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<東京怪談・PCゲームノベル>


【江戸艇】花魁体験記



 ■Opening■

 時間と空間の狭間をうつろう謎の時空艇−江戸。
 彼らの行く先はわからない。
 彼らの目的もわからない。
 彼らの存在理由どころか存在価値さえわからない。
 だが、彼らは時間を越え、空間をも越え放浪する。

 その艇内に広がるのは江戸の町。
 第一階層−江戸城と第二階層−城下町。
 まるでかつて実在した江戸の町をまるごとくりぬいたような、活気に満ちた空間が広がっていた。




 ■Welcome to Edo■



 大型連休の初日の朝、太陽の光に目を覚ました。
 乳白色の世界にゆっくりと焦点が合い始め、朧気だった景色がはっきりしてくる。海原みなもはまだ自分は夢の中にいるのかと思った。自分の部屋で寝たはずなのに、そこは少なくとも屋内ではなく、そして凡そ、自分が住む世界とも違っていたからだ。だからと言ってこんな景色を全く見た事がないかと問われれば、それもまた否だった。見たことがある。テレビの中で。
 以前もこんな事があったのを思い出した。東京の上空に突然現れた時空艇――江戸。そこに何の脈絡もなく有無も言わせず召喚された事が。
 ともすれば、太陽の光だと思っていたものは、もしかしたら江戸艇召喚時の強い光だったのかもしれない。目の前に広がるのは間違いなく江戸時代。
 改めてみなもは自分の着ているものを確認し、辺りを見渡した。前回訪れた時は町娘だったが。
 そこには、華やかな喧騒と、穏やかな日常を分かつように立てられた大きな門がある。
「ここは……」
 みなもは大きな門を見上げながら不思議そうに首を傾げた。知っているような気もするし、初めて見るような気もする。
 と、突然誰かに腕を掴まれた。
「こっちでありんす」
 引かれるようにしてみなもは隅に連れてこられた。
 掴んでいるのは自分より年少の女の子である。髪は結われておらず、おかっぱ頭の切り禿、頭には大きな蓮の花かざりを付けていた。着ている物は普段着というより晴れ着のようで、梅襲に朱色地の着物は金糸銀糸で華やかに飾られていた。
 だけど、どこか見覚えのある少女だ。
「あの……」
 困惑しているみなもに、少女は怒ったような顔をして言った。
「あんなとこで、ぼ〜っとしてたら通りの邪魔でありんす」
「ごめんなさい。ありがとう、楓さん」
 みなもは笑みを返す。
「…………」
 少女はみなもを上から下までしげしげと見やった。それで一瞬、名前を間違えたかと焦ったが少女―――楓は言った。
「何でうちの名前、知ってるでありんす?」
「え? えぇっと……」
「もしかして、桜姉さんの代わりの人でありんすか?」
「代わり?」
「良かったでありんす。案内するでござんす」
 そう言って、楓は大門からまっすぐに伸びた道を歩き出した。よくわからないが、どうやら自分は誰かの代わりに呼ばれたらしい。
 大門を挟んだ向こうとこちら。ここはかの有名な江戸吉原だろうか。ならば、この吉原の下働きのアルバイトというのも面白そうだ。「花魁」といえば高い教養と接客術を持った女たちの事である。学ぶべき事も多々あるに違いない。百聞は一見に如かず、百見は一行に如かず。実体験に勝る学習はなし。貴重な体験なのである。帰るまでの間、「吉原」や「花魁」などについて学ばせてもらおう。
 そうして楓の後について大門からまっすぐに伸びる目抜き通りを物珍しげに見回していると、楓が言った。
「この通りは仲の町でありんす。右手が江戸町一丁目、左手が江戸町二丁目……」
「え? 道なのに町なんですか?」
「そうでありんす。あんたもはよここの言葉を覚えた方がえぇ……いいでありんすよ」
「はい……はいでありんす?」
「そんな感じでありんす」
 楓がにこっと笑った。
 なんてアバウトな世界なのだ。
 これは後で知ったことだが、この吉原独特の廓言葉は上方の京言葉に憧れて出来ただの、地方から買われてきた女たちのお国訛りを隠すためのだのといった説があるらしい。
 とはいえ楓の上方独特のイントネーションは全く隠しきれている様子がないので、みなもとしては後者ではなく前者ではないかと思ったりもしてみた。しかし結局、真相はわからず仕舞いである。
 それにしても、通りなのに仲の町とはこれいかに。
「堀に面したところに河岸見世があるでありんす」
 楓の吉原案内は続いていた。仲の町の大通りに面して引き手茶屋が並んでいる。横丁に入ると妓楼の張見世があって遊女が客を待っているらしい。といっても、まだ見世の営業時間ではないが。
