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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】愛されるために・深墨編

 普段から怪談系のサイトを避けて、ネットを楽しんでいた葛城・深墨は、今日もウェッブサイトを見ては暇をつぶしていた。
 何気なく眺める画面に映し出される、文字と映像。それらを流し読む程度に見ては別のページを開く。
 そんな事を繰り返していた彼の手が、不意に止まった。
 目の前に映し出された黒い画面。そこに映った赤い文字に眉が寄る。
「東京怪談? おかしいな。こんな変なページに繋いだ覚えは……え?」
 明らかに普通のサイトではない造りのそれに、すぐさまページを閉じようと手が動く。だが、その動きは予想に反して遮られた。
 目の前で勝手に動き出すアイコン。それが深墨の目の前でタイトル画面をクリックした。
 その直後、映し出された画面に、深墨の目が見開かれる。
「――っ、何だ、コレッ」
 咄嗟に手で口を塞ぎ、目を見張る。
 画面に映し出された映像に目が吸い寄せられて離れない。本来なら見たくない、本来なら触れたくない分野の情報が、無理やり目に焼き付けられてゆく。
 画面に映るのは、狭く暗い空間に置かれた巨大な水槽。その中で蠢く物体は明らかに魚じゃない。
「知らないぞ。俺は何も知らない……っ!」
 自己暗示を行うように呟きだされた声。その声が呑み込まれた。
 目の前の画面で舞い上がったキラキラと輝くモノ=B一瞬の出来事で頭は理解していなかったが、とても印象的に目に焼きついた。
 何かの術にでもかかったかのように動かなくなった深墨の目の前で、アイコンが再び画面をクリックする。そこに映し出された地図に深墨の手が動いた。
 無意識に伸ばされた手が、彼の愛刀「黒絵」それを手にする。直後、彼の姿は部屋から消えた。

