コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Summer of God



 壊れかけた扇風機が、嫌な音を立てながら生ぬるい空気をかき回す。
 テーブルの上に置かれた麦茶のコップには水滴がいくつもつき、重みで落下してはコップの底と同じ正確な円を描く。
 開いた窓から時折心地良い風が入っては、窓辺につるされた風鈴をチリンと鳴らし、涼しげな音を室内に響かせて過ぎ去っていく。
 暑さに朦朧とする意識を自身で叱咤しながら、向坂・嵐は資料を読み終えると大きく息をついた。
「もう一度よく読んでみて、なにか収穫はあったか?」
 草間興信所を訪れ、夜神・魔月からの警告を彼から聞いた日の午後、嵐は再びこの場所を訪れていた。
 赤い表紙のファイルを武彦に返し、零が出してくれた麦茶を一口飲む。 最初の一口よりもかなり温くなってはいるが、食道を通って胃に滑り落ちるまでに気持ちの良い涼を提供してくれるだけの冷たさは保っていた。
「その‥‥‥“神”とやらが目覚めた原因は、状況から考えて塚を壊されたからだろうな」
「あぁ、そうだろうな」
 資料に挟まれていた1枚の写真に写っていた塚は、あまりにも小さくみすぼらしいものだった。落書きが書かれ、その落書きすらもなんと書いてあるのか分からないほどに汚れてはいたが、常識のあるものならば誰が見ても塚だと分かるようなものだった。
「塚とかに奉られてるものって当然意味があるって、何で想像できないかな」
 赤い髪に赤い瞳を持つ老若男女の犠牲者達の顔写真の中、1人だけ茶色い髪に黒い瞳をした青年がいた。
 彼が一番最初の犠牲者であり、塚を壊した張本人だ。 同じ年頃の青年の肩に腕を回し、タバコをくわえながらピースをして笑っている写真は、次に挟んであった死亡時の写真とのギャップが酷く、嵐は思わず目をそらした。
 塚は、そこに宿る者の家だ。誰だって勝手に家を壊されれば悲しむだろうし、たった1つの安息の地を奪われては怒るだろう。その気持ちは嵐にだって痛いほど分かっていた。
「でも、だからって殺されて良い筈はないよな」
 嵐にとってはこの事件の最初の被害者と言うだけの存在でも、誰かにとってはかけがえのない大切な存在かもしれない。彼がいなくなってしまったことによって、嘆き悲しんだ人もいるだろう。彼は彼と言う1人の特別な存在であり、誰かが彼の代わりをすることは出来ない。
 命は取り替えることは出来ない。けれど、塚ならまた新しく建てれば良い。 一瞬嵐の頭の中にそんな考えが浮かんだが、すぐに自分で否定する。
 “神”にとっては、壊された塚は他の何にも替えられないかけがえのない大切な場所だったのだろう。例えどんなにみすぼらしく汚れていようとも、“神”にとっては宝物だったのかもしれない。
「夜神も向坂と同じような事を言ってたぞ」
 武彦がファイルの中から写真を1枚取り、無言でじっと見つめる。
 テーブルの隅にあった灰皿を引き寄せ、灰を落とすとモゴモゴと何か呟く。
 嵐の目と耳が勘違いをしたのではなければ、「自業自得と言うにしちゃ、酷すぎるな」と言ったのだろう。
「結局、この男は塚を壊し“神”に殺された。そしてその“神”は魔狩人討伐人に討たれるのか。悲劇の応酬としか言いようがないな」
 “例え神であろうとも、人に害をなす者は魔だ。魔はこちらで討伐する”
 嵐の耳に、感情を押し殺したような冷たい声でそんな言葉が聞こえてきた。一瞬、隣に魔月がいる錯覚を覚えるが、よく考えてみればこれは今目の前で美味そうに煙草を吸っている彼から聞いたものだ。魔月が直接嵐に言った言葉ではない。
 目を閉じれば、魔月の表情まで想像できた。冷たく強張った表情に、どこか遠くに向けられた瞳、無意識のうちに噛んでいる唇。脆さを隠そうと強がっている様子に、それを気づいていながら気づかないふりをする武彦、なんと言葉をかけたら良いのか分からずに黙り込む自分の姿。全てが実際に今目の前で起こっていることのように、瞼の裏に再現される。
 想像と現実の境が曖昧に感じるほど見事な架空の出来事に、嵐はゆっくりと目を開けると小さく首を振った。
「これだけ犠牲者を出して、俺でも放っておくわけにはいかないのは分かる。子供も年寄りも分別無しってのも見過ごせない」
 例え誰のものであっても人の命を奪うのは良くないことではあるが、何よりも抵抗できない一番弱い部分まで犠牲にした事が嵐には理解し辛く、また許せなかった。
 赤茶色の柔らかそうなくせっ毛をした少年のあどけない笑顔を思い出す。サッカーボール片手に微笑んでいた先にいたのは、両親だろうか? 数ヶ月前に撮った息子の笑顔を見て、彼らは何を思っているのだろうか。これから先、歳を重ね続ける自分と、永遠に幼いままの息子に何を思うのだろうか? 2度と戻らない幸せの記憶を思い出しては、癒えることのない痛みに涙するのだろうか?
