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<なつきたっ・サマードリームノベル>


豪華絢爛・豪華客船ツアー

『夏も終わりに近づき、今年の夏の運を試してみませんか?』

 これは近くのスーパーで配布されていたチラシ。
 2000円以上の買い物をすれば『くじ』が引けると書いてあり、その特賞が『豪華客船ツアー』だった。
 何でも今回はモニター募集の為にくじの景品にされているのだとか‥‥。
「まるで豪華ホテルのような設備、あなたもお試し下さい――か」
 チラシを見ながら呟く。
 手元には2000円以上購入した証のレシート、ちょうど一回だけだがくじが引ける。
「当たらないだろうケド‥‥」
 でも何処かで期待している自分に苦笑する。

 そして‥‥。

「特賞! 大当たりだよ!」

 がらんがらんとベルの音と転がってきた金色の玉を見て、ぽかんとするだけだった。

視点→ルナ・バレンタイン

「まさか‥‥本当に当たるなんて思ってなかったからびっくりしちゃった」
 ソール・バレンタインは自分が当てた『豪華客船ツアー』のペアチケットを見ながら小さく苦笑して呟いた。
「そのおかげであたしは夏の最後に豪華客船で優雅に過ごせるんだけどね」
 ルナ・バレンタインはおどけたような口調で弟であるソールに言葉を返した。ソールが当てたのは『ペアチケット』の為に、ソールは姉であるルナを誘う事にしていた。
「でもソールちゃんもルナちゃんも、こういう豪華客船とかには乗りなれているんじゃない?」
 二人の後ろから顔を覗かせたのはSHIZUKU(しずく)だった。本当ならば姉弟三人で水入らず、という予定だったのだけれど仕事の都合で来れなくなってしまったのだ。折角自費で購入したチケットを無駄にするのも勿体無く感じてソールとルナは友人であるしずくを誘う事にしたのだった。
「そう、かな? でも僕は結構楽しみなんだけどな♪ 気楽に楽しもうよ。しずくちゃん」
「そうよ、こういうのは楽しんだモン勝ちでしょ」
 ソールの言葉の後にルナが呟き「目一杯楽しむぞ」と言葉を付け足した。
「そっか、そうだね。今日は目一杯楽しんじゃおう♪ これで何かオカルト的な事があれば最高なんだけどねっ」
 しずくはきょろきょろと船内を見渡しながらぼそりと呟く。何処に来てもオカルト少女なしずくに二人は苦笑して互いの顔を見合わせていた。
「わ、向こうに大きなプールもある。行ってみようよ、ソールちゃん、ルナちゃん」
 しずくに手を引っ張られてソールとルナはプールの方へと歩いていく。モニター募集されて集められた乗客なので、上品そうな乗客はソールとルナくらいだったけれど他の乗客達も楽しそうにプールで泳いでいた。
(「あら? みんながこっちを見てる――ってソールを見てるのね」)
 ルナは苦笑しながら隣に立つソールを見る。ルナやしずくを見ている男性達も少なくはなかったけれど大抵の男性達はソールを見ている。しずくの水着やルナのマイクロビキニも確かに視線を集めているのだが、白い肌に映える白い水着、お人形のような青い瞳が一層男性の視線を集めていた。
(「ソールは男にモテるわね‥‥」)
 恐らく分かっていないであろう弟を見ながらルナは再び苦笑したのだった。
「ソールちゃん、ルナちゃん、早く泳ごうよー♪ 水が冷たくて気持ちいいよー」
 既にプールの中に入っているしずくがルナとソールの名前を呼びながら手招きしている。
「早く行こうか」
 ルナが呟くと「そうだね」とソールも言葉を返し、プールの中へと入っていったのだった。水の中は少し冷たかったけれど開かれた天井から差し込んでくる太陽の光のおかげで震える程の寒さではなかった。
「ちょっと休憩してくるね」
 暫く泳いだ後、ソールがルナとしずくの二人に声を掛けて離れていく。
「大丈夫かな‥‥」
 ソールは24歳と立派な大人なのだが、やはり姉としては心配なのだろう。
「う〜ん、ソールちゃん綺麗で可愛いもんね〜」
 しずくも苦笑しながらルナに言葉を返した――その時だった、ソールが数名の男性に囲まれたのは。暫くは放っておいたのだが男性たちがソールの腕を掴んだ時、流石に放って置けなくなってルナとしずくはプールから上がってソールの所へと向かった。
「何処に行くの」
 静かな声でルナは男性たちへと話しかける。
「ね、姉さん」
 ルナはソールの腕を掴んでいる男性の腕を掴み、少し力を込める。男性たちは「い、いてててて」と情けない声を出しながらソールの腕から手を放した。
(「まったく‥‥この程度の相手くらい自分で何とか筈なのに。ソールってば優しいんだから‥‥」)
 ルナはソールの少し赤くなっている手首を横目でちらりと見て「はぁ」とため息を吐きながら心の中で呟く。
「とりあえず、別な場所に行きましょ。ずっとプールにいたせいか身体が冷えちゃった」
 ルナの言葉に「賛成、向こうには美容室とかもあるみたいよ」としずくがパンフレットを見ながら呟き、其方へと向かう事にしたのだった。