 仲の町の途中で泣いている男に出くわした。髷を切られ、女物の着物を着せられている。
 それを、行き交う者たちが笑い者にしていた。
 女物の着物は一時の事だが、切られた髪が再び髷を結えるまでになるには相当時間がかかるだろう。暫くは吉原を出ても笑い者。家からも出られなくなるに違いない。
 何だか可哀想な気分になって、みなもがつい足を止めると、楓が憤然とした口調で言った。
「あれは浮気した罰でありんす」
「浮気?」
「ここでは一妓一客。客は馴染みになった敵娼以外を指名出来ないでありんす」
「馴染み……」
「ここでのしきたりでありんす」
 そうして楓はここでのしきたりを教えてくれた。
 客が初めて遊女と会うことを【初会】というのだそうだ。その人を気に入れば再度指名、この二回目に会うことを【うら】という。更に三回目、指名すれば晴れて【馴染み】となり、専用の箸が用意されるのである。平安時代の三日夜餅になぞらえた擬似夫婦の契りで、これ以降は他の遊女は指名出来なくなるのだそうだ。
 これはどうやらそのしきたりを破った者への制裁らしい。とはいえ、浮気相手の女性はどこにいったのか。女の方も知っていて客をとったのだとしたら同罪ではないのか。しかし制裁を受けるのは男だけらしい。
 歩き出す楓に、みなもは慌てて続いた。
 程なくして彼女の見世に着いたのか楓は一軒の妓楼に入っていくと、暖簾をくぐって土間脇の大階段から奥へと顔を覗かせる。
「椛姉はん。桜姉はん送ってきたでありんす」
 すると1人の綺麗な女が奥から出てきた。甘い香りのする艶やかな女性だ。やはり見覚えがある。椛という名前も同じだ。けれど楓同様、向こうはみなもの事を覚えていないらしい。
「ありがとう、楓さん。……そちらの方は?」
「桜姉さんの代わりの人」
 尋ねた椛に楓が答えた。
「桜さんの代わり? まぁ……椛でござんす。よろしゅうおくんなんし」
 椛が柔らかい笑みを返す。それにみなもは何だか見とれて、それから慌てて頭をさげた。
「あ、はい。みなもです。宜しくお願いします」
「ほら、楓さん。もうすぐ八ツでござんす。見世が開くでありんすよ」
「はぁい」
「え? もうお客さんが来るんですか?」
 みなもは見世の外を振り返った。外はまだ青空だ。八ツといえば東京で言う午後2時前後のこと。朝ではないが陽は中天を少しばかり通り過ぎた頃である。
「勿論」
 椛が笑って返した。
 みなもの感覚はどうしても東京のそれであった。不夜城と呼ばれた吉原も同様、水商売といえば居酒屋同様夜のもの。まさかこんな真昼間から開店とは思わなかったのだ。
 半ば呆気に取られていると、楓がやれやれといった調子で説明してくれた。曰く、武士は主人持ちで夜は外出出来ない者が多いからなのだそうだ。
 更に付け加えるなら、江戸市中は火事や治安の点から町毎に木戸が置かれ夜四ツには閉められる。つまり夜四ツを過ぎると気軽に出歩けなくなるのである。
 結果、必然的に夜の営業は限られるということなのだろう―――なるほど。
 椛が手早く用意するのを楓がテキパキと手伝った。何をしていいかわからないみなもは時折言付かる雑用をこなす事になるのだが、説明するより自分でやった方が早いとばかりに楓がやってしまうので、見ているだけのことの方が多かった。
 それでも見ているだけでも学ぶべき事は多い。髪結いなどは見様見真似で出来ることでもないが、何気ない着物の裾裁き。たおやかな足取り。細やかな仕草。
 何気なく帯にそっと忍ばせた白檀の匂い袋が優しい香りを放っている。
 女の目から見ても惚れ惚れとしてしまう。
 身支度を整えた椛は張見世の総籬に立つのかと思えば、程なくして遣り手の梅さんが椛を呼びに来た。
 何でも仲の町の茶屋に客を迎えに行くのだという。
 花魁道中という言葉にみなもは少しだけ心を弾ませた。
 自ら結い上げた灯籠鬢に前帯で、豪華な打掛を羽織った椛が妓楼の二階からゆっくりと降りてきた。
 三枚歯の塗り下駄を履いて妓楼を出る。それに楓が続いたので、みなもも続いた。
 八文字を描きながらゆっくりゆっくり椛が歩き出す。
 みなもは目だけで周囲を見回してみたが、椛の後ろには意外にも自分と楓がいるだけだった。
 もっとパレードのようなものを想像していただけに、何となくがっかりしてしまう。どうやら実際は質素なものらしい。
 テレビなどで見るのとは随分違っていたと思って、後でよくよく調べてみたら、花魁道中には二種類あるとわかったが、とにもかくにも、この時は、こんなものかと思いながら歩いていた。
 それでも仲の町を道行く人は足を止めこちらを振り返る。楓が誇らしげに椛の背中を見つめているのが何とも印象的だった。



