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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


脱がせて……
●オープニング【0】
 まだ梅雨も空けぬ7月初め――月刊アトラス編集部員の三下忠雄は、真夜中寝入りばなにかかってきた電話によって叩き起こされた。相手は編集長の碇麗香で、詳しい事情は話されずとにかく編集部へ来いと一方的に言われて電話を切られてしまったのだった。
(ああ、また何かややこしいことなんだ)
 たいていこういう場合にあることは、三下の経験上から想像は出来る。ややこしくないことであるならば、翌朝出勤した時にでも間に合うはず。そこをこうして呼び出すのだから、何事か起きたかと考えるのが普通である。
 さて、三下が急いで編集部にやって来てみると、すでに麗香の姿はあった。だが……一目見て妙だと分かる格好であった。何故ならば、麗香はこの季節にも関わらずご丁寧にコートを羽織っていたのだから。
「編集長? その格好は……」
「来たのね、三下くん。悪いけど、今から来れそうな人たちを呼び集めてもらえる?」
「あ、あの、何か、その」
「……迂闊だったわ」
 麗香は三下の質問には答えずにつぶやくと、突然コートをはらりと脱ぎ捨てた。中から現れたのは、何故だか黒の競泳用水着に包まれた麗香の身体であった。ちなみに胸元がU字で背面がY字のタイプである。
「はい?」
 面喰らう三下。それはそうだろう、急に呼び出されて来てみたら、いきなり競泳用水着姿を見せつけられたのだから。
「自宅に、懸賞に当選しましたってこれが送られてきてたのよ。応募したような記憶もあったから、ちょっと着てみましょうかと思ったら……」
「思ったら?」
「……脱げないのよ」
「サイズが合わなかったんですか?」
「お馬鹿! サイズはぴったりよ!!」
 三下を叱り飛ばす麗香。そして溜息を吐いてからこう言った。
「いいえ、この水着がぴったり合わせてきているんだわ……このフィット感は。着心地は悪くないどころかよいんだけど……」
「で、でも、もったいないですけど、切ってしまえば……」
「そんなこと考えなかったとでも思う? 後で試してみれば分かるわよ」
 そう言う所からすると、何らかの理由で切れなかったのであろうか。しかし指輪が抜けなくなったという話はよくあるが、まさか水着が脱げなくなってしまうとは……。
 ともあれ、麗香の命令によって三下は真夜中にも関わらず心当たりに電話をかけまくるはめになってしまったのであった――。

●真夜中に呼び出された人たち【1】
「碇っ〜! 連絡もらって飛んできたよぉ〜!」
 息を弾ませ編集部に駆け込んできたのは、小学生の海原みあおであった。子供が真夜中に起きてていいのかという突っ込みはこの際横に置いておいて、みあおがやってきた時にはすでに3人の先客が居たのであった。
「……本当に電話をかけまくったのね」
 ちらっと三下の方を見てつぶやいたのは、赤く長い髪を持つ眼鏡をかけた外国人女性ミネルバ・キャリントンであった。ミネルバもまた、三下の電話によってやってきた1人である。月刊アトラスで記事も書いているし、おまけに友人である麗香が困ったことになっていると聞いてしまっては、さすがに見過ごす訳にはゆかなかったからだ。
「へえ、これが脱げない水着なんだ?」
 と言いながら、競泳水着姿でソファに座っている麗香を、もう1人の外国人女性が立ち位置を変えながらじろじろと物珍しそうに見ている。
「ミネルバからここの話は聞いてたけど……さすが編集者、身をもって記事探してるんだ?」
