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<東京怪談・PCゲームノベル>


茂枝萌の「くのいち」修行


○魔法の制服 〜任務のために〜

IO2本部。
「萌、おまえに足りない物はズバリ女の色香≠セ」
ディテクターは唐突に言った。
「突然なんですか! 私は充分可愛いですっ」
ムキになる萌に、ディテクターは「ヤレヤレ」と肩をすくめる。
「その貧乳で『可愛い』と言えるのか?」
「…………」
「これも修行だ。パワードプロテクターからこれに着替えろ」
紙袋を手渡すディテクター。
「なんなのですかこの白と黒の服は。私、プロテクターを脱ぐと身体能力が人並みになってしまうのですが」
「これはセーラー服というものだ。児ポ法――もとい、ややこしい話は抜きにして、これを着ていることにより一般の男はおまえに手が出せなくなる、魔法の制服だ」
「ま、魔法の制服!?」
目をまん丸に見開く萌。ディテクターは笑ってタバコの煙を吐く。
「これを着て女の色香を身に付けてこい。男女問わず誰でもいい、女の色香で一方的に命令に従わせることができれば#C務完了だ。色っぽい仕草と言葉で、例えば『昼飯をおごらせる』とか。考えてみろ、敵地に侵入したとして百人と戦うより百人労せずして従わせられれば、ずっと楽に任務を遂行出来るだろう?」
「確かにそうですね……」
セーラー服を紙袋から取り出し、まじまじと見詰める萌だった。
十分後。セーラー服に着替えた萌は東京の街をてくてく歩いていた。武装は完全に解除したも同然の状況で。
「誰にしようかな……?」

○石神アリス(15)
「あ、あなたも魔法の制服を着てて……私と似たような任務があるのかな?」
突然声を掛けられたアリス。下手なナンパなら一瞬にして相手を石化するところだが、振り返って萌を見て――
(か、可愛い……)
「任務って何のことか分からないけど、今日和! わたくし石神アリスって言います。お茶でも如何かしら?」
ニッコリ笑うアリス。アリスは既に萌をコレクションに加えようかと策を練っていた。
「あ、今日和。茂枝萌だよ――です? アリスは何歳なのかな?」
「十五です」
「年上なのか。なら敬語だね! え〜と……」
ディテクターの言葉を思い出す萌。
(「色っぽい仕草と言葉で、例えば昼飯をおごらせるとか」って言ってたけど、色っぽい仕草?)
色っぽい仕草と言葉の知識など皆無の萌。
(アリスは女の子だから、別に私が色っぽくする必要は無いんじゃないかな? 女の子同士だから、ここは友達感覚で……うん、それだね!)
きゅっ、とアリスの手を握る萌。萌の温かさが手から伝わるが、いきなりのことに驚く。
「わっ、びっくり……」
アリスの両手を握ったまま、萌が目を見て告げる。
「お茶より、お昼ご飯をおごって欲しいのです!」
眼前の萌から爽やかな吐息がかかり、アリスはニヤリと笑い、少し地を出してしまう。
「あなた、とても可愛いですよ……作品に加えたいぐらい……」
「! か、可愛い子に『とても可愛い』って言われた! メモしなくちゃだよ!」
後半の「作品に加えたい」は耳に入っていなかった。
「え〜十二時四十五分、可愛い女の子アリスに『とても可愛い』と言われる。ディテクターの目は節穴だね!≠ニ」
セーラー服の胸ポケットのメモ帳に記したが、これをディテクターに見せるかは定かではない。
「じゃ、私が可愛いことは分かったのでこれで――って、違うのです。お昼ご飯です」
アリスは萌のマイペースっぷりにしばし唖然とし、
「お、面白い人ですね! うん、おごってあげます。付いてきてください!」
そう言ってクスクスと笑う。この時点で萌を石像コレクションに加えることはほぼ決定した。

