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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


 死者の列車

【死者の列車】 投稿者:匿名希望 07:11
 ここに書くのは場違いかもしれないんですけど、死者の列車って知ってますか?
 死んだ人だけが乗れる列車で、それに間違って乗ると確実に死んでしまうって言う列車なんです。
 ただそれが何処から出て、どんな形で連れて行ってしまうのかわからなくて……もしあるなら見てみたいな〜って。
 やっぱり不確かすぎて、場違いでしょうか。

 Re:【死者の列車】 投稿者:情報提供者1 13:23
 僕、死者の列車について知ってるよ。
 確か死んだ人に会える電車じゃなかったっけ?
 それに乗ると、死んだ人に会えるんだって。でも戻って来れる保証もないって噂だよね。
 確かに、どこから乗るのかもわからないし、不確かと言えば不確かかな。

 Re: Re:【死者の列車】 投稿者:情報提供者2 17:45
 都内の山奥に、今は使われていない駅があるらしい。
 月の無い夜にそこに行って、置いてある運賃箱に小銭を入れるんだ。
 そうすると電車がやってくるらしい。
 ただし、噂通り帰って来れる保証はないから、試すのは止めた方が良いと思う。

 Re: Re: Re:【死者の列車】 投稿者:匿名希望 17:45
 具体的な情報ありがとう。
 でも戻って来れる保証がないなら止めた方が良いかもね。
 忠告してくれてありがとう。
 でも、これを見て行っちゃう人がいるかも……この書き込みって消してもらえないのかな?

  ・◇・◆・◇・

 この書き込みは、スレッドを立てた本人の希望により即刻消去された。
 しかし掲載されていた数日の間に目にした人は多く、死者の列車に関する情報はすでに一人歩きを始めていた。
 そして、投稿者の危惧が現実のものとなる。
 夜中に家を飛び出した女子高生が、翌日の朝早く山の中で遺体となって発見されたのだ。
 警察は自殺と事件の両方から調査をしている。
 女子高生は発見時、手に切符を握り締めていた。
 そして亡くなった彼女は、どこか楽しげな表情を浮かべていたという。
 後日判明したことだが、彼女は家を飛び出す前日に父親を亡くしたらしい。
 その父親に会うために、列車に乗りに行ったのではないか……ネットでは再び死者の列車の噂が立ち始めていた。

  ・◇・◆・◇・

 暗く沈んだ闇の中。
 夜行を好む生き物と、それを喰らうモノ達が蠢くそこに降り注ぐ、ほんの僅かな月明かり。
 ここには街の華やかな灯りも届かない、ただ静かに自然の摂理を全うする場所。
「成程。巷でそのような話があるのですね」
 木の上に腰を下した人物が呟く。その前で言の葉を受け取るのは、街で人々の話を吸収した鴉だ。
 一見、何を話しているのかわからない。だが、目の前に腰を据える人物には何を言っているのか聞こえているようだ。ふむふむと頷きながら話を聞く姿からは、話に対する興味深さをうかがわせる。
「列車……素敵ですね。私も一度でいいから、列車で遠くに旅してみたいものだ」
 しみじみと呟きだされた声に、目の前の鴉が一鳴きする。
「そうか。その列車が現れる駅はこの山に……」
 くるりと見回した森。その全てが山の一部となるこの場所は、夜の帳が下りた今となっては暗く薄気味悪い場所でしかない。
「人の気配はしませんね」
 ザッと探ってみるが、山全体に人間らしき気配はしない。どうやら噂の効果と人が亡くなったという事実が、山に踏み入る隙を与えなくなったのだろう。
「先程あなたが言っていた、無事に帰って来たと言う人と話すことは出来ないでしょうかね」
 伺う声に鴉は首を傾げる。
 どうやらそこまでの情報は無いようだ。
「まあ、噂ですからね。仕方ないでしょう」
 ふむと頷き、その人物は木の上に立った。
 空を見上げて瞼をゆっくり上下に動かす。その肩に先ほどまで会話を繰り広げていた鴉が飛び乗った。
 目だけを向けると、鴉が首を巡らし一鳴きする。
「列車を見つけたらどうするのか、ですか。まあ、乗れたら面白そうですよね」
 鴉を見つめる瞳がクスリと笑みの形をとる。その表情に、鴉がもう一鳴きした。
 まるでその人を心配するかのような鳴き声だ。しかしその声を受けた人物は、特に気にした様子もなく、逆に飄々として言い放った。
「残念ながら、私には会いたい人なんていないのですから」

