。私はブリジット・バレンタイン。あなたの名前は?」
 ブリジットが問いかけると「‥‥ミツル、扇‥‥ミツルです」と言葉を返してきた。
「扇? 変わった苗字ね。お家は何かしているの?」
 ブリジットが問いかけると「父が扇商事という会社を‥‥僕は唯一の跡取りなんですけど‥‥」とミツルは俯きながら呟く。
 その時、ミツルのグラスで解けかけの氷が『からん』と音を鳴らした。
「そうなの。私の家も多分それなりには大きいわね。あなたより少し年上だけど弟もいるんだけど――会社は私が継いでるし、家も私が継ぐ事になりそうね」
「え、女の人なのに‥‥? それとも外国では女性が継ぐのも当たり前の事なんですか?」
 ミツルが目を瞬かせながら呟く。唯一の男として跡継ぎを強いられている彼から見れば夢のようなことなのだろう。
「そういうわけじゃないんだけどね。弟が見せた最初のわがままだったから、かしら。でもそういう事を言うって事は家を継ぎたくないのかしら?」
 ブリジットの言葉にミツルは「分からないんです」と言葉を返した。
「分からない?」
「僕は物心ついた時から親が決めた事しかした覚えがありません。学校も趣味も友人も親が決めました。だから自分で何かを決めた事がないんです」
 ミツルの言葉にブリジットは返す言葉が見つからなかった。最初の印象から儚いイメージを持っていたけれど、それが『自己の無さ』からきたものだと思っていなかったからだ。
「このまま父の期待に応えて、家を継げば母も安心する。姉達も喜んでくれる――だけど僕は思うんです。父や母が欲しかったのは『僕』という息子ではなく自分の言う事を聞く『人形』だったんじゃないかって‥‥」
 遠くを見つめながら呟くミツルにブリジットはかつての弟を少しだけ思い出した。
「何も、親に逆らったことはなかったの?」
「‥‥一度だけ。学校での友達と一緒に塾をサボったんです。だけどそれが父の怒りに触れて――次の日に塾は辞めさせられて、1日中監視されるみたいに家庭教師をつけられました。あの時に分かったんです」
 ミツルは呟きながら拳を強く握り締める。
「父や母は不必要になったものを簡単に捨てています。だから僕でさえも不必要となったら捨てるんだろうって」
「ミツル‥‥‥‥」
 ブリジットが何か言葉を言おうとした時「ねぇ、キミ♪」と数名の女性がミツルに話しかけてきた。
「あたし達と一緒に飲まない? こんなオバサンと飲むより楽しいよ?」
「そうそう、そんな賞味期限の切れたオバサンより私達と飲むほうが絶対楽しいって」
 既にお酒が回っているのか少女達はミツルの身体にべたべたと触りながら話しかけていく。
「お、オバサン!? 私はまだ32よ!」
 オバサンと言われてブリジットも少女達の無礼な態度に我慢が出来なく叫ぶのだが‥‥少女達はまだ10代、そう言われるのも無理はないと少女達は冷ややかな視線をブリジットに送りながら無言で言葉を返す。
「行きましょう」
 ミツルはブリジットの手を取って、少女達から離れていく。
「え、え、ちょっと――‥‥」
「何でぇ! あたし達がそのオバサンに負けてるって言うの〜!?」
 少女達の言葉にミツルは足を止めて「‥‥ごめんなさい。今は僕、この人と一緒にいたいから」と言葉を返し、店の外へと二人で出て行った。

「驚いたわ」
 リゾートから出て、ブリジットがミツルに声をかけると「僕もです」と短く言葉が返ってきた。
「気がついたらあなたの手を取っていたんです。何でかな」
 くす、と笑みながらミツルが呟く。
「でも、あなた格好良かったわよ」
 ブリジットの言葉に「ありがとうございます」とミツルは言葉を返した。
「これからどうする? 何処かで飲みなおす?」
 ブリジットが問いかけると「いいえ、今日はもう帰らないと――父から怒られるので」とミツルは申し訳なさそうに言葉を返す。
「気にしないで。これは私の名刺。何かあったら連絡ちょうだい」
 ブリジットは手をひらひらと振りながらミツルと別れ、彼女もまた自分が泊まっているホテルへと向かい始めたのだった。


――出演者――

8025/ブリジット・バレンタイン/32歳/女性/警備会社社長・バレンタイン家次期当主

―――――――

ブリジット・バレンタイン様>
こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回はミツルをご指名でのノベルでしたが、内容はいかがだったでしょうか?
お姉さまの格好良さを上手く表現できているといいのですが‥‥。
少しでも面白いと思って下さったら嬉しいです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございましたっ。

2009/6/24