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<東京怪談・PCゲームノベル>


不知火の厄日・九郎編

 キーンコーン、カーンコーン。
 鳴り響く予鈴の音。それに続いて椅子が引かれる音が響き、辺りに学生の喧騒が響く。
 そんな中で、神木・九朗は帰り支度を整えると自らの鞄を持ち上げた。
「なあなあ、神木。お前も何か部活に入れよ」
 早々にこの場から去ろうとしていた九郎を止めるのは、クラスメイトの1人だ。
 野球部所属の彼は、最近よく声をかけてくる。それもその筈、3年生が引退して以降部員が急激に減ったのだから仕方がない。
 もし来年度、新入部員が少ないと廃部の危機、もありえる。そこで部員獲得に躍起になって、部活動に入っていない九郎に声をかけているのだ。
「時間が勿体ない」
「そう言うなって。今度、野球部の練習試合があってさ――って、おい、神木っ!」
 スタスタと話を無視して通り過ぎる九郎に、クラスメイトが叫ぶ。しかし彼の足は止まらない。
「助っ人だけなら考えておく」
「助っ人だけじゃ駄目なんだって……」
 背後でクラスメイトのぼやきが聞こえるが気にしない。ヒラリと手を振って外に出た。
 廊下を歩きながら見える校庭では、既に部活動の準備が始まっている。
楽しそうに準備をする者から、嫌そうに準備をするものまでその様子は様々だ。
「興味が無い訳じゃねえけどな……食い扶ち探す方が大事だろ」
 小さく呟いて学校を出ると、九郎はざわつく街へと歩いて行った。