 静かに生きていた者の命を突然奪った“神”の行為を思えば、魔月の行動は正しいのかもしれない。これだけの犠牲者を出して、許しを与えるほど世界は寛大ではないだろう。その相手が例え、“神”と呼ばれる存在であろうとも。
「それに‥‥‥日を追う毎に人数が増えてる。これって、力を増してるって事でもあるよな?」
「おそらく、そうだろうな」
 1人が2人になり、3人から5人になった。このまま放っておけば、今日もどこかで誰かが殺されるだろう。魔月が“神”を滅すその時まで、きっと“神”はこの殺戮を止めないだろう。
「夜神が“神”を滅すのが先か、“神”が赤い髪に赤い瞳の人間を狩りつくすのが先か‥‥‥」
「嫌な2択を出さないでくれ」
 嵐は顔をしかめながらそう言うと、ポケットから煙草を出した。 武彦が気を利かせてライターを取り出し、火をつけてくれる。小さく礼を言ってから深く吸い込み、顔を背けて紫煙を吐き出す。
「塚に行くつもりなんだろ?」
「あぁ。でも一応、荻窪さんに連絡してから行く」
「夜神じゃなく、か?」
「夜神の連絡先は知らない」
「荻窪に聞けば良いじゃないか」
「いや、きっと荻窪さんが夜神に連絡してくれるだろ」
 武彦が押しやった灰皿に灰を落とす。
「夜神に連絡すると、反対されるから出来ないんだろ?」
「警告を受けた身だしな」
「その警告を無視してまで、どうして行くんだ?」
「逃げ隠れしても見つかる時は見つかるし、それに‥‥‥もう、見つけられちゃってる気がするしな‥‥‥」
 “神”がなぜ赤い髪に赤い瞳の人間を狙っているのかは分からない。でも、そこにはきっと、何か深い理由があるのだろう。
「どうしてそう思う?」
「その“神”は、夜神の先祖が怨霊だったのを鎮めて神にしたんだろ? 多分、“神”にとって夜神の力は特別な存在だと思うんだ」
 それがどちらの“特別”なのかは分からないとしても、夜神の力は“神”にとって忘れられないモノだろう。
「赤い髪に赤い瞳、夜神の力‥‥‥俺は、その3つを持ってる」
 怪訝な顔の武彦に、嵐は右掌を見せた。小さく浮かぶ赤い三日月に、武彦が苦虫を噛み潰したような顔で煙草を取り出すと火をつけた。
「春の事件でか?」
「あぁ、そうだ」
「だから夜神は向坂の名前を覚えてたんだな。少し不思議だったんだ、あの夜神が依頼でしか接点のない向坂の名前を自然に呼んだのが」
「魔月って呼んでも良いって言われたんだ」
 自分でもなんでそんな報告をしたのかは分からないが、あの日の事を思い出しているうちに自然とこぼれていた。
「正確には、魔月様か魔月お嬢様、もしくはお嬢様って呼んで良いって言われたんじゃないですか?」
 買い物から帰ってきた零が、背後から控えめに声をかける。 間違っていましたか?と言いたげな表情に、嵐は首を振った。
「零もそう言われたのか?」
「いいえ、お兄さんが言われているのを聞いたんです。“武彦のこと、認めてやっても良い。だから、特別に名前で呼ぶ事を許可する”って、あの時の魔月さんカッコ良かったですよね」
「俺は血管がブチっと行くかと思ったけどな。‥‥‥もしかしたら夜神のやつ、今頃落ち込んでるかも知れないな」
 ボソリと呟かれた言葉に、嵐は麦茶に伸ばしかけていた手を引っ込めた。
「落ち込んでる?夜神が?」
「そのくらいの力なら、魔から狙われることもないだろうと踏んでたんだろうけど、結果的に今回“神”に狙われる大きな理由を作った。夜神の表情から見て、“神”は普段相手にしてるような魔なんかよりもよっぽど危険な存在だろうからな」
「お兄さんの言うとおり、多分、魔月さんは今頃落ち込んで自分を責めてると思います」
 買ってきたものを冷蔵庫に仕舞い終わった零が、嵐の隣にチョコンと座ると暫く何かを考えた後でおもむろに口を開いた。
「魔月さんには言わないでほしいんですけど‥‥‥。魔月さん、向坂さんに夜神の力を一部与えたの、凄い後悔してました。自分の不注意で起こした事件に巻き込んで、夜神の力なんて厄介なもの押し付けて、申し訳ないことしたって」
「夜神はああ言う性格だから、死んでも向坂には言わないだろうけどな」
 本当に思っていることは、口に出さない。優しさを人に見せようとしない ――― 魔月はどうしてああもひねくれた性格をしているのだろうか?
