コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


夏の終わりの、さぁバニー
●オープニング【0】
「先生、お誕生日おめでとうございます」
「ひゃっひゃっひゃ、そんなにかしこまらなくとも構わんよ、麗香くん」
 8月ももうすぐ終わろうかという頃、月刊アトラス編集長の碇麗香は、怪奇小説の大家である谷口重吾の家を訪れていた。時折エッセイなど寄稿してもらっているため、麗香は谷口の誕生日に祝いの言葉を述べるべくやってきたという訳だ。
「本来なら、お祝いの品も持参すべきなのでしょうけれど、下手な物を持ってゆくよりは、先生にお伺いしてからの方がよいかと思いまして」
「そんなに気を遣わなくとも構わんよ」
 と笑って答える谷口は今年で齢65。小柄で細身だが、表情から肌の血色、発せられる言葉などなどとても65だとは思えない元気さである。
「いえ。そう仰らずに」
「そうかね? すまないねえ。なら1つ頼みがあるんだが」
 と言って、若干申し訳なさそうに切り出す谷口。その表情に、好色さが含まれていたことにこの時の麗香は気付かなかった……。

「あの……エロ爺……!!」
 平家建ての日本家屋である谷口の家から帰る途中の麗香は、非常に荒れていた。
(何が『綺麗所のバニーガールを家に集めてほしい』よ……!!)
 そりゃ何とまた、えらい頼みですね……。
「……おまけに、私にもバニーになれって……」
 ……いやあ、ますますもってえらい頼みだ。
(でもお世話になってる以上は断れないし、これが済んだら蔵書の一部を譲ってくださるって言うし……)
 なるほどなるほど、そんな葛藤があるんですね、麗香さん。
「……決めたわ……」
 麗香はおもむろに携帯電話を取り出すと、何処かにかけ始めた。
 あのー、ひょっとしてなんですが、道連れを作ろうって腹積もりですか???

●揃いも揃ったバニーガール【2】
 谷口重吾の誕生日会当日。会場はもちろん谷口の家である。
「谷口先生、お誕生日おめでとうございます」
「「「「「おめでとうございまーす!」」」」」
「キキッ!」
 バニー姿の碇麗香による祝いの言葉をきっかけに、他の5人のバニー姿の女性たちとシルクハットを被った1匹のメガネザルが声を発した。和室に集うバニーガールたち……ある意味シュールな絵面である。
「ひゃっひゃっひゃ、いやいや、皆ありがとう。僕にとってこんなに嬉しい祝いはない」
 などと言っている谷口の表情はといえば、目尻が下がりっぱなしである。それは当たり前の話で、好色な人間が6人のバニーガールを目の前にしてむすっとした顔をしていろと言う方が土台無理な話だ。
「……先生に喜んでいただけて、こちらとしても大変嬉しいです」
 そう言う麗香に若干の間があったのは、きっと心の中で何やらつぶやいていたからに違いない。
「何、努力してくれたことは見れば分かるとも。てっきり麗香くんとせいぜいもう1人くらいだろうと思ってたんだが、僕の予想をいい意味で裏切ってくれた」
 谷口が労いの言葉を麗香にかけた。だが視線はといえば、6人のバニーガールを順番に捉えておりまして。
「まさか外国の方まで居られるとは。うんうん、バニー姿が文句なく似合っている」
 そう顔をほころばせながら谷口が言ったのは、眼鏡をかけ赤いバニースーツに身を包み、一番端に座っているミネルバ・キャリントンに対してであった。その胸元は大きく開かれており、はっきりくっきりとした谷間が谷口の目には見えていた。
「ありがとうございます」
 にっこり微笑み、礼を言うミネルバ。そして改めて挨拶をする。
「初めまして、ミネルバ・キャリントンと申します。先生の作品はいつも読ませていただいています」
「彼女は作家さんなんですよ、先生」
 麗香がそう付け加えると、谷口はほうという表情を見せた。同業ということで興味を持ったのであろう。
「いえ……。私など作家としてはまだ未熟ですが、よろしくお願いいたします。本日は勉強をさせていただきに参りました」
「ひゃっひゃっひゃ、そうかしこまらなくとも構わんよ、ミネルバくん。まあ作家は経験することが皆勉強だから、こういったことでも決してマイナスにはならんよ、うん」
 そんなアドバイスを谷口がすると、ありがとうございますとミネルバはまた礼を口にしたのだった。
「よし。せっかくだから、そのまま順番に簡単に自己紹介でもしてもらおうかな」
