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<東京怪談・PCゲームノベル>


佐吉の友達〜浜辺と疾風の思い出〜



 少し都心から離れた海の見える峠道。一台のバイクが下り車線を駆け抜けていく。
 乗り手の名は、明姫リサ。都内にある大学の学生で、今日は一つしかなかったコマが休講になり、降って沸いた、たなぼた的な休日。最近、前期の終わりも近いからとレポート三昧でまったく愛車に通学以外乗っていなかったので、せっかくなのだから今日は思い切り走らせようと都心から離れたこの場所に来たのだ。
(どうせなら海までいってみよう)
 リサは、速度を一層あげ、麓の浜辺を目指した。







 浜辺にたどり着くと、砂が愛車に入ってはいけないと、防波堤にある簡易駐車場に止め、浜辺におりた。
 まだ海開きがされていないのと、平日なのも重なり、人気はほとんどなく、ゆっくりと散歩をするには丁度のいい感じだ。
「いい風……だけど、あんまり長くいるとバイク、さびちゃうかな」
 潮風は海水の涼しさを運んでくれるので、心地よいのがいいところなのだが、あまり海水の塩分が運ばれるぎると、車やバイク、果ては自転車まで錆びてしまうことがある。あまり日本の海では1日やそこらではならないと思うが、一応帰ってからメンテナンスはするべきだろう、念のため。
「人が少ないから浅瀬にも魚、いるかしらね」
 そう思い立ち、海のほうへと歩きはじめたそのとき、ライダースーツに隠れた豊満な胸に何かが当たって砂浜に落ちた。
 周囲に木は生えていないので、木の実や落ち葉はありえない。かといって、雛が飛び立つような季節でもないので飛びなれていない小鳥が落ちてきたわけでもなさそうだ。
 大して気にしなくてもいいか、と思いつつも何となしにそれを見てみると、砂に突っ伏している、社会科でお馴染みなお偉いさんのお墓に入れるという筒型の焼き人形。
「近くの発掘現場から鳥が盗んできたのかしら?」
 資料とかだったら返してあげたほうがいいだろうな、と手を触れた瞬間、それはぴくりと動いた。
「え……?埴輪が……」
「あー、えらい目にあったー。うみねこのヤロー、人のこと勝手にえさと勘違いしてくわえたくせに重いからとか言って落としやがって、自分勝手なんだからよ。もっと優しく下ろしてくれよなー」
 その埴輪はむくりと起き上がって、ぱんぱんと両手で砂を払いながら空を旋回しているうみねこをみやりながらそう愚痴るようにぶつぶつと呟いた。
「ここどこだよー、あのでっかい水溜りなんだー?」
 後ろにいるリサに気が付いていないのか、海を見てフームと首をかしげる埴輪。
 一方リサはというと、サキュバスという伝承や映画の世界でしか存在しないだろうと思われてそうな悪魔の血を引いている自分がいるのだから、この動く埴輪も存在してもおかしくは無いのだろうと、納得していた。
 モノだって古ければ古いほど魂が宿る可能性が高くなるということだし、その類のものなのだろう。
「ねぇ、あなた」
「んー?誰だぁ?」
「私は明姫リサよ。あなたは、埴輪くん……でいいのかしら?」
「確かに埴輪だけどよー、名前は佐吉だぞー」
 埴輪は種族名だぞ、なんて少しすねた口調で言う佐吉と名乗る埴輪にたまに校内で見かける幼等部の男の子たちを思い出し、リサは微笑んだ。
「そうね、ごめんね佐吉君……あら、綺麗なお花ね。誰につけてもらったの?」
 機嫌を直してもらおうと、頭を撫でようとし、その花に気づいた。淡いピンクの小粒のようなその花は、よく道路端に咲いているのを見かける気がする。
「あー、そういや家出てくる前に割れて、ブレスにくっつけてもらうときに混じった気がする」
「割れて、死なないの?あなた」
 そもそも話すこと自体不思議なこの物体。割れても、其れが普通なように話すとこを見ると結構丈夫なモノなのかもしれない。自分は最悪な話だが、ばらばらになっても生きていられる自信はない。
 何処かからうみねこに連れ去られてきたようだが、此処で出会ったのも何かの縁だ。ぱっ、と見、悪いモノでもなさそうだし、迷い子のようなので少しこの海岸で話をして、家の方角まで送っていくことにしよう。
「あなた、さっき海が初めてみたいなこと言ってたわね。少し近づいてみましょうか?」
 そういって、リサは佐吉を抱き上げて改めて海へ向かって歩き始めた。







