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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


うさぎな天使?・深墨編

 アンティークショップ・レンのカウンターで仁王立ちするウサギ――正確には、仁王立ちするウサギのぬいぐるみ。
 それを前に呑気に煙管を吹かすのはこの店の主、碧摩・蓮だ。
「ようよう、姉ちゃんよぉ。好い加減、わしの話も聞いてくれやぁ」
 エセッぽい関西弁でしゃべるウサギは、ひらひらと手を振ってアピールしている。
 その姿に、どこか別の場所を眺めていた蓮の目が戻って来た。
 なんとも面倒そうな視線の投げ方だが、実際に面倒なのだから仕方がない。
「そう言う訳のわかんないモノは、あたしの店には置かないんだよ」
「置いてくれなんて言ってないやろ。わしは、元の姿に戻りたいんや!」
 バンッと胸を張る。けれど所詮はぬいぐるみだ。
 何の迫力もない。むしろ可愛過ぎる。
 蓮は煙管を口から離すと、ふうっとウサギに向けてそれを放った。
「勝手にぬいぐるみの中に入って、勝手に出れなくなっただけじゃないのさ。それこそ勝手におし」
 ぬいぐるみは本来動くことのない普通のものだった。
そこに別のものが入り込んで、現在のように動いているのだ。
ウサギの要望は、この体から抜け出すアイテムが欲しいとのものだった。
しかし蓮はその申し出を突っぱねた。
「そもそも、自分でどうにか出来ないことに手を出すもんじゃないよ。自分が愚かだったと思って諦めるんだね」
 こともなげに履かれた言葉に、ウサギが驚愕の様子で胸を逸らす。
 そして――。
「鬼、悪魔、人でなしぃ!!!!」
 そう叫ぶとウサギはカウンターを飛び降りて、パタパタと店の外へと出て行ってしまった。
 それと入れ違いで客がやってくる。
「いらっしゃい……――何だって? さっきのウサギが欲しい?」
 訝しげに視線を向ける蓮に、客はすんなりと頷く。
「あれは売りもんじゃないよ。まあ、中に入っている馬鹿な天使をどうにかすれば、外見は手に入るだろうがね」
 元は普通のぬいぐるみだ。それでも良ければ持っていけば良い。
 蓮の言い分はそう言うものだ。
 その言葉に客は目を瞬くとウサギについて聞いた。
「あれは、どっかの馬鹿天使がモテたいとか言ってぬいぐるみに入ったのさ。その挙句に出られなくなって途方に暮れてるんだとさ。放っておけばそのうち元に――って、おや?」
 いつの間にか客の姿が無くなっている。
 そのことに不安を覚えた蓮は、店の商品である映し鏡を手に中を覗きこんだ。
 そこに映っているのは、ウサギを追いかけて外に飛び出した客の姿だ。
 猛スピードで外を走るウサギの後ろを必死に追いかけている。
「……まあ、解決してくれるってんなら別に良いけどね。しっかし、酔狂な人間もいたもんだねえ」
 こうしてぬいぐるみに閉じ込められた天使の救出作戦が始まったのだった。

  ***

「ふぁ〜……眠い」
 半目状態で中華まん齧り付くのは、大学の講義を抜け出してきた葛城・深墨だ。
 爽やかな秋の気候に誘われふらふらと出歩くこと既に数時間。そろそろ大学に戻って講義に参加しないと拙いのだが、どうにも戻る気にならない。
「何か面白いことないかな」
 最近めっきり楽しみが減った。
 そう思いながら前の角を曲ろうとした、その瞬間。
 ドッゴ――ンッ☆
 ダンプにでもぶつかったのではと思うほどの衝撃が深墨を襲った。
 意識が遠のく中、彼が目にしたのは空を飛ぶウサギのぬいぐるみの姿。
「……ウサギが、空飛んでる」
 そう呟いて、彼は意識を遠のかせた。

