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<東京怪談・PCゲームノベル>


それは突然に‥

 その日は天気も良く、絶好の買い物日和だった。
 空を見上げれば青い空が何処までも続いており、たまには散歩するのも悪くないなと思いながら、最近新しく出来たショッピングセンターに入っていく。
 日曜、しかも新しく出来たという事から中は大勢の人間で賑わっていた。
 若者に人気のブランド、女の子が好みそうな雑貨屋、そして使途不明の怪しげな店、久々に買い物に来たせいかどれもこれもが新鮮だった。
「‥‥‥‥あれ?」
 大勢の人間で賑わっている中、見知った顔を見かけて「あ‥‥」と声をかけようとした――が、先に向こうの方が気づいて「‥‥あれ」と少しばかり驚いた顔で話しかけてきた。
「立ち話もなんだし、カフェでもいかない?」
 そう言われて、二人はカフェに入ることになったのだった。

視点→ブリジット・バレンタイン

「ひゅう、キツそうだけど美人な姉ちゃん」
 少年が自分の横を通り過ぎた銀髪の女性を見て口笛を鳴らして呟く。身長も180cmと長身、おまけに美女と来れば目立たないわけが無い。
 今日はカジュアルな服装にサングラスと言う格好だけれど、いつものボンテージ姿ならば余計に目立っていた事だろう。
「ちゃんと働いているのね」
 この新しいショッピングセンターでは『アイアンロッド・セキュリティ』の警備員達が働いている。
 今回は別に視察のつもりで来たわけではないのだが、やはり自分の会社の社員達が真面目に一生懸命働いている姿を見るのは悪い気分にはならない。むしろ誇らしく思える。
「何か私も見て行こうかしら、折角来たんだし」
 ずらりと並ぶ店を眺めながらブリジットが小さく呟いた時だった。
「ブリジットさん?」
 背後から訊いた事のある声が自分の名前を呼び、ブリジットはゆっくりとした動作で振り返る。
「ミツル?」
 そこにいたのは先日『リゾート』で会った扇ミツルだった。
 どうやら彼も買い物に来ていたらしく、手には本屋の袋を持っていたので彼も買い物に来ていたのだろう。
「あら、よく私だと分かったわね?」
 ブリジットが少し驚いたようにミツルに言葉を投げかけると「ええ、この前と少し雰囲気が違うから最初は分からなかったけれど」とミツルは苦笑しながら言葉を返してきた。
「ふふ、こういう服も似合うでしょ?」
 ブリジットの言葉に「そうですね、この前の服も似合っていたけれど今日の服も素敵です」とミツルは薄く微笑みながら言葉を返した。
「とりあえず立ち話もアレですし、何処かに入りませんか?」
 ミツルの言葉に「賛成、私もノド渇いてるから何か飲みたかった所なの」とブリジットが言葉を返し、近くの洒落たカフェへと入っていく。
「そういえば少し驚いたわ、人ごみはあまり得意そうに見えなかったから」
 ブリジットが思い出したように呟くと「えぇ、キライです、でも」とミツルは購入した洋書を見ながら「これがあると聞いたので来てみました」と言葉を付け足した。
 そういえばこのショッピングセンターには洋書専門の本屋も入っているとブリジットは聞いていて、少しだけ覗こうかとも思っていた。
「へぇ、私も後で行ってみようかしら」
「洋書に興味が‥‥ってそういえば外国の方でしたね、失念していました。そういえば‥‥弟さんがいると言ってましたけどどういう人なんですか?」
 ミツルの言葉に「そうねぇ、弟の他に妹もいるんだけど‥‥」とブリジットは記憶を探るように呟き始める。
「妹と弟が未成年なのにお酒を飲んだ事があってね、お仕置きとして弟にはヘッドバット3発、妹にはさらにパワーボムをかけてやったわ」
 ブリジットの言葉に「‥‥ぶ、無事ですか、お二人とも」とミツルは思わず思った事をストレートに聞いてしまう。
「えぇ、もちろん。万が一の事が起きるような真似はいくら私でもしないわよ」
 頼んだ珈琲を飲みながら苦笑してブリジットは答えるのだが、本当に彼女を怒らせた時に無事でいられる者がいるのかな、とミツルは心の中で小さく呟いたのだった。
「でも、弟が家を出た時は少し驚いたけど、嬉しかったわね」
「嬉しかった?」
 ミツルが不思議そうに首を傾げながら聞き返す。
「えぇ。素直で大人しいだけの子かと思っていたから――ちゃんと逆らう事も出来る、自分の意思を持っているんだなって少しだけ嬉しかったの」
 ブリジットの言葉に「‥‥自分の、意思」とミツルは少し悲しいような、寂しいような、そんな表情で俯いていた。
