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<なつきたっ・サマードリームノベル>


『東京湾出発、幽霊船クルージング』



○オープニング

「東京湾発一泊クルージング・参加募集中!」

 夏真っ盛り、夏休みにはどこへ行こうかと悩んでいる皆の前に、こんなチラシが飛び込んできた。東京湾から出て太平洋をクルージングしながら一泊二日のクルージングツアーで友達や恋人、家族を誘って遊ぶにはちょうどよさそうだ。
 手ごろな価格のツアーに申込者もそれなりに多く、向かった船は多くの人で混雑していた。賑やかな船旅になりそうであった。
 しかし、楽しいツアーの途中、船で異変が起こる。それは‥‥?

■クルージングツアー

 飛行機だけでなく船の行き来も多い東京湾にはいくつかの埠頭があり、その中の1つに客船がいくつも泊まっている場所があった。そこは各ツアー会社の乗り場が集まっており、港には客ツアー会社の船がいくつも船舶していた。
 海水浴とは違い、船の旅なら冬でも楽しむ事が出来る為、週末ともなれば家族連れや友人同士、カップル、はたまたどこかの会社の飲み会など、多くの人々が集まり、船の旅へと出発するのであった。
 鳳凰院・アマンダ(ほうおういん・あまんだ)と、その夫である鳳凰院・武士(ほうおういん・たけし)も、そのクルージングツアーに参加する為この場所へとやってきた。この東京で外国人がいてもさほど珍しくはないが、それでも武士は自分と大事な妻に、まわりの視線がどことなく注がれている事を感じるのである。
 アマンダは戸籍では46歳であり、30台中旬ぐらいの、これから女をますます磨くという年頃であったが、豊満なバストと色艶のある立ち振る舞いが、さらに人々の目に目立っているようであった。最も、戸籍上の年齢も偽造なのではあるが。
 一方、武士は職業こそ医師であるが見かけはごく普通の中年の男性で、それが返ってアマンダと一緒にいると珍しく見えるのだろう。
「子供達に感謝しなければいけないな」
 待合室で船への搭乗を待っている間、隣の席に座っている妻を見て武士が囁いた。
「本当に。あの幼かった子供達が、アルバイトをしてお金を貯めているなんて、思いもしなかったもの。あの子達、大人になったのね」
 アマンダと武士の間には5人の子供がおり、まだまだ小さな子供だと思っていたが、ある日、二人にこの船旅のチケットをプレゼントしてくれたのであった。
 思いがけない子供達からのプレゼントであり、アマンダも武士も、久々の夫婦水入らずの旅になると、子供達に留守を任せてこの東京湾へとやってきたのであった。
「考えてみれば、君と二人だけで過ごすのは、新婚旅行以来だったな」
「そうね。でも、子供達もいたのだし、しょうがないことだったわ」
 アマンダが、武士の腕に自分の腕を絡めてきた。
「今日は新婚旅行に戻った気分で、楽しもうと思うの」
「そうだな。私も今日は仕事の事を忘れて、君と二人きりの旅を、楽しむ事にしよう」
 まわりには他にも大勢の客がいたが、武士はアマンダの頬に軽くキスをした。
 日本では少々恥ずかしいと思われる行為であるが、かつて武士が留学していたドイツでは、特に珍しくもない挨拶のキスだ。
 アマンダも、大好きな貴方、と言わんばかりのお返しのキスを武士に返した。
「間もなく搭乗時間です。クルージングツアーに参加の方は、ゲートへ起こし下さい」
 アナウンスが流れ、待合室で待っていた人々が一斉に立ち上がり、船の乗り場へと向かった。
「もうすぐ出発ね。行きましょう、あなた」
 にこやかに、アマンダは武士に言う。武士は妻へ笑顔で頷き返すと、彼女と腕を絡ませたまま、武士は荷物を持ち、人々の流れに沿って船の入り口へと向かったのであった。