 と谷口が言ったので、ミネルバの隣から順番に自己紹介をすることとなった。
「初めまして。明姫リサといいます」
 笑顔でぺこりと頭を下げる明姫リサであったが、その拍子に黒いバニースーツの胸元がずれそうになり、慌てて両手で押さえていた。
「リサは私の従妹なんです」
 とはミネルバの言葉。リサもすぐに説明を付け加える。
「母の兄の娘がミネルバさんで……」
「ほう! 従姉妹同士なのかね」
 興味津々といった様子の谷口。もっとも視線がミネルバとリサの胸元を行ったり来たりしているので、何に興味津々なのかは言わずともおおよそ分かるけれども。どちらも大きいですが、ちなみにリサの方がより豊かです。
「ええと、あの……」
 バニースーツの胸元を押さえていたリサの手が、少し上へと移動する。頬が若干赤みを帯びているのは、視線を感じて恥ずかしいからだろうか。
「ああ、ああ、すまない、すまない。いやいや、眼福眼福」
 にこにこ笑顔で手を合わせてリサを拝む谷口。自己紹介はその隣の麗香を飛び越えて次へと移る。
「初めまして。深沢美香と申します」
 すっと頭を下げる深沢美香の姿を、谷口は上から下へとしばし見ていたが、やがてぽつりとこうつぶやいた。
「美香くんといったかな。君は……何だかバニーガール姿が板についているねえ」
「え。……そう、ですか?」
 上目遣い、少し困惑したような眼差しを谷口に向ける美香。
「まあそれだけそのバニースーツがフィットしてるのかな、ひゃっひゃっひゃ」
「あ……そうですね、はい」
 自分で結論付けて笑う谷口に対し、美香は笑顔を向けたのだった。
「こんにちは、初めまして。海原みなもといいます」
 続いて美香の隣に居た少女、海原みなもが自己紹介をした。普段のみなもとは違って、バニー姿だからか大人っぽい化粧を施していた。そのみなもの顔を、谷口はしばし見つめていたのだが……。
「ふむ。高校生……いや、中学かね?」
「えっ」
 谷口に唐突に言われて絶句するみなも。谷口はニヤリと笑って言った。
「人を見る目だけは自負してるんだ、僕は」
「せ、正解です……」
 みなもが驚きの眼差しを谷口に向けていた。
「しかしまあ、みなもくんくらいならお化粧などせずとも可愛らしいと僕は思うがね、ひゃっひゃっひゃ」
「……ありがとうございます」
 少し照れた顔でみなもが頭を下げた。そして自己紹介は最後の少女へと移る。
「初めましてっ! 猿渡出雲ですっ!」
 元気よく、はきはきと挨拶する猿渡出雲。かなり小柄で、みなもよりも若く見えるのだが、そんな出雲の顔も谷口はまたしばし見つめていた。
「みなもくんよりは年上だと見たが、どうかね?」
「わぁ、大正解! 17ですっ」
 思わず谷口に拍手を送る出雲。結構な確率で小学生辺りに間違われてしまう出雲としては、中学生なみなもより年上だと見抜けただけでも凄いと思えてしまう訳だ。
「ひゃっひゃっひゃ、小柄は小柄なりに魅力がある。その魅力を伸ばしてゆくと武器になると僕は思ってるんだが」
「先生さすがっ!」
 出雲の拍手が速くなった。と、そんな出雲の肩にメガネザルがひょいと飛び乗った。
「そういえばさっきから気になっていたんだが……?」
 メガネザルを手で示し、麗香に説明を求める谷口。
「ああ、はい。団長と呼んでくだされば結構です、先生」
 淡々と麗香が説明すると、急に出雲から声が挙がった。
「いたたたたたたっ!」
 見ればちょうどメガネザル――団長が出雲の髪の毛を引っ張っている所であった。
「飼い主は君かな?」
「えーと……飼われているというか、いたぁーっ!!」
 谷口の質問に答えている最中に団長にまた髪を引っ張られ、出雲は悲鳴を上げた。
「キィッ♪」
 団長がニカッと笑って谷口の方へと振り向いた。それを見て、谷口がとても面白そうに笑った。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ! これは面白い。傍若無人だねえ」
 と言い、谷口は団長をじーっと見つめたのだった……。

●盛り上がって参りました【3】
 さてさて、自己紹介も終わってようやく誕生日会の本番へと入っていった訳だが、参加した者たちにとってはちょっと意外なことがあった。
 麗香曰く『エロ爺』である谷口だが、こうしてバニーガールを集めて上機嫌となっている様子からするとその言葉に疑いはない。だが、意外なのはそこからなのだ。
