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<東京怪談ノベル(シングル)>


ノブレス・オブリージュ


「蓮さん! アレ、アレが入荷したって本当ですか?!」
 興奮気味に目を輝かせる細身の少女は、神聖都学園高等部の三島・玲奈(みしま・れいな)だ。
「まあ、時間が掛かった割に、この“ヒエロニムスマシンの図面”……。本当に使える代物なのか……? あたしは、害虫駆除装置だって聞いたけどね」
「そんな! 毛虫の写真をセットするだけで畑の害虫を特定して、一晩で殺虫できるなんてスゴイと思いません?」
 玲奈は昼間は雑誌社の専属写真家として活躍しているので、常時携帯できる武器を手に入れられそうだ、と浮かれている。

 それに……。

 人間社会のあらゆる矛盾や不安定な部分へ影のごとく憑き、勝手に捻じ曲げる精神生命体【特権者】と対抗するため、“ある種の願望”を固定出来る【ヒエロニムスマシン】を使うしかない……。
 そう、玲奈は考えていた。

「あんた向きと言えば、そうなるか」
 アンティークショップの店主は肩をすくめ、煙管(キセル)からの紫煙で優雅な螺旋を描いている。
 蓮にとっては、あまり興味をそそる品ではないらしく、“ヒエロニムスマシンの図面”を玲奈へ手渡して、『さ、今日はもう“店じまい”だ。シーツの間に挟まって、朝日を待つとするか』の科白を呟き、さっさと閉店準備を始めた。
「蓮さんも、眠るんですね」
「はは……。あんた、あたしを何だと思ってるんだい? 人は眠るものだろう?」
「……ですよね」

 人間が眠っている間でも、“彼ら”は活動し続けている……。

 【特権者】は視野の届く範囲内、現実に対して、“強力な決定権”を持つ。
 似た種族である人類とは、距離を置いて共存していたが、人類が地球の大気圏外にまで勢力を伸ばした“現代”……。
 “彼ら”は、脅威さえ感じている。
 そして、自分たちの領域を侵される前に、人間の意志へ干渉し、先手を打とうと活動しだした。
 この実体の満ちあふれる世界で、大事故を起こしたり、株価を操縦するなど造作もない……。

 【特権者】の望む未来では、退化した人類の末裔(従順で自立した思考を持たない妖精)が、彼らの傀儡である機械に支配されている。
 そんな虚無な未来を阻止するため、魔導師たちは因果律に抗い、過去(ここでは“現在”)へ玲奈を送り込んだのだ。
 日本という地は、修正可能な“特異点”。
 ゆえに、彼らも玲奈もこの場へ現れる。

 店を追い出された玲奈は、夕暮れの空を見上げた。
 レアな武器の図面を手にした高揚感もあるが……。
 ふと、異様な気配で、玲奈は先ほど出てきた扉を振り返る。
「なんだ、これは? おい! 玲奈!」
 まだ店内にいる蓮の大声が聞こえた。
「蓮さん!?」
 灯りの落ちていた店の中、今は煌々と光りが発生している。玲奈が駆け込むと蓮が“品物”らを落ち着かせようと懸命になっていた。
「一部の品物だけ、急に暴れ出した。“封印”や“眠っている”モノは別だが……。トリートメント(調整)済みのばかり……。玲奈! どうにかしろ! 半分はあんたの所為なんだからな!」
「ええ!? あ、あたしのセイですかぁ?? これって、【特権者】の仕業だと……」
「御託はいい! なんとかしろ!」
 蓮の眼光は鋭い。品物たちを引き合わせる、しかも預かる領域内で起こった現象なのだ。店主としてのプライドがあるのだろう。
「いいか? 絶対に品物を壊すなよ! そのヤバイのだけ退けてくれればいい。壊したら弁償だからな!」
「そ、それは、かなり難しいミッションですね……」
 額に汗を感じたが、そうも言っていられない。手にした“ヒエロニムスマシンの図面”を“超生産能力”を使って製造する。

 小型で使いやすい……。ならば、

 次々、町へ飛び出していく“曰く付きの品”を追い、ビルの屋上へ立つと、ヒエロニムス応用した双眼鏡で【特権者】のエネルギーを捕捉する。彼らが操作する品物は、どれもルビーのような拍動する赤いオーラを纏っていた。
「そんなに数は多くないみたい」
 暗視一眼レフカメラへ望遠レンズを取り付けると、暗闇の中でも視覚で捕らえることができる。一番近くにいたターゲットをロックし、シャッターをきる。予想外の大きな爆発音と共に目標は煙の中へ落ちた。
「【特権者】のエネルギーをマークしたから、品物は傷ついてないはずなんだけど……ちょっと、派手かも」
『ガス爆発だ』『事故だ』
 眠らない町は大騒ぎになっている。
 野次馬をかき分けて、解放された“茶釜”を回収する。
「“ぶんぶく”じゃあるまいし……。こうなったら!」
 双眼鏡では間に合わない。メガネ型へ変化させて追跡システムをロードする。
「そこ! わかってるんだから!」
 襲いかかってくる“首無し雛人形”に向かって“焦点”を合わせ、瞬きで連写した。
 視覚で感知できない波動を放ち、対象物は波の摩擦により内部からバーストを起こす。
 駆除の爆発は、直径1m内、最小限で留めることができた。
「なるほどね。固定率の上昇には強いイメージが大事みたい」
 相手は“曰く付き”。直接的な肉弾戦では蓮のオーダーをクリアできない。
「ああ、もう! 本当に“害虫駆除”だよぉ!」
 一眼レフは一番望遠が有効なレンズに素早く取り替え、遠方、赤く光るターゲットへ強烈な一撃を食らわせる。まるでバズーカー砲のような威力で黄色い炎が上がった。
 夜の町で鳴り響く、パトカーの唸るサイレン、消防車のけたたましい警鐘……。
 ちょっぴり罪悪感を感じつつ、玲奈はすべてのターゲーット回収に成功した。

“我ラノ根絶ハ、出来ナイゾ……。人間ガ、コノ世ニ存在スル限リ”

◇◇◇

「ごくろうさん。言いつけ通り、無事持ち帰ったようだね」
 蓮は、零露な微笑を湛えて玲奈を迎えた。
「あんなコト言われたから、そうするしかないです。でも、おかげで【ヒエロニムスマシン】の使い方が掴めました」
 抱えていた品物を手渡し、玲奈は、ほっと、ため息をつく。

 夜空の星々は、何ごともなかったかのよう輝いていた。



=Fin=