 二人が案内されたのは、船の中程にある窓のある部屋であった。豪華客船というわけではないので、それほど広い部屋ではなかったが、それでも二人で宿泊するには十分な大きさであろう。
 カップル用の部屋なのか、大きなベットが1つに、ガラスで出来たテーブル、部屋には小さな冷蔵庫もあった。
「ルームサービスも受けられるし、ラウンジで食事をする事も出来るみたいだな。中流の海上ホテルというところか」
 テーブルにおいてあった船のパンフレットを見て、武士が言う。
「あの子達頑張ってくれたのね。何だか申し訳ない感じだわ」
 アマンダが、天井を見つめ静かに呟いた。おそらくは、家で待っている子供達の事を考えているのだろう。
「子育てを頑張ってきた御褒美、と考えればいいじゃないか。君は本当に今まで頑張ってきてくれたのだ。子育てに加えて、私の仕事もサポートしてくれている。いや、子育てはまだまだこれからなのだ。本当は1泊2日の旅行だけじゃ、褒美にもならないかもしれないが」
「いいのよあなた。あなたとこうしていられるだけで、とても幸せなんだから。そうでなきゃ、あなたと一緒にこの日本へ来たりしないわ。あなたは、私を受け入れてくれるただ一人の男性なんだものね」
 そう言ってアマンダは座っていたイスから立ち上がり、今度は軽く武士の唇へと口づけをした。
「私は、君に会う為にドイツへ行ったのかもしれないな」
「ふふ、きっとそうね」
 ドイツで出会った時の事を、武士は思い出していた。全てはそこから始まったのであった。
 美しい妻は、最愛の女性であるが、他の女性とは違う秘密を持っている。しかし、武士にとってそんな事は関係なかった。彼はアマンダを愛していたのだから。この美しい妻に、何の不足があるというのだろう。
「そうだ、後で売店で子供達のお土産を買っていかないとな」
「そうね。何がいいかしらね。お菓子にするか、それとも可愛い玩具にするか」
 二人の船旅は、幸せなムードの中始まりを告げた。



「あら、もうレインボーブリッジがあんな遠くに」
 クルージングは夕方出発である為、この季節はすぐに暗くなってしまう。船室に荷物を置いて外に出る頃には、すでに日は傾きつつあり、代わりに東京の夜景が遠くに輝いてみていた。
「東京の夜景も、なかなか綺麗ね。それに、夕日に輝く夜の海も」
 西日に照らされて、海がオレンジ色に染まっていた。まわりのツアー客は、その海を背景に写真を撮ったりしていた。
「君の方が綺麗さ」
 まるでドラマの主人公のようなセリフを武士は何の恥ずかしげもなく、アマンダの耳元で囁いた。
「君の美しさに恥らって、この海が照れてオレンジ色に染まっているんだよ」
「あら、嬉しいことだわ」
 妻はにこりと微笑を返した。まだ暖かいとは言え、すでに季節は秋へと移っており、特に海風はかなり冷たくなっていた。
 船からの夜景を楽しんだ二人は、室内へ戻り主催が開くダンスパーティーへと参加した。優雅な音楽に合わせて、二人で向かい合いダンスを踊る。まわりには他の客も踊っているが、そのダンスをしている間、そこは鳳凰院夫妻だけの空間となっていた。
 愛する人のぬくもりが、つないだ手からお互いに伝わってきた。出会ったばかりの頃に戻ったような幸せな時間を、この品のある音楽とに身をゆだねて過ごした。
「なかなかうまいわ。さすがは武士さんね」
「君も最高さ。まるで、一国の女王と踊っているような気分だ」
 ダンスが終わり、二人は食堂へと向かった。バイキング形式の食事なので、他の客も好きな食事を好きなだけ皿に盛り付け、それぞれのテーブルで楽しんでいるようであった。
「なかなか美味しいわね?」
「洋食だけでなく、中華や和食、エスニックまであるんだな。ほら、ドイツ名物のあの白いソーセージもある」
「ヴァイスヴルストね。今日本でも人気だとかで」
 アマンダと武士は、テーブルについてからワインを頼み、まるでホテルのようなこの食事を楽しんだ。
 食事のあと、再び夜景を見に船の甲板へと出たが、すでに船は岸から遠く離れており、夜景はすっかり見えなくなってしまっていた。あるのは、真っ暗な海ばかりで、たまにどこかの船と思われる明かりが見える程度であった。
 他の客と会話をしたりして交流をしているうちに、夜はすっかり更けてきた。アマンダの、そろそろ寝ましょう、という言葉が出た時は、すでに時刻も夜11時を回っていたのであった。
 船室に戻った二人は、ベットの上へと腰掛けた。アマンダはあえて歳が上に見えるようにしているメイクを落とし、20代の姿へと変わっていた。
「楽しかったわね。子供達はもう寝ている時間かしら」
「1泊2日のツアーは、すぐに終わってしまうな」
「次回はもっと、長くいたいわね。ねえ、武士さん」
 まるで恋人の前に甘える少女の様に、アマンダは夫へと抱きついた。それに答えるように、今度は武士がアマンダの頬を撫でた。
「5人の子供の母親のくせに、甘えん坊さんだ」
「5人の子供の母親だけど、私は貴方の恋人よ?」
 そのまま頬を寄せて、今度はアマンダに甘い恋人の口付けをした。そして、そのまま二人はベットへと倒れこんだ。
「6人目の子供を作る気?」
「それもいいな」
 もう一度口付けをするアマンダと武士は、お互いを見つめあった。幸せで甘い夜であった。



