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機械仕掛けの戦士
機動戦士(からくりせんし)キラーナイト。
最近巷で噂の、ロボット物シミュレーションRPGゲームのタイトルだ。ファンが何年も待ち続けた新作だとかで、発売にあたって大型のイベントが行われることになったらしい。
そのイベントの一番の目玉は、主人公が搭乗する愛機キラーナイトの実物大模型の展示だ。
全長300メートル、実際に登場することも可能なリアルフィギュアがお目見えするとあって、今日は朝から報道陣・観客で海沿いのイベント会場はごった返していた。
「はぁ…暇人め」
そんな黒山を見て、三島玲奈が毒づきたくなるのも無理はない。何せこちらは今日の為に徹夜で会場設営に動きまわっているのだ。元は裏の世界に通じていたと専らの噂の強面雇い主は新人にも容赦なく仕事を与えてくるので、働き始めは白かったツナギも今や見る影もなくなった。こっちが大変な思いをして働いている横で、今か今かと開場を待ちわびる連中を見ると何とも言えない気分になった。
「おい坊主!コレ控室に運んでくれや」
「あ、はい!」
玲奈が今いる場所から控室へ向かうには、例のロボの正面を通らなければならない。見上げればその迫力に圧倒されるばかりだ。ファンでもなんでもない自分からしても確かにカッコイイとは思うが、わざわざ早朝から並んでまで見たいとは思えなかった。
「…え、それ本気ですか!?」
ふと、若い男の声が耳に入った。現場からいって別に珍しいものではないはずなのだが…なぜかその声が気になってそちらを見る。黒いスーツを着た40代ほどの男性と、腰まである長い金髪を後ろで一つに結んでいる青年が話している。ツナギを着ていない所を見ると彼は建設担当ではないのだろう。眉間にしわを寄せて困惑の表情を浮かべているが、男性の方は妙に楽しそうだ。
「もちろんだよ。今作で主人公はこの機体を敵に奪われてしまい、新しく手に入れた機体でこれを制圧するという設定がある。今の状況にぴったりだと思わないか?」
「でもそんなの…危険だと思うんですが!観客を危険にさらす気ですか!?」
「観客が怪我をする前に君が倒してくれれば問題なかろう?」
何の話かよくわからないが…なんだか気になる。もっと話が聞きたくて、さり気なく後退をしたところで。
ゴゴゴゴゴゴゴ…
低い地響きのような音がして、頭上からバラバラと木くずのようなものが落ちてきた。何事かと上を見上げれば、ロボットが右腕を前方へと伸ばしている。先ほどまで気をつけの姿勢で立っていたはずなのに。
『あれ、このロボットって可動式だったんだ…』
のんびりとそう考える玲奈の後ろで、作業員たちが俄かに色めき立ち騒ぎ出した。その驚愕に染まった声に、そうではなさそうだと悟る。
「あぁ、もう動きだしてしまったか…やっぱりお札程度では抑えきることはできなかったかな」
男性の声はこの場にそぐわないほどノンビリしている。
周囲が混乱に染まる間にロボットは本格的に動き出し、自らを支えていた綱を千切り鉄塔を倒して、施設の外へと歩き出す。まるで意志を持っているかのように動き出すそれに現場はパニックの嵐となった。
「まずい…って、おいあんた、危ない!」
「えっ」
呆然とそれを見ていた玲奈は、自分に向って降ってくる鉄の棒に気付けなかった。青年の叫びと同時に力いっぱい体当たりされ、体が床に叩きつけられるのとほぼ同時に今まで玲奈が立っていた場所に鉄が突き刺さり、もうもうと砂煙をあげていた。
「…うわ…」
そんな間抜けな声を洩らす玲奈を彼は思いきり睨みつける。
「バッカかお前!とんでもねーこと起きてる時にボケっと突っ立ってんなよボケ!」
「う、うるさいなぁ!ちょっとビックリしてただけ…」
「織田くん、こうなっては仕方ない。開場にはまだ早いけどイベント開始だ。アイツを、皆さんの前で倒してきてくれ」
