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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜Second〜】




(……? あれ?)
 瞬きの間に変化した風景に、黒蝙蝠スザクは首を傾げた。
 何もかもを覆い尽くすような闇が周囲には満ちている。先まで往来の雑踏の中を歩いていたはずなのだが、何故闇の中にいるのだろう。さっぱりわからない。
 闇に慣れてきた目が、ここが屋内だということを伝えてくる。ますますわけがわからない。
 ぽた、ぽた、ぽた。
 不意に、スザクの耳に水音が聞こえてきた。一定のリズムで響くそれは、随分と近くから聞こえる。ここは廃墟だから雨音だろうか――そう考え、一瞬の後、その事実に動揺した。
 自分はここが廃墟であると『知っている』。けれど、今、ここにいるはずがないのだ。そのはずなのに。
(夢…白昼夢とか……よね? そう考えないと、おかしい、し)
 これが現実ではないと――そう思おうとしながら、スザクは自分を落ち着けるために軽く深呼吸をする。
 途端、噎せ返るような鉄錆びた匂いが鼻腔をついた。
 一定のリズムで響く水音は、雨音などではない。――そのことを、スザクは誰よりもよく知っていた。
(血)
(……血の、雨)
 ゆるりとした動作で顔を上げる。向けた視線の先には、天井に貼り付けられるようにして息絶えた屍。
 血は、それから滴り落ちている。
(――…まだ、)
 ごく自然に、何の違和感もなく、スザクは思考する。
 まだだ。まだ戦闘は続いている。
 闇に包まれたこの世界で、自分は戦い続けなければならない。
 どんな手段を使ってでも、能力を――成果を見せろ、と。
 優秀なものだけが生き残る、それが、ルール。繰り返される、逃れる術のない戦闘は、実験なのだと知っている。
 被験者がどう思っているかなんて関係なく、泣こうが叫ぼうがその行為は何の意味も持たない。
 ――…生き残らなければ、勝者じゃない。

◇ ◆ ◇

「くそっ……!」
 予想もしなかった事態に、珂月は我知らず歯噛みした。
(封印が緩んでたのか? そうだとしても、何で標的が…)
 自分達の悲願を叶えるために求め、そして手に入れた『ヒトの心を喰らう』と言われていた呪具。
 厳重に封をされていたはずのそれが、どうしてか、予期せぬ、通りすがりの人物を標的として発動してしまった。
 どうすべきかと逡巡する珂月の頭に、声なき声が響く。――誰よりも近く遠い、自分の対の声が。
『あれは、先日お前が助けた少女だろう』
「オレが?」
『ああ。一瞬だが気配を感知した。…何かの術で動けなくなっていたのを助けただろう。変化を見られたのに覚えていないのか』
「…あー、あのときの? ってことは何? まったくの偶然ってわけでもないワケ、この事態」
『まあ、そう考えるのが妥当だろう。僅かなりとも縁があったからこそ、この人込みの中、彼女を標的として発動したんだろう』
「そっかー…」
 手にした呪具――掌大の鏡を見下ろす。その表面には、ありとあらゆる色を無秩序に混ぜ合わせたかのような混沌がゆっくりと渦巻いていた。
「これ、多分壊すしかないよな?」
『そうだな。呪具に捕らわれた人間を解放する術はないと聞いている。術を使って壊せば、恐らくは叶うだろうが』
「やーっと見つけたのになぁ。ついてないなー」
『いいからさっさとしろ。――でないと、手遅れになる』
「わーかってるって」
 皮肉げな笑みを浮かべて、小さく呪を唱える。足元に浮かんだ陣に、無造作に呪具を落とした。

◇ ◆ ◇

 コロセ。
 その言葉だけが、スザクの中にあった。
 何も考えない。感情なんてない。意思なく、ただひたすらに殺す。殺す。殺す。殺すコロス殺す殺すコロス。
 それはさながら、操り人形のように。
 そしてそれは、スザクを殺しに来る相手も同じだ。
(相手もアタシも、生きてない)
 ただひたすら、殺し合う。それだけ。
 闇が、心を染め上げる。
 何かが、歓喜の声をあげた気が、した。



―――……かっしゃぁあん。


 何かが割れるような音と共に、唐突に周囲の闇が消え去った。
 世界に光が戻ったと同時、雑踏の中にスザクは立っていた。
「んー? ギリギリだったかもだけど間に合ったハズだよなー? おーい、大丈夫?」
 目の前でひらひらと振られている、掌。そしてその向こうの、少し困ったようなダークブラウンの瞳。
 それが、最初にスザクが認識したものだった。
 何を思うこともなく、ただ無表情でそれを見つめる。そんなスザクに、目の前の人物は怪訝そうに眉根を寄せた。
「え、もしかして間に合わなかったとか? ……ん、違うよな? ちゃんと『ある』っぽいし」
 何が『ある』のだろう。それより、この目の前の人物に、覚えがあるような気が――。
 目の焦点がだんだんとあってくる。それと同時に思考能力も戻ってきたスザクは、ついさっきまでのこと、そして目の前の人物が誰かというのを思い出す。
(この間助けてくれた――確か、珂月さん?!)
 理解すると同時、先までの自分の状態を思い返して、スザクは思わず絶叫した。
「何であなたがここに!?」
「いや、何でと言われても。主に偶然?」
 理由になってない。というか何故疑問形。
 などというつっこみもできないほど、スザクは混乱していた。
「また恥ずかしいところ見られたー!!」
「ええ、何? また、って、前はこないだのこととしても、今回も?」
「だって、だって……っ!」
 もうなんか色々言葉にならない。
「言っとくけど、呪具ン中でのことはオレ知らないからな? そっちのこと言ってんだったら安心しろよ――って、巻き込んだオレが言うのもなんだけど」
 小さく溜息をついた珂月は、申し訳なさそうな表情で続ける。
「ほとんど偶然とはいえ、巻き込んでゴメンな? 間に合ったからいいけど、間に合わなかったら色々ヤバかったし。ほんとゴメン」
「え? ええ?」
 どうして自分は謝られているのか、よくわからない。ただでさえ恥ずかしさとかその他諸々で混乱気味の頭が、さらに混乱を深める。
「……あー、前後関係わかってないよな、あんた。説明、いる?」
 問いかけた珂月に、わけがわからないスザクは、ぱちりと目を瞬いたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・すざく)/女性/16歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、黒蝙蝠様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Second〜」にご参加くださりありがとうございました。お届けが遅くなってしまい申し訳ありませんでした…!

 呪具の対象は黒蝙蝠様、ということで、色々描写に悩みながらもこんな感じに。
 イメージとあまり違っていなければ良いのですが…。
 珂月は巻き込んだことに申し訳ないなーとは思っていますが、進んで話そうとはしないという。
 続き物っぽくなってしまいましたが、どう繋げてくださっても構いません。本編に行っても閑話に行っても大丈夫です。ちゃんとNPCから事情説明をして欲しい場合は、指定を下されば嬉々として書かせていただきます。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。