 その銀髪の外国人女性――ルナ・バレンタインはそう麗香に尋ねた。ミネルバの親友で、かつ彼女のマンションに居候しているルナは、夜寝ている時にかかってきた電話でミネルバが出かける支度を始めたものだから、事情を聞いて面白そうに感じてこうして一緒にやってきたという訳だ。
「否定はしないけど、これは不可抗力よ」
 ぶすっとした表情で答える麗香。いい記事を得るためには自ら体験することも厭わなくはないが、今回のこれに関しては予期せぬ所にカウンターを喰らったようなもので……。
「でも、碇しゃんはこの水着をどこの懸賞で当てたのでぇすか?」
 その麗香に対し、もっともな質問を投げかけたのは、ソファの前のテーブルの上にちょこんと座っていた露樹八重であった。
「……だからその記憶がね」
 麗香は小さな溜息を吐いた。応募したような記憶もあるが、その時期に手当り次第に応募したような記憶もあり、はてさてどこの懸賞なんだと聞かれると何とも答えようがないのだ。
「後でよゆーがあったら、調べておくといいと思いますでぇすよ。碇しゃんだけにプレゼントしてるとも思えないのでぇすよ……」
 と、少し呆れた様子で勧める八重。とりあえず、優先させるべきは水着を脱がせることなのだから。
「元気出しなよ、碇っ! 大丈夫大丈夫、ちゃんと色々用意してきたからっ!!」
 麗香のそばへやってきたみあおが励ますように言うと、膨らんでいる鞄の中をがさごそと探って何やら取り出した。
「はいっ、まずは腰周りと脚を隠すパレオ!」
 なるほど、水着が脱げないのなら、こうして隠すための物は大切かもしれない。
「それからこれっ! 水中対応の一眼レフなデジカメ!!」
 ちょっと待てい。それは何の用意ですか? あ、何かメモリーカードもたっぷり持ってるし……。
「じゃ、まずは1枚だよっ♪ 取材として記録しておかなくっちゃ」
 さっそく麗香の競泳水着姿をそのデジタルカメラで写真に撮るみあお。
「そういえば、電話で何か妙なことを言ってたわよね。切れないとかどうとかって」
 ミネルバがおろおろとしている三下に尋ねた。三下がはっとして、こくこくと頷いた。
「そ、そ、そうらしいんですが……。まだ試してはいなくて」
「本当なの、麗香? 切れないってどういうこと?」
 麗香本人にも問い質すミネルバ。麗香はミネルバの方を見ることなく答えた。
「実際にやってみるといいわよ。見た方が早いから」
「そう……」
 ならばとばかりに、ミネルバは鞄の中から全長40センチを越えるナイフを取り出した。湾曲した刀身が特徴的なそれは、ミネルバが持参していた和式グルカナイフである。
 ミネルバはそれを右手に持つと麗香のそばへ行き、水着の肩の紐部分にすっ……と手をかけた。その時である――。
「ひゃっ……!」
 麗香の身体がびくっとなったのは。
「少し引っ張るわよ。……っと」
 触れるのに声をかけなかったから驚かせてしまったかなと思い、今度は声をかけて麗香の水着の肩紐部分に指をかけるミネルバ。ナイフで切るには十分な隙間が出来上がった。
 そして間髪入れずにグルカナイフで切ろうとしたのだが……。
「なるほど、防刃なのね」
 ミネルバが冷静に言い放った。グルカナイフは、1ミリたりとも麗香の着ている競泳用水着を切り裂くことは出来なかったのである。
 念のため、グルカナイフに精気を通して試してもみたが、結果はやはり同じだった。
「別段変わった材質を使っているようにも見えないけど……」
 水着の手触りを確かめるように、ミネルバは麗香の背中につつぅ……っと指を滑らせた。するとどうだろう、麗香は大きく仰け反って悲鳴を上げたではないか!