スーツの男性におもしろがっているとしか思えない声をかけられ、青年は小さく舌打ちをしながらも立ち上がった。
「…どうなっても知りませんよ。生身でロボと戦うなんて初めてだし」
「心配いらない。なにせ君は『何でも屋』なんだからね」
どうやら、彼らはあのロボットが『動き出す』ことは知っていたようだ。何が原因かはわからないが、動き出したあれを止めるために彼が呼び出されたのだろう。
『今作で主人公はこの機体を敵に奪われてしまい、新しく手に入れた機体でこれを制圧するという設定がある。今の状況にぴったりだと思わないか?』
ふと、先程の男性の言葉が蘇る。そうだ、生身でロボットと戦うのが大変ならばこちらもロボットに乗ってしまえばいいのだ。玲奈はそっと目を閉じて宇宙へと…我が分身の宇宙船へと念を送った。
『今すぐ、超カッコイイロボ造ってここへよこして!!』
遥か彼方で、それが頷いたのがわかる。次の瞬間には暴れ狂うロボットに負けないサイズのロボットがその場へ降り立った。
「へ!?」
突然現れたもう一つの巨大ロボットに、玲奈を除く全ての人間が目を見開いた。ポカンと口をあけるだけの彼に走り寄ってその手を取ると、強引にコクピットへと押し込んだ。
「お、おい!?なんだよコレ?どうなってんだよ!?」
「生身で戦えるわけないでしょ、コレ使って!このゲームもそんな話だって言うじゃない!!」
「え、そんなこと急に言われても操縦なんか…」
「思ったとおりに動いてくれるから大丈夫!」
「そ、そうなのか?ってゆうかお前、いった…」
『さぁさぁ皆さん、始まりました!機械戦士新作発売記念イベント最大の目玉!本日は少々予定を繰り上げて皆様にお送りいたします!本作は、主人公タケルの愛機キラーナイトが敵によって奪われてしまうところから始まります。敵へと寝返ってしまったキラーナイトを前に、タケルはヒロインのエリカと共に力を合わせて新たな愛機ウイングナイトで立ち向かうことになるのですっ!!』
オォォォォォォォォッ!!
興奮気味のアナウンスと歓声が響いた。何事かと見やれば、あの男性がいつの間にかマイクを握り締めて特設ステージの上から叫んでいる。
突然会場をぶち破って表れた2機のロボットに先ほどまで恐怖におののいていた人々も、彼のアナウンスでこれが全て「プログラム」だったのだと知り落着きを取り戻していた。
混乱は危険しか生まないのだから、彼のパフォーマンスによるフォローは非常に有難い。有難いが…
「…マジで引っ込みつかなくなったぞ…。どーするよ『エリカ』?」
「えっ!?あた…俺が『エリカ』!?」
「だって俺が主人公だからな。この場合はお前がヒロイン役しかねぇだろ。大丈夫大丈夫、皆には顔まで見えねえし。こうなったら、最後まで付き合ってもらうぜ?」
そう言って、彼は玲奈に向ってウインクしてみせた。その不敵な笑みに、思わずこちらも笑みが零れる。
「…ま、いいか」
「よっしゃ。じゃ、改めて自己紹介な。俺は晶。お前は?」
「俺は…」
言い終わる前に、ウイングナイトが衝撃を受けて大きく揺らいだ。キラーナイトの重い拳が叩きつけられたのだ。バランスを崩したメカは成すすべもなく地面へと倒れ伏す。
「うわぁっ!」
ドォン、と重たい音を立てて倒れる鋼鉄の体。その勢いに、コクピットの入口に掴まっていただけの玲奈は弾き飛ばされてしまう。しかし晶がそれを気遣う間もなく、再び敵の手が伸びてきた。乱暴にウイングナイトの頭部を掴み上げたかと思うと、まるでハンマー投げのように勢いをつけて投げ飛ばした。
「うわあああああああっ!?」
「晶さん!!」
為す術もなく、晶はウイングナイトごと海へと放り込まれてしまう。ボコボコと沈んでいく哀れな姿に、観客たちから悲しみの声が上がった。
