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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 二人の乙女の恋話 +



 あるおやすみの日。
 某商店街にて。


「あら〜、あそこにいるのってもしかして……!」


 ギリシャから先日日本の高校へと留学してきたばかりの銀髪の少女――セリス・ディーヴァルは口元に手をあてて首を傾げる。長い髪の毛が肩から胸元の方へとさらりと流れ落ちていくくすぐったさにも笑みを誘われながら目的のものを良く見ようと小走りで駆ける。
 今まで小物を物色していたとても可愛らしいお店には後ろ髪を惹かれるものの、自分の見た『其れ』の正体の方が知りたかった。
 たったったっと足先がアスファルトを蹴る。
 すると自分の足音に気付き、金髪の少女が振り返った。


「きゃあ、やっぱりソフィー! ソフィーですよね〜!」
「うそっ、セリスじゃないっ」
「ソフィーにこんなところで逢えるなんて思ってませんでした〜っ」
「そんなの私の方もよ。どうして、セリスが日本にいるのぉ!?」


 ソフィーと呼ばれた少女――ソフィー・ブルックはセリスの姿に目を見開き、そして愛らしい顔立ちを笑みに変える。同様にセリスもまた満面の笑顔を返した。
 両手を伸ばし二人同時に絡めあい、指を重ねて顔の高さで握る。そしてぶんぶんっと勢い良く振って歓喜の声をあげた。
 そんな少女二人の姿を何事かと一般人らが見遣る。商店街に響いた少女らの声は其れほどまでに周囲の人物の視線を集める程よく響いたのだ。それに気付くと二人ははっと一瞬固まり、そして次の瞬間には頬を赤らめ慌てて手を解く。
 そしてどちらからともなく近くにあった喫茶店へと誘いをかけた。
 店内に足を進めれば穏やかなBGM、その音が二人の耳に触れる。
 興奮していた熱も少しずつ落ち着いてきた頃店員に手頃な飲み物を二つ注文した。


「ソフィーは婚約者の所に行ったって聞きましたけど、ここで会えるなんて〜」
「私もセリスに会えるなんて思ってなかったわ。どうして? ギリシャにいたんじゃないの?」
「実は〜私昔から日本の舞台が大好きだったじゃないですか〜。で、本当に好きって気持ちが抑えきれなくなっちゃって〜……留学しちゃいましたっ!」


 てへっと短く舌を差し出し両手を組んで軽い調子で告げる。
 ギリシャにいた頃からの友人であるソフィーはその言葉一つですぐに物事を理解し、ふんふんっと柔らかな笑みを返す。
 小さな身長に対してふくよか過ぎるほどの胸をテーブルの上に乗せ腕を組む。注文の品が来るまで出されたお冷で口を潤しているとセリスは自身の大好きな「時代劇」と「ヒーローショー」について語り始めた。


「ほんっとうに、日本の時代劇は面白いんですよぉー。こっちならギリシャにいた頃よりも頻繁にテレビで見れるし、ヒーローショーもデパートなんかに行けば見れるらしくて凄く嬉しいんですぅ〜。それにそれに〜、クラスメイトに劇団も紹介して頂けて、本当に日本の皆さん優しくて私日本に留学してきて良かったなぁって」
「それは私も思ったわぁ。日本人って意外に真面目な人が多くて、でも其処が良いって言うかぁ、魅力的っていうか。私の婚約者も最初は……で、でも今は本当に私のこと考えてくれるっていうかぁ、真剣にお付き合いしてくれるっていうか」
「ですよねぇ、本当に真面目な方が、多くて……」


 ほぅっと最後に熱の入った息を零しながらセリスが頬に手をあてる。
 店員がオレンジジュース二つを運んできたので其れをテーブルの上に乗せて貰うと各々挿されているストローに指先を這わす。口付けて飲めば水よりも甘い其れが喉を通りゆっくりと腹部に降りる気配がした。
 婚約者の話に変わるとソフィーの頬にも赤味が差す。彼女は本気で日本で出逢った婚約者の事が好きなのだとセリスにも分かった。
 そして恋する乙女であるソフィーにはセリスの変化を感じ取るのは容易い事。


「セリス、こっちで好きな人できたんじゃない?」
「っ、ぁわ」
「そうでしょう、絶対に」
「っ、ッ〜……え、えへへ」


 最初こそ誤魔化そうと一瞬に顔を真っ赤にして両手をわたわた顔の前で動かしていたセリスだが二度問われればそのままこくん、と頷いた。
 伏せた顔からは表情が読み取れないが照れている事は判る。スカートをぎゅっと握り締めたセリスは自分の顔の熱をどうやって冷やそうか迷う。今の自分はきっとみっともないほどに赤いと、自覚している分尚更だ。もしかしたら湯気も出ているのではないだろうか。