「ひゃあぁぁぁぁぁっ!!!」
 思わずこの後に何か言葉を続けてみたくなるほど、それはそれは見事な叫びっぷりであった。
「ど、どうしたでぇすか!?」
 麗香の目の前のテーブルに居る八重がびっくりして言った。
「あ……その、何だか……くすぐったいって言うか……」
 恥ずかしいのか、頬を赤らめながら麗香が答えた。
「あれー? 碇ってくすぐったがりやさん?」
 そんな恥ずかしがっている表情をもフレームに収めながら、みあおが麗香に聞いた。
「そんなこともなかったと思うんだけど……」
 そう答えた麗香の様子を見る限り、どうやら自身でもこれは意外な反応であるらしい。
「本当に切れない水着なんだ、これって。キャットファイトでは破れ易い水着使うけど、それとは全く逆だよね」
 ルナが興味津々といった視線を、麗香の水着へと向けた。キャットファイターでもあるルナにしてみれば、このような水着というのは気になる存在なのかもしれない。
「いったい誰が作ったのかな?」
「そう、それよ」
「そうそう、それだって!」
 ルナのその疑問に、ミネルバとみあおが同時に反応した。
「送ってきた会社を調べてみれば、何か分かるかもしれないわ。少なくとも、送ってきた以上は何か知っているでしょうし」
 ミネルバがそう言うと、みあおが麗香に尋ねた。
「住所とかないの、碇?」
「……コートのポケットに包装紙を折り畳んで入れてあるけど、たぶん役に立たないと思うわよ」
 麗香はそう言って溜息を吐いた。ルナがすぐにコートを拾い上げ、ポケットから折り畳まれた包装紙を取り出した。住所はきちんとそこに記されていた。
「えーと、どれどれ。あ、あったよ。東京都千代田区千代田1の1の1」
「……住所から調べるのは無理ね、これは」
 その住所を聞くや否やミネルバが残念そうに言い放った。
「え、何で? その住所ってでたらめなの?」
 みあおがきょとんとして尋ねた。
「違うのでぇすよ」
 八重がふるふると頭を振った。
「そこはぁ……日本でもっとも本籍にしている人が多い場所なのでぇす」
「そんな所ってあるの?」
 首を傾げるみあお。いったいそれはどこだというのだろうか。
「あの……まさかここって、皇居じゃあ……」
 三下が恐る恐る思った答えを口にした。
「三下くん、正解よ。……何で住所を先に見なかったのかしらねえ」
 後悔先に立たず――麗香はがっくりとうなだれた。
「そっか〜、それじゃあ住所からは追えないね。追うなら、この水着のデザインとかからの方がいいのかなあ……」
 そんなことを思案するみあお。まあその気になれば、追跡手段は色々とあるだろうけれども、だ。
「いいから早くこれ脱がせて……」
 懇願するような麗香のつぶやき。そうだったそうだった、優先すべきは水着を脱がせることなのだ。送り主を追うのは、脱がせた後でも十分可能であるからして。
「うみゅう……ここはやっぱり、水着は何をするために作られてるかを考えればいいと思うのでぇすよ。そうすれば、やることはきちっと決まってくると思うのでぇす」
 麗香の水着を脱がせるべく、八重が自分の考えを口にする。
「ということは……泳ぐ?」
「正解なのでぇす! ぷーるで泳げばいいのでぇす♪」
 みあおをびしっと指差して八重が言った。
「三下くん!」
「は、はい!!」
 急に麗香に名を呼ばれ、三下がびくっとなった。
「何してるの、早く近くのスポーツジムに連絡して! 屋内プールのある所よ!!」
「は、はい、分かりました!!」
 麗香に指示された三下は、あたふたと机の上の電話に手を伸ばした。
「大丈夫、きっと『運良く』収まるって♪」
 みあおはそんな三下の姿を眺めながら、麗香を励ますように言い放った。

●麗香、受難の夜【2】
 さて――この真夜中にどうにか近くのプールがあるスポーツジムに話をつけ、一同はそこを朝まで使わせてもらうことが出来た。
 だがしかし結論から言ってしまえば、プールで泳いでみればよいという八重の推理は見事に外れた形となったのである。
 八重曰く、もう嫌って言いたいくらい麗香に泳いでもらったり、また白のスクール水着を着てきていたみあおの提案で競泳をしてみたり――相手はみあお自身だったり、無理矢理泳がされるはめになった三下だったりだが――などなどやってみたのだが、一向に麗香の水着は脱げる気配がない。それどころかさすが競泳用水着だけあって、水に入ったことによって姿が映える結果になっているのだ。
「うーん、こっちの方向性じゃないのかなあ……?」
 首を傾げながらも、写真を撮る手を休めないみあお。水中からのナイスショットも、たくさんデジタルカメラの中には入っていた。
(まあ、これもいい記念になるよねっ)
 ……ひょっとして取材よりも記念の方が主なんじゃないですか、みあおさん?