  ・◇・◆・◇・

 霊験あらたかな山の中には古来より神に近い存在が住むという。それは本当に神であったり、闇に近しい存在であったり様々だ。
 またそうした山には必ずと言って良いほど人外の存在も腰を据えている。
 山の中を木の枝を飛んで進むこの人物もまた、そうした存在の1人だった。
「いつまで着いてくるのでしょう。鳥にこの闇は辛いはずですが」
 傍を離れない鴉に声をかける彼女の名は、鳥塚・きらら。
 人と同じ顔を持ち、人と同じ胴を持つ。けれどその背には黒い羽を携え、下半身にはお羽根らしきものと足に鋭い鍵爪がある。彼女は、鴉天狗と呼ばれる者だ。
 空を自由に駆け、鳥と会話をすることができる人外の存在。
「まあ、別に構いませんが、怪我をしても私を怨まないで下さいよ」
 鳥塚はそう呟くと、翼を羽ばたかせた。
 枝を蹴りあげ空に舞い上がり、僅かな月の光を浴びて森を見下ろす。
「あそこですね」
 視線を巡らした先。ちょうど鳥塚がいる場所とは対になる部分に、濃い妖気を感じる。
 彼女は大きく羽ばたかせた翼を軸に、その場所を目指して飛んだ。その後ろには鴉がピッタリとくっ付いて離れない。
 そうして辿り着いたのは、見るも無残に朽ち果てた駅だった。
 草が生い茂り、レールも途中で切れて姿が見えないそれは、一見すれば駅と言うよりは廃墟のようにも見える。
 鳥塚は駅のホームに降り立つと腕を組んで首を傾げた。
「おかしいですね。妖気は感じたというのに、それらしきものが無い」
 先ほど気配を探った際には確かに妖しいものを感じた。だからこそ駅を発見することも出来たのだ。だが、実際に訪れてみればどうだろう。
 何も感じず、何も存在しない。
 あまりに不自然な感覚に違和感を覚える。だが、それを解明するよりも早く鳥塚の思考を遮るものがあった。
 それは鴉の鳴き声だ。
「……運賃箱。そこに銭を入れろと?」
 鳥塚の肩に腰を据える鴉に目を向ける。
 片羽を動かし、鳥塚を導こうとする姿に彼女の目がゆっくりと瞬かれた。
 普段の生活で歌を歌ったりして稼いだ日銭はあるので小銭を落とす位は訳ない。だがそれ以上に何やら引っ掛かることがあった。
「運賃は如何ほどだろうな」
 鳥塚の言葉に、鴉が鳴く。
「心付け……か」
 成程。そう呟くと、彼女は懐から小銭を取り出し、鴉が言う場所に置かれた運賃箱にそれを落とした。
 小さな音をたてて運賃箱に銭が落ちる。
 その乾いた音を聞きながら手を下げた、彼女の動きが止まった。
――アンタの願いは列車に乗ることか? それとも、人を救うことか? どっちが本当の願いだ?
 突如響いた声に目が動く。
 捕らえたのは彼女の肩に乗る鴉だ。大きく口を開き騒ぐ姿に小さく息を吐く。
「私に願いはないよ。あなたが巷を騒がす犯人……そう捉えて良いのでしょうかね」
 伺うように傾げられた首に、鴉は舞い上がると彼女の前でその動きを止めた。
 対峙する形で止まった鴉の周囲を靄のようなものが包み込む。そしてそれが消え去ると、そこにはもう一人の鳥塚が立っていた。
「幻術ですか。なるほど、列車の正体は幻術。亡くなったという女性も、大方あなたの幻術で幸せな夢を見ながら逝った……そんなところでしょうか」
 冷静に分析してみせる鳥塚に、もう一人の鳥塚が笑う。
『人間は愚かなんです。良い幻を見せれば、良い落とし物をしてくれるんです』
 そう言ってもう一人の鳥塚が翼を広げる。
『さあ、鴉天狗殿。あなたの望みは何でしょう』
「先ほども言った筈なんですが、私に願いはありません」
 鳥塚は背負っていた楽器を手に取ると、それを構えた。
 その仕草に従ってもう一人の鳥塚も楽器を手にニタリと笑う。そして空を蹴った。
『願いが無い者など、この世には存在しません。さあ、願いを言ってください』
 キンッと金属音が響く。
 鳥塚の手にする楽器に仕込まれた武器と、もう一人の鳥塚が手にした楽器に仕込まれた武器がぶつかり合う。
『列車がお望みなら列車を出しましょう。列車で旅をしてみたいのでしょう?』
 至近距離で見つめる自らの顔に、鳥塚は少しだけ眉を動かす。
