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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


招かれざる客への歓迎会

 波波木がふらりとやってきたのは先程の事である。
 20年前にあやかし荘に住んでいたと言う彼女は蛇神様で、ふらりとやってきて早々歓迎会を要請してきた。
 あたしだけならともかく、住んでる皆にも都合はあるんだけどな……。
 困った人、いや困った神様だなあ。本当に困った。
 管理人の因幡恵美はしばらく考えた結果、とりあえず皆に話を聞いてみる事にした。

「ねえ、今日新しい住民の波波木さんが来たから歓迎会をしようと思うんだけど、どうしよう?」

 さて、歓迎会。
 無事に終わればお慰みである。

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 団長・Mが一日が終わり、のんびりと葉巻をくゆらせている時だった。
 ジリリリリリ
 電話である。

「もしもし」
「……団長?」
「はい、ミリーシャさんですか?」
「はい……頼みたい事が……あるの……」
「何でしょうか?」
「歓迎会を……したいの……」
「ほほう?」
「相手ね……波波木さんって言う……神様なんだって」
「ほう、神ですか」
「蛇神様だって……」
「蛇神ですか……なるほど。ならパフォーマンスの後に酒宴と言う流れがいいですかね」
「酒宴……?」
「蛇神は基本的に酒が好きですからね」
「分かった……管理人さんに言っておく……」
「しかし妙ですねえ……」
「何が……?」
「いえ、それでは日付は?」
「えっと……」

 電話でミリーシャと一通り打ち合わせをしてから、「それでは、その方向で」と挨拶して電話を置いた。
 波波木と言う変わった名前の蛇神と言う事は、別名アラハバキと言う東北地方にいたと言われる神であろう。もっとも、神話はほぼ残っておらず、民間伝承でのみ語り継がれる神である。そのマイナーな神があやかし荘に住んでいたと言うのも変な話だが、それが戻ってきたと言うのもまた珍妙な話である。

「何かあったんですかねえ」

 団長は大きく息を吐いた。
 あくまでこちらは想像しかできない事なのだが。

/*/

 当日。
 団長は団員達を引き連れてあやかし荘にやってきた。

「こんにちは」
「こんにちは! 今日は本当にありがとうございます」

 エプロンをつけた女の子が頭を下げた。
 彼女が管理人であろう。

「いえいえ、うちのミリーシャさんがいつもお世話になっておりますから」
「団長……ありがとう」
「何、構いませんよ。相手が神様だろうと何様であろうと、大事なお客様ですよ」

 ミリーシャは既に打ち合わせ通り、ロシアの民族衣装に着替えていた。
 団長の指示の下、団員達がテントを設置している。
 パフォーマンスを広くできる部屋が、ここにはなかったのだ。
 なければ、作ればいい。
 故に現在作っている。
 いつもの興行用ほどの大きさはないので、1時間もあれば完成するだろう。

「しかし変ですねえ……」
「変……?」

 団長はテントの設置を見守りながらポツリと言う。
 ミリーシャは首を傾げた。

「結局彼女は何で20年も行方不明だったのか分からなかったのでしょう?」
「うん……訊いたら物凄く……怒ってた……」
「そうですか」

 今回の歓迎会の主役、波波木は20年前にあやかし荘に住んでいたとは前の電話で聞いた話である。

「ねえ……団長」
「はい?」
「シリガルオンナって……何?」
「はあ……?」

 突然のミリーシャの下品な発言に、団長は唖然とする。
 発言したミリーシャはあまり分かってなさそうである。
 ミリーシャが尻軽女なのだろうか? いや、彼女だったら「私……シリガルオンナ……って」とから始めるだろうから、彼女が言われたのではなさそうだ。
 彼女の足りない言葉から察するに……波波木の事だろうか?

「……何となく想像できました」
「団長―! 会場設置終わりましたー!」

 団長が考えをまとめている間に、テントの設置は終わったようだ。
 あやかし荘の住民達がめいめい団員達に挨拶して中に入っていく。

「ほーれ、尻軽女。歓迎会をしてやるから、とっとと中に入らぬか」
「誰が尻軽女じゃ。むっ、これは一体何じゃ?」
「てんとも知らぬとは遅れておるな」
「やかましいわ」

 座敷童の少女に押されて歩く髪も着物も真っ白な女性。恐らく彼女が本日の主賓であろう。

「まあまあ、喧嘩せーへんと。パーッとサーカス見て、宴会やで?」
「綾は19歳〜♪ 飲酒は禁止〜♪」
「うちは飲まへんわ、歌姫」
「ご飯もいっぱい作りましたよ。波波木さんに合わせてお肉抜きのと、私達用にお肉入りのと」
「ボクも食べる〜」

 ぞろぞろと住民達も入っていく。
 今日のお客様だ。彼女達を楽しませないと。

「まあ、それはともかく、今日のショーを成功させましょう。行きますよ」
「はい……」

 団長はミリーシャに声をかけ、中に入っていく。
 さあ、ショーの始まりだ。

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 暗かったテントに次にパッとスポットライトが浴びたのは、あやかし荘面々が座っている座敷の後ろであった。
 ミリーシャが、宙に座っている。