   ***

 気づけば深墨は、薄暗い部屋の中にいた。
 部屋の中に充満する死臭。足元に転がる無数の屍と、前方に見える巨大な水槽が変実的な感覚を失わせてゆく。
 濁った水の中で蠢くものが何なのか。それは彼の目に焼き付いて離れない例のモノ≠セろう。
「本当に、あった……」
 半ば呆然と呟きながら、自らが手にする愛刀を握り締める。ここに来た理由は何となく理解している。けれど確信はない。
「放ってはおけない」
 呟くと深墨の目は水槽の中に向かっていた。
 どうにかして中のモノ≠出さなければいけない。そうした考えの元で動こうとしていた。
「あれっ、お兄さんは確かあの時の!」
「え?」
 明るい声に振り返った。
 目を向ければ、そこにはいつだったか出会ったことのある少年が立っている。
「慎――だっけ?」
 金色の瞳を輝かせ人懐っこい表情を浮かべる彼の名は月代・慎だ。以前、女の子の怨霊と対峙した際に出会った少年だ。
「もしかして、お兄さんもネットを見てきた口?」
 ニッコリ笑ってみせる慎に頷きを返す。
 それを目にしてから彼の瞳が水槽に向かった。そしてその目が足元に落ちる。
「皆、魂が抜かれてる。じゃあ、やっぱり――」
「あの変態野郎のせいか」
 突如聞こえた声に振りかえれば、またもや見覚えのある顔が飛び込んできた。
 不機嫌そうに水槽を見据えるのは、慎と同時期に出会った青年――神木・九朗だ。
 彼はつかつかと遺体の合間を縫って歩いて来ると、深墨を見て若干困った風な笑みを覗かせた。
「深墨さん、だっけ。悪縁ってやつか?」
「どう考えても良縁じゃないだろうな」
 肩を竦める九郎に同調するように苦笑する。
「目的は一緒なんだから協力はしないとね。とりあえず、あの化け物をどうにかしちゃおう」
 慎の声に3人の視線が水槽に向かった。
 中では状況を把握できていないのか、優雅に泳ぐモノ≠ェいる。
「俺は水槽の中から引っ張り出すのが良いと思うが、あんたらはどうだ?」
「ん〜……水槽の中の水ごと凍らせちゃった方が楽じゃない?」
 九郎の言葉に慎が首を傾げる。2人の言葉を聞きながら、深墨の目が水槽の影を捉えた。
「じゃあ、俺はあの人間ぽい奴の相手ってことで」
 言うが早いか、深墨は前に出た。
 水槽の影から姿を見せたのは土気色の肌をした人間だ。眼球全体が白く濁り、黒目がどこかもわからない生き物は、すでに人間と言う存在ではなくなっている。
「ゾンビに近い――いいや、屍だな」
 深墨は黒絵に視線を寄こすと、それを手にしたまま術を組んだ。
「少しだけ俺と遊んでもらおうか」
 そう口にした瞬間、彼の前にもう一人の深墨が浮かび上がった。そして本来の彼の姿が消える。
 これは彼が扱うことのできる魔術、シャドーウォーカーだ。自分の幻影を作りだし、自身の存在を隠し相手を翻弄する術。
 攻撃は出来ないが、その代わりに攻撃を受けることもない。
「あんたが何のために動いてるのか知らないけど、アレは処分しなきゃいけない」
 深墨の声に屍と化した人間が襲いかかって来た。
 本能が存在するのかどうかもわからない。ただ腕を振り上げ襲いかかる動きを、深墨の分身は軽々と避けた。そこに再び腕が振り下ろされる。
「……ただ闇雲に襲いかかってくるだけ、か」
 僅かに胸の奥がチリリと痛む。それがどんな感情で、何を思ってなのかはわからない。だが良い気分ではないのは確かだ。
「このまま一気に片付けられれば、この男の為なんだろうか」
 思案し呟いた時だ。
 深墨の耳に聞き覚えのある声が響いて来た。
「残念でした。そのお人形ちゃんは喋れないんだな♪」
 目を向ければ水槽の縁に立つ緑銀髪の男――不知火の姿がある。
「やっぱりテメェか!」
 今にも不知火に掴みかかりそうな九郎を見やってから、改めて赤目の男を見る。無意識に、深墨の黒絵を持つ手に力が籠った。
「……アイツは、あの時の」
 脳裏によぎる幼く小さな少女。可愛らしい笑顔と幼い動作が、あの男が現れたことで一変した。その事実が鮮明に蘇ってくる。
「このお人形ちゃんは、俺様の大ファンなんだよ。俺様の事が好きで好きで堪らない。だ・か・ら、俺様のために働いててくれたってわけ♪」
 わかった? そんな風に首を傾げられて、深墨の目が落ちる。そうしている間にも、屍は容赦なく腕を振るってくる。しかしシャドーウォーカーで見せられている幻術に屍の攻撃は通用しない。
「ああ、ちなみに、その男は俺様じゃなくて、このお人形ちゃんの大ファンな。男にモテテも嬉しくないしぃ♪」
「人形……アレは人形なのか。じゃあコイツは、人形に対して」
 深墨の目が僅かに見開かれた。
 そこに不知火の嫌な笑い声が響く。
「さあ、麗しの姫君。俺様の邪魔をする奴らを、召しあがれ♪」
 水槽に突き刺さった刃から、一気に水が溢れだす。その瞬間、慎の張っていた罠が発動した。
「へえ、やるじゃん」
 片目を眇めた不知火の口から口笛が漏れる。
 目の前で溢れだした水を、慎は糸を通じて凍らせたのだ。
 残らず凍る水の合間では例のモノ=\―人形も凍ろうとしている。流石にそれは阻止しようと言うのか、不知火の鎌が糸を断ち切った。
「悪いんだけど、今回はちょ〜っと本気なんだよねぇ。どうしても誘き出したいのがいてさ」
 そう言って再び鎌を振り上げて、人形をけし掛けた。
「さあ、行け!」
 鎌の光に魅了されたのか、襲いかかってくる人形に皆が構える。そこに無数の鱗が飛んできた。
 それを慎の糸が喰い止める。
「っ、ちょっと数が多いよ」
 焦ったような声に、深墨は駆けつけようとするが、それを屍が遮った。
「クソッ、急に動きが良くなった。人形を守ろうって言うのか……けど、コイツを倒しても――」
『核は、屍に、アル』
 頭に直接響いた声に、深墨の目が弾かれたように上がった。
 周囲を見ても人の姿はない。どうやら他の2人にもその声が聞こえたらしく、周囲を見回しているのが見えた。
「核は屍……つまり、コイツを倒せば、人形は消える?」
 3人は互いに目で合図をすると、瞬時に役割を理解した。
「人形のために、こんなに人を……アンタのしたことは褒められることじゃねえ。でも、彼女の為に道を踏み外すのも厭わないって言うのには、ちょっと憧れる」
 そう呟いて深墨は黒絵を握り締めた。
 そのすぐ傍に九郎が近付いてくる。それを視界端に納めて、深墨はシャドーウォーカーの術を解いた。そして黒絵に手を添える。
「一気に裂く」
 深墨は九郎が拳を突くのと同時に、刃で屍の身を薙いだ。
――ギャアアアアアアッ!
 強烈な叫び声が響き、その直後に屍の身体が光に包まれ粉砕する。それと同時に慎が対峙していた人形も粉砕された。
「……終わった」
 息を吐きながら周囲を見回す。そうしながら黒絵を鞘に納めると、深墨の目は亡くなった人たちの亡骸に落ちた。
「想いは届かず、犠牲だけが残る、か。せめて、彼の想いが届けばよかったのにな」
 深墨の呟きは、薄暗い部屋の中に静かに消えて行った。