「……はあ……もう……上がっても……ふう……いい……はあ……かしら……?」
 プールサイドに両手でしがみつきながら、息も絶え絶えといった様子の麗香。無論今まで泳いでいた訳だから、普段かけている眼鏡は外していた。あ、そうそう、三下も同様である――今はプールサイドで突っ伏して倒れてしまっているが。
「しょうがないのでぇす……もう上がっていいでぇすよ」
 うみゅうと難しい表情をしながらも、八重は麗香にプールから上がっていいと伝えた。
「手を貸すよ」
 その豊満な身体を水着に包んでいたルナが、麗香の前に手を差し出した。
「あ……ありがと……」
 麗香はルナに礼を言うと、その手を借りてどうにか水の中から上がってきた。文字通り、水も滴るいい女状態だ。
(よし、今ね!)
 ルナはプールから上がってきたばかりの麗香の背後に素早く回り込むと、両方の肩紐部分に手をかけた。ルナの指が1、2本ずつ、隙間に滑り込む。
「ええいっ!!」
 気合一閃、勢いよく水着を下へ引きずり降ろそうとしたルナであったが、水着は麗香の肌にぴたっと貼り付いたがごとくまるで剥がれなかった。
「こっちがダメなら……!!」
 それではとばかりに、ルナは麗香の胸元へ手を滑らせていった。そこから水着の中へと手を差し込もうと考えたのだが――。
「いやぁぁぁぁぁんっ!!!」
 何と麗香の身体がびくびくんっと震えたかと思うと、ルナの腕をするりと抜けてその場にしゃがみこんでしまったのである。
「……参ったわね……」
 足元で息を荒くしている麗香を見下ろし、思案顔になるルナ。キャットファイトで水着を剥ぎ取ったりするのには慣れているルナがやってこれなのだから、いかにこの競泳用水着が手強いか分かるというものだ。
「ここまでやって、どうして脱げないのでぇすか?」
 うみゅうと唸り、どうにもこうにも納得がゆかない様子の八重。
 今までの試みを振り返ってみると、肩紐部分では僅かに出来た隙間に指が入ったりしているのだから、水着自体が麗香の肌と癒着してしまっているのではない模様。ならばいい加減脱げてもよさそうなのだが、何故にここまで脱げないのであろう?
「ネットで調べても、その水着のことは何にも分からなかったわね。もちろん、どこの誰が作ったのかも」
 編集部に残ってネットでの調査を続け、皆よりしばし遅れてやってきたミネルバがそう言った。当然今はミネルバもまた、そのグラマラスな身体を水着にて包み込んでいる訳だが。
「これが指輪だったら、石鹸でぬるぬるにして取ったりするんだけどね〜」
 せっかくだからと、麗香のみならずルナやミネルバの水着姿も写真に収めてゆくみあお。その言葉に、八重が反応した。
「それなのでぇす! 試してみましょーなのでぇすよ!!」
 何でも試してみる価値はある。こうなればダメで元々、脱げればラッキーなのだから。
「……ぬるぬるにするって、ボディソープとかローションなんかでもいいのかしら?」
 少し思案してからミネルバが口を開いた。
「いいと思いますでぇすよ」
 こくこくと頷く八重。するとミネルバはちょっと待っててと言い残し、一旦プールから出ていった。
「怪我しないように、何か敷いた方がよさそうだね」
 そう言ってルナも、下に敷くための物を探しに向かった。恐らく身体中をぬるぬるにすることになるのだから、プールサイドで直にやってしまっては肌を擦りむいたりしてしまうかもしれないし、滑って転んで打撲なんてことも考えられる。ならば、マットなり何なりを敷いておくのが一番だろうとルナは考えたのである。
 やがてルナが、プールから上がって更衣室へ向かう所の床に敷いてあった足拭き用のマットを抱えて戻ってきた。それに少し遅れミネルバも、ボディソープとローションの各々ボトルと、手頃な大きさのバケツを手に戻ってきた。
「わざわざ買ってきてくれたのでぇすか?」
「たまたま車に積んであったから。バケツはここのだけど」
 八重の質問にさらっと答えるミネルバ。そしてルナがマットをプールサイドに敷いている間に、ボディソープとローションのボトルの中身をバケツの中へとぶちまけた。
「麗香。そこに寝ておいてくれる?」
 バケツの中身を鮮やかな手つきで掻き混ぜながら、ミネルバは麗香に指示を与えた。
「え、ええ……」
 言われた通り、敷かれたマットへ素直に仰向けになる麗香。もはや気分はまな板の上の鯉である。