 嵐の中で、今まで起こった様々な出来事、言われてきた言葉が朧に集まり、一定の形を作ろうとしているが、霞がかかっているかのようにボンヤリと歪んで見える。
 目を瞑り、必死にそれが何なのか見極めようとするが、霞は晴れるどころかどんどん濃くなっていき、嵐は潔く諦めると麦茶を飲み干して立ち上がった。
「それじゃぁ、ちょっと行って来る」
「何かあったら連絡入れろよ」
「あぁ、分かってる」


* * *


 ワンコールで出た荻窪の声は、春に聞いた時よりも幾分落ち着いていた。
「きっと向坂様からお電話が来るだろうと思っておりました」
 直接腰に響く甘い声は、魔月の世話人と言う予備知識があるだけで奇妙なもののように感じる。春に思ったことと同じ事が脳裏を過ぎり、荻窪の言葉が上手く消化しきれずに反応が遅れる。
「‥‥‥来るだろうと思ってたってことは、俺の行動はお見通しだってわけか?」
「はい、左様でございます」
 一度電話で喋っただけの相手なのに、性格を見透かされてしまったような気がして居心地が悪くなる。 どんな特殊能力を有しているのかは分からないが、魔月の世話人をしているだけで何でもありだろうと言う、諦めにも似た気持ちが湧き上がる。
「えっと、荻窪さん、このことは夜神には‥‥‥」
「魔月お嬢様から言われたんです」
「‥‥‥は?」
 間の抜けた単音を発し、嵐はその場で固まった。
 魔月から言われたとはどう言う事なのだろうか? 魔月は最初から俺がこうすることが分かっていた? でも、それなら何で警告なんて出したんだ?辻褄が合わないじゃないか。
 クエスチョンマークだらけで混乱する頭に、荻窪の穏やかな声が柔らかく響いてくる。
「竜魔様と似ている向坂様のことですから、きっと塚に行こうとするだろう。一応念のためにと、私に電話してくるだろうと、魔月お嬢様は仰っていました」
「つまり、なんだ? 俺の行動は、最初から魔月の想定範囲内ってことなのか?でも、だったら何で‥‥‥」
「そう言えば、向坂様はきっと塚に来るだろうからと仰っていました」
 警告を発すれば、俺が来ると思っていたから? ‥‥‥意味が分からないし、辻褄が合わない。
 普通に依頼として話を通してくれても良かったものを、何故わざわざ試すようなことをしたんだ?
 警告を真に受けて、俺が来ない可能性もあった。確実に来させたいなら、何であんな ―――
 そこまで考えて、ハタとある可能性に思い当たった。それはあまりにも朧な可能性で、思いついた嵐自身も何故と聞かれれば理由が答えられないほど曖昧で不可解な可能性だった。
 夜神は、“神”をどうするのか俺の選択に託した ――― ?
 普通に依頼として話を通せば、確実に俺は行っただろう。でも、夜神は確実に俺が来ることは望んでいなかった。だからあんな警告を出して、その警告を無視してでも行くかどうかを俺に決めさせた。そして、決めさせておきながら夜神は俺が来る事を望んでいた。
 来て欲しくないから警告を出し、けれどそう言えばきっとくるだろうと分かっていた。 ――― 夜神は、俺に何かを望んでいる?
 あの夜神魔月が、俺に何かを‥‥‥?まさか、そんなことはあるはずない。 でも、この矛盾した一連の行動を見たら、そうとも思えてくる。
 興信所で考えていた事が、再び頭をもたげる。
 本当に思っていることは、口に出さない、優しさを人に見せようとしない ――― それは、何故?