「あれは一体どう言う呪術じゃ?」
「あれを知らぬとは古い奴ぢゃな。あれはよが。印度の力で浮いておるのぢゃ」
「ほう、外つ国の力か……」

 波波木は子供のように目をまん丸にして見ている。

「そーなの? ミリーちゃんヨガパワーで、浮いてるの?」
「んな訳ないやん。あれはワイヤ……」
「そうだよミリーさんすごいね!」

 綾の口を押さえ、恵美はアハハと笑う。それを知ってか知らずか柚葉は「すごいねミリーちゃん」と手を叩いた。歌姫は微笑んで皆がミリーシャを感心して見ているのを見守っていた。

 ショーはさらに色彩を極めていった。
 人間ポンプ、口からシャボン玉、手品で鳩が大量発生……。テントは歓声に包まれていた。

「団長……皆……喜んでる」
「それは何より。それじゃあ、最後の仕上げと行きますか」
「うん……」

 二人は最後のショーを披露しに表に出た。
 二人が出るタイミングでバラライカが流れた。二人はリズムに乗って踊り始める。

「これは何の舞踏じゃ?」
「コサックダンスですよ」

 皆流れる音楽に合わせて手を叩く。
 そこで団長が波波木に手を差し出す。

「何じゃ?」
「一緒に踊りませんか?」
「舞踏は分からん」
「踊りは楽しければよいと思いますよ」
「……うむ」

 波波木は団長の手を取って、そのまま一緒に踊り始めた。

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「えー、それではー、波波木さんあやかし荘引越しをお祝いしてー」
「かんぱーい!!」

 テントの中はすっかり宴会場である。
 日本酒、どぶろく、ウォッカと、綾の買った酒が並んでいた。総額は全部合わせれば一般庶民の年収ほどにはなるが、それを聞いたら倒れる面々もいるので、聞かないのが礼儀である。

「お酒おいし♪」
「歌姫あんまり飲むなや。喉焼けた歌姫なんて最悪や」
「おお、酒ぢゃ〜」
「うむ、苦しゅうない」
「すみませんねえ、私達までご相伴に預かって」
「いいですよ。さっきは素敵なショーありがとうございました」
「もう……食べていい……?」
「どうぞー」

 恵美が作ったお重を肴に、酒瓶は次々空になる。未成年は麦茶だ。
 波波木のペースは早い。まるでうわばみだ。蛇神だが。
 団長は波波木の隣に座った。

「いいペースですね」
「そうか?」
「酒飲みとしては試したくてしょうがないのですよ。どうです? 飲み比べをしてみると言うのは」
「ふむ。しかしわらわに勝負とは命知らずな」
「いえいえ。じゃあ……!」

 二人は互いのグラスにウォッカを注ぐ。鼻につく匂いだ。
 二人は、音を立てて飲み干した。

「何? 競争?」
「駄目ですよ、酒の飲み過ぎは」
「団長……波波木さん……うわばみ」

 空瓶が、次々転がり始めた。

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 波波木が目を覚ますと、自分の部屋であった。
 頭は別に痛くない。波波木は酒に強く、どんなに飲んでも起きたらすっきりしているのだ。
 どうやって戻ってきたのか。
 そう思って起きると、自分の部屋の机に紙があるのに気がついた。

『皆心配しますから 恋をするのも程々に 団長・M』

 三行程の手紙であった。
 波波木はポッと顔を赤らめた。

/*/

「結局どうして……いなくなってたの……?」
「ああ」

 その日も興行。舞台裏でミリーシャと団長は並んでいた。

「簡単ですよ。彼女、男と一緒にいなくなってしまったんですよ」
「何で……分かるの?」
「嬉璃さんが何度も波波木さんを「尻軽女」と言ってましたしねえ。あれは重度の男好きの女性に向けて言う言葉ですよ。彼女はそう波波木さんに言っても真相を言い渋ったのは、あやかし荘には未成年者が多いからでしょう。唯一の男性の三下さんも歓迎会に「来るな」と言われてましたしねえ」
「だから……私に言い渋ってたの……」
「まあ本当は言いたくて仕方なかったから、彼女を罵倒するので気を紛らわせていたのでしょうね」

 そう言いつつ、葉巻をくゆらせていたら、影が一つ多いのに気がついた。
 二人が顔を上げると、そこには波波木が立っていた。

「今度はここで、住まわせてもらおうかの?」

 心なしか、白い彼女の顔が赤い。
 団長は葉巻を落とした。

「今度は私ですか……」
「シリガル……?」

 ミリーシャは首を傾げた。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6873/団長・M/男/20/サーカスの団長】
【6814/ミリーシャ・ゾルレグスキー/女/17/サーカスの団員/元特殊工作員】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、石田空です。
今回は「招かれざる客への歓迎会」に参加して下さりありがとうございました。
今回は団長さん後編、ミリーシャさん前編とさせていただきました。ミリーシャさんの話に前フリしてますので、そちらの方と合わせて読んで下れば幸いです。

よろしければ、また次の依頼でお会いしましょう。