 ミネルバが、リサが、麗香が、みなもが、美香がと代わる代わる酌をしたのだが、谷口は彼女たちに指一本触れようとはしてこなかったのである。無論、視線は十二分に向けられているのだが、別段返答に困るような質問をしてくることもなく、ただただ注がれた酒を味わうだけなのである。
 ちなみに各人に谷口がした話を、順に少し触れてみよう。
 まずはミネルバに対してだ。
「ミネルバくんは、どういった分野を書いているのかな?」
「はい、ライトノベルと呼ばれる物を……」
「ああ、あの分野かい。分野に関係なく、下が出てきてくれるのは嬉しいねえ。出来れば、ゆくゆくは僕の分野に入ってきてくれれば安泰なんだが。ひゃっひゃっひゃ!」
 ミネルバはそんな谷口の反応に少し驚いていた。この年代の作家に何人か会ったことがあるが、ライトノベルと聞くと若干敬遠する素振りを見せていたのだが、谷口にはそんな様子がない。それよりも若い芽が出てくることを喜んでいるように、ミネルバには感じられた。
 次はリサだ。
「リサくんは、普段は何をしているのかな?」
「学生です」
「ほう、学生。なら、今のうちにいっぱい学んでおくといい。社会に出てしまうと、学びたくともなかなか学べないものだ。関係ない学部の講義を覗いてみるのも一興だとも。学んでいれば、どこかで役立つ場面がきっとあるとも」
 その谷口の言葉にリサは深く頷いた。確かに、そういうことはある訳で。
 続いては麗香。
「麗香くんも、よく僕の無茶に付き合ってくれたもんだねえ」
「それで先生に気持ちよくお仕事をしていただけるのでしたら」
「ひゃっひゃっひゃ、君も言うねえ。まあ、今日のお礼は後日ちゃんとするから楽しみに待っていてくれたまえ」
 それを聞いて麗香はほっと安堵したのであった。
 そしてみなも。
「みなもくんも麗香くんに頼まれたのかい?」
「あ、いえ……。連絡があったのは妹の方だったんですけれど、さすがにあたしの方がいいと妹から言われて、それで……です」
「ふむ。しかしまあ、バニー姿に年齢はない。何歳であろうとも、女性の魅力を増してくれる衣装だからねえ」
「は、はあ……」
 谷口の主張がちょっと理解出来なかったのか、みなもは戸惑いを隠しながら答えていた。
 最後は美香である。
「美香くんは本は読むのかな?」
「はい、人並み程度ですが」
 谷口の問いかけに、美香は謙遜して答えた。読書家の美香は、著名な作家に関しては少なくとも一通りは読んでいたからだ。これを人並みと言うかは判断が分かれる所であるだろう。
「しかし、さすがに僕のは読んでないだろう」
「いえ……。1冊ですが、読ませていただきました」
 素直に答える美香。ちなみに怪奇小説は美香の専門外であったりするのだが。
「ほう? どれかな、その1冊は」
「あの、浅草十二階を巡っての……」
「ああ、凌雲閣とその周辺で起こる事件の!」
 大きく頷く谷口。谷口の著作は、明治末期から昭和初期が舞台になっているのが大半である。美香が読んだのは凌雲閣が出てきていることから、関東大震災前の時代が舞台になっている作品であるのだろう。
「いやいや、1冊でも読んでくれているのは書き手としては嬉しいもんだよ」
 と谷口は機嫌よく言ったのだった。
 このように、谷口はあれこれと話してはいるのだが、先程も言ったように指一本彼女たちには触れようとしなかったのだ。どうやら谷口は、触れるよりも目で愛でるのが基本姿勢であるらしい。……まあそれもどうなんだという話ではあるけれども。
 酌は代わって出雲。出雲は酒瓶を手ににじり寄ってくると、それと同時に団長が割り箸を何本か持ってやってきた。
「キャッ♪」
 団長がその割り箸の束を谷口に向けて差し出すと、出雲がはっとしたようにこう提案した。
「そうだっ。王様ゲームなんてどうかなっ?」
「キィッ!!」
 賛成といった様子で万歳する団長。その様子に思わず谷口が吹き出した。
「ひゃっひゃっひゃ! 面白そうだ、やってみよう!」
 かくして、唐突に王様ゲームが行われることとなった。割り箸に番号を振り、合図で一斉に引き抜く一同。そして最初の王様は――。
「はい、王様ね」
 何と麗香であった。まあ麗香なら王様というよりは女王様と呼んだ方がよいのかもしれないが、後が恐いので止めておいた方がいいだろう。
 思案する麗香の背中に団長が近付き、ぽんぽんと叩いた。その直後、麗香が命令を口にする。
「じゃあ……そうね。ちょっとお腹も空いたことだし、2番がピザを注文する、で。もちろん、自腹でね」
 さて、その不幸な2番はというと……?