 確か、夜神の兄は優しい人だったと美影・千里は言っていた。
 そう言えば春の事件のとき、“向坂様はお兄様にそっくりですわ”と魔月は言っていた。“でもまぁ、顔はお兄ちゃんのほうがカッコ良いけどな”と続いていたことから考えて、顔以外の部分、性格が似ていると言うことだろう。
 さらに記憶を遡れば、冬の事件のときに“優しい”とも言われた。
 “あんたは、優しい。 きっと、誰にでも優しいんだと思う”
 その後、魔月は微笑みながら嵐の肩を掴んで引き寄せた。そして‥‥‥
「‥‥‥か様? 向坂様??」
 あせっているような荻窪の声に、嵐は慌てて返事をすると前髪をかきあげた。
「途中“神”に襲われることも考えられますし、塚まで私どもがお送りいたしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。バイクで行く」
「そうですか。道中は十分にお気をつけください」
「分かってる。 あぁ、そう言えば、夜神は塚に行ってるのか?」
「おそらくそうだと思います」
「そうか、分かった。それじゃぁ‥‥‥」
 電話を切った後で、嵐は無意識に煙草をくわえた。 火をつけた後で、今日何本目なのだろうかと考える。 朝に1本吸って、昼に吸って、草間興信所で‥‥‥考えている途中で、頭が別の事を思い出す。
 あの寒い冬の日、魔月は微笑みながら嵐の肩を掴んで引き寄せ、背筋が凍るような残酷で冷たい銀の瞳で真っ直ぐにこちらを見つめながら、瞳よりも冷たい声で言った。
 “あたしはあんたみたいなのを知ってる。お人よしで優しくて、人を信じたせいで死んでいった人を、知っている”
 “だからあたしは信じないんだ‥‥‥”
 あの時は突然の豹変で気が動転し、あまりよく考える余裕がなかったが、先の言葉とあわせて考えれば魔月が信じないものはおそらく“人”だろう。
 冬に出会ったときの態度は、人を拒絶していた。きっと、信じられる人間以外とは関わりたくないのだろう。
 そこまで考えて、ふと思う。 魔月は人の名前をなかなか覚えないが、それは無理に覚えないようにしているのではないだろうか? 人に名前をつけ、個として自分の中に存在させるのが、怖いのかも知れない。
 今にも泣き出しそうな、それでいて薄く微笑んでいた顔を思い出す。 あの表情は、まるで自嘲しているようだった。
 何となくだが、嵐にも魔月の複雑な心の内が分かるような気がした。
 人を信じたいが、信じたせいで死んでいった人を知っているから、信じたくない。人を信じられないから、全て心のうちに仕舞いこんでしまう。辛いことも悲しいことも、唯一の夜神家時期当主候補だと言う重圧も、全て心の内に溜め込み、外に出す機会のないまま積もっていく。 行き場のない感情は魔月の重荷となり、心が静かに蝕まれていく。けれど、蝕まれているのを人に悟られてはならない。何故なら、彼女はただ一人の夜神家時期当主候補だから。彼女が壊れてしまえば、夜は魔の世界になってしまうから。
 “昼夜神の当主の力が弱まる事、其れ即ち魔の世界の夜明けなり”
 夜神魔月と、昼神聖陽は、決して壊れてはいけない。その重圧がさらに当人達を苦しめ、負のスパイラルを形成する。
 煙草の火を消し、携帯灰皿の中に落とす。 嵐はバイクにまたがると、塚の場所が書かれた地図をもう一度見直した。魔月のことはいったん思考の外に追い出し、モヤモヤとした気持ちを吹き飛ばすように勢い良く走り出した。


* * * 


 適当な近場でバイクを停め、天を仰ぐと掌を上にして差し出した。 先ほどから急に曇り始めた空からは、ポツポツと雨粒が降ってきていた。
 今ではもう通るものがいなくなったと思しき、踏み均された細道を進む。道は途中からコンクリートの階段になり、角が欠けてしまっているそれを上りきった先は、広々とした草原が広がっていた。
 湿った風が木々を揺らす。本来なら聞こえているはずの蝉の声は、何故か聞こえてこない。先ほどから降っていた雨は次第に強くなり、短い雑草が雨に打たれて踊っている。
 壊れた塚に、古びた旅館、旅館と塚の間には巨大な木があり、嵐は雨をしのぐためにその木の下に立った。
「警告を無視して来たんだ。死んでも文句は言わせないぜ」
 凛と良く響く声は、どこから聞こえてきたのか分からない。さして張り上げてもいない声なのだから近くにいるはずだと、周囲に視線をめぐらせる。雨は先ほどよりも強くなっており、激しく地面を打っている。
「警告をすれば、来るだろうと思ってたんだろ?」
「嵐が来れば、もしかしたら違う解決法が出来るんじゃないかと思ったんだ。でも、それは夜神以外の者に魔の運命を託すと言うこと。だから、迷った」
「俺に何をさせようとしてんだ?」
「嵐は、“神”のことをどう思う?」
 嵐の質問を無視して、魔月はそう聞いてきた。 雨は1m先も見えないほど強くなっており、嵐は持たれかけていた木の幹から身を起こすと顔を上げた。
 この雨の中、魔月は普段と同じ口調で喋っている。周囲にいないけれど、近くにいるはず。ならば、木の上ではないか? その考えは当たっており、見上げたそこには細い枝に腰掛けた魔月が銀の瞳を細めながら嵐を見下ろしていた。
「“神”は、夜神の先祖が神にするまでは怨霊だったんだよな?」
「あぁ、そうだ」
「怨霊ってことは、元々は人だったんだよな?」