まずい。無理やり彼を押し込んだ時から、ずっとコクピットは開いたままだった。このまま海へ沈んでしまえば確実に晶は溺れてしまうだろう。玲奈はその名を呼び、迷わず海へと飛び込んだ。
案の定沈んでゆく機体の口が開いたままのコクピットの中には大量の水が入り込んでおり、逃げることもできなかった晶が苦しげにもがいている。足が引っかかってしまっているのか、自力で抜け出せないらしい。このままでは息が続かなくなって失神してしまうのも時間の問題だ。
何とか機体に追いつくと、一緒に足を引き抜こうと思いきり引っ張る。しかし焦っているからだろうか…あっさりと抜けてはくれない。隣で晶がますます苦しそうに顔をしかめる。もう息が続かないらしい。
「…っ!」
仕方ない。玲奈は晶の顔を両手でつかむと強引に唇を重ねた。わずかだけれど息を送り、少しでも彼の意識が飛ばないように。晶は一瞬驚き目を見開いたが、すぐにその意図に気付き息を受け取ると渾身の力で足を引き抜き玲奈と共に水面を目指した。
「プハッ…!…晶さん、大丈夫!?」
水面に顔を出して最初に玲奈が問えば、晶は拗ねたような顔でこちらを睨んでいる。
「…?」
「お前、女なのかよ!」
「えっ!」
ばれた。今回のバイトが元々男性限定だったし、先日の怪我で髪を短く刈って坊主にしていたこともあり性別を偽っていたのだが…積極的に男性を装おうとしていたわけではないが、こんなところでばれるとは。彼は怒ったような、照れたような、拗ねたような…そんな複雑な表情を見せる。
「く…唇が…柔らかかったから、その…そーゆうのって、女だろ。だから…」
「っ!!」
赤い顔でそんなことを言われて、玲奈もつられて赤面する。まさか唇の柔らかさで当てられるとは。…というか、彼は女性にどんなイメージを持っているのだろう。
「と、とにかく!助けてくれたのはサンキュ!でも今はそれよりもあいつを倒さねぇと」
陸地を見れば、キラーナイトは好き勝手に暴れまわり、せっかく玲奈が仲間たちと徹夜で築き上げてきた施設を破壊し続けている。観客の悲鳴も聞こえる。こんなところでプカプカ浮きながらお互いに照れている場合ではないのだ。
「わかった、あたしに任せて」
玲奈がパチンと指を鳴らす。瞬間、海に沈んだはずのウイングナイトが上空に姿を現した。そして晶の手を取ると。
「行くよっ」
言うが早いか、彼女の背中で隠されていた翼がその姿を現した。大きく広げバサリと揺らすと彼を抱えたまま空へと飛び出…そうとした所で、「あ、ちょっとタンマ!」と
突然晶の静止にあった。怪訝そうな顔で彼を振り返れば、ポケットからメモのようなものを取り出してそこの一文を指差してくる。
「いいか、俺はタケルで、お前はエリカな」
「『マリンモード。エリカの戦闘スタイルの一つ。スクール水着姿と美しい白い翼で、海中を自在に泳ぎ敵と戦う』…なにこれ」
玲奈の声に棘が含まれるのは仕方ないことだろう。
「読んで字の如しだな。エリカはマリンモードで海の中を戦うんだ」
「…まさかまさか、あたしが、そのカッコ…?」
恐る恐るたずねる玲奈に、晶は満面の笑みで肯定する。
「大丈夫大丈夫、似合うって!」
「うぅ〜…」
嫌だけど。恥ずかしいけれど。目の前の晶は妙に嬉しそうに微笑んでいるし、何より今、自分は「玲奈」ではなく「エリカ」なのだ。「エリカ」はスクール水着になるものなのだ。仕方ない。
超生産能力でスクール水着を身に纏うと、今度こそ、晶を抱えて空へと舞い上がった。
『おぉぉっとぉ!沈んだと思われていたウイングナイトが、再び姿を現してくれたぞ!そして…あぁっあれは!マリンモードへと変身したエリカだぁっ!タケルも無事だぞ!!』
興奮気味の声がスピーカーから聞こえる。こちらの存在に気付いたのか、敵も破壊の手を休めてこちらを振り返った。ロボットだから表情はないはずだが…どこか不快そうに思える。
晶を再びコクピットへと戻すと(今度はちゃんとすぐに扉を閉めた)、玲奈は微笑みロボットの周りをふわりと一周してみせた。
