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<東京怪談・PCゲームノベル>


第5夜 2人の怪盗

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 午後1時45分。
 石神アリスは新聞部部室を訪れていた。
 昼休みもそろそろ終わりの頃だが、新聞部から人の気配が消える事はない。
 そりゃそうだろう。鼻にくすぐるインクの匂いが、今回何度も記事が差し替えられている事を示していた。
 かくいうアリスも、今日の号外は読んでいた。

『2人の怪盗!? 2通の予告状と狙われた宝剣』

 大々的に書かれた見出しには、2通の予告状の内容とフェンシング部の宝剣の事が書かれていた。
 アリスはフェンシング部にわざわざ盗むようなものがある事も初耳なら、以前耳にした事あるロットバルトが学園に現れた事にも、驚きを隠せなかった。
 だから、この事に対してアンテナを張り巡らせている小山連太に話をしに来た次第である。
 連太も今日の夕方の分の新聞の改稿作業に追われていた。
 端には、舞踏会で見た少女が目を半眼に座ってる。
 手足の細さが、まるでフランス人形が座っているみたいで愛らしい。

「ご機嫌よう。小山君は今忙しいのかしら?」
「……ああ、石神先輩でしたっけ? お綺麗なのにあんなハゲに構っておられる」

 少女はチクチクとアリスに嫌味を言う。
 何か勘違いしてないかしら、この子。

「何か勘違いしてないかしら? わたくしのただの協力者よ?」
「怪盗捕まえるとか、くだらない事言っている訳ですか?」
「くだらな……」

 ちょっとでも愛らしいとか思ったわたくしが馬鹿だった。石化させたら即効海に投げ捨ててやりたい。

「あのハゲもそうよ、「オディールオディール」そればっか」
「……それは本人に言うべき事じゃなくて?」
「先輩は関係ありません」
「わたくしこそ、いい迷惑」

 少女は不愉快そうに立ち上がると、持っていた包みをバンッと連太に投げてそのまま新聞部を後にした。包みには卵サンドが入っていたが、乱暴に投げたせいですっかり崩れ、中身がはみ出て連太を襲った。

「雪下!? 何すんだよ……あーあ、ベトベト……」
「マヨネーズくさい……外で洗ってきたら?」
「はい、そうします……あっ、石神さん、こんにちは」
「ご機嫌よう。ひどい目にあったわね。一緒に洗面所に行く?」
「あっ、はい!」

 こうして、ようやく連太の捕獲に成功した。
 旧校舎の前の洗面所に着くと、連太はいそいそ上着を脱いで、水でばしゃばしゃ洗い始めた。アリスはその横に立っている。

「災難だったわね」
「自分、あいつに嫌われてますから。いっつもちょっかいかけてくるんす」
「嫌われてるねえ……それはそうと、小山君にお願いがあるんだけど」
「怪盗ロットバルトの情報とか、フェンシング部の宝剣の事っすか?」
「あら、話が早いわね」
「記事に書くのに調べてましたから」

 がさがさズボンポケットからメモを取り出すと、連太は読み始めた。

「ロットバルトは大体この学園の外で盗みをしていますね。盗んだ物は皆美術品です。有名絵画や有名彫刻っすよ」
「盗んでいるものは普通なのね」
「ええ。宝剣は言われがあるんですがねえ」
「どんな?」
「昔卒業生が作ったものなんですけど。その人はフェンシング部の人だったんですよ。見た目がいいからそのままフェンシング部に記念に残していたんですけど」
「けど?」
「飾ってからはフェンシング部、ずっと全国制覇してますからね……団体戦が駄目な時は個人戦、個人戦全滅でも団体戦……負けなしです」
「ご利益あらたかって所かしら?」
「まあ、そのせいで魔法関係の人達に狙われて、今だと学園の試合以外では部室に仕舞いっ放しで、普段は部長以外は見る事もできないはずですけど」
「はあ……」

 随分几帳面な話だ。
 しかし、こんな話はどこかで聞いた事がある気がする。

「まあ、今回ばかりは自警団もかなり入れ込むでしょうねえ。怪我人出ないといいですが」
「? いつもあんなに物々しいのに、さらに?」
「ああ。フェンシング部の今の部長は生徒会長なんで」
「げ……」

 アリスは眉をひそめた。
 脳裏には堅物眼鏡の顔が浮かんだ。
 ……さすがに、今回はどうやって怪盗に会いに行こうか。
 予鈴を無視し、アリスは考え始めた。

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 午後9時45分。
 体育館内にアリスはいた。前は堅物眼鏡に捕まって反省室に入れられたけれど、もう同じヘマはしない。きちんと生徒会に夜間通行許可書をもらって来たので、これさえあれば普通に歩いている分には怒られない。
 この巨大な体育館の中にフェンシング場が存在し、フェンシング部部室はそのフェンシング場の端に位置する。
 アリスは廊下からちらりとフェンシング場を覗いた。
 地下に広く作られたフェンシング場に立つ自警団は、上から見ても壮観な光景に見えた。

