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<東京怪談・PCゲームノベル>


「三島玲奈さんのお手伝い、させてください!」



 草間興信所にて、例のチラシをもらった日のことだ。

 くるくると巻かれた金色の髪。それに加えて、いかにも目立ちますといったふうな赤色の衣服。
 見た目はどう見ても小学生。そんなサンタ便の営業者である彼女は、三島玲奈の呼び出しに応じてくれた。
 名前は、ステラ。自称サンタだ。
(まさにナイスタイミングってやつ!)
 これは運が自分に味方をしたに違いない。
 目の前で、腰に両手を当てて立つ玲奈を彼女は不思議そうに眺めていた。
「それで……あの、わたしがお手伝いすることってなんでしょう?」
「港区ハワイの主婦相手に、アフタヌーンティーのお店を開くよ。手伝ってね」
 軽くウィンクをするが、彼女は「はぁ」と気のない返事をした。やる気がないようだ。
「東京都港区在住のマダムたちって、行きつけのエステやホテルがあるハワイは陸続き感覚だっていうし」
「……? はぁ、よく知りませんが、そうなのですか?」
「そうなの!」
 断言する玲奈から一歩退き、「ふぅん」と、また気のない声を出す。
「よくわかりませんが、お店をひらくから、そのお手伝いってことですね」
「……ノリが悪い」
「ノリで仕事するのはいくらなんでも……。
 同じ接客業とはいえ、わたしとは全然違いますから、ちゃんと指示とかしてください」
「もちろん! まずは現地に行ってみよう!」
「…………すごいパワーのある人ですね、三島さんて」
 ハハハと疲れたように笑うステラの肩を、玲奈がぽんと叩いた。
「じゃあ、行こうか、ステラちゃん?」
「…………はひ?」
 どこへ?
「もちろん、現地!」

 そんなやり取りをしたあとでやって来ました。ハワイ。
 玲奈は颯爽とした足取りで港にある自身の船……観光船・玲奈号へと向かう。
 玲奈号の中にあるカフェテリア「カモメ亭」が今回の舞台だ。
「うぅ、まさかこんな展開とは……意外すぎてノープランですぅ」
「遅いよ、ステラ!」
「はぅ〜!」
 ばたばたと駆けて玲奈の横にやって来たステラは、船内に入ってぎょっとして硬直した。
「ど、どうなってんですかぁ? ここ」
「ふっふっふ〜。おどろいた?」
「いや、あの……まず船として構造上、間違ってません?」
「そこはそれ、玲奈号には関係ないから」
「……そうですか……」
 諦めに似た声を出すステラの意見ももっともである。
 そもそも玲奈号は、破格すぎる船なのだ。こんな船がでんと港にあること自体、そもそもありえない。
 10万トンクラスの船の玲奈号の内部は吹き抜けの空間があり、そこに今、彼女たちは立っていた。
 ありえない。けれどもここにある。
 それは玲奈号が地上物で建造されたものではないから、という理由が大きい。
「……で、どうするんですか、ここにそのカフェとやらを作るとでも?」
「そう。まずはここにテーブルやイスを用意しないといけないね。カウンターとボックス併せて250席! どう!?」
「……いえ、ここはあえてわたしは意見は言いません。
 発案者はあなた。雇い主もあなた。疑問に思ったら負けですぅ」
「? どういうことかわかんないけど、オッケーってこと?」
「そ、そうですね」
「でね、この中央に」
 玲奈が軽い足音をたてて、吹き抜けフロアの中心に立つ。
「ここに、5メートルのツリーを飾るの!」
「……わぁい。すごいですぅ」
 覇気のない声だった。
 あまりの態度のステラに玲奈は唇を尖らせた。
「なによう? マダムを狙うんだから、これくらい派手にいかなきゃ!」
「はいはい。わたしはべつに気にしませんからいいですよ」
「むっ」
「それで、どうするんですかぁ? 250席とか作るのは、わたしではできません。あと、ツリーも重すぎて運べませんよ?」
「…………そうね」
 いいなと思って口にしたが、現実問題として、かなりの労力が必要なことを思い至った。夢がないことである。
「大丈夫。ステラには、他にやってもらうことあるから。
 献立。メニューよ!」
 ずびし! と人差し指を突きつけられたステラは眉間に皺を刻む。
「……わたし、お料理は苦手ですぅ」
「あれ? そうなの?」
「……うちは貧乏なので、貧乏料理しかできないですよ?」
「び、貧乏料理?」
「もやしを使った、もやし炒めとか、あとは……いかにやりくりして少ない食材で生き延びれるかのサバイバルですぅ」
 ……その「もやし炒め」、おそらくもやしオンリーだろうことは、気づいたが口にしないようにした。
「おすすめは、もやしのもやし巻きですぅ」
「…………」
 それは単に「もやし」だ。もやしでもやしを巻いても、もやしにしかならない。
 すごいセンスに無言になる玲奈だったが、すぐに気分を立て直した。
「一応、途中までは決めてるの。
 色んな紅茶をまず用意するわけ。あとは、鶏肉のサンドイッチ、それにスイーツかな。ティラミスとかレアチーズケーキ……アイスも色んなの欲しいから、チョコチップとか抹茶とか……」
「……ビュッフェ?」
「そう、ビュッフェ!
 量より質! これでもかってくらい種類を用意すれば、マダムたちも満足するって!」
「……意味が逆ですぅ。質より量ですぅ、今の言い方だと」
 困惑するステラの腕を摘み、ずんずんと今度は外に向けて歩き出した。引っ張られてステラは転びそうになる。