 ***

 人が行き交う街の中、ポリバケツの中や看板の下などを覗いて歩く。その手にはメモ用紙が握られ、何かを探しているのが伺える。
「ったく、飼い猫の管理くらいきちんとしろってんだ」
 ぼやきながら顔を上げれば、不審な視線を向ける通行人と目が合った。その目がバッと逸らされ、九郎の口元に苦笑が浮かぶ。
「もう少し人通りが少ないと助かるんだがな」
 そうは言っても仕方がない。
 依頼主が探す猫は、街の方に行ったというのだ。ならばここを探すしかない。
「やれやれ」
 仕方なく捜索に戻ろうとした――と、そこにざわめきとは違う声が響いて来た。
「きゃあああああっ!」
「化け物だっ!!」
 彼の背後を複数の人が駆けてゆく。
「……化け物?」
 首を傾げて視線を巡らす。
 未だ多くの人が駆けてくる先に、何かあるのだろうか。
 九郎は考えるよりも早く、その足を動かしていた。
 そして彼が辿り着いたのは、騒ぎを聞きつけたのとさほど離れていない場所だった。
 人々が逃げ惑い、すでに収拾がつかなくなっている現場に、牛ほどの大きさの生き物が立っている。
「何だ、ありゃ」
 息荒く、全身に殺気をみなぎらせる生き物は、何かを見据えて殺気立っているようだ。
 威嚇するように唸り、今にも地面を蹴って突進しそうな雰囲気が漂っている。
「何だってあんな化け物が……って、あれは」
 獣の視線を辿った九郎の顔に驚きが浮かぶ。
 獣と対峙する形で立っている者がいる。しかもそれは自分が見知った人物だ。緑銀髪に鎌を持つ青年――。
「不知火・雪弥……まさか、あの野郎がこいつを?」
 そう思うが、違和感を覚える。
 獣が不知火に向けるのは殺気だ。今までの怨霊を顧みれば違いは一目瞭然。獣は不知火にとって敵にしか見えない。
「どう言うことだ」
 こうしている間にも騒ぎは大きくなっている。
 このまま不知火と獣が衝突すれば、被害は尋常ではなくなってしまうだろう。
「訳がわかんねえ。だが放っておくわけにもいかねえ!」
 そう叫ぶと九郎は駆けだした。
 しかしその足が直ぐに止まる。腕に違和感を覚えたのだ。
 何かが九郎の動きを遮っている。そのことに苛立ちを覚えて睨みをきかせて振り返った。
「邪魔をするのは誰だ――って、お前ッ!」
 見覚えのある顔がそこにはあった。
 幼い顔立ちの少年。金色の瞳が若干呆れたように九郎を見ているだろうか。
「‥…慎」
 妙な偶然もあったものだ。
 今まで何度か怨霊と対峙した際に協力した人物――月代・慎が立っている。その視線は勿論、九郎に向けられていた。
「九郎さん、相変わらず無茶するな。でも、少し待った方が良いかもしれないよ」
 意味深に笑って視線を寄こす慎に、訝しげに眉が寄る。
「あのおじさん、何かしようとしてる」
 鎌を片手に獣を見つめる不知火は、もう片方の手でランプを持つと、それを獣の前に差し出した。
 ゆらゆらと輝く金色の光が辺りを包み込む。
 その瞬間、不思議な事が起こる。
「人が、消えた?」
「結界だね」
 九郎の疑問に慎がすぐさま応える。
 周囲にあった筈の人の姿は何処にも無く、この場にいるのは、九郎と慎、そして不知火とその視線上に居る獣だけだ。
「なんだか良くわからないけど、あのおじさん、今回は人が目当てじゃないみたいだね」
 慎の言葉を聞きながら九郎は拳を握り締める。そして不知火に歩み寄った。
「おい!」
 九郎の声に赤い目がこちらを向く。
 その瞬間、彼の口角が上がったことに九郎は気付いていない。
「お前、何しに来やがった!」
 殺気を隠そうともしない九郎に、不知火は鎌を構えて獣に視線を戻す。
「ケルベロス狩り♪」
 クツクツと笑う声に、ピクリと眉が動く。
 どうやら目の前の獣――ケルベロスをどうにかしに来たということだろう。目的は一緒。だが……。
「協力する気に一切ならねえ」
 ぼそりと呟いてケルベロスを見た。
 正直、あの獣を放っておく気にはなれない。だからと言って、不知火に手を貸すのも御免だ。
「協力する必要ないじゃん。やりたいようにやれば?」
 不知火はそう言ってニヤリと笑うと、ケルベロスに鎌を向けた。
「ハイハイ、ペットは大人しく人間様に服従してな♪」
 不知火も自分勝手に進める気なのだろう。
 既に意識は九郎や慎ではなく、ケルベロスに向いている。その証拠に、彼の姿はすでに傍に無かった。
「九郎さん、どうするの?」
 いつの間に傍に来たのだろう。
 慎が後ろで手を組んで、九郎の様子を伺っている。
 口ぶりから察するに、今のやり取りを聞いていたのだろう。
「あいつを手伝う義理はねえ。けど、放ってもおけねえだろ」
 やれやれと息を吐きつつ、肩を竦める。
 どうにもノリ気じゃない。そんな気配を漂えわせる九郎に、慎がぽつりと呟いた。
「ケルベロスと言えば、音楽を聴くと眠るって話があるけど……それって、本当かな?」
「あん?」
 九郎の訝しむ視線に慎は少しだけ笑う。
「あのおじさんが引き止めてる間に、少しだけ試してみない?」
「……そりゃ、構わねえが」
 目を向ければ、ケルベロスの攻撃を紙一重で交わし、攻撃を当たらないように繰り出す不知火が見える。
「ありゃ、どう見ても遊んでるな」
 様子を見る限り、少しくらい何かを試しても問題はなさそうだ。