  ***

 深墨は温かな温もりと、額を冷やす心地よい感覚の中で意識を覚醒させた。
 未だに眩む頭を抑えながら目を開ける。と、その目が思い切り見開かれた。
「目を覚ましたんですね。良かったです」
 ニッコリと笑った黒髪の少女に目を瞬く。
「え、あれ……俺、いったい」
「兄ちゃん、曲がるときは注意せなあかんで」
 困惑する深墨の視界に白いものが飛び込んでくる。彼の胸元に飛び乗ったのは、真っ白なウサギのぬいぐるみだ。
 ヒラヒラと手を振って偉そうにふんぞり返る姿に、口をパクパクとさせる。
「お、お前は、空飛ぶウサギ!?」
 意識を手放す直前に見たぬいぐるみに間違いない。
「ウサギさんも注意しなきゃダメです」
 そう言って笑った少女は、深墨の額からハンカチをどけた。
 冷たい感触が離れてハタと気付く。
 仰向けに寝転がった自分の身体と、前方に見える少女の顔。その背景には青く澄んだ空がある。
「……」
「あの、まだ痛いですか?」
 首を傾げる少女に、飛び起きて彼女を見た。
ベンチに腰を下している少女。そして自分が飛び起きた位置から考えて確信する。
「もしかして、膝……貸してくれてた?」
 恐る恐る問いかける。その問いに、少女はニッコリ笑って頷いた。
「はい」
 事も無げに頷く少女に、耳が熱くなる。そこにポンっと腰のあたりを叩く気配がした。
 目を向ければニヤリと笑ったウサギの顔がある。
「青春やな」
「ほっとけ!!!」
 叫んだ深墨にウサギは「ケケケッ」と嫌な笑い声を零し、少女は穏やかに首を傾げていた。

「あー……なるほど、そう言う事情」
 コブの出来たウサギのぬいぐるみを抱きしめる少女――平城・美弥子に事情を聞いた深墨は、なるほどと様子で頷きを返した。
「モテたいって聞きましたけど、このままでも十分モテるんじゃないですか?」
 ぎゅうっと首を絞めて抱きしめる美弥子に、ウサギはぐったりとしている。
「美弥子ちゃん、落ち着いて。それじゃあ、中の天使が死んじゃうって」
「あっ、ごめんなさい。つい気持ち良くて」
 よしよしと美弥子の肩を叩く深墨に、慌てて腕を緩める。その姿を見ながら、深墨はあることに気付いていた。
「しかし、さっきの声……まさか、女?」
 呟きながら「ふむ」と思案する。
 声の感じから想像して、そんなに悪い顔ではなさそうだ。
「なあ、戻る方法は思いつかないのか?」
 やれやれと汗を拭っているウサギに、深墨は視線を注いだまま問いかける。その声に、ふんぞり返ったウサギが言い放った。
「そんなん知るわけないやろ!」
 し〜ん、と辺りが静まり返る。
 ここまで潔いと突っ込むのも馬鹿らしくなってくる。
 美弥子と深墨は顔を見合わせると、彼女の腕がウサギの首を抱きしめた。
「うぅ、ギブッ、ギブやッ!!!」
 バンバンと腕を叩かれても気にしない。
「要は、ぬいぐるみから引き離せれば良いんですよね。なら、石鹸水に浸して引っこ抜くとか、高いところからバンジー……とか?」
 笑ってはいるが目がマジだ。
 美弥子の言葉に、ウサギはガクガクと震え出している。
「な、なんやのこの娘。超ハードなこと言うてるやん」
 白いウサギが青く染まってゆく。その中でウサギの目が助けを求める様に深墨に向かった。