「ふむ、どうやら僕のようだ」
 苦笑して手を挙げる谷口。だが谷口は、驚くべき言葉を口にした。
「ピザだけでいいのかい?」
 ……そんなことを言われたら、寿司やら中華料理やらあれこれと注文したくなってしまうではないですか。
「よし、全部頼もう!」
 さすがは怪奇小説の大家なだけなことはある、太っ腹だ。
「……来るまでは時間があるだろう? さあ、次の回にゆこうじゃないか。ひゃっひゃっひゃ!」
 かくして、注文した品が全部揃うまで王様ゲームが繰り返されたのであった……。

●そして約束は守られて【5】
 谷口の誕生日会から20日ほどが過ぎた。約束通り、蔵書の一部が月刊アトラス編集部に送られてきていた。
「やれやれ……。バニーガールになった甲斐があったわね」
 感慨深げにつぶやく麗香。王様ゲームで、危うく全員とキスするはめになりかけたのも、全て終わった今ではいい想い出である。もっとも誕生会の終わりに、谷口が『今日は観音様の裏手に久々に参ってこようかね』などとのたまっていたのを聞いた時、ついつい呆れ顔で見てしまったが……。
「三下くん、これを後で整理しておいてね」
 と三下忠雄に声をかけ、さっそく中身を確認する麗香。数個の段ボール箱として届けられた蔵書の一部は、簡単に全ての中身を確認したとしても少し時間がかかることだろう。差し当たって今の所、麗香はどんな本などがあるかを見てゆくだけであった。
 そんな中、ある段ボール箱の中に袋が入っていた。
「あら? 何かしら、これ」
 そして袋の中身を麗香は確かめて――。
「……あのエロ爺……!!」
 ばしっと袋を段ボール箱の中へと叩き付ける麗香。何と中身はバニースーツ、それもどうもオーダーメイドされた節があって……。
 いやはや、たいした大家である、谷口は。

【夏の終わりの、さぁバニー 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 女学生 】
【 6855 / 深沢・美香(ふかざわ・みか)
                  / 女 / 20 / ソープ嬢 】
【 6873 / 団長・M(だんちょう・えむ)
              / 男 / 20? / サーカスの団長 】
【 7185 / 猿渡・出雲(さわたり・いずも)
         / 女 / 17 / 軽業師&くノ一/猿忍群頭領 】
【 7844 / ミネルバ・キャリントン(みねるば・きゃりんとん)
                / 女 / 27 / 作家/風俗嬢 】
【 7847 / 明姫・リサ(あけひめ・りさ)
              / 女 / 20 / 大学生/ソープ嬢 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした、ここにバニーさんが集う誕生日会の模様をお届けいたします。
・物を書いているとよく、何かが降りてくるなどと表現されることが多いですが。高原にはいったい何が降りてきたのでしょうねえ、このお話。ともあれ、目で愛でるのがメインとなっている谷口でした。意外でしたかね?
・海原・みなもさん、15回目のご参加ありがとうございました。ファンレターありがとうございました、多謝。ええと、化粧はせずとも自然な感じでよかったのではないかな……とは思いました。実は谷口の言い回しも、そんなニュアンスが若干含まれていたり。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。