「そういえば、お姉さん達がいるって言ってたわね。貴方のお姉さんならきっと美人なんでしょうね」
 どんな人達なの? とブリジットは言葉を付け足しながらミツルに問いかけると「優秀な、姉です」とミツルは短い言葉を返してきた。
「出来る事なら、きっと父は姉達に会社を継がせたいと思ってる筈です。会社を継ぐに相応しいのは姉達だから。自分の持ち物は、きっと自分の子に渡したいと願うはずだから」
 遠くを見つめるようなミツルの言葉にブリジットは何処か違和感を感じていた。
(「‥‥まるで、自分は会社を継ぐには相応しくないって言い方ね‥‥」)
 ブリジットは心の中で呟く。疑問をそのまま口に出しても構わなかったのだけど、ミツルがそれを拒んでいるような気がしてブリジットは口に出せずにいた。
「‥‥あ、何かごめんなさい。雰囲気を暗くしちゃいましたね」
 どうとも言い難い雰囲気にミツルが気づき、苦笑しながら謝る。
「別にいいわよ、そういうのは」
「‥‥父や母は昔から姉達には凄く優しかった――だけど、僕にだけは凄く厳しかった。子供の頃はそれも愛情なんだって思えたけど――本当は違ったんです」
 僕は本当に道具だった、ミツルは俯き強く握り締めた拳をかたかたと震わせながら今にも消えてしまいそうな小さな声で呟いた。
「僕だけは、家族ではなかったんです。父の消したい汚点、それが僕だった。母にとっては父の愛人に似てくる嫌な子供、父の血を継ぐ男が僕しかいなかったから、父は僕を引き取っただけだった」
 ミツルは何処か自嘲気味に笑い、そして悲しそうに呟く。
「私に何をして欲しい?」
 ブリジットはミツルに短く問いかける。
「‥‥いいえ、僕は何も望みません。僕のような人間が何かを望むなんておこがましいですから」
 俯きながらミツルは言葉を続けかけようとしたけれど、それをブリジットが止める。
「そう、なら私に付き合ってもらおうかしら。このショッピングセンター、一緒に見て回りましょうよ」
 ブリジットの言葉にミツルは瞳を丸く大きく見開いたままきょとんとブリジットを見ていた。
「あら、もしかして嫌かしら?」
「え、あ、いいえ、嫌とか、そういうんじゃなくて‥‥」
 言い辛そうに「僕は‥‥誰からも愛されない人間です、そんな人間と一緒にいたいと思うんですか?」とミツルは言葉を投げかけてくる。
「貴方の抱える問題は貴方にしか解決できないと思うわ、でもその問題から逃げようとせずに頑張ってるじゃない。それだけでも凄いことだと私は思うわよ」
 だけど、とブリジットは言葉を続ける。
「頑張り過ぎも身体には良くないのよ? たまには息抜きしなくちゃ。ほら、行きましょ、時間が惜しいわ」
 ブリジットはミツルの手を引っ張りながらカフェから出て、色々な店を覗きに行く。男であるミツルが入りにくそうな店、そして彼に似合いそうな大人しい服が売っているメンズショップなど、色々な場所を見て歩いた。
「さて次は――‥‥」
 何処に行こうかしら、ブリジットが呟きかけた時に携帯電話が着信を知らせてくる。ディスプレイを見ると『会社』という文字が表示されており、ブリジットはため息混じりに電話に出る。
「もしもし? えぇ、私よ‥‥え? 分かった、すぐ行くわ」
 ぴ、と電話を切り「ごめんなさいね、これから会社に戻らないと」と申し訳なさそうにミツルに言葉を投げかける。
「いいえ、此方こそありがとうございました」
 ぺこりとミツルは頭を下げながら自分の気分転換に付き合ってくれた事に対してのお礼を言うと「あら、連れまわしたのは私のほうよ?」とブリジットが苦笑しながら言葉を返してくる。
「それじゃ、また会いましょうね」
 ブリジットは少し急ぐように軽く手を挙げ、また会おうという約束をした後に二人はそれぞれ別れたのだった。


END

――出演者――

8025/ブリジット・バレンタイン/32歳/女性/警備会社社長・バレンタイン家次期当主

―――――――

ブリジット・バレンタイン様>
こんにちは、水貴です。
いつもご発注ありがとうございます。
今回は少し体調を崩してしまいまして、いつもより遅めの納品で申し訳ありませんでした。
今回のノベル内容はいかがだったでしょうか?
気に入ってくださるものに仕上がっていれば幸いです。
それでは、またご用命の際は一生懸命執筆させていただきますので、お会い出来る機会がありましたら宜しくお願いしますっ。

今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2009/8/11