「麗香の全身が、十分にローションにまみれた所で、もう1度脱がせてみてくれるかしら?」
 ルナの方へ向き直り、また指示を与えるミネルバ。
「了解」
 ルナは短く答えると笑みを浮かべた。
「さあ……」
 しっかりと中身が混ぜ合わされたバケツを手に、ミネルバがマットに横になる麗香のそばへとやってきた。
「それじゃあ、始めましょ」
 言うや否や、ミネルバはバケツの中身を手早く掬って麗香の全身にかけ始めた。その度に、麗香の身体がぴくっと動いているように見えるのは果たして気のせいだろうか。
「麗香、せっかくだからマッサージもしてあげるわ。こういう仕事してると、どうしても凝っちゃうものね……」
 そう言ってミネルバは、麗香の身体にかけた物を優しい手つきで丁寧に伸ばしてゆきながら、麗香の身体をも揉み始める。
「やぁ……そ、そこっ……! ちょっ……ぃや……やめ……っ……!!」
「ほら、暴れると怪我するわよ。ただでさえ、滑りやすくなっているんだし」
 ミネルバのマッサージから逃れようと身体をよじった麗香に対し、ミネルバが手を動かしつつ静かに窘める。
「わぁ、マッサージ慣れしてるね〜」
 みあおが感嘆しつつ、その様子を写真に撮ってゆく。その手つきは、素人目にも鮮やかなものであったからだ。
「やっぱりだわ。ここなんてもう……パンパンじゃない……」
 うつ伏せにさせた麗香の背中を揉んであげながら、その凝り具合にミネルバも驚いていた。
「……う……あぁ……はぁ……」
 徐々に凝りがほぐれてきて心地よくなってきたのか、両方の手でしっかとマットをつかんでいた麗香が声にならない声を上げていた。
(そろそろいいかしらね)
 頃合だと見たミネルバは、待機していたルナに向かってアイコンタクトを送った。ルナはこくっと頷くと、足音を立てずミネルバと静かに場所を入れ替わった。そして、うつ伏せ状態のままである麗香の水着の肩紐部分にするりと指を差し込むと、そのまま一気に足元の方まで水着を引きずり降ろした!!
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 プール中に目一杯反響する悲鳴を上げた麗香。だがしかし、件の水着はするりと麗香の身体から脱がされたのである!!
「バスタオルを投げるのでぇすよ!!」
「ラジャー!」
 そこですかさず八重が指示を出し、みあおが首にかけていたバスタオルを麗香の方へと投げた。
 それをミネルバがキャッチすると、ぱっと広げて麗香の身体を覆うように被せたのであった。
「これでおしまい……ね」
 と言って麗香の背中をバスタオル越しに軽く叩くと、ミネルバは脱がせた水着を手にしているルナの方に視線を向けた。
「丈夫だね……どこも破れちゃいないよ」
 ローションとボディソープにまみれた水着を、ルナがしげしげと眺めながらつぶやいた。
 麗香はというと、水着が無事に脱げたことでほっとしたのか、それともマッサージの心地よさが今頃回ってきたのか、ただ無言でマットに突っ伏していた……。

●これはもはやある種の執念?【3】
 そして翌日。月刊アトラス編集部では、三下の悲鳴が響き渡っていた。
「いだだだだだだだだだだっ!!!」
「え、これで? まだほんの軽くしかかけてないのに」
「いだいでずっ! いだいでずがらやめでっ、やめでぐだざいっ!!」
 パンパンパンと何度もルナの身体をタップする三下。彼は今、ルナによってコブラツイストをかけられている状態なのだ。
「……わざわざ試合のチケット持ってきてくれたのね」
 麗香が手にしたチケットを見つめながら言った。それはルナが皆へとわざわざ配ってくれた、次回出場試合のチケットであった。もちろんキャットファイトの、である。
「何だったら見るだけじゃなく、出るのはどう? 碇さんだったら人気出ると思うけど」
 三下を解放したルナが、笑いながら麗香に言った。
「冗談でしょ。私は無理よ」
 苦笑して断る麗香。
「大丈夫よ。ミネルバだって1度出……」
 ルナがそう言った瞬間、ミネルバが大きく咳払いをした。慌てて口を閉じるルナ。
「ところで、あの水着はどうしたの? 私は知らないんだけど……」
 麗香が件の水着の行方について尋ねると、みあおが勢いよく手を上げた。
「はーい! じゃんけんに勝って、みあおがお家に持って帰ったよっ!」