「夜にはダンスパーティを予定しておりますので、ヘアセットなどお任せ下さいませ」
 美容室と書かれたプレートが下げられている場所へ入ると、中には女性客が溢れかえっていた。
 今回の為に有名なヘアスタイリストを呼んでいるのか、若い女性客たちは「まさか自分がしてもらえるなんて」「今回のモニターになれてよかった」などと口々に呟いている。
 そして数時間並んだあと、漸く3人の番となった。
「こんにちは、今回担当をさせていただく者です、宜しくお願いします」
 ソールは若い男性、しずくは女性、そしてルナはもう一人の女性にヘアセットをしてもらう事になった。
「ドレスを着る時は髪の毛を下ろそうと思ってるんだけど‥‥」
 今のルナの髪型はポニーテールとなっており、歩くたびにゆらゆらと銀色の髪が揺れている。
「それではドレスに合うように少しだけ手を加えさせていただきますね」
 女性は呟くと同時にセットに取り掛かり、終わったのは綺麗に編みこみをしてもらっていたソールとほぼ同時くらいだった。
「あ、姉さんも終わったんだ? しずくちゃんはあんまり時間掛からなかったのか結構早くから待ってたみたいだよ」
 ルナの目の前にはどう見ても男性には見えない弟の姿、綺麗で人目を引く弟はルナの自慢でもあり、誇りでもあった。
「何かちょっと疲れたね、ダンスパーティーが始まるまで少し休もうか」
 ルナの言葉に「賛成〜、あたし何か食べたい」としずくが手を挙げて呟き、3人は甲板にあるカフェへと向かってダンスパーティーの時間まで潰す事にしたのだった。

 そして、太陽が姿を隠して月が夜闇に浮かぶ頃、ダンスパーティーは開始された。
「あたし、ちゃんとダンスできるかなぁ」
 少し心配そうな表情でしずくが呟く。ルナとソールは元々が貴族の家柄なのでダンスは当たり前のように教えられており、それが余計にしずくを不安にさせているのだろう。
「気にしなくても大丈夫だよ」
 ソールが呟き、会場をちらりと見る。確かにダンスをきちんと踊っている人もいるけれど今回はモニターで集められた人の方が多いのか好き勝手に踊っている人が多く見受けられる。
 だけどどの人も楽しそうに踊っているのが表情を見て分かった。
「分からなければあたし達が教えるし、とりあえず楽しければいいんじゃない?」
 ルナに肩を押され、しずくは安心したように「うん、そうだね」と言葉を返し、しずくはソールとルナに教えられながらダンスを踊り始めたのだった。
「あたしはブレイクダンスとかの方が好きなんだけどなぁ、さすがに此処でブレイクダンスは出来ないよね」
 踊りを教えている時、ルナがポツリと呟く。確かにクラシックが流れてしっとりとした雰囲気の中でブレイクダンスをする事は出来ないだろう。
「あれ、ルナさん?」
 突然背後からルナが話しかけられ、3人は声の主へと視線を向ける。
(「確かこの人って‥‥」)
 ルナは少し険しい表情で話しかけてきたイギリス人男性を見る。ソールから視線を感じ、横目でソールを見ると、彼も同じ事を考えていたようだ。
 話しかけてきたのはイギリスに住んでいた時から面識のある男性で、以前は一番上の姉にちょっかいを出していた男でもある。本当に姉を好きだったわけではなく、バレンタイン家の名誉と財産目当てに近づいていたらしい。
(「あんまり関わりたくないんだけどなぁ」)
 はぁ、と男性に分からぬように小さなため息を漏らす。
「それではまた後でお話できたらしましょう」
 他愛無い話をした後、男性は向こうに連れていた女性の所へと行ってしまった。
「ん〜、何か疲れちゃったし今日はもう寝ちゃおうかぁ」
 しずくが大きく伸びをしながら呟き、宛がわれている部屋へと3人は歩き始めた。
「ねぇ、ソール。本当はあたしとソールが一緒の部屋だったけど、何も言わずに雫と一緒になってくれない?」
 ルナの突然の言葉に「え、なんで」と言いかけたソールだったけれど真剣な表情のルナにソールは首を縦に振るしか出来なかったのだった。
 そしてソールとしずくはツインの部屋へ、ルナは個室へと入ってそれぞれ夜を過ごす事となったのだった。

