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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


アトラス、とうとうネタ売買!?
 静かな浮世の夜。オフィスビルの一室で頭を抱える女性がいるとカラスが告げた。
「何もネタがないわ」
編集長の碇麗香と同じく頭を抱える男が一人。
「もうここで終わっちゃうんでしょうか」
「さんした、なに馬鹿なこと言ってんのよ。意地でもネタを仕入れるのよ!」
と言われても、使えない編集員、「三下忠雄」が口を開く。
「例えばどんな風に?」
しばしの沈黙の後、麗香は電話帳をペラペラめくりだした。
「ゴーストネットOFFね……。子供が勝手に解決しちゃいますというホームページでしょ?大本命は草間興信所かしら?」
「碇編集長、まさか……」
「そうよ。ネタを買いにいくのよ!」

そうして、「ネタ買います」のチラシを入れたり、インターネットで募集をするのであった。

 メールボックスをチェック。なかなか来ない。次の日もチェック。その次の日も……。
そういうことが数日続いたある日。来客があったのだ。
「すみません。朽縄・愚蛇(くちなわ・ぐだ)と申します。ネタを売ろうと思いまして」
来た、お客が来た。はやる気持ちが麗香と三下を包んでく。さっそくソファーに案内し、話を聞くことにした。
「人猫が出たんですよ……」
と話を切り出した。簡単にまとめると。
 秋に移ろうとする晩夏の夜。都内某所の公園にて、猫達の姿をカメラに収めようと日参していた時だった。
 直立二足歩行をする身長160cm近い灰色の猫が現れたのだそう。その人猫はダウンベストを羽織り、コンビニの白いビニール袋を手に、唖然とする依頼人の前を悠々と会釈して通り過ぎたと言う。我にかえった時に辺りを捜すも時すでに遅く、夜の闇にただ虫の声だけが響いていたのだと。

「それはいいわ。三下、桂くん、ネタを買って追跡調査するわよ!」

 まずは昼の暑い時間帯に、人猫が現れたという公園に案内してもらった。昼間は大人がベンチに座ってゆったりし、猫がうろうろしている、いたってのどかな公園だ。
「三下くん何をしてるんですか?」
 スコップを手に公園の土を掘っている、その男は振り向き、
「落とし穴を作って捕獲するんですよ」
と決まり悪がることもなく、汗をたらして労働している姿は諧謔そのものだ。
 あきれた愚蛇たちは次の調査場所を考えることにした。桂は、
「そういえばコンビニの袋持ってたんですよね?」
と、いいポイントを突いた。
「そうです。確かラブリーマートの袋でしたので、そこじゃないかと思います」

 二人でラブリーマートに行って話を聞くことにした。
「人猫?」
レジのお姉さんは、つまらないギャグでどうしていいかわからない顔をしている。
「そういう噂はあります、店員の間で。でもわたしは一度も見たことがないんです。夜中担当の店員が目撃したことがあるらしいけど……その人と話したことがないからよくわからなくって。ごめんなさい」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
桂は頭を下げ、夜中まで人猫が現れるのをコンビニ付近で待つことにした。

 桂は何となしに聞いてみた。
「どうしてそんな人猫にこだわるんですか?」
愚蛇は一息おいて、
「ネタを買って欲しいって言うのもありますけど……あれが何だったか突き止めたいんですよ……」
それを話した者の目は真剣そのものだった。
 
 しばらくしたら三下がこちらにやってきた。
「いやー落とし穴作るの大変でした。僕を置いて行かないでくださいよー」
といたって呑気な態度。そろそろやってくるであろう時間に近づいた。
 ただいま夜中の1時。三下はコンビニの影で、半分夢の中にお邪魔している。
「来た」
愚蛇の息のような声で反応し、三下は桂の指につねられて、現実に引き戻した。その猫は本当にダウンベストを羽織り、ラブリーマートの袋を手にして、二足歩行で歩いている。
「後を追おう」
音をかき消し一歩一歩、その猫から目を離さずに尾行する。猫は三下が作った落とし穴へと歩いていっている。
「やった。これで捕まえられる」
落ちてもいないのに、一人でガッツポーズを取る作り主。しかし人猫はそこをジャンプ。
「なにー!」
ひらりと飛び上がり、舞い落ちる。誰もがそう思った。桂以外は。

「空間よ、開け!」
 人猫がジャンプした先に異空間への穴がぽっかり開き、吸い込まれるように取り込まれた。
「大丈夫ですよ。編集部にたどり着く穴を開けたのです。今から行ってみましょう」
その桂の言葉を信じ、編集部に戻った。言ってたことは本当だ。暗闇の一室で困った顔をしながら、うろうろしている人猫がいる。その猫は口を開いた。
「あの、ここから出してもらえないかな?」
しゃべった! それに反応して愚蛇は、
「出す前に君のこと聞かせてくれるかな?」
という質問のボールを投げ、キャッチした人猫はそれに応えた。
 
 なんでも自分は元々人間なのに、気がついたら猫になっていたと。当然家から追い出され、食べるものに困り、ひったくりをしたお金で、コンビニ弁当を買って生活してたようだ。
「でも肝心の住み家がないのです。わたしも早く自立した人間になりたい」
この話を聞いた愚蛇は目がキラついて、
「ぜひウチに来ませんか?」
と、目で「引き取ります」という光線が人猫を眩しくさせるほどであった。猫好きの性なのか、無事人猫の引き取り先が決まった。

「そういえばアトラスの〆切っていつ頃ですか?」
 愚蛇が問い、三下が計算している間に桂が答えを出した。
「明日の午前にバイク便ですね」
頭真っ白三下。その目は人猫に向けられ、
「インタビューにつきあってくださぁぁい」
と泣きながら頼みこんできた。急きょフル活動になった編集部。
「桂くんも付き合ってくださいよ〜」
という三下の頼みもむなしく、
「バイトの時間、とっくに過ぎてますから」
と帰ってしまった。もちろん愚蛇は手伝う義務がないので、人猫のインタビューが終わるまで仮眠することにした。

 原稿は碇編集長のチェックが通り(むしろ通さないと雑誌ができあがらない)見事にバイク便で印刷所に届けられた。

 しばらくした後、人猫の特集をしたアトラスが本屋に並んだ。売り上げはまずまずのようだ。
「こんにちは」
愚蛇が編集部にやってきた。
「確かネタを『買って』くれたんですよね。今お代をいただいていいでしょうか?」
三下がコンビニ弁当をがつがつ食べている最中に、碇編集長の動きが止まる。引き出しを開け、中身を捜索するも、
「えーっと……ごめんなさい。今すぐには出せるお金がないの。今度振り込むようにするから、それでいいかしら?」
と答えたので、愚蛇の口座を教えてもらい、後日振り込みという話になった。

 それから1ヶ月。いまだに支払われた形跡はなく、ネタを売りに行く場所を間違えたのかもしれない。不安に思う愚蛇だった。
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8164 / 朽縄・愚蛇 / 男性 / 123歳 / フリーカメラマン】

【NPC / 碇・麗香 / 女性 / 28歳 / 月刊アトラス編集部編集長】
【NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23歳 / 月刊アトラス編集部編集員】
【NPC / 桂 / 不明 / 18歳 / アトラス編集部アルバイト】


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■         ライター通信          ■
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初めまして。真崎翼と申します。
このたびは発注してくださり、ありがとうございます。
実は長期お休み後の初仕事で、若干勝手を忘れ気味でしたが
喜んでいただけたでしょうか?
これからも料金以上のお仕事ができるように頑張ります。