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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ ライバルとの戦い +



 某所のボクシングジム。
 常原 竜也(つねはら りゅうや)はサンドバックに向かって拳を繰出す。細かくパンチを繰出し、最後に力一杯叩き付ければそれは跳ね返って自分に返ってくる。
 汗が飛び散り時折拳が滑る。休憩時にタオルで拭うが練習中の汗の量は半端じゃない。


「常原、この後お前鬼山と試合してみるか?」
「いいんすか?」
「向こうはしたいってよ」


 コーチから思わぬ提案が寄せられ、竜也は瞬く。
 だが相手も望むならば断る理由は無い。快諾すればコーチは時計を見、「五分後にリングまで来い」と告げた。


 鬼山 真吾(おにやま しんご)は別のジムから出稽古に来ている高校生だ。
 身長は180センチをゆうに越えるが、体重はフェザー級、もしくはライト級と思われる。彼は今年デビューした新人ボクサーで、竜也と共にかなり良い評価を得ている。
 時々出稽古でこのジムにやってくる事で竜也とも仲が良い。むしろライバルと言っても過言ではない。


 そして約束の五分後、二人はリングの傍にいた。
 コーチがくいっと手を曲げ二人を招く。それを合図に二人は顔を見合わせ一度頷くと遠慮なくリングの上に上がった。
 下を見ればジムの会長や他のコーチが囲むように陣取り、自分達の試合に興味を抱くような目で見る。


「真吾とは公式に試合できないからねぇ。こういう練習試合はマジ嬉しいよ」
「まあ、俺がもっとウェイト削るか、竜也がデブるかしかないからなぁ」
「それ以上削ったら、いくら真吾でも死んじゃうってば。俺もこのタッパで体重増やしたら動けなくなるしさ」
「お互いに潰しあわないよう、神様が計らってくれたことにしとくか」
「んだね」


 リングに上がり軽い気持ちで二人は雑談を交わした後コーナーへ下がる。
 グローブを着用し口で紐を締め付ける。竜也は青、真吾は赤。サポートにはジムの人間があたった。


 ひゅぅっと二人の唇から息を吸う音が漏れる。
 常ならば拳を交じらせる事の出来ない二人の体格差――だがそれも練習と言う言葉がつけば別だ。今のこの試合を思い切り楽しもうと二人は口端を同時に持ち上げた。


 ゴングが鳴ったかと思うと二人は容赦なく前へと足を踏み出した。
 遠慮と言う言葉など存在しない二人だけの空間が其処にはある。始まるスパーリング。関係者達が二人を見る瞳も強さを増した。


 真吾の2m近いリーチから繰出されるパンチ。
 空気を裂く様な音と共に飛んできた其れを竜也は素早く左に避けその勢いのまま前へと進む。真吾のパンチは重い。だからこそ避ける事も重要になる。
 身長差による上からの圧迫もあった。だが竜也はそれをも「面白ぇ」と楽しげに表情を変える。くいくい、と相手を煽る様にグローブを操れば真