「さぁ、タケル!ここから反撃開始よ!」
「任せろ、エリカ!!」
二人の台詞に観客から歓喜の声が上がった。地面に降り立った途端、待っていたかのようにキラーナイトが突進してきた。再び海へ沈めようというのだろう、伸ばされた腕は頭を狙っている。
「二度も同じ手にかかるか!」
その腕が頭を捉える寸前で右に交わし背後に回ると、しっかりと胴体に腕を回した。そして。
「いっけぇぇっ」
気合十分、叫び声とともに思いきり体を反らせ敵の頭を地面へと叩きこむ。バックドロップだ。固い頭部はコンクリートの地面に叩きつけられ地響きと砂煙を巻き起こす。
「へへん、どんなもんでぃ!」
「ロボットで戦ってんのに、プロレス技はないんじゃないの?晶さん」
「そうか?んじゃあ、ロボットらしくかっこよく戦ってやるか!援護頼むぜ?」
「任せて」
なかなかダメージが高かったのか、起き上がるキラーナイトの足元はまだ少しふらついている。だが、それでも戦意は失われてはいないようで、態勢を整えると背中から細い金属の棒を抜き出して構えてきた。ブン、と音を立ててその棒からレーザーの刃が伸びる。
『キラーナイトはレーザーソードを出してきたぞ!どうするタケル!?ここはエリカのランドモードでかく乱しかないか!』
「え、ランドモード?」
アナウンスの声に戸惑う玲奈。「プログラム」を装っている以上、アナウンスの言葉に従わなければならないが…いかんせんゲームの内容をよく知らない。困り果てる玲奈に、晶がまたメモを見せてくれる。
「『エリカの戦闘スタイルの一つ。体操服姿で、素早い動きと強力な力で敵をかく乱する』って…体操服ぅ!?」
「ま、ゲームだからな」
素っ頓狂な声を上げた玲奈に、晶はまたも楽しそうに笑うだけだ。先ほどのスクール水着といい、なぜここで体操服?なぜ戦う時にブルマ?…いろいろと突っ込みたい所だが、水着よりはマシかもしれない。溜息を一つ吐くと、くるりと一回転して体操服をまとう。
「あたしの超生産能力の使い道はこんなんじゃないのにぃ〜」
「いけっエリカ!期待してるぞ!」
「も〜、わかったわよ!しっかり続いてよ!?」
地面に降り立つと、一気に敵へと走る。突然現れた小さな標的に、彼はレーザーソードを構えなおして地面へ突き刺すようにして対抗する。しかし、チョロチョロと足元を縦横無尽に動き回る小さな的を刺して倒すなんて、よほどの達人でなければできるはずもない。
レーザーの刃は、無駄に地面を抉るばかりだ。
「ほらほら、鬼さんこっち〜!」
足を止め、挑発するように殊更大声でゆっくりと呼びかける玲奈。いい加減イライラしてきたのだろう(ロボットだが)彼は、今度こそ仕留めようという気合か、剣を大きく振り上げた。
「いまだっ!ロケットパァァァンチッ!!」
振り上げたことでがら空きになったキラーナイトの胴体へ、切り離された肘から先が飛んでくる。両の拳は無防備だった腹にヒットし、そのまま地面へと押し倒した。再び轟音を立てて倒れ伏すその姿に、歓声が上がる。
「よっしゃぁクリーンヒット!」
「晶さんナイス!」
戻ってきた玲奈と互いにガッツポーズをして笑い合うのもつかの間、敵は三度起き上がる。よく見れば、先程の二度の攻撃で装甲の一部は壊れ、全身埃にまみれ、その姿は大分弱っているように見える。
「しつこいわね」
「ま、本体は悪霊だしな。物理的攻撃じゃ周りは壊せてもトドメは刺せないってことだろ」
「悪霊!?」
「そー。俺は悪霊退治に呼ばれてたの」
「へぇ〜…」
「なんでそんなに驚くんだよ…悪かったな似合ってなくて」
「ごめんごめん。でもそれじゃ…どうするの?」
「主人公は必殺技があるもんだぜ?次で決めてやるよ」
自信ありげにウインクしてみせる晶。
『敵は随分と消耗しているようだ!さぁウイングナイト!今こそトドメを刺すんだ!』
アナウンスも二人を煽る。