   ***

 廃ビルの屋上に、不知火の姿はあった。
 彼の視線はビルの外ではなく、ビルの入り口に向かっている。
 不機嫌そうに寄せられた眉と、警戒を含むように構えられた鎌が彼の異変を感じさせる。
「……幾生ちゃん、何でココにいるのかな?」
 若干口元を引き攣らせながら、それでも辛うじて笑みを作り出す。そんな彼を見るでもなく、ノートパソコンを開いて捜査するのは幾生だ。
「依頼解決者ノ補助、アーンド、戻って来たコトの確認?」
 抑揚なく片言に紡がれる言葉に、不知火の顔が引き攣る。
「だ〜れかさんのせいで、暫く戻って来れなかったけどな。こうして無事に戻って来たぜぇ。おかげで暴れ放題だ」
 ニヤリと笑うが、やはり表情はすぐれない。しかし幾生的には不知火の様子などどうでも良いのだろう。一度、何か別のことに首を傾げてから、不知火に視線を向けた。
 普段はパーカーの下に隠れて臨めない、濁った瞳が向かう。それを目にした瞬間、不知火が息を呑んだ。
「幾生ちゃん……なにかな? おじさん、忙しいんだよねぇ」
 明らかに幾生に苦手意識を持っているらしい不知火をじっと見ると、彼はふいっと視線を逸らして背を向けた。
「眠いカラ、帰ル。オーナーから伝言、『好い加減にしなさい』ダッテ」
 そう言ってスタスタと歩き去る姿を見て、はあっと息を吐く。その上で不知火は鎌を肩に担いだ。
「相変わらず掴めねえ……つーか、これでも自分は出てこないってか。あの野郎、ふざけやがって」
 不知火は大仰に舌打ちを零すと、闇の中にその身を溶け込ませた。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】
【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】
【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】

登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 空田・幾生 / 男 / 19歳 / SS社員 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
人形と屍にうらやましい気持ちを持ちながら、退治しなければいけなかった深墨PCの心情が少しでも出ていると良いのですが……。
なにはともあれ楽しんで読んで頂けたなら、本当に嬉しいです!
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、ありがとうございました。