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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ それは多岐に渡るハジマリの音 +



 それはいつもと変らないはずの朝の時間だった。
 赤髪の少年、常原 竜也(つねはら りゅうや)が教室にやってくると何やら教室がざわついている事に気づく。女子のグループがやけにきゃっきゃと騒がしいのを横目で見ながら竜也は自席に着くと、丁度隣にいたクラスの男子に挨拶がてら話しかけた。


「おはよ、ところでなんか教室の空気違うくね?」
「よぉ、竜也。おはよーさん。なんでもよ、今日このクラスに留学生がやってくんだってさ。ほら後ろ見ろよ。新しい席が用意されてっだろ」
「留学生?」
「そう。まだその留学生は女子だって言う事以外は謎なんだけどさ。――とと、先生が来たぜ」


 男子生徒が数少ない情報を口にしたとほぼ同時に教室の前の扉からは担任が「皆席に着けー!」と叫びながら入ってくる。
 そしてその後ろにはこの学校の女子制服を身に纏ってはいるものの見慣れぬ少女の姿があった。
 スレンダーな体型に紫がかった銀髪をポニーテールに結った少女にクラス一同の視線は釘付けになる。その中には当然竜也も入っていた。


「あー、恐らくすでに噂になっていると思うが本日より皆のクラスメイトになるギリシャからの留学生、セリス・ディーヴァルさんだ」
「こんにちは〜。私、セリス・ディーヴァルです。気軽にセリスって呼んで下さい。これから皆さん宜しくお願いしますね〜」


 のんびりとスローテンポな口調、だが流暢な日本語を話す彼女は最後にぺこりと日本風のお辞儀をして自己紹介を終える。
 顔を上げ微笑めば男子生徒の中からは口笛を吹くものも現れる。彼女が後ろの方に用意されていた席に辿り着くまで皆視線が離せないでいた。
 担任がこほん、と一つ咳払いをする。
 それを合図に皆慌てて前を向けば担任は呆れたようにこう言った。


「美人な留学生に見惚れる気持ちはよぉーく分かるが、そろそろ朝のホームルームを始めるぞ」



■■■■



 やがて一時間目が終わり休み時間が始まる。
 短い休憩時間といえど興味を持った女子生徒は遠慮と言う言葉を知らない。セリスの周りには人垣が出来、彼女は質問攻めにあっていた。
 例えば好きなもの、好きな男性の趣味、ギリシャではどんな生活をしていたのか、向こうには美形は多い? など、だ。


「ねえねえセリスさんは何で日本に留学してきたの? やっぱり親の都合?」
「ううん、親の都合じゃないの〜。実はですね〜、日本の演劇に興味があって留学してきたんです〜。特に時代劇とヒーローショーに興味があるんですよ〜」
「あら、それなら竜也が丁度いいんじゃない。ねえ、竜也! ちょっとこっち来てよ!」
「んあ?」
「あんた確か小さいけど劇団に入っていたわよね。セリスさん日本の演劇に興味があるんですって。なんなら見学させてあげたらどう?」
「へー、いいぜ。丁度今日練習あるから放課後時間があれば見に来いよ! ちなみに俺は常原 竜也。竜也で良いよ。」
「本当ですか〜? 見に行きたいです!」


 一瞬竜也は間の抜けた返事をしつつも人垣に混じれば劇団見学の話を持ち出される。
 男女問わず気さくに接する竜也は快くセリスの「劇団見学」の申し出を承諾した。セリスの方も両手を組み合わせ満面の笑みを浮かべて幸せそうにしている。本気で興味を持って留学してきているのだと知ると竜也も嬉しくなった。


 やがて放課後、セリスの初登校の感想を聞きながら二人は学校を出て劇団の稽古場である公民館へと足を運んだ。
 竜也の所属している劇団は老人ホームや幼稚園、デパートなどを主に回っている小さなもの。だがセリスが興味を抱いているという時代劇とヒーローショーもやっているという言葉を発した途端彼女は期待に胸を膨らませた。
 稽古場では既に他の団員達が練習を始めている。それをセリスに見せ、時折説明を加えながら竜也は劇団員に軽く手をあげて挨拶を交わした。