 そんな恋する乙女一直線の反応を示すセリスとは反対にソフィーは怪訝な表情を浮かべ唇に折った人差し指を押し付けて暫し言葉を飲み込む。
 友人が恋をした。
 それは構わない。むしろ祝福して、出来れば応援してやるべきことなのだろう。だけど彼女には――いや、『彼女達』はそう簡単にはいかないのだ。彼女達の身の内に流れる魔の血脈が人間との恋路を阻むことがある事実……それは、悲しい現実とも言えた。
 ソフィーは知っている。
 彼女は分かっていた。半人半蛇の異形、エキドナの血筋である彼女は婚約者に其れを伝える事、晒す事を非常に恐れた過去があるのだから。


「でも、セリス……私は相手が『そういう家系』だから何ともなかったけど……」


 だから、受け入れてもらえた。
 今の自分が日本で在れるのは婚約者の理解のおかげだ。そう暗に伝える。ソフィーの婚約者は魔の存在に理解のある立場の人間で、彼女が半人半蛇の異形の姿を見せても手を差し伸べてくれたのだ。
 だがそれは『彼』だったから。
 ソフィーの愛する『彼』だったからの話だ。


 声を潜め心配するソフィーに気付くとセリスは暫し無言で考える。
 やがて伏せていた顔をあげた。その頃にはもう熱は引き、だが瞳には一つの覚悟を宿して。


「正直に話してみようと思います」
「セリス……」
「と、言ってもまだ告白とか、そういうの、全然出来てないんですけどね〜。でもでも! もし、もしですね。お、お付き合いとか出来るようになったらその時は、……きちんと正直に話したい」


 強い意志だ。
 セリスの瞳を見てソフィーはそう感じる。自分が悩むよりきっと本人自身の方が悩むだろう事柄をそれでも彼女は真っ直ぐ考えた。唇が上手く開かなくなって、掛ける言葉をどうしようかと迷いつつソフィーはストローをやんわりと食む。セリスもちゅるるっとジュースを飲み込むとこくりとその喉を鳴らした。


「それにですね、私の好きな人、舞台俳優なんですよ〜! だからもし私が人間じゃなくてその、セイレーンの眷属だって知られても意外に幻想的なこととか受け入れてくれるんじゃないかって思っちゃったりとか〜、あとあと、実はプロボクサーだって教えてくれたんです〜」
「うそぉ、セリスの好きな人もボクサーなの!?」
「も、って」
「私の婚約者もボクサーなのよぉ」
「きゃあ、お揃いですねぇ〜」


 夢見がちな少女の発言、だがその最後に共通点を見出すとソフィーの瞳が一気に和らぐ。その脳裏には自身の一番愛する婚約者の姿が思い浮かび、胸をきゅんっと高鳴らせた。
 セリスもまた親友の婚約者がボクサーであることを知れば、恋人の立場としてのソフィーに自身の姿を投影し羨ましさを抱いた。今目の前にいる親友がまさに理想、なのだと。


「セリス、お互い頑張りましょう。大体ね、魔の眷属だからって人間に悪さしてばっかりじゃないって知らせちゃえばこっちのものよぉ」
「はい、分かりました〜!」
「もしその好きな相手がセリスの事馬鹿にするような相手だったら遠慮なくやっちゃえ」
「? なにをですか〜?」


 親友との談話。
 ギリシャに居た頃と変わらない穏やかで優しい空間――それは日本に来てやっと生活に慣れ始めたセリスの心に安らぎを与えてくれた。
 人でないものがヒトに恋をする。……そんな風に魔がヒトを愛してやまないのは神話の時代からだ。
 だけど今は神話の時代ではない。ただ今を生きる少年と少女がいるだけ。


「じゃあまた今度ね」
「は〜い」


 そして二人は笑いながら別れる。
 恋が出来た事を幸せだと、乙女の心で。
 「幸せになりましょう」と互いに互いの恋を応援しながら。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8179 / セリス・ディーヴァル (せりす・でぃーう゛ぁる) / 女 / 17歳 / 留学生/舞台女優】
【7344 / ソフィー・ブルック (そふぃー・ぶるっく) / 女 / 17歳 / 高校生/都内の高校に通う女子高生・・・?】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、再度発注有難う御座いました!
 今回は「魔物娘二人の再会と恋話」ということでしたのでこのように書かせて頂きましたっ。互いに互いの恋路を応援し、かつ自分の恋に対して真っ直ぐであるお二人。そんな風に表現出来ていれば幸いです。