「自警団……いつもより多いわね……」

 先程から廊下は自警団が交代で見回りをしている。
 上を見上げれば天窓。ここから入って来ると見越してか、編成された部隊は巧みにガラス片がかかる場所をずらして配置されている。
 そして奥。フェンシング部部室の前には、青桐が椅子に座っていた。
 手にはフェンシングの剣。軟らかくしなる殺傷力はないもののはずなのに、やけに鋭く見えた。
 時間とすれば、いつもオディールだったらキリのいい数字の時間に現れる。ロットバルトはどうなんだろう?
 アリスは天窓を見上げた。

 ツン……

 鼻をくすぐる匂いに気がついたのはその時だった。

「何? この匂い……」

 アリスは鼻を押さえた。眠りを誘う匂いだ。
 と、その時フェンシング場にいた自警団の異変に気が付いた。
 皆、次々と倒れていく。
 アリスはハンカチを首に巻いて匂いを遮断すると、廊下の窓を開けた。
 そこから飛び降りて、フェンシング場に降り立った。

「この時間に一般生徒の通行は禁止しているはずだが!?」
「この状況でまだ言いますか!?」

 着いた途端に青桐に睨まれたが無視する事にした。
 何故かこの匂いを嗅いでも青桐は倒れていない。
 青桐には通用しなくて他の人には通用するもの……。
 栞が言っていた事を思い出した。
 この匂い、まさか魔法?
 その時、自分達に落ちる影に気が付き、二人は顔を上げた。
 そこにいたのは、黒い仮面で顔を覆った、悪魔であった。
 おどろおどろしい手付きをして、音もなくこの場に降り立った。
 アリスが魔眼を使おうとする前に、青桐が剣を向けた。

「貴様、何者だ? オディールは、少なくとも人を巻き込まなかったが」
「人の心を踏みにじってよく言うな」
「黙れ」

 青桐が剣を向け、ロットバルトを薙ぎ払おうとした。が。
 ロットバルトは素早く懐から杖を取り出し、難なく受け止めた。
 剣と杖。交差し、ギリギリと音を立てる。
 もしかして、チャンスじゃないかしら? 陰険眼鏡は魔法が効かない。このまま斬り合ってくれたら、このままロットバルトを石化できる……。
 アリスが金色の瞳を光らせようとした時だった。

 天窓が、音も立てずに開いた。
 オディールがふんわりと降り立ったのである。

「! オディール、来ちゃ駄目!」

 アリスの言葉を聞いてか聞かずか、オディールはゆったりと跳んだ。
 開いていなかったフェンシング部部室の扉が、オディールに反応したかのように開いた。
 オディールは、誰かを抱き締めるようなマイムをした。
 宝剣が、オディールのマイムに反応したように跳んできた。
 オディールは、それを愛しいもののように抱き締めた……。
 杖が飛んできた。

「!! 駄目っ!」

 アリスはオディールを突き飛ばした。
 杖の先端が光り、蔦が伸び、アリスを絡め取った。
 杖は再びロットバルトの元に戻る。

「邪魔するからだ。そちらの品を出してもらおうか」
「………」
「ふざけるな! これは我が校の物だ!」
「黙れ」

 青桐は既に蔦に絡め取られて、床に転がされていた。
 ロットバルトは無表情で踏む。

「こうなりたいか?」
「やめて」

 オディールはロットバルトと対峙する。
 杖が再びオディール目がけて飛ぶ。
 アリスは転がりながら、ロットバルトと目線を合わせようと頑張った。
 駄目、あれはわたくしのものなんだから。
 アリスの目が光った。
 向けたのは、杖の装飾の玉。玉を見てるロットバルトは、石化するはず……。

「!?」

 杖の装飾が砕けた。
 それがオディールの持つ、宝剣を折れる。

「ちょっと、何で金属が折れる!?」

 アリスの悲鳴をよそに、宝剣は砕けた。
 宝剣はまるで魂のような光の玉に変わった。

「駄目、行っちゃ駄目……!」
「それは俺のだ」

 オディールが玉を取ろうとする前に、ロットバルトが触れた。
 玉は拡散し、消えた。
 その瞬間、ロットバルトも消えていた。
 アリスは、めまぐるしい展開に、頭の思考は停止していた。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7348/石神アリス/女/15歳/学生(裏社会の商人)】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】
【NPC/雪下椿/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/青桐幹人/男/17歳/聖学園生徒会長】
【NPC/怪盗オディール/女/???歳/怪盗】
【NPC/怪盗ロットバルト/男/???歳/怪盗】

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■         ライター通信          ■
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石神アリス様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第5夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回はめまぐるしい展開で、訳が分からなかったと思います。伏線は時期に消化しますので、気になる部分はどこかでメモっておいて下されば幸いです。次回はまったりした話ですのでご安心を。

第6夜公開は11月下旬の予定です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。