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<東京怪談ノベル(シングル)>


笑顔といじわるの魔法


 ユーナはミナとの大冒険が終わって、ほっと一息。いつものように緑風が流れる川辺で日光浴を楽しんでいた。
 ミナもこの風に乗ってふわふわしていることが多いのだが、この日だけはまっすぐユーナの元へやってくる。なんでもボケた村長から「村はずれに住んでいる永遠なる少女が呼んでいた」とのこと。ユーナは失礼があってはならないと身支度をし、ミナと一緒にそこへ向かう。

 「お噂には聞いてましたが、いったいどんな方なのでしょうか?」
 「エルフ族のおねーさんだよ。みんなからは『森の精霊』って呼ばれてて、私たちの力を導くお仕事をしてるの。」

 精霊の力を導く……ユーナは小首を傾げる。そんな立派な方とお会いして、いったい何をするのか。それに『永遠の少女』とは、いったいどういう意味なのか。彼女にとって、これは新たなる冒険。小さな心は不安と期待で膨らむばかりである。


 もはや村の中とは言えないほど奥までやってきたふたりを待っていたのは、耳のとがったずいぶんと幼い少女だった。なるほど、確かに少女だ。しかし、ミナは少女に向かって敬語で話しかける。少女のノリは軽いが、何かあると思ったユーナもまた敬語で接した。後からわかったことだが、この少女は今年で187歳。ユーナたちの10倍は年長である。
 少女はさっそく「始めよっか」とユーナの隣に立ち、水の精霊力を使った新たなる魔法の伝授を開始する。いきなり指導が始まったもので、ユーナは戸惑った。すると少女もきょとんとした顔になる。それを見たユーナは、実はここに呼ばれた理由を知らされていないことを素直に打ち明けた。すると少女は無邪気に笑って答える。

 「ああ、そりゃ私が悪かったね。私はいわば駆け出しの精霊さんの先生。新しい力を授けるためにいるの。しかも私のレッスンを受ければ、いろんな力が身につくんだから!」

 ミナは「すごーい!」と驚く。少女の指導をマジメに受ければ、自然と自分では気づかない部分の力も高められていくそうだ。ユーナは『きっと厳しいトレーニングが待っているに違いない』と気を張り、少女の指導を聞き逃すまいとがんばる表情を見せる。
 ところが指導は指導でも、口伝えによる魔法の原理とか、呪文の節を覚えてるわけでもない。ユーナの場合は自分の周囲に小さな水の粒を舞い上げながらクルンとかわいく一回転し、コケティッシュな微笑みとウインクをして水滴を目標に導くことで、癒しの力を発揮する魔法『癒しの水』の効力を発揮できるようになる……というが、普通に考えたらこんなもの理解できるはずがない。さすがのミナも「なぜこんな動きが必要なのか?」とものすごく疑問そうにつぶやいた。
 少女の教え方もうまかった。そして何よりも、それに応えようとするユーナのがんばりが一番すごい。表情を明るくするような言葉で励まし、自分に合った動きでやることを勧められ、小一時間でユーナはこの力を習得した。このレッスンで培われた気持ちの強さなどが、次なる冒険で役に立つだろうと少女は力強く語る。

 「エルフさん、ありがとうございました。」
 「私はいつでもここで待ってるわよ。さてと、次はシルフのミナちゃんの番かー。じゃ、まずはお手本ね♪」

 ミナはユーナの特訓をずっと見ていたが、あれだけみっちりとなるとサボる気もすっかり失せた。ここはユーナに負けじとマジメにやろうと決心する。今度の振りは気まぐれな風に乗り、小悪魔のようにいじわるな微笑みを浮かべながら、その風を目標にまとわりつかせるというもの。シルフの特徴を最大限に活かしたこの魔法の習得は困難を極めた。ミナはシルフのわりに素直な性格だから、いたずらっぽく笑うのが苦手。試しにユーナもやってみたが、くすっとかわいくは笑えるものの、求められるところまではできない。
 ここでも少女のテクニックが冴え渡る。ユーナよりもぐっと身近な話題を例えにしたり、想像するシチュエーションを変えたりと、魔法へと至る発想力を時間をかけて育てた。その結果、練習用の木の棒にまとわりつくイヤーンな風を操れるようになった!

 「やったー! 先生、ありがとう!」
 「ミナさん、やりましたね!」
 「ふたりとも素直だから、この手の魔法を教えるのは骨だね。でも、教えがいがあるよ。また早いうちに会いたいわね。」

 新たな力を手に入れたふたりは、その後エルフの少女に誘われてティーパーティーを楽しんだ。ユーナはそこで、この世界のいろんなことを聞いた。その中にはミナも知らないことがあったようで、へぇーと頷くことも。まだまだ、この世界は広い。このふたりの旅は始まったばかりのようだ。