「よっしゃ!フライヤーモードであいつの動きを封じてくれ!」
晶が叫びながら、再びメモを見せる。『エリカの戦闘スタイルの一つ。セーラー服姿で、純白の翼を持つ』
「はいはい…なんかこのゲーム、心配になってきたわ」
恥ずかしいコスプレも、三度目ともなれば諦めもする。体操服からセーラー服に着替えると、翼を広げ敵へと飛んでいく。先ほどの衝撃で壊れてしまったらしい不格好なレーザーソードを振り回し彼女を振り払おうとするが、先程も当てられなかったものを空中で当てられるはずもない。空しく空気を切り続ける刃が、そのまま相手の焦りを表しているように見えた。
飛び交う虫を必死に蠅たたきで追っているかのような敵の様子を眺めながら、晶はコクピットで腕を鳴らす。
「さぁて正念場だぞっと。派手なことやってる割にゃ、俺でも倒せる程度の悪霊さんで助かったぜ」
目をつむり、両手の親指と人差し指で作った三角の空間に気を込めていく。玲奈が「思ったとおりに動いてくれる」と言ったとおり、コクピットで晶がやった通りにウイングナイトも構えを取り気を込め始める。
ジワリと掌から熱が集まり、鈍い小さい光が生まれた。それはゆっくりと、しかし確実に輝きを増していき最後には眩い程の輝きを放つ。ウイングナイトの手の中で生まれたそれは、まるでそこに小さな太陽があるかのような輝きにまで育っていた。
「準備万端!いいぜ、玲奈!!」
「了解!」
晶の合図で、玲奈は飛び回るのをやめて翼を大きく広げると一気に高く飛び上がった。敵の目が彼女を追って空を仰いだ、その無防備な瞬間。
「ひぃぃっさつ!スーパーエネルギーウェェイブッ!!!」
晶の叫び声と共に、ウイングナイトの掌から光の弾が発射された。極小サイズの太陽は真っ直ぐに敵へと飛んでいき、そしてその胴体に大きな風穴を開ける。ぱっくりと大きく口を開けたその穴から光の粒子が全身に広がって…次の瞬間、地を這うような恐ろしい咆哮が響き、巨体はゆっくりと地面へと倒れ伏し沈黙した。
数秒の沈黙。そして、主人公が勝利したことを悟った観客から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
『勝利〜!さすが、我らがヒーロー!すばらしい戦いをありがとう、ウイングナイト!新しい英雄〜!!!』
大成功だよ、君に頼んで良かった!今度はぜひ、正式にアクターとして依頼してもいいかい?と興奮気味に話す依頼人の言葉を丁重にお断りして、晶は控室のソファで仮眠をとっていた。突然、瞼にヒヤリと冷たいものを感じて目を開くと、缶コーラを持った玲奈が覗き込んでいる。
「お疲れ、晶さん」
「おぉ〜…サンキュ」
缶を受け取って起き上がると、隣に玲奈が座る。
「急に巻き込んじまって悪かったな。大丈夫か?」
「あたしは全然平気。結構楽しかったよ」
そう言って玲奈が微笑むと、晶もホッとしたように微笑み返した。
「でもなぁ〜、主催のおっさん的にはどうだったんだろうな?」
「どうって?何か怒ってた?ちゃんとやっつけたのに」
「いやいや、それじゃなく」
フワリ
「っ!?」
突然、晶の手が伸びてきて玲奈の頭を優しく撫でた。掌全体で、優しくかきまぜるように撫でまわす。突然の出来事とその掌の温度に驚いて、彼女の顔が一気に真っ赤に染まっていった。
骨ばった優しい手と、穏やかな瞳。急にうるさく鳴り出す心臓に、玲奈自身戸惑いを隠せない。
『な…なななな、なにこれっ!?わ〜ちょっと!止まれ心臓!…って、止まったら困る!静まれ心臓!大人しくなって〜!!!』
真っ赤になって混乱する玲奈に、晶はまたニッコリと微笑んで。
「坊主頭のヒロインじゃあ、萌えられなかったんじゃねぇかな〜ってさ」
数時間後、静かな控室で左頬を真っ赤に腫らして気絶している晶の姿が発見された…。
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