「神の声を聞き、人々に神の言葉を届ける役を担っていた。いつしか彼女は神と混同されるようになり、祭り上げられた。そして‥‥‥その先は、嵐にも分かるだろ?大きすぎる力を持つものの末路、それはいつだって悲惨なものだ」
「能力ゆえに神に祭り上げられ、恐れられて殺される。そしてまた、神にされた‥‥‥か」
 魔月が細い枝から飛び降りる。長い漆黒の髪が空間を切り裂くように、真っ直ぐな線を引く。ストンと軽やかに地に降り立った魔月は、弱まる気配のない雨を降らせ続けている鈍色の雲を見上げた後で、視線を嵐に滑らせた。
「なんか‥‥‥哀しいよな」
「そうだな」
「でも、このままにはしておけないのも本当だよな」
「あぁ、そうだろうな」
「‥‥‥けど、問答無用に滅してしまうのもなんか‥‥‥」
「なんか、何だ?」
「言いたい事くらい聞いてやりたいなって、そう思うのは甘いんだろうか‥‥‥」
「‥‥‥嵐は、“神”が助かる手段があるとしたら、それに賭けたいと思うか?」
「そんな手段があるのか?」
「あることはある。けど、あたしは出来ればやりたくない」
「どうしてだ?」
「あたしには出来ないことだからだ。嵐‥‥‥あんたにしか、出来ないことだからだ」
 魔月が嵐の両腕を掴み、真剣な眼差しで瞳を見つめる。
「普通の人間が魔になった場合、滅さなくてはならない。人間よりも魔のほうが器が大きいから、魔になった時点で人と言う存在が消えてしまうんだ。でも、神なら魔よりも器が大きいはずだ。“神”に神としての心を取り戻させることによって、もしかしたら魔のみを払うことが出来るかもしれない。‥‥‥でも、これは賭けでしかないんだ」
「賭けでも、成功の可能性はあるんだろ?」
「夜神家当主なら、可能性は大きいだろう。でも、あたしは次期当主候補でしかない。当主の足元にも及ばないほど小さな力しか持ってないんだ。もし失敗したとき、嵐を守りきれる自信がない。神と呼ばれるだけの力を持つ相手を前に、自分の身すらも守れる自信がないんだ」
「‥‥‥自分の身は自分で守れ。夜神はそう俺に警告しただろ? 自分の判断でここまで来たんだ。自分の身くらいは守るさ」
「そうか、それなら ――― 」
 魔月が嵐の腕から手を放し、白く打ち付ける雨の先を見据える。両腕を前に差し出し、地面から対の巨大な刀を呼び出すと構えた。
「嵐、何故“神”が赤い髪と赤い瞳に固執してるのか、分かるか?」
「“神”を鎮めた夜神家の先祖が赤い髪に赤い瞳をしていたから。違うか?」
「ご名答。さすがは嵐だな。 あたしが思うに、“神”は、戻りたかったんだ。あの頃に。きっと、今でも戻りたいんだ」
 魔月が早口でそう言ったとき、雨が左右に分かれた。雨の降らない1本の道の先には、銀色の髪を引きずりながら優雅な足取りで歩いてくる女の姿があった。 白い着物には点々と赤い血が飛んでおり、長く伸びた爪には赤黒いものがこびりついている。瞳は左右とも金色で、小さな口は毒々しいほどに赤い。
 この雨のせいで、温度はかなり下がっていた。暑くもなく、寒くもない丁度良い気温だったにもかかわらず、嵐の頬を一筋の汗が滑り落ちる。
『見つけた ――― 』
 昼前に草間興信所を出た時に聞こえたあの声に、間違いなかった。
「あんたが“神” ――― 天音姫(あまねひめ)に間違いないな?」
『天音姫、その名で呼ばれなくなって久しいゆえ、一瞬誰のことかと思うた』
 艶やかに微笑む。 表情や優雅な物腰とは違い、“神”からは息苦しいほど強い殺気が出ていた。
「何故“神”として祀られていたあんたが人を襲う?」
『祀られていた?戯けたことをぬかすでない。 我の眠りを覚ましたばかりか、我との最後の約束まで忘れおって』
「最後の約束?」
『村に危険が迫ったとき、手を貸す代わりと、1つだけこちらの願いを申した。たった一眠りの間に忘れられるとは思わずにの』
「あんたが‥‥‥天音姫がこれ以上人を襲わず、大人しく再びの眠りにつくと誓うならば、滅さずに封じよう」
『否と申したら?』
「力ずくで滅させてもらう」
 天音姫の甲高い笑い声が響く。地を揺るがし、空を撫ぜるその声は、一瞬にして白雨を止めた。
『夜神家の当主でもないお主が、我を滅す? 我を滅すのは、夜神家当主にしか出来ぬこと。か弱き力しか持ちえぬお主ごときに滅せられる我ではないわ!』
 激しい落雷。 すぐ近くに落ちたのか、ビリビリと地が振動する。雨は先ほどよりも強く振り出し、あまりの強さに葉が雨粒を防ぎきれず、嵐の髪や肩がしっとりと濡れてくる。
 魔月が地を蹴り、天音姫との間合いを詰める。右に持った刀を前に突き出し、左の刀で首元を狙う。 天音姫が微笑みながら軽く浮き上がり、宙で一回転すると魔月の真後ろに立つ。長く伸びた爪が振り上げられ、鋭利な爪先が魔月の服を切り裂く直前で刀に弾かれる。
 一進一退の攻防を見せている魔月だったが、ぬかるんだ地面や目も開けていられないほどの雨に視界を制限され、以前のような機敏さや強さはない。
 一瞬でも天音姫の気をそらすことが出来れば良いのだろうが、その隙は一分も垣間見ることはできない。
 嵐は魔月の背中を見つめながら、天音姫が来る直前まで話していた会話を頭に描いた。
 夜神は、助かる手段はあると言った。それは俺にしか出来ないことだとも言った。 なぜ夜神家次期当主候補の夜神には出来なくて、春の事件でほんの小さな夜神家の力を身に宿した俺には出来るんだ?