「けど、どうやって音楽を用意する気だ?」
「勿論、俺が歌うよ」
 ニッコリ笑うと慎は前に進み出た。
 次の瞬間、彼の口から澄んだきれいな歌声が響いてくる。
 美しい旋律の、けれどどこか悲しげな曲に、九郎は感心したように息を吐いた。
「へえ、上手いもんだ」
 ずっと聞いていたくなるような歌声に耳を澄ます。けれどその間もケルベロスを注視するのは忘れない。
 じっと見据えた先にあるケルベロスは、慎の歌声が響くとその動きを緩めた。
「おっ、効果的か?」
 そう思ったのもつかの間、次の瞬間、異変が起きた。
――グアアアアアアッ!
 ケルベロスが物凄い勢いで不知火を突き飛ばしたのだ。
 油断していたのか、それとも予想外だったのか、あっけなく宙に舞う不知火に口元が引き攣る。
「弱っ!」
「あれ……もしかして、逆上?」
 慎はえへっと笑って首を傾げるが、正直それどころではない。
 不知火を突き飛ばした勢いのまま、ケルベロスが突進してきている。
「ここは俺の出番だな」
 言うが早いか、九郎は慎の前に飛び出すと、突進してくるケルベロスに向き直った。
 全身に気を集中させて突進してくる体を引きつける。
 そして――。
「猪突猛進、真っ直ぐ過ぎるのは考えものだぜ」
 九郎の手が獣を掴んだ。
 走ってきた勢いのまま引き寄せたケルベロスの体が巴投げ要領で空に舞う。
 蹴り上げた際に気を叩きこんだだけあり、ケルベロスの体は大きく舞い上がっている。
 その姿は隙だらけだ。
「今だ、やっちまえ!」
「了解!」
 九郎の声に慎が技を繰り出そうとしたのだが、それよりもケルベロスの体が真っ二つに割れた。
「なっ!」
「えっ、俺まだ……」
 呆然とする九郎と慎に、鎌を振り下ろしたままの不知火がニヤリと笑う。その口元が若干切れているが、そこら辺は気にしていないようだ。
「いやあ、美味しい場面頂き、ってな♪」
 ニヤニヤと笑うその顔に、普段とは違う怒りが2人の中に芽生える。
 しかし当の本人は知らんぷりだ。
「はい、任務完了♪」
 魂と化したケルベロスを回収して手の中に納めるとスタスタと歩きだした。
「冥王に元に戻してもらうしかねえな。まあ、回収できただけで――ぬあっ!?」
 突如、不知火の背中に衝撃が走った。
「な、なんだ……って、あれ、何?」
「ジジイ、ちょっと待て」
 視線を巡らした不知火の目に、九郎の冷たい視線が突き刺さる。そして追い打ちをかける様に慎の蹴りも、不知火の足に入った。
「っ……ちょ、マジで入った」
 涙目で足を抑える不知火に、慎も仁王立ちで冷たい視線を注ぐ。
 完全に2人に囲まれる形となった不知火に、追い打ちをかける様に九郎が指をポキポキと鳴らす。
「ちょうど良い機会だ。質問に答えるくらいの時間はあるよなあ?」
「まあ、答えた後の無事は保証しないけどね♪」
 ニッコリと笑った慎と、ニヤリと笑った九郎に、不知火の口元が引き攣る。
「あ〜……俺様、これから急用が――」
「拒否権は無いの♪」
 笑顔で顔の横を掠めた拳に、不知火の表情が固まった。
「さあ、九郎さんどうぞ」
 丁寧に発言権を譲ってくれる慎に、九郎は頷くと不知火の顔を覗きこんだ。
「テメェ、魂を集めてるそうだが、何が目的だ」
「目的って……そりゃあ、アレだよ……」
 ツッと視線が逸らされる。
 バキッ☆
 容赦なく不知火の頭が地面に沈んだ。
「答えろって」
 次いで顔の横に叩きこまれた足に、サッと血の気が引いて行く。そこまで来て不知火は顔に表情らしいものが浮かんだ。
「マジ、容赦ねえな、このガキんちょども」
 ぼそっと呟きながら苦笑する。
 まあ、締めの大事な部分を横取りしたのだから仕方がない。
不知火はのっそり起き上がると、九郎と慎の双方の顔を見て口を開いた。
「仕方ねえな。んじゃあ、答えるけどよ……聞いたからって殴るなよ?」
「保証はしねえ。けど、言わなきゃもっと殴る」
 もう1つおまけに九郎の指が鳴る。その音に首を竦めると、不知火は仕方なく呟いた。
「……強いてあげるなら、快楽の追求?」
 ヘラっと笑った不知火に、九郎と慎、2人の拳が叩きこまれる。
 こうしてケルベロスの件は終結を迎えた。
 その後、結界が切れた現場に、不知火のボコボコになった姿があったとか、無かったとか……。


 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】
【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】

登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
この度は発注ありがとうございました!
今回は導入部分に学生っぽい九郎PCを入れてみたいという朝臣の願望と、ぜひ猫探しをしている姿が見たいというやはり朝臣の願望で始まっています;
プレイングを読んだ際に、どう不知火と絡める!? と悩みましたが、最終的にはコミカル路線で終結した今回のお話、楽しんでいただけたなら嬉しいです!
ではまた機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、ありがとうございましたv