 食材の買い出しに付き合わされることになったステラは、心なしか嬉しそうだ。
「ステラならどうする? どんなメニューがいい?」
「……ミルクレープとか、あとは和菓子も入れたほうがいいと思いますぅ。数で勝負するなら、ですよ?
 アイスだって、6種類以上用意したほうがいいと思いますけど……軽食もまともにやろうとしたら、手間がかかりすぎですぅ」
「そう?」
「商売する気がある人なら、こんな採算のとれないやり方はしないですよぉ。ぶっつけ本番みたいで怖いですぅ」
 そういうものだろうか?
 でも、割と適当なのでそれは当たっているとも言えた。
「ビュッフェ形式にするとしても、そこそこ腕のある料理人さん連れてこないと。三島さんの話だと、かなり舌は肥えてるお客さんになりそうですしね。
 それに宣伝もしっかりしておかないと。いくら良いものを作っても、お客さんが来ないのでは話になりませんから〜」
「そういうのって口コミで広がるものじゃないの?」
「バカ言わないでください。口コミで評価されるのはそれなりに裏がちゃんとあるんですぅ」
 一緒に歩きながら、玲奈は感心しまくりだ。ステラはバカなように見えて、そこそこ計算はしているらしい。
「道楽でやるんでしょう? 本気で儲けるつもりなら、こんな方法はとりませんよぉ」
「…………そうかもね」
 楽しいだけでは済まない商売人たちの世界を垣間見た瞬間だった。
「営業時間が短いならそれほど問題ないんですけど、長時間やるつもりなら、温かい料理をなるべく用意するようにしないといけないですぅ」
「……そっか」
「三島さん、女の子なんですから、真面目にやってください〜。冷たい料理が出てきたら、誰だって文句言うはずですぅ」
「………………」
「数を用意するより、厳選したほうがいいんですけどね、そういう意味では。
 目玉になるようなスイーツを3つは用意しておけば、お店の宣伝効果もありますし」
「紅茶をたくさん用意するだけじゃ、ダメ?」
「ダメに決まってますぅ。今どき、紅茶飲んでハイ終了なんていう女性はいませんよ」
「そっかぁ……」
 バイキング形式なら楽しいと思って提案しただけなのだが、ここまで手厳しく言われるとは思ってなかった。
 ちら、とステラを横目で見て、玲奈は試しに訊いてみる。
「ちなみに……もし、あたしが言ったとおりにしたら、どうなる?」
「大赤字ですねぇ」
 あっさりすぎて、言葉が突き刺さるまで時間がかかった。
 胸をおさえて「うぅ」と痛みに耐えるリアクションをすると、ステラが周囲の店を見遣りつつ、目を細める。
「三島さんくらいの安直な考え、そこらにいる人にだってできますぅ。飲食店はかなり熾烈な争いを繰り広げてますから、アイデアなり、なにか目玉商品が必要なんですよ。お金持ちの人がいるから収益はある程度望めるなんて甘すぎてびっくりですよぉ」
「……なるほど。乗り気じゃなかったステラの心中はわかった……」
 あまりにも現実的すぎる話題にちょっと泣きたくなる。もっと夢を持とう、と言いたくなった。
 開店準備に失敗はつきものだと思っていたが、それどころではなくなった。
「わたしはお手伝いをするだけですぅ。さ、指示してください」
「…………ステラって、なにができるの?」
「応援ならできます!」
 えっへんと、ない胸を張られた。



 自称サンタ……もしかしたら本物かもと思っていたサンタの監修を楽しむなんて、甘い考えだった……。
 玲奈は作った料理を披露しては、ステラに食べてもらっていた。
「……むむっ。さっきよりはスパイスが効いていていいと思いますぅ。
 これならメニューに加えても大丈夫でしょう!」
 にっこり微笑まれて安堵した。……いったいどれくらい料理を作り続けたか、もう記憶がぼんやりしている。
「いつまで営業するかわかりませんけど、長期戦を狙うなら、いきなり当てる方向じゃなくて、なが〜い目で戦略をもってやったほうがいいですぅ」
「例えば?」
「例えば……まぁ、安直ではありますが確実なのが、季節のものを盛り込んだメニューを加えることですかね? 季節ごとに変えたりすることで、お客さんには新鮮に映るわけです。
 それに、限定品ってのに日本人はとっても弱いですからねぇ」
「…………たしかに」
 限定と言われると、まず試してみたくなる人がいる。玲奈だって例に漏れない。
 ステラは満腹になったのか、きらきらとした瞳でこちらを見てきた。
「やるなら徹底的に! ですぅ!」
「…………」
 素直に「おー!」とか言えない雰囲気だ。同意したと同時に危険なことになりそうな予感がよぎった。
 そもそもこのサンタ娘、でーんと座っているが、口にさっき食べた時についたらしい食べかすがついている……。

 料理の件がひと段落した数時間後……完成したツリーの飾りつけを見上げてステラは尋ねた。
「あれ、なんて書いてあるんですか?」
 金のモールで玲奈が描いた文字を指差してくる。
 玲奈は笑みを浮かべて答えた。
「ハワイ語で、『メリークリスマス』!」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7134/三島・玲奈(みしま・れいな)/女/16/メイドサーバント、戦闘純文学者】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、三島様。ライターのともやいずみです。
 飲食店始動奮闘記……いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。