 天音姫は、自身を鎮めた夜神家の先祖が赤い髪に赤い瞳をしていたからそれに固執している。そして、天音姫は戻りたがっている、あの頃に。‥‥‥あの頃とは、いつのことなのだろうか?
 夜神家の先祖によって神として祀られたころ? 怨霊として村々に厄災を振りまいていたころ?
 いや、きっと違う。天音姫はもしかして、人として神の声を聞いていた頃に戻りたいんじゃないか‥‥‥?
 天音姫が1つだけしたと言う願いは、もしかして ―――
 ドンと鈍い音がして、嵐の胸に何かがぶつかった。強い衝撃に息を呑み、木の幹に体を打ちつけながらも倒れこむまいと足に力を入れる。
「くっそ‥‥‥さすが“神”だけのことはある」
 荒い呼吸を繰り返しながら、魔月が唇を噛む。 雨の中で死闘を演じていた彼女の体はシットリと濡れて冷たく、髪を縛っていたはずの白い紐はどこかに行ってしまったらしく、黒い髪が背に張り付いている。
 袖からスラリと伸びた華奢な右腕には小さな切り傷が無数についており、血が滲んでいる。左腕には深い傷がつけられており、鮮血が雨に混じって地面にポタポタと流れ落ちている。
 よく見れば、魔月は傷だらけだった。脚にも傷がいくつもついており、頬にも薄っすら血の線が引かれている。
『華奢な小娘ごときが我を倒せるわけはあるまい。大人しく魂を差し出し、我の力の源となれば良いものを』
「夜神‥‥‥」
「あたしはまだ大丈夫だ。それより、天音姫を助ける方法は思いついたのか?」
 軽く首を振る。朧に全体像は見えてきた気がするが、どうすれば天音姫を助ける事が出来るのかは分からない。
「そうか。‥‥‥なら、助けを呼べ。力を貸して欲しいと、心から願え」
 天音姫が手の甲についた血を舌で舐めとる。
『さすがは夜神家の血。ひと舐めしただけで力がわいてくる』
「変態的発言ありがとう。やっぱあんた、神様には向いてないな。変態の神様なんて、祀っても良い事は何もなさそうだしな」
『口達者な小娘よ』
「ストーカーの気もあるみたいだしな。赤い髪に赤い瞳フェチだし」
『我はあやつを探しておるのだ。いい加減な約束で我を深き眠りに落とした、あの憎き‥‥‥』
「嵐、聞いたか。照れ隠しだぜ、絶対。だって、あんたは憎むどころか、葉(よう) ―――」
 天音姫が胸の前で両手を合わせ、三角形を作る。力をこめるように一瞬間を取った後で、両手を前に押し出す。 三角形の真ん中から渦を巻きながら飛び出してきた水は、魔月と嵐を飲み込むと後方に押し流した。
 魔月が流されている間に嵐を突き飛ばす。 飛ばされた先には朽ちかけた塚があり、嵐は流れにもまれまいと無意識に塚に手をかけた。
 塚が大きく傾き、ポワンと白い温かな光が嵐を包み込む。濡れていた髪が、服が、ジワリと乾き、冷たくなっていた体がゆるりと芯から温まっていく。
 不思議な光に全身を癒されながら、嵐の頭の中に1つの言葉が浮かんでくる。その言葉の意味をよく考えず、口が勝手に言葉を紡ぐ。
「人が好きだったんだろ、天音姫は。だから、人々の望みのままに言葉を伝えたし、裏切られても守るという約束が出来た。何かあったら駆けつけると言えた。 人が好きだったからこそ、忘れないで欲しかったんだ」
「矛盾してないか、嵐?」
 魔月が地面に座り込みながら、引きつったような笑顔でこちらを見ている。
「人が好きなのに、怨霊になって人を襲ったのか?今回だってそうだろ? 矛盾してる」
「矛盾してて良いんだよ。誰だって、矛盾してるもんだろ? 好きだから憎くて、好きだからこそ裏切られたのが哀しくて、暴走した。 唐突に眠りから覚まされた天音姫は、怒りの中でも夜神の先祖の影を探したんだ。出来ることならもう一度封じてもらいたくて」
「封じてもらいたい。でも、封じられたくない。矛盾した思いを抱きながら赤い髪と赤い瞳を追う。でも、葉魔(ようま)はどこにもいないって分かってるんだ。人の一生は短いから、天音姫の眠りは長いから。 赤い髪に赤い瞳、鮮明な印象を残すこの2つを頼りに似た人を探し、葉魔じゃないって分かっていながらも失望する。失望は深い悲しみとなり、怒りとなり、流されるまま殺してしまう」