 ソールとしずくが部屋に入って、ルナは外へと出ていた。
 外はもうすっかり夜も更けて海から吹いてくる風も心地良いものだった。
「あれ、ルナさんも散歩?」
「えぇ、ちょっとね。風に当たろうかと思って」
 ルナが言葉を返すと「今日はお姉さんは来ていないのかい?」と言葉を続けてくる。
「お姉様は仕事で都合がつかなかったのよ」
「そうか、以前お姉さんに気持ちを伝えたのだけれどフラれてしまってね――‥‥もし良かったら今度一緒にランチでもどうかな?」
 男性から言われた言葉にルナは更に気分が悪くなるのを感じた。目の前の男は『バレンタイン家』に取り入る為に姉に近寄り、姉が駄目だったからと言って今度は自分に来たのだから。
「お姉様は地位と財産目当てのつまらない男って言ってたけど。今度はあたしに手を出そうってわけ?」
 ふん、と踵を返して部屋に戻ろうとした時だった。
「一緒にいたのは『弟』さんだよね」
 ソールの事を言われてルナはぴたりと足を止める。
「あの『バレンタイン家』の嫡男がまさかねぇ、こういうのってあんまり外に知られちゃいけないんじゃないかなぁ?」
 脅迫するような口調で男性はルナに話しかけてくる。
「‥‥それで、あたしに何を望むの?」
「僕と付き合おうよ。一応今日彼女は連れてきてるんだけど『バレンタイン家』の令嬢と付き合えるなら直ぐにでも別れるし」
 男性の言葉に無言でいると「ああいう弟がいるってバラしてもいいのかな?」とソールを侮辱するような言葉を投げかけてきた。
「‥‥そうね、立ち話もなんだし、あたしの部屋にいきましょ」
 ルナは男性を自室へと連れ込み、先に男性を部屋に入らせ、後ろ手で鍵を掛ける――そして男性を締め落として意識を失わせた。軍人経験のあるルナならば甘やかされて育てられたお坊ちゃんの意識を奪う事くらい造作もない事だった。
「ソールを侮辱するような事を言ったあんたを許さない」
 ルナはカメラを取り出し、男性の恥ずかしい写真を沢山撮った後に自慢であろう顔をボコボコにした。
「さぁて、こればら撒かれたくなければもうあたし達に関わらないことね」
 一度意識が浮上した男性だったが、殴られたおかげで再び意識を失い、起きた頃には二度と『バレンタイン家』に近づきたいなんて思えなくなっていたのだった。


「あれ、あの人‥‥転んだのかな?」
 翌日、朝食で昨夜の男性が顔をボコボコにされた状態でソールたちと鉢合わせた。
「まぁ、気にしなくていいんじゃない? それよりもうすぐ終わりなんだから船旅を楽しもうよ」
 ルナの言葉に3人はゆっくりと動く船旅を楽しんだのだった。

END

―出演者―
7833/ソール・バレンタイン/24歳/男性/ニューハーフ/魔法少女?
7873/ルナ・バレンタイン/27歳/女性/元パイロット/留学生/キャットファイター

SHIZUKU/17歳/女性/女子高校生兼オカルト系アイドル

――

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回は次女のお姉様も書かせて頂きありがとうございましたっ。
話の内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったら幸いです。
それでは、今回は書かせて頂きありがとうございましたっ。

2009/9/1