「う〜ん、石鹸の件は良いと思うな。バンジーはすっぽ抜けたら困るから却下でしょ」
「すっぽ抜けなきゃ良いんかい!!! って、ぐえっ!?」
 突っ込んだウサギの首を、何度目かの美弥子の腕が締める。
「じゃあ、石鹸水作戦でゴーですね♪」
「そうと決まれば、コインランドリーにでも行こうか」
「コインランドリーですか?」
「そうそう。もし抜けなかったら洗わないとダメでしょ?」
 にこりと笑ってみせる深墨に、美弥子は納得行ったように笑って頷いた。
 こうして2人プラス1匹(?)は、コインランドリーに向かったのだが、ここでも悲劇は待っていた。
「イヤやイヤや、イヤやぁぁぁぁぁ!!!!」
 叫ぶウサギがバケツの中に落とされようとしている。
 中には石鹸を大量に溶かしこんだ水がある。
 いくら秋とは言え、すでに気温は低い。こんな中で水に漬けられたら確実に風邪をひくだろう。
「大丈夫です。抜けたら銭湯に行けばいいんです」
 新妙な面持ちでバケツの前に陣取るのは美弥子だ。
 その前ではウサギをがっしり掴んだ深墨がいる。その目は実に楽しそうだ。
「そうそう。冷たいのは一瞬だけ。あっと言う間に終わるから」
「どこにそないな保証があんねん! あ、アカン! っつ、冷たいがなっ!!!!」
 ぎゃあぎゃあっと、騒がしい声が響き渡る。
 哀れ、ウサギのぬいぐるみに納まった天使は、ドロドロの石鹸水の中に浸された。
 その顔がやはり徐々に青ざめてゆく。
「うぅぅぅぅ、ず、ずめだい……」
 ぶるぶると震える姿に、深墨と美弥子が顔を見合わせる。
「もしかして、失敗……ですか?」
「かもね。となると次の作戦だ。美弥子ちゃん、コインランドリーの準備!」
「了解です、隊長!」
 いつの間に作戦を練ったのか。
 深墨の声に敬礼して見せると、美弥子は手早く空いているコインランドリーを発見してその扉を開けた。
「隊長、発見しました!」
 元気良く声を上げた美弥子に、ギギギッとぎこちない動きでウサギの首が動く。
 その目に飛び込んで来たのは、空のコインランドリー。美弥子が小銭を入れている様子から、そこを使うのは明白だ。
「ま、まさか、あんさん方……」
 嫌な予感がウサギの中を駆け巡る。そしてその期待を裏切ることなく、バケツごとウサギの体が持ち上げられた。
「い、イヤや、それこそイヤやっっっ!!!」
「そのままじゃ冷たいし、ぬるぬるで嫌でしょ。だから綺麗に洗うついでに、遠心力で取れればもうけものだろ?」
「そう言うもんやないんよ、これは、あっ、コラッ!!!」
 問答無用で石鹸水から取り出されたウサギが乾燥機の中に放り込まれた。
 そしてその扉が閉められる。
『アカンって! なあ、出して! ほんまにヤバイって、アカン、アカぁああ〜〜〜っ!!』
 窓を叩くウサギに、美弥子が手を振るのと同時にボタンが押された。
 そこまで来てようやく美弥子があることに気付く。
「あの、深墨さん」
 不思議そうに問いかけられた声に、深墨の首が傾げられる。
「石鹸水、落とさなくても良かったんでしょうか?」
『突っ込むところがちゃううぅぅぅ!!!!』
 グォン、グォン回されるランドリーの中で、ウサギの突っ込みが炸裂する。こうして哀れなことに、ウサギは数十分間、熱風の中で回されるのだった。