 ◇◇◇ ◇◇ ◇



 20畳はありそうな広いお座敷に小さな酒膳が用意されている。椛の馴染みの客は、江戸藩邸の留守居役を勤める何某という。
 楓言うところの上客で、訪れるなりみなもにも心付けをくれた。包みを開くと一朱も入っている。現在の金額に換算すれば3〜4千円。花魁の花代が最も高くて一両一分の7〜8万円だが、部屋持ちの新造でも一分の1万円余りとすれば、下働きの禿にこの金額は、チップとしては多額すぎる。
 勿論、自分や楓にだけではなく、座敷にあがる芸妓や太鼓持にも配っているから、余程気前のいい人に違いない。それほど椛に惚れているという事だろうか。
 酒の肴に椛が1つ舞って、小さな酒宴を楽しんだ後。
 ほろ酔いの客を膝枕に椛が耳かきなど始めたので、みなもは楓に座敷の外へと追い出された。
 この先は2人きりの時間らしい。
 そうして客が帰ったのは、陽が落ちる少し前のことだった。
 昼見世が終わり小休止の後、暮れ六ツに夜見世が開く。
 仲の町を歩くのは、二本差しから小袖を粋に着流した町人風の男たちへと変わり始めた。
 一妓一客なら、今日のお務めはこれで終わりかと思ってみなもが一息吐いていると、楓に窘められる。
 一妓一客はあくまで客側の話らしい。男といえば公家か坊さんばかりの京都島原辺りの公娼とは違って江戸は万年女不足なのだ。
 そしてここからが世におぞましき『回し制』の始まりだった。同じ時間に複数の客を相手取る。
 つまりは、一室で嬌声を放った後、憚りに、と称して厠へ行く振りをし、別の部屋で嬌声を放ったら、今度は腹が痛くなったと仮病を使って、また別の部屋へ移るというわけだ。
 みなもはあまりの事に気を失いかけた。
 さすがに一両一分の揚げ代を取る椛はそこまで酷い事はなかったが、同じ妓楼にはそんな遊女もいた。
 それは大門が閉まった後も続く。
 四ツ(午後10時)に閉まった後も、一刻ほど見世の営業は続くからだ。
 大門の横にある木戸から出入り出来る。
 九ツ(深夜0時)になって、何故だか四ツの拍子木が鳴らされて見世の営業時間が終わると、かたづけを手伝っていたみなもは、そこで赤黒く変色した血の付いた紙包みを見つけた。
 最初はゴミか何かかと思って捨てかけたのだが、確認に紙を開いて悲鳴をあげそうになった。
 その紙包みの中に入っていたのは人の小指だった。
 胃の内容物がこみ上げてきそうになるのを必死で堪えてみなもは紙包みを戻すと深呼吸した。
 何に使うのかというよりも、指切り拳万、なんて小唄が脳裏に響く。
 楓の説明は半分以上右から左へ流れていった。
 ただ、指を切ってまで愛を誓い、客に逃げられまいと、また来て貰おうと、頑張らねばならないのか、と思う。
 そこまでされた男どもは、嬉しいのだろうか。そんな思いを、重く感じる事はないのだろうか。
 みなもにはカルチャーショックでしかなかったが、自分より年下のはずの楓は淡白かつ慣れた調子で言った。
「小指は両手で2本しかないでござんす。だからみんな死人の小指を買うでありんすよ」
「…………」
 自らの愛の深さを示すため、あの手この手を労するのだ。それが偽りの愛であるのか真の愛であるのか、きっと、わからぬまま。
 起証文―――神仏に誓って自分の言動に嘘偽りはないと記したもの客に送ったり、客の前で飲み込んだり。体に男の名を刺青したり。その客と別れるか、或いはもっと上客が見つかれば、その名をもぐさで焼き消して、新しい馴染みの客の名をその身に刻んだり。
 身を削るようにして客に縋る。
 遊女は簡単に馴染みを手放せないのだ。それが上客であればあるほどに。
「紋日には必ず来てもらう仕来たりでありんす」
 楓が言った。