■異変

 その異変に先に気づいたのは、アマンダの方であった。何かおかしな気配がする。魔の気配がするのだ。つい先程まで、ごく普通の船であったはずなのだが。ただならぬ気配に、アマンダはいつもの習慣ですぐに戦闘服へと着替えた。
「ん、どうかしたのか?」
 すぐ隣で寝ていた武士も目を覚ました。
「何かがいるわ、あなた」
「何か?そういえば、やたら静まり返っているような」
 アマンダは念を込めた。彼女の手が一瞬光ると浄化の力を持った剣が出現する。
「戦う事になると思うわ」
「そうだろうね、君がその服を着ているんだから」
 武士はアマンダの戦闘服を見て、何か言いたそうな表情を見せていたが、彼は何も言わなかった。
 アマンダは部屋の中にあった黒くて長いくつべらを拾うと、それに気を流し一時的に魔化し、武士へと渡す。
「行きましょう。相手がこっちへ来ないうちに」
「アマンダ、何が起こっているんだ?」
「詳しくはわからないけど、何かがこの船へ侵入しているみたいよ」
「まさか」
 しかし、アマンダの真剣な表情を見て、武士もやがて緊迫した顔つきへと変わっていった。
 船室を出て廊下を進んだ。不気味な程に外は静まり返っている。やがて二人は、練る前に夜景を見た甲板へと出てきた。
「あれは?」
 武士が指を指し示した先には、この時代にはまるで似つかわしくない、中世のヨーロッパの様な巨大な帆船があった。船のまわりは霧で覆われており、自分が今どこにいるのかもわからなくなっていた。しかも帆船はかなり傷んでおり、帆もぼろぼろに朽ちており、まるで幽霊船の様であった。
「魔の気配の正体はこれね」
「一体これは!まるで幽霊船だ」
 目を丸くしている武士は、さらにその船から移ってきた骸骨の群れに驚きの声を上げた。
「よくわからないが、あの骸骨が友好的とは思えないね」
「ええ、そのようね」
 骸骨は一斉に二人に襲い掛かってきた。彼らの目的はわからないが、とにかくこの骸骨を倒さなければならない。
「まったく、とんでもないツアーになったもんだ!」
 アマンダは先頭に立って、浄化の白い炎を纏わせた剣を振るった。清い力を持った剣で骸骨に切りかかると、骸骨は浄化されて消え去っていく。
 さらに気を帯びた蹴りや拳を骸骨に振るい、魔の者達を確実に潰していった。
 だが、何しろ数が多い。そんな時こそ、アマンダの横について戦う武士の出番である。武士は、妻を援護するように骸骨と対峙した。魔化したくつべらは、ただのくつべらでなく特殊な力を秘めており、武士がそれを力任せに振り下ろし、骸骨を砕き散らしたのであった。
 アマンダの戦いは見事なもので、まったく無駄のない動きで、次々に骸骨を倒していく。武士の援護もあり、骸骨はほとんど倒すことが出来た。
「やっといなくなった」
 武士が大きく息をついた。
「まだ終わってないわ。あの船へ乗り込んで、何が目的かを突き止めないと、私達帰れないわよ」
「だろうな。君のことだ、ちゃんと解決して戻ってくると信じている。私もついていきたいが、足手まといになるかな」
 そう言って、武士は妻へ軽くキスをした。
「任せて。じゃ、行って来るわね」
 アマンダは夫へ笑顔を返し、幽霊船へと向かった。
幽霊船の内部は、今にも崩れてしまいそうな程痛みが激しかった。