「此処で俺達は練習してる。今は次にやるヒーローショーの練習だな。当日はヒーロースーツや悪役なんかは着包みを着るけど、練習中は流石に着れないから今はシャツとジャージ姿だけどそれは見逃して」
「いえいえ、練習が大変なの知ってますから大丈夫ですよ〜」
「でも夢とか壊れそうになんねえ?」
「ふふ、私はもう夢を貰うだけじゃなくって、夢を与える側になりたいんです〜。ここ、雰囲気良いですね。それに時代劇とヒーローショーが主体なんて私の希望通り……ああ、私もここに入りたいです〜」
「マジで?! なんなら団長に話を通してみるけどさ!」
「はい、お願いしたいです〜!」


 セリスは余程練習光景が気に入ったのかうっとりとした表情で殺陣を行う劇団員の姿を見つめる。
 その間に竜也は団長に話を通し、彼女が入団希望者である事を伝えた。団長はまずセリスの美貌に目を付け、それから何でもいいから歌を歌ってもらえないかと口にした。
 セリスは快くそれを了承し、母国の歌を歌う。言葉は通じなくてもその歌唱力は非常に評価が高く、練習していたはずの劇団員が思わず彼女の歌に耳を傾けてしまうほどだった。


「よし、詳しい話は時間がある時にゆっくりしようじゃないか! 竜也、お前は彼女の護衛として一緒に帰ってやれ。いや、むしろお前が野獣か」
「ちょ、団長! そりゃないっすよー!」
「劇団の良い所を積極的にアピールすることも忘れるなよ!」
「当然ですよ! じゃ団長のお許しも出たことだし今日のところは帰ろっか」


 竜也はからかわれながらも稽古場を後にする。
 セリスは入団を許可されて嬉しいのか、中々笑顔から表情が変らない。そんな彼女を見て、それから時計を見遣る。時間はまだ六時を少し過ぎた頃だった。


「な、な。皆良い奴なんだ。本当に面白い奴なんだよ。きっとセリスもあの劇団なら楽しんでもらえると思うんだ!」
「はい、私も楽しみです〜。次はちゃんと入団の契約とかしますね〜」
「で、すげー申し訳ねえんだけど、俺今からジムの時間なんだ。寮まで案内する事はするんだけど、一旦ボクシングジムに寄っても良いか?」
「ボクシング、……ジム?」
「実は俺、プロボクサーなんだよ」
「え、じゃ、じゃあ役者をしながらボクサーやってるんですか!? 見たいです! ボクシングの練習風景みたいです! 寮の門限なら大丈夫ですから〜!」


 なら、と二人揃ってボクシングジムへと出向き、竜也の練習風景をセリスはベンチに腰掛けながら見学する。
 サンドバックに拳を叩き込む竜也の姿は真剣そのもので途中からセリスは声が掛けられなくなった。陽気で明るく、コメディアンめいた普段の姿とは違う――まるで猛獣の様な姿。
 それはリングに上がり練習試合になれば尚更顕著に現れた。
 相手を挑発するかのように軽やかなステップを踏み、相手の攻撃をかわしたかと思えば一気に距離を詰めパンチを繰出す。飛び上がって拳を叩き込む姿すら見られた。
 まるで野生生物のような鋭さ、そして獰猛さがそこには在る。


「あ、あれ?」


 セリスの胸が高鳴る。
 それは興奮の音でもある。でもそれだけじゃない、何か、何かが――。


「あれれれれ?」


 両手を胸元に当て彼女は小首を傾げる。
 彼女の胸に、『それ』は突如湧いたのだった。



■■■



 その後、約束どおり竜也に学校の寮へと『護衛』してもらったセリスは一人きりとなった自室でほうっと息を吐き出す。
 頬に手を当て、着替えもせずぼんやりとベッドの上に膝を抱えて座っている。


「……竜也さん、格好良かったです〜」


 思い出すのはひょうきんな竜也、そしてジムで見た猛獣の様な竜也。
 どちらも彼女の胸に響き、そしてその姿が脳裏から離れない。


 やがて彼女は悟った。
 ジムでの胸の高鳴りを――恋だと。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8179 / セリス・ディーヴァル (せりす・でぃーう゛ぁる) / 女 / 17歳 / 留学生/舞台女優】
【8178 / 常原・竜也 (つねはら・りゅうや) / 男 / 17歳 / 高校生/プロボクサー/舞台俳優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして。発注有難う御座いました!
 今回は出会い編と言うことでこのような形に仕上げさせて頂きました。恋の始まりという事ですのでそこら辺もばっちり含みましたので気に入って頂けますと幸いですっ。