 実はあの後、件の水着に興味があったみあおとミネルバがじゃんけんをして、どっちが引き取るかを決めたのであった。
(えへへ、真ん中のお姉ちゃんに似合うかな〜♪)
 恐らくみあおによって着せられることになるお姉ちゃんに……合掌。
「……そ、そう」
 麗香は何やら複雑そうな視線をみあおに向けていた。まさか欲しがる者が居るとは思ってもみなかったのだろう。
 と、不意に八重の方を見てみると、うみゅう……と難しい表情を浮かべている。考えてみれば、今日ここに来てからずっとその表情かもしれない。
「どうしたのよ?」
 麗香が尋ねると、八重がようやく口を開いた。
「あの水着は脱げなくなるだけだったのでぇすか?」
「え?」
「何だか他にもないしょのことがあるよーな気がするのでぇす!」
 びしっと指差して言い放つ八重。すると何故か、麗香が八重から視線を外した。
「気のせいよ……うん、気のせい」
 そうつぶやく麗香は、どことなく自分に言い聞かせているように見えなくもなかった。
「ああ、そうだわ麗香」
 ミネルバが思い出したように麗香に言った。
「ちょっと見てほしい物があるの」
「どれ?」
 ミネルバの方へ顔を向け、麗香は冷たいお茶を口にした。
「今日出てくる時に、ポストにこれが入っていたのよ」
 と言ってまだ開けてもいない箱を差し出すミネルバ。指先が、差出人の住所を指し示している。
「ん?」
 そして麗香は箱に貼られていた差出人の住所を見て――激しく咳き込んだ。
 そこには事もあろうに、『東京都千代田区千代田1−1−1』と記されていたのである!
「な、な、な……!」
 絶句している麗香。ミネルバはその場でその箱を開けてみた。中から出てきたのは……女性用の競泳用水着!!
「……昨日のと全く同じデザインに見えるんだけど、それ」
 そばへやってきたルナが、取り出された水着を見ながら言った。
「世の中には、あぶない水着をあっちこっちに出回らせる人たちがいるのでぇすね……」
 八重が呆れたようにつぶやいた。
「よかったね、碇っ! これって十分記事になるよっ!! 『怪奇! 見目麗しき美女を襲う水着!!』なんてタイトルはどうっ?」
 みあおが元気よく麗香に言い放つ。その麗香はというと、ものの見事に頭を抱えていたのであった……。

【脱がせて…… 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】
【 1415 / 海原・みあお(うなばら・みあお)
                   / 女 / 6? / 小学生 】
【 7844 / ミネルバ・キャリントン(みねるば・きゃりんとん)
                / 女 / 27 / 作家/風俗嬢 】
【 7873 / ルナ・バレンタイン(るな・ばれんたいん)
  / 女 / 27 / 元パイロット/留学生/キャットファイター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全3場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここにようやく、麗香受難なお話をお届けいたします。
・よく創作では神が降りてくるなどと言ったりもしますが、今回のお話の時には風変わりな神が高原の所には降りてきたのでしょうかね。この手のお話はコミックでやるとより面白くなるようにも思うのですが、同時にちょっと危険でもあるのかなーと思ったりもしました。何がどう危険かは触れないことにしますけれども、ええ。
・件の水着ですが、一部の方はアイテムとして入手しておりますのでどうかご確認をお願いします。ただし、見えていることだけが全てではないので要注意ですよ。
・正体については……基本的に害はないですから放っておいてもいいのではないでしょうか。本文では触れていませんけれど、煩悩の塊と言っても差し支えないですし。ちなみに脱がせ方なんですけど、実はオープニングでヒントは出てるんですよね……。
・露樹八重さん、23度目のご参加ありがとうございます。お久し振りですね。確かに水着は泳ぐための物ですけれども(競泳用ですから特に)、今回の場合は残念ながら当てはまりませんでした。バスタオルのことはよかったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。