 俯いていた天音姫が、顔を上げる。 寂しそうな笑顔で嵐を見つめ、ゆっくりと歩み寄ると立ち止まる。
『主らの言うとおりだ。もう、あのお方はどこにもいない。我を封じる事が出来る者は、いない』
 天音姫の肩が震える。けれど、涙が頬を滑ることはなかった。代わりに、口角がキュッと上がり、薄く開いた唇から甲高い笑い声が漏れた。
『そう、もう我を封じることが出来る者はいないのだ。 死にかけの老いぼれ昼夜神の当主も、半端な力しか持たぬ昼夜神の次期当主候補も、我を封じ、滅すことが出来るだけの力はないのだ!』
「嵐っ!!!」
 天音姫の鋭い爪が振り上げられる。 魔月が刀を構えて立ち上がるが、とても間に合う距離ではない。
 死と言うものを間近に感じ、嵐の体の中で熱い何かがゆっくりと顔をもたげる。無意識下で押さえ込んでいたものが爆発しそうになった時、ふと肩に誰かの手が乗った。 大きな手は痛いほどの力で嵐の肩を掴み、耳元に柔らかい風を吹きかけた。
 低く落ち着いた声は、呼吸を感じるほど近くから発せられたにもかかわらず耳には届かなかった。直接脳に響いた声は、嵐の口から音となって零れ落ちた。
「霧恵(きりえ)」
『何故、その名をお主が‥‥‥』
 驚き目を見開いた天音姫の胸に、対の巨大な刀が突き刺さる。 黒いドロリとした靄が天音姫の体から流れ出し、空へと昇っていく。靄は鈍色の雲を取り込み、さらに高く高く上がっていくと見えなくなった。
 厚い雲が晴れた先は、無数の星が瞬く綺麗な夜空だった。満月がいつもよりも明るく辺りを照らし出し、遠くで家々の明かりも見える。
 魔月が天音姫の胸から刀を引き抜く。 フラリとよろめいた天音姫は、それでも自力で踏ん張ると魔月を振り返った。
『何故、我を滅さぬ?』
「魔として滅したら、悲しむ人が2人いたからだ」
『2人‥‥‥?』
「今あんたの前でキョトンとしてる男と、その男の後ろにいる男だ」
 天音姫の視線が嵐に注がれ、反射的に背後を振り返る。 誰かいるのかと目を凝らしてみるが、揺れる木々と静かな闇があるだけだった。
「なんだ嵐、わけも分からないで色々やったのか?本当、めでたい男だな」
『もう1人の男とは、誰なんだ?』
「天音姫も、嵐なみの鈍感さだな。ずっと気づいてなかったのは、魔が増幅してたからってだけじゃなかったんだな。 そのマイナス思考が目を曇らすんだよ。もっと、素直に世界を見ないと、見えるはずのもんも見えなくなっちゃうぜ」
 魔月が嵐の隣にしゃがみ、手を差し出す。躊躇いながらも手を伸ばせば、冷たい小さな魔月の手と重なる。
「ほら、もう嵐にも見えるだろ?」
 優しい笑顔で魔月が首を傾げる。 ゆっくりと振り返る。振り返らなくても、誰かがいるのかは分かっていた。柔らかで、それでいて芯が強そうで、魔月よりも強い夜神家の力を持っている。
 赤い髪に、赤い瞳。ガッシリとした体つきは力強そうで、手に持った対の刀は魔月のソレよりも大きかった。
「天音姫を封じた張本人、夜神家8代目当主の夜神葉魔だ。 天音姫も、もう見えてるよな?」
『何故‥‥‥いつから、そこに?』
「少なくとも、あたしがココに来たときにはもういたぜ?」
『霧恵を封じた少し後、戦で死んだんだ。それから、ずっと』
『そんな‥‥‥』
「あんたさ、天音姫が心配でこっから動けなかったわけだろ?なら、そのまま一緒に連れてっちゃえよ。なぁ、嵐?」
「あぁ、俺もそれが良いと思う。出来るなら、だけど」
『しかし、我がこの場から離れれば‥‥‥』
「この時代はもう、科学の時代だ。再び祀ったところで、またすぐに寂れる。あたしはもう、2度と“神”と戦いたくはない」
 いつもより傷だらけになるしな。と、小さく呟く。
 本当に行っても良いのかと悩む天音姫の手をそっととり、葉魔が嵐と魔月に深く頭を下げる。