 こういう船の場合、大抵船長がいてそれが指示をしているものだ。その船長に会わなければならない。そして、船を元に戻すように頼まなくてはならない。
 船員と思われる骸骨は、アマンダ達が倒したので全てであったのだろう。船の中には骸骨はいなかった。アマンダは、すぐ上の階へと続く階段を見つけ、さらに廊下を進んでいった。
 やがて、金色の装飾がされた扉を見つけた。見るからに、他の部屋とは違う扉であった。アマンダはその扉を静かに開けた。
「貴方が船長ね」
「ほう、この船へと乗り込んでくるとは、大した女だ」
 まるで海賊船長だ、とアマンダは思った。骸骨が髑髏の模様のついた帽子を被っており、サーベルの様なものを持っている。
 骨だから生前はどんな姿だったかわからないが、骨太の骨格からして、かなり大柄な男であったのだろう。ボロの海賊の服をまとっており、アマンダを目玉のない空洞の目でじっと見つめていた。
「貴方の目的が何かはわからないけど、元に戻してちょうだい。私達はただ、海でクルージングを楽しんでいただけなのに」
「そういうわけにはいかねえんだ。俺達は大昔、海難事故で海に沈んだが、生きた人間の魂を1万人分海の神に捧げれば、俺達は生き返れると海の神が言ったんだ」
「それで、私達を捕まえたのね。見たところ、随分昔の、しかも西洋の方のようね。ここは日本でしかも時代は平成よ。遠いところから遥遥と。時代違いもいいところだわ」
 アマンダがそういうと、船長は剣を振り上げた。
「うるせえ!俺達は魂を集めて生き返るんだ!」
 聞く耳はもたれないようであった。船長は剣を振り上げて、アマンダへと襲い掛かってきた。
「海の神様がそんな事言うとは思えないけど、私達だって帰りたいのよ!」
 船長は近付いてくるとさらに大柄な男である事がわかった。長いリーチに握られた剣は、想像していたよりも機敏に動き、アマンダの肌を何度も掠めた。
 しかも幽霊船はかなり傷んでおり、船長はすでに骸骨で体重も軽いのか、さほど動いても船には影響がないようであったが、アマンダは何度も腐った床が抜けて足を取られてしまった。いずれ、床が抜け落ちるかもしれないと思った。
「この幽霊船は厄介ね。一気にカタをつけないと」
 アマンダが一瞬攻撃の手を止めた。身体が一瞬光り、『生体鎧』が装着され、彼女の姿は狼の姿を思わせるクルースニクへと変化した。
「何だお前は。人間じゃねえのか」
「そんなこと関係ないわ!」
 アマンダは一気に決着をつけるよう、黄金の鎧に闘気を込めて船長へと体当たりをしたが、船長は寸前でこれを避けた。船長はサーベルを振り下ろしてきたので、アマンダは軽やかな動きで刃を逃れた。
 激しい攻防戦が続いた。船長は何と言っても動きが素早かった。体に肉がないので無駄な動きは少ないのだろう。
 一方アマンダはぬるぬるとした船に足を取られることが多く、苦戦をしていた。
「お前、乗り込んできたわりには、大したことないな」
「まったく、大人しくあなたの時代に引っ込んでなさい!」
 船長との戦いはかなり苦戦をしたが、体をバネのように弾ませて、アマンダは船長の胸に剣を突き通した。胸の支えを剣で砕かれて、船長は体を崩し床へ倒れた。
「ふう、苦労したわね」
 骸骨船長は動く骸骨で不死身のようにも見えたが、ちょうど霧の間から陽の光が窓から差し込んできて倒れた彼を照らし、船長はすぐに灰のように真っ白になってしまった。
「終わったわね」
 アマンダが外へ出ると、霧は晴れており遠くに東京の陸地が見えていた。あの霧の中かが、異世界だったのかはわからないが、とにかく戻ってきたのだ。アマンダはいつの間にか、幽霊船ではなくクルージングの船に立っていた。
「お帰り、アマンダ」
 武士が優しい笑顔で迎えた。
 あの幽霊船はいつのまにかいなくなったのだろうか。もしかしたら、かつて海で亡くなった者の無念の思いが、あの幽霊船を作り出したのかもしれない。
 武士に幽霊船がいついなくなったのかを尋ねたが、急に霧が晴れたかと思うと、アマンダが甲板に立っていたのだという。
 ともかく、二人は無事に戻ることが出来た。幽霊船までやってきたが、色々な意味で思い出の残る旅となったのだ。
 帰ったら子供達に礼を言って、今度は家族で楽しい旅をしよう。アマンダは武士とそう約束をするのであった。(終)



◆登場人物◇

【8094/鳳凰院・アマンダ/女性/101歳/主婦/クルースニク(金狼騎士)】
【8097/鳳凰院・武士/男性/55歳/病院長)】

◆ライター通信◇

 鳳凰院・アマンダ様

 初めまして、WRの朝霧です。この度は発注頂きありがとうござました。

 前半は武士さん視点、後半はアマンダさん視点になっております。アマンダさんは子供がいるマダムだけど、旦那さんが大事でしかも戦士、というイメージでしたので、前半と後半ではマダムと戦士、という形でかなり違う雰囲気で描いております。アマンダさんの仕草や話し方は、全部イラストとステータスで想像しました。
 戦士だけど、どこか可愛らしい部分のあるアマンダさんを、よりアマンダさんらしさが出ていれば幸いです。

 それでは、どうもありがとうございました!