○イン・ザ・レストラン
「言われた通り、わたくしのおごりです。何でも好きなものをどうぞ!」
向かい合って座るアリスと萌。萌は落ち着かない様子で周囲を見渡す。床は絨毯、天井にはシャンデリア、真っ白なテーブルクロス。
「なんか、もの凄く高そうなお店だよ? アリスはその……お金大丈夫なのかな?」
失礼な質問だが、アリスは萌のそんな所も可愛く思えて微笑んで応えた。
「お金の心配は一切要らないです」
「アリスは――お金持ちなのかな?」
アリスは裏の商売のことは告げず、
「母は美術館経営で儲かっていますので」
それだけ告げた。
「美術……」
なにやら考え込んだ萌は、アリスの薦めにより一番高いメニューから三品選ばされた。
――――
「味は如何でした?」
「すっごく美味しかった! 満腹でしばらく動けない……」
アリスの計算通りだった。萌は昼ご飯をおごらせることを目的にしているように見える。食べたらどこかに帰りそうである。ならば沢山食べさせて会話する時間を作れば良い。
「実はわたくし、母が美術館を経営していることもあって、学校で美術部長をしているのです」
 アリスは一品だけ食べ、食後のコーヒーを飲みながら話し掛ける。萌は今にもイスで寝ようかという体勢だったが「美術」の一言に反応し、ムクリと起き上がって背筋を伸ばした。
「あの、美術というと、綺麗な女の人とか……可愛い女の子がモデルになる……。やっぱり女の子は胸が大きくないと美しくないのかな?」
来た! とばかりにアリスは慎重に罠を張る。萌が食いついてきた絶好のチャンス。
「萌さんほど可愛ければ、いくらでもモデルになれるのに」
「――え? それは……ホントに?」
我が耳を疑う萌。貧乳をずっとコンプレックスに感じてきた自分が――萌が――モデルになれると断言する、目の前の美術部長。
「例えば萌さん、両手で胸を持ち上げるようなポーズとってもらえますか?」
「そっ、それは……私、胸小さいから……」
顔を赤くしてうなだれる萌を、アリスは巧みに誘導する。
「萌さんがモデルになって、何千人・何万人という人が見に来るんですよ? 美術館に」
「私がモデルになって美術館に……」
妄想の世界に旅立つ萌。
もはや完全にアリスに乗せられていた。当初の目的の「任務を果たすこと」は忘れ去り、任務を命じられた理由――自分に女の色香がないのでは、という不安があったこと――を見抜かれ、逆手に取られている。
「ぽ、ポーズをとるのは……いいのだけど、ここでは……レストランでは……」
(良し。もう後はわたくしの思い通りね)
アリスは席を立ち、
「会計を済ませて、場所をかえましょう。母の美術館が近くですから!」
朗らかに言った。つられて萌も微笑み、顔を赤らめ、
「あ、うん……」
うなずいてしまった。

○イン・ザ・ミュージアム
「裏口から入れば誰にもばれません」
そう言ってガチャリと扉を開けるアリス。
「ば、ばれるとまずいことをするのかな?」
萌の問いに(しまった)と心の中で舌を出すアリス。
「萌さんはいきなり大勢の人の前でポージングしたいのですか? 萌さんに配慮してのことですが」
「ポージング、というのはポーズをとることだね? 人前でなんて恥ずかしいし、配慮は嬉しいのです」
アリスは扉に鍵を掛け、「フフ」と黒い笑みを浮かべる。萌の方を振り返ったときは爽やかな顔で、
「この倉庫には誰も来ませんので、大胆にいってみましょう!」
そう告げ、萌は軽く乗せられた。
「大胆にというと……た、例えば胸を持ち上げるようなポーズだね? ちょっとだけしてみたり!」
萌が恥ずかしいポーズをとった瞬間、
「石化」
小さく唱えるアリス。
「? ……!?」
「萌さ〜ん、そのポーズ好きなんですか? 固まっちゃって。あ、写真に収めましょう」
(体が動かない! しゃ、写真なんか駄目だよっ!!)
パシャ! パシャッ! パシャッ!
何度もフラッシュがたかれ、萌は泣きたくなるが体は石化している。
「萌さんはひょっとして、体の動きを止めて人に見せる、というパフォーマンスを始めたのですね? ならばお客さんに見て貰わないと!」
(違う違う! なんで動かないの!? お客さんなんて駄目――っ!!)
――
バタン。
倉庫から館内への扉が開かれ、新作が日中にも関わらず運ばれてくる。アリスの手によって。荷台に載せられてカラカラカラと運ばれる萌。美術館内に静かなどよめきが起こる。
「見事な……」
「素晴らしい……」
数々の驚嘆のため息を耳にし、満足したアリスは背を向ける。
その背に届いた声。
「でもこの子は何故涙を流しているのだろう?」
「そういう設定ではないのか。翼をもがれた鳥、のような」
振り向くアリス。
石化した萌は、硬直して流せない筈の涙を確かに流していた。
「……翼をもがれた鳥、か……」
目を伏せて呟くアリス。
更に観客達の声が耳に入る。
「素晴らしいが、なにか……」
「ああ、可哀想で見ていられん……」
アリスは長い間沈黙し、それから深く息を吸い込み――
「解除っ!!」
館内に大声が響き、同時に倒れる萌。
「うぅ……うわぁ――んっ!!」
泣きながら逃走する萌をアリスは無言で見送った。その心中は――。

○後日談
紫煙を吐きながらディテクターが笑う。
「萌、お前はやっぱプロテクターがないと駄目だ。はっはっはっ」
萌はもう完全武装。顔を真っ赤にして振り向く。
「見てたんなら途中でなんとかしてください!」
「プロテクターがなくても始末する方法はあっただろ。何故使わなかった?」
「…………」
顔を赤らめて、うつむくだけで何も答えなかった。
石神アリスはベッドで萌の写真を見直し、ため息をついていた。
「はぁ。やっぱりコレクションに加えておきたかったかな……」


<おわり>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

7348/石神・アリス/女性/15歳/学生(裏社会の商人)

NPC 茂枝・萌
    ディテクター