『面倒をかけてしまってすまなかった。本当にありがとう。夜神家時期当主候補のそちらの子に、ありがとうと伝えておいてくれ』
「伝えておいてくれって言われても‥‥‥」
 自分で言えば良いじゃないか。 そんな嵐の気持ちが顔に出ていたのか、葉魔が困った顔をして首を軽く横に振った。
『僕の声は、その子には聞こえてないんだ』
『迷惑をかけた詫びだ。主に、過去の言葉を教えてやろう』
 天音姫がそっと嵐の体を胸に抱いた瞬間、何の前触れもなく意識が遠のいた。


* * *


『‥‥‥正也は千里の近くに居るんじゃないかって思うんだ』
 魔月が不意に遠い目をし、先ほどと同じ質問を繰り返す。 “どうしてそう思う?”そう尋ねた声は、少し掠れていた。
『千里がダメだと思った人が被害に遭うって事は、千里の動向をいつも見てなきゃ分かんないだろ』
 嵐のその意見は、魔月の欲しかった答えではなかったようだった。 宙に彷徨わせていた視線を失望したように手元に落とし、二・三度首を振ると肩を落とす。
『あんたは現実的だな。 ‥‥‥勿論、答えはそうなのかも知れない。でも、もっと何か‥‥‥心の底からのものがあっても良い気がする。 もしあたしが正也の立場なら、そう考えるだろうと思うからな』
 魔月が何を言っているのか、何を言いたいのか、嵐には分からなかったが、“もし自分が正也の立場なら”と言った魔月の言葉が引っかかった。
『もし‥‥‥が‥‥‥になって‥‥しても、傍にいて‥‥‥それで‥‥‥』


 ――― これは、冬の事件のときの会話だ。
 そう、あの時、結局夜神がなんと言ったのか分からず仕舞いだった。
 聞こえていなかった言葉が、風に乗ってパチパチとあいている間にはまっていく。

『もし“お兄ちゃん”が“魔”になって“いたと”しても、傍にいて“くれてるなら”それで“十分なのに”』


* * *


「‥‥‥らし? あらし? おい、嵐っ!」
「ん‥‥‥いっ‥‥‥!」
 ズキリと頭が痛み、手で押さえる。脈打つように痛む頭を押さえながら、嵐は魔月の顔を見上げた。
「天音姫と葉魔が消えた途端に倒れこむから驚いた。 天音姫がなんかやったのはわかったんだけど、大丈夫か?どっか痛いところないか?」
「あぁ、大丈夫だ。そっか‥‥‥2人はもう行ったのか」
 魔月が対の刀を地に返すと、深く息を吐いて嵐の隣にチョコンと座った。
「もうじき荻窪たちが来るだろうから、それまで待ってようぜ」
「あぁ。 葉魔さんが夜神にありがとうって言ってたぞ」
「礼を言われることじゃない。先祖の不始末なんだからな」
「夜神、あの人の声聞こえてなかったんだな」
「だから、天音姫の人間のときの名前が分からなくて困ってた」
「霧恵?」
「あぁ。きっと名前を呼べば魔が怯むだろうとは思ってたんだけど、調べても分からなくてな」
「何で俺になら聞こえると思ったんだ?」
 魔月が躊躇うように視線を遠くへ飛ばし、蚊の鳴くような小さな声で呟く。
「何となく。 嵐って、ちょっとお兄ちゃんに似てるから、聞こえる気がしたんだ」
 喉元まで出掛かっていた質問を飲み込む。
 聞いても、今の魔月なら普通に答えてくれるだろう。 昨日見た映画が面白かったとか、明日は晴れそうだとか、そんな何でもない日常会話と同じ口調で。
 何も感じないように、感情を外に出さないように、堪えながら冷たく言い放つ。そんな魔月の姿が容易に想像できて、嵐は軽く目を瞑って頭を切り替えると魔月の腕に視線を落とした。
「怪我、大丈夫か?」
「魔にやられた傷は割とすぐに塞がるんだ。明日か明後日には完治してる。 それにしても、荻窪遅いな」
 餓死しそうだと言う魔月の深刻そうな独り言を聞きながら、嵐は心の中で先ほど出来なかった質問を呟いた。
“夜神の兄さんは、どうして亡くなったんだ?”



END


◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 2380 / 向坂・嵐 / 男性 / 19歳 / バイク便ライダー


 NPC / 夜神・魔月