「海かー、そういやニュースでもうすぐうみびらきってやつになるっつてたけど、これが開くのか?」
「海開きの『開く』は別に本当に海の何処かを開くわけじゃないわよ?海で泳いでも寒くない時期になって、浜辺の宿や海の家っていう万屋的なところが開くくらいの季節になったことをいうの」
「んじゃ、海の真ん中がバーッ!っと開いて道ができるとかじゃなくて……?」
「立春とか、節分とかあるみたいに現代的な暦のようなものね」
「そうなのか、なんだ迫力ねーの」
 ロボットアニメや特撮ヒーローさながらの迫力を期待していたのだろうが、それは残念ながら現実では日常茶飯事としてそうそうあるわけがない。自分たちのような存在が表立ってないのと同じように―――
「夢を壊しちゃってごめんなさいね。佐吉君はそういう派手なところが好きなのかしら?」
「好きっていうか、俺、今日が家の外に出たのが初めてなんだよなー。だから、ニュースで各地で海開きが始まり、なーんて毎年やるだろ?んで、いっぱい人が映ってて凄く騒がしかったからそういうイベントなんだなーって思って」
「まぁイベントといえばイベントだけれども……そんな人が腰を抜かすほど派手なイベントではないわね。其れはそうと、今、『外に出たのは今日は初めて』って言った?」
「言った。俺は人間みたいな体じゃないから外出たら近所のじーさんが入れ歯を飛ばすほど驚くからって駄目だって言うんだ」
「まぁ、そうね、普通の人は驚くわ」
 なんたって日本人では知らぬものはいないだろう埴輪が動いて話して、尚且つ頭にお花を咲かせているのだ。驚くどころか、人によっては拝んでしまうかもしれない。
「でも、今日は出てきたのね。鳥にさらわれて」
「最初はよー、そんな風に茶化されたのが腹たっていえ飛び出してきたんだ。んで、ちょっと近所回ってから帰ろうかなーと思ってたらあのうみねこ野郎が俺をぱくりと加えてこの上空までつれてきたってわけ。もう空は凄かったぜ!かぜはびゅんびゅん吹くし、花は千切れそうになるし」
「へぇ、気持ちよさそうね。バイクの風とどっちが心地いいかしら」
「バイク?乗り物だっけ、あれも風凄いのかー?」
 余程うみねこに攫われたのがトラウマなのか、嫌そうな顔をする佐吉にリサはクスリと笑って見せて、彼の頭を撫でた。
「大丈夫よ。バイクは空を走るものではないから高いところへの恐怖もないし、風も心地よいものだわ。だから、そんなに怯えないで」
「ここちよい……?さっきからリサ、その言葉使ってるけど、もしかして気持ちがいいとかそーゆー意味か?」
「ええ、そうよ。どうせならその心地よいと思える気持ちよさを経験してみる?外に出たのだったらそういうのもいいかもしれないわよ。もう日も暮れてきたし、送っていくついでにちょっと遠回りしてバイクを楽しまない?」
「た……楽しむぞー!!バイクなんてうちには無いから乗ってみたい!!!」
 両手をばたつかせて、興奮している佐吉が可愛らしくてリサはまた微笑むのだった。





 2人が出会った海から佐吉の家まではさほど距離がないようであったが、ツーリングついでなのもあり、リサは言葉どおり遠回りをすることにした。途中、サービスエリアにも入り、屋台のたこ焼きを買って食べたりした。その間、佐吉はリサのライダースーツの中、正確に言えばライダースーツに隠れた胸の間にいた。
「佐吉君、苦しくない?」
「んーん、別にー。布団蒸しにされるよりは気持ちいいぞ?」
「布団蒸し、か。お布団敷く時に遊ぶのね」
「ベッドなんだけど、布団を干した後とかにやるんだぞ。ブレスのやつ、たまーに枕まで押し付けてきやがる。反則だよなー」
「ふふ、そうね……さて、おやつも済んだことだし、本格的に帰り道に入りましょうか」
「おー、ゆーやけこやけだからな」
 夏なので日は長いがすでに夕闇が空の半分を覆ってきている。子供はもう家でテレビを楽しむ時間だ。
 愛車にまたがり、佐吉が落ちないよう再びライダースーツの胸元を閉めると、リサは郊外にある佐吉の家目指してエンジンをかけた。




「あら、立派なお家」
「有人の趣味で庭が広いからご近所より敷地ってのが広いって言ってた」
 確かに周りの家より少し外壁が広いその家のインターフォンを押すと、機械から返ってきたのはリサと同年代がそれ以下の少年の声。
「明姫と申します。佐吉君を送らせていただきました」
『はーい、今いきまーす』
 ぷつっ、と電源の切れる音がし、佐吉がリサの胸元から顔を出す。
「やっぱりブレスのやつ心配してやがらなかった」
「確かに、ノリが軽かったわね。想定範囲内だったんじゃないかしら?」
「ありうる……ちくしょう、何処までも馬鹿にして」
「お帰り、佐吉ー。残念パーティーは用意する必要なかったねー」
 玄関の門から出てきたのは喜色満面の赤いパーカーを着た少年。この少年がずっと佐吉が話題に出していたブレスという者であるらしい。ずっと笑顔でいて、尚且つリサの胸の谷間から顔出してる佐吉にでこピンをかましてくれる始末。本当に心配してたような気配はない。
「ごめんね、綺麗なお姉さん。うちのヤキモノがこんなに暗くなるまで世話になっちゃって」
「いえ、それはいいのだけれども貴方、嫌に冷静ね」
「心配しなかったのかってこと?風の噂でウミネコに攫われた佐吉が海でナイスバディなお姉さんをナンパしてるって聞いたからねー」
 心配なんてする必要ないさ、と笑うブレス少年にリサはようやく微笑を浮かべ、佐吉を彼に差し出した。
「そう、そういう話なら納得したわ」
「そんなにわるもんに見えたのね、僕。お姉さん、帰るの?お茶くらい飲んでいけばどうです?」
「その申し出は嬉しいのだけれども、もうすぐ学校が試験なの。だから早めに帰らなきゃ、ごめんなさいね。佐吉君、じゃあね。今度は泳げるぐらいになったらまた海へ行きましょう」
「おう、水遊びは好きだぞー」
 またなー、と大きく手を振る佐吉をあとにし、リサは帰路につくのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7847/ 明姫 リサ / 女 /20歳】



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■         ライター通信          ■
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明姫リサさま

はじめまして、桜護と申します。
せっかくご購入いただいたのに、このように長い間お待たせして大変申し訳ありませんでした。
待っていただけたお詫びとお礼として、せめて楽しんで頂けるように勤めさせていただきました。
重ねてお詫び申し上げます。