 紋日とは花見・月見といった特別な日のことで、その日は花代が普段の倍になるのだという。
 みなもの感覚だと半額バーゲンならともかく、倍になると言われたら二の足を踏んでしまう。
 それでも遊女たちは必ずその日、客を来させなければならない。
 だから死に物狂いで、遊女たちはその日の来訪の約を取るのだ。
 吉原とは華やかに見えて、裏側ではこんなにも過酷で壮絶な世界だったのだと実感する。
 かたづけを終え、一段落してやっとみなもは床についた。眠気はあるもののショックの方が大きすぎて、なかなか寝付けなかった。東京で、いろんな事件に遭遇して、いろんなもの見てきたが、それでもまだ思春期真っ只中の女の子なのだ。
 そうして寝返りを繰り返していると、やがて人の足音や話し声が襖の向こうから聞こえてきた。
 何事だろうと夜着の上に一枚羽織ってそちらを覗く。
 まだ外は暗いがもう起床の時間なのだろうか、それにしても楓は隣で寝入っているようだ。
 後で楓から聞いた話によれば、引き手茶屋経由の客は暁七ツ(午前4時)で迎えが来るのだそうだ。
 寝ぼけ眼をこする男どもを遊女たちが送り出している。
「また来ておくんなんし」
 と猫なで声の媚態で名残惜しそうに呟く様が、みなもには意地らしくも切なく聞こえた。
 客を送り出し見えなくなって漸く落ち着いた顔で、遊女たちは自分たちの寝床に戻っていく。これから彼女たちは眠るのだ。
 何ともハードな1日である。
 10年奉公と聞くが、彼女たちがあの大門を出られるのはいつの日なのか。年2回の休日以外毎日これでは体を壊す方が先だろう。
 みなもが代わりと言われた桜という振袖新造は、体を壊して大門の外へ療養に出たのだという。それも普通は簡単に許可の降りることではなかったが、椛の頼みに楼主が折れたのだそうだ。
 みなもは遊女と客の後朝(きぬぎぬ)の別れをそっと見送り、再び寝床に戻った。
 朝になれば、またハードな1日が始まる。ちゃんと寝ておかなくては身がもたない。
 みなもは今度こそ睡魔に身を委ねた。
 それから二刻余り。四ツ(午前10時)の拍子木が鳴る前に、みなもは楓に起こされた。もうすぐ椛が起きる時刻らしい。
 布団をかたづけると、楓に着付けを手伝ってもらってみなもは外へ出た。
 これから洗濯をするのだという。といっても、衣類は妓楼の使用人らがしてくれるらしく、楓たちがするのはもっと細々としたものだった。
 湯文字もそうだが、これもと渡された布に鮮血を見つけてみなもはまた息が詰まりそうになった。
「お馬でござんす。もしかして、みなもは月のものはまだでありんすか?」
 問われてみなもは曖昧に笑みを返しながら内心で、ホッとした。月のもの。要するにこれは指を切って付いた血とかではなく経血だったのだ。どうやらお馬とは、現代でいう布ナプキンのようなものだったらしい。それを水洗いして干していく。年に2回しか休みのない彼女らに、勿論、生理休暇なんてものはないのだ。
 生理中だろうが、何であろうが客が来れば艶やかに笑って春を売る。
 堕胎や性病などのリスクを負いながら、文字通り身を削って客に尽くしているのだ。だとするなら、昨日見た浮気男の制裁を、可哀想などとは思えなくなってきた。その苦労を、ほんの出来心などで許せるわけがない。
 洗濯を終えた頃、四ツの拍子木が鳴った。遊女たちが起きて来る。
 これから部屋をかたづけ、朝風呂を浴び、身支度を整え昼見世に備えるのだ。
 こんなにも過酷で壮絶な毎日を送っている。けれど彼女たちは疲れた顔を見せるどころか、どこか生き生きしているようにも見えた。
 逞しくそこに生きている。それこそ、みなもが最も学ぶべき一面なのかもしれない。