――そして、数十分後。
「あ、終わったみたいです」
 美弥子の声に雑誌を読んでいた深墨の顔が上がった。
 そして彼が率先して扉を開ける。
 そこに居たのは――。
「なっ……なななななな」
「み、見ちゃダメです!!!」
 狼狽する深墨。その目を空かさず美弥子が大きな布で塞いだ。
 モクモクと上がる湯気の中、ランドリーから降りて来たのはブロンドの髪の美女。しかもスタイル抜群で、全身には何も纏っていない。
 深墨はそれをダイレクトに目撃して固まったのだが、その存在を自覚しきる前に美弥子が阻止した。
「天使さん、女性だったんですね……」
 ぽつりと呟く美弥子に、涙目の青い瞳が向かう。
「うぅ、気持ち悪い……せやから、アナン言うたのに……」
 天使は未だに自分の姿に気付いていない。
 口元抑えながら青い顔でその場に蹲っている。そこに布が降って来た。
 どうやら他の洗濯物の中から美弥子がくすめてきたジャージらしい。
「早くそれを着てください。深墨さんが鼻血出しちゃいます」
「……いや、鼻血は出ない――ふごっ!」
 布の隙間から天使を見ようとした深墨の頭を美弥子が殴り飛ばす。
「女の子の体を無暗に見たら駄目です!」
 流石、美弥子。女性と分かれば天使の味方だ。
 ただ単に、女性に無茶をさせまくったことへの罪悪感で庇っているだけなのかもしれないが、それでも彼女らしい所業だ。
「嬢ちゃん、おおきに」
 そう言いながら天使はジャージを着こんだ。
 なんともアンバランスだが、まあこの際どうでも良いだろう。
 天使はランドリーに残っていたウサギを手に取ると、それを眺めてから2人を見た。
 深墨もようやく美弥子からお許しが出て、布を頭から外している。
「さて、わしは一度天界に戻るけど、このぬいぐるみ、あんさんらにやるわ」
 そう言って差し出されたウサギのぬいぐるみに2人の視線が集中する。
「美弥子ちゃん、持って帰る?」
「い、いえ、あれだけ酷いことをしましたし、それにちょっと……」
 2人が見るぬいぐるみは無茶が祟ったのか、グッタリしていて目も取れ掛けている。繕えば何とかなるのだろうが、何だか呪われそうだ。
「なんや、いらんのか。せやったらわしが持って――」
「あっ、そうだ。ちょっと待ってくれないかな」
 声をかけたのは深墨だ。
 少し考える風に視線を落として、天使に歩み寄る。
「そのぬいぐるみ。知り合いの女の子に届けてくれない?」
「知り合いの女の子……そんなん、自分で届ければええやん」
 ほれ、と差し出されたウサギに首を横に振る。
「前に遊ぶ約束した子なんだけどさ、結局遊んでやれなかったから、そのお詫び。今頃天国にいると思うんだよね」
 ニッコリ笑った深墨に、天使は考える様にぬいぐるみを見ると、それを懐にしまった。
「ちょっと、羨まし――ぐっ」
 胸元にしまわれたウサギのぬいぐるみを見て呟いた、深墨の頭に何か衝撃が走る。
 目を向ければ美弥子が、未だに天使のことをガードして彼の頭を殴ったらしい。
「まあ、それくらいなら聞いてやる。ほんなら、またな!」
 そう言うと天使は眩い光に包まれてその姿を消した。
 後に残ったのは、美弥子と深墨の二人だ。
「あの……深墨さんが言う女の子って……」
 遠慮がちに問いかけてくる、美弥子に深墨は爽やかに笑ってみせる。
「ああ。ちょっとした縁で知り合った女の子なんだ。けど、勿体ないことしたな」
「えっと、なにがですか?」
「いや、あの天使美人だったでしょ。お茶の1つでも付き合ってもらえば良かったな〜……って。名前も聞きそびれちゃったし」
 勿体ない。そう呟く深墨に、美弥子も同調して頷く。
「確かに美人でしたよね。あのままの方がモテそうなのに」
「確かにね……あ、そうだ!」
 頷いてバケツを拾い上げた深墨は、ふと思いついたように美弥子を見た。
その視線に彼女の首が傾げられる。
「美弥子ちゃんがお茶に付き合わない?」
「えっ、私ですか!?」
「そうそう、美味しいパフェが食べれるお店があるんだよ。勿論俺のおごりで……どうかな?」
 美弥子は少し考える様に目を瞬くと、満面の笑顔で頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて御馳走になります!」
 こうして可笑しなウサギの可笑しな騒動は幕を閉じた。
 天界に戻った天使が、深墨の願いを聞いたどうかはまた別の話だが、きっと悪い様にはされていないだろう。
 ただし、あのボロボロのぬいぐるみを見て、女の子が何を思うかは、気になるところではある。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】
【 8167 / 平城・美弥子 / 女 / 17歳 / 女子高生。 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは発注ありがとうございました!
うさぎな天使……朝臣の目でみるとうなぎな天使になるシナリオのリプレイをお届けします。

良い感じに弾けたリプレイありがとうございました。朝臣のテンションMAXに上がりました(笑)
別PC様からもご依頼をいただき、天使の性別が見事一致したこともあって一緒にリプレイを作成しました。
お2人ともかなり弾けたプレイングだったために、リプレイも一緒に弾けてます!
少々、深墨PCが痛い思いをしており、そこの辺はご容赦いただければな〜……と;
なんだかんだと弾けたリプレイ。
今回も、楽しんでいただけたなら嬉しい限りです。
ではまた機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、ありがとうございました。

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むと少し違った部分が垣間見れます。