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<東京怪談・PCゲームノベル>


絆――ここにある全て

 悪趣味なネオンがちかちかと光る中、そのBARは存在した。
 渋谷の外れに『リゾート』と看板が置かれ、文字の部分がぴかぴかと明滅している。
 BAR・リゾート――此処はあまり良い噂を聞かない場所だった。怪しげな薬物を売っていたり、少し強面の人が出入りしたりと悪い噂ばかりが飛び交っていた。
 しかしそんな場所にも人は集まる、店内を見渡せば若い少年少女がDJの音楽に合わせて身体をくねらせながら踊っている。
 良い噂を聞かない場所だと言う事は彼らも周知の筈なのに、それでも彼らはやってくる。
 若いがゆえにスリルを求めて来る者も居るだろう。
 いつも人が集まっている為、自らの心を蝕む孤独を誤魔化す為に来ている者もいるだろう。
「さぁ、今日も一夜の夢を楽しんでいってくれよ!」
 店長らしき若い男性がマイク越しに叫ぶと、店内の若者達も沸きあがったのだった。

視点→五月・蝿

「‥‥ふぅ」
 五月・蝿は少し寒さに震えながら小さなため息を漏らした。
 昼間は太陽がじりじりと照りつけるというのに、朝晩になると今のように少し冷え込んでくる。
「今日はどうっすかな」
 五木は壁に背中を預けて『今日の寝床』を提供してくれる人物を探して、渋谷を歩いていたのだけれど、彼の興味を引く人物とまだ出会う事が出来ずにいた。彼は『洗脳』と言う能力所持しており、普段はその能力を使用して自分を泊めてくれる人を見つけているのだ。
「あれは‥‥」
 ふと目についたのは『BAR リゾート』と書かれた看板。お世辞にも趣味が良いとは思えないけれど、中を少し覗いてみればそれなりに人は集まっているように思えた。
 しかも、ほとんどが非行に走ったような少年少女ばかりで『洗脳』するにはちょうど良いかもしれない‥‥五木はそんな事を考えながらリゾートの中へと足を踏み入れたのだった。
「う、わ」
 リゾートの中に足を踏み入れて、五木が呟いた第一声がそれだった。タチの悪そうな人が多く、耳を塞ぎたくなるような大音量で、心地良さとは全く正反対の『音』が五木の耳に響いてきた。
「ねぇねぇ、お嬢ちゃん、暇なら俺たちと一緒に飲まない? 奢ってやるからさ」
 馴れ馴れしく肩に手を掛けて、酒臭い息を吐きながら五木と同じ年齢程の男性が話しかけてくる。五木も21歳と立派な成人男子なのだが、外見が気の弱そうな女の子に見えるため、話しかけてきた男性もまさか五木が男だとは思わなかったのだろう。
「酔い覚めにびんた、キミはパンダ♪」
 くす、と笑みを漏らして男性の横をすり抜けていく。一方、残された男性は「はぁ?」と目を瞬かせながら意味が分からないとでも言いたいのか、首を傾げて五木の背中を見送ったのだった。
「なかなかいねぇなぁ‥‥‥‥?」
 五木がため息を漏らした時だった、店の中央付近でオレンジ色の綺麗な液体の入ったグラスを持って軽そうな男性と楽しそうに喋っている少女を見つけたのは。
 誰が見ても明らかに未成年、だけどこんな所でジュースを飲む人はいないだろう。
(「ふぅん」)
 五木は何故かその少女に興味が出て「ギムレット」とバーテンに告げ、その少女の所へと向かう。
「こんばんは、キミに出会えてハッピー、祭に法被♪」
 にっこりと意味不明の言葉を投げかけながら少女に話しかけると「あんた、誰よ」と少女が訝しげに五木の顔を見る。
「へぇ、結構可愛いじゃん♪ もしかしてキミも寂しいのかな?」
 いやらしい笑みを浮かべながら少女と話していた男性が五木に言葉を投げかけてくる。男性の話しぶりを聞く限り、少女の知り合いではなく、このBARで知り合った下心満載の男という事なのだろう。
「‥‥煩いなぁ。今、俺はこの子と話してんだよ。邪魔するんだったら――承知しないぞ」
 じろり、と男性を睨みながら五木が呟く。気分屋という性格のせいか、気に入った者にはそれなりの態度、気に入らない態度にもそれなりの態度を取るようだ。

「‥‥で? 何の用なのよ」
 ため息混じりに少女がちらりと五木に視線を流す。
「その前に‥‥はい、プレゼント♪」
 五木はにっこりと笑顔で先ほど頼んだギムレットを少女に渡す。アルコール度数の高い酒を渡され、少女は少しだけ眉間に皺を寄せる。
「あれあれ? もしかして飲めないとか。詐欺? いきなり泣いちゃうよ、俺」
「‥‥意味わかんないし。っていうかアンタ誰なのよ」
「人に名前を聞くときは素直に聞くがいいと思うぜ」
「だから聞いてるじゃん」
 何か、あんたと話してると疲れる‥‥少女は額に手を置きながら「あたしは前園ヒカリよ」と短く自己紹介をしてきた。
「俺は五月・蝿♪」
 にっこりと五木は笑いながらヒカリに渡したギムレットを飲み干した。
「でも未成年だろ、普通に考えてこんな所でこんなモン飲んでちゃマズいんじゃないんだっけ?」
 五木はからかうような口調でヒカリの持っているグラス、スクリュードライバーを指差して問いかける。
「‥‥いいのよ、別にあたしの家族はあたしを心配なんてしないんだから‥‥」
 ぐい、とヒカリはグラスの中のお酒を飲み干しながら呟く。
「家族、ね。いるんなら大事にした方がいいと思うケドな」
 五木の言葉に「はぁ? あんたに何が分かるのよ」とヒカリがやや怒りを露にしながら言葉を返してくる。
「‥‥分からないから言うんだよ」
 五木には『家族』と呼べる者がいない、孤児として育った彼は常に心からの信頼をおける『家族』を欲しており、それを持っているヒカリが家族を大事にしないという事が理解できないのだ。
「‥‥なーんて、言ってみたけど実際に家族とか俺には分かんないから何とも言えねぇなあ」
 頭の後ろで腕を組みながらおどけたような口調で五木が言葉を続けた。
「よくは分からないけど、あんたも結構苦労してるのね」
「まぁね、今日の寝床すら見つかってない状況だしな」
 あは、と笑いながら呟くと「‥‥うち来る?」と首を傾げながらヒカリが呟いた。
「あたし、今はマンションで一人暮らしだし。親のお金で暮らしてるってのが気に入らないけどね、あたし一人だから気ぃ使う必要もないでしょ」
 ヒカリの言葉に少し驚き、五木は少し考えた後に「いく」と短く言葉を返した。
(「洗脳ナシで泊めてくれる人がいるなんて、少し驚いたよ」)
 五木は心の中で呟き、ヒカリと一緒にリゾートを出て、ヒカリの住むマンションへと向かっていったのだった。

(「何で、あたしってば見ず知らずの男を自分の部屋に泊めるなんて考えちゃったんだろう。今までこんな事なかったんだけどな‥‥」)
 お調子者で掴み所のない彼だけど、何故か安心できるような心地良さをヒカリは感じていたのだった。



――出演者――

7578/五月・蝿/21歳/男性/(自称)自由人・フリーター

―――――――

五月・蝿様>
初めまして、今回執筆させていただきました水貴透子と申します。
今回は『絆』へのご発注をありがとうございましたっ。
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでもお気に召していただけるものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回は書かせてくださり、ありがとうございましたっ!!

2009/9/23