「確かにそうは言ったね。だがその代価にあなたは何を貰うつもりなのでしょう。心付けですか?」
 先ほど鴉であった時の言葉を思い出す。
 運賃箱に落とされたほんの僅かな銭。そこに込められた願いの欠片。それこそが心付けの意味だ。
 だがもう一人の鳥塚が口にした心付けはどうにも意味が違う気がする。
『そうですね。心付け……どうせなら、心そのものを頂きたいです。金よりも安い、でも尊いものを代価に頂ければ、それに越したことはないでしょう』
 ニイッともう一人の鳥塚の口角が上がった。
 それを見て鳥塚の足が目の前の相手を蹴り上げる。
『ぐああああっ!』
 自らに化けていようと本人ではない以上、動きに限界があるのだろうか。鳥塚の鍵爪に不意を突かれた体が、よろけて靄に包まれる。
 そしてもう一人の鳥塚が現れた時と同じように、靄が消え去るとそこには別の存在が蹲っていた。
「それが、あなたの正体ですか」
 鳥塚の前に現れた黒く小さな生き物。まるで猫のような容姿をしているが、背に生えた蝙蝠羽根がこの世の生き物でないことを物語っている。
 鳥塚は奇妙な生き物に近付くと、その首筋に刃を添えた。
 冷たい感触が触れたことに驚いたのか、怯えた金色の瞳が振り返る。
「人を一人殺めたとは言え、殺すには忍びないものです。何故、このようなことをしたのでしょう」
 抑揚なく問われる声に、金色の瞳が揺れる。
『あ、あの女は、おいらの幻術を見て喜んでくれたんだ。だからもっと見せようと思ってたら、足を滑らせて……』
 真相を知ればなんてことはない。
 列車の噂を聞きつけた娘が、幻術の列車に乗った父親を見て駆け寄った際に足を踏み外したというのだ。
「哀れな娘ですね。ですが先ほどの言葉が解せません。私の心を頂くとか言っていませんでしたか?」
『それは喜んだ顔に決まってるだろ』
 キッパリと言い切った妖怪に鳥塚は天を仰いで瞼を伏せた。
 呆れてものも言えない。そんな所だろう。
『な、なあ、おいらどうなるんだ』
 心許無げに問いかける声に鳥塚の視線が落ちる。
 もし妖怪の言う言葉が真実なら、害などある筈もない。だが妖怪が使った幻術が元で人が亡くなったのも確かだ。
「仕方ありません。あなた、少しの間私の元で働きなさい」
『え?』
 鳥塚は刃を下げると楽器に納めてそれを背負った。
「人を一人殺めているのです。いつ誰に成敗されるかわからないその身を匿おうと言うのですから、着いてきますよね」
 どんな気紛れかわからないが、鳥塚からしてみれば、列車を作り上げるほどの幻術の使い手を失うのは勿体ないと思ったのだろう。
 そんな彼女の言葉に、金色の目がパチクリと動く。そしてその身が靄に包まれ小型の鴉に変じた。
 羽根を羽ばたかせて鳥塚の肩に乗る鴉に彼女の視線が向かう。
「これなら大きさ的にも、扱き使うにも良さそうですね」
 そう言って笑った鳥塚は、鴉に自らの幻術を重ねた。
 自分から元の姿に戻らないように。そして幻術が使えなくなるように厳重に術を掛ける。
 その名残が鴉の腹の部分に十文字の文様として浮かび上がった。
「徳を積み終えたら元に戻してあげましょう。それまでは、一緒に……」
 こうしてネット上で騒がれていた列車は姿を消した。
 後は時が全ての噂を洗い流すだろう。その頃にはきっと、和鴉に変じた妖怪もきっと元の姿に戻れるはずだ……。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 7566 / 鳥塚・きらら / 女 / 28歳 / 鴉天狗・吟遊詩人 】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、朝臣あむです。
この度は数あるOPの中から選んでいただきありがとうございました。
はたしてご期待通りのリプレイになっているかドキドキですが、楽しんで頂けたのなら嬉しい限りですv
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせて下さい。
このたびは本当にありがとうございました!