 花は紅、柳は緑。
 初夏の風が表通りを駆け抜けようとも、色無き風が物悲しく吹き荒ぼうとも、ここにあるのは穏やかなぬくもりと春の陽だまり。
 春を売る。ここは色里、花の街。

 昼見世が始まる少し前。楓が桜を迎えに行くという。
 みなももそれに同行した。
 椛とはまた違ったたおやかな女性が大門に立っている。
「桜姉はん」
 楓が駆け寄ると、女はにこやかに笑って応えた。
「お薬を貰ってきたから、もう大丈夫でありんす」
 それからふと気づいたように、みなもの方を向き直る。
「どちらさんでありんす?」
「みなもさん。桜姉さんの代わりにいろいろ手伝ってくれたでござんす」
 楓の言葉に桜は顔を綻ばせてみなもの手を取った。
「本当に?」
 椛ほどではなかったが、嬉しそうな彼女笑みに思わず気圧されて、みなもは何だか申し訳ないような気分になった。
「大した事は出来ませんでした。こちらこそ、貴重な体験をさせてもらうばかりで」
 本当に、大した事は出来なかった、と思う。
 けれど桜は首を横に振って微笑んだ。
「ありがたいことでありんす」

 刹那、世界が白く光輝いた。
 目を開けていられないほどの強い光がみなもを包む。

 夢か現か現が夢か。
 時間と空間の狭間をうつろう謎の時空艇。
 彼らの行く先はわからない。
 彼らの目的もわからない。
 彼らの存在理由どころか存在価値さえわからない。
 だけど彼らは時間を越え、空間をも越え放浪する。
 たまたま偶然そこを歩いていた一部の東京人を、何の脈絡もなく巻き込みながら。
 しかし案ずることなかれ。
 江戸に召喚された東京人は、住人達の『お願い』を完遂すれば、己が呼び出された時間と空間を違う事無く、必ずや元の世界に返してもらえるのだから。

 ありがとう―――それが帰るための1つの引き金なのである。





 強い光に瞼を叩かれるようにしてみなもは目を覚ました。
 そこは自分の部屋のベッドの上だ。
 一瞬、今までのは夢かと思ったが、着ている服は禿のそれだった。
 大型連休の最初の日。
 何ともハードな始まりだった。





■END■



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1252/海原・みなも/女/13/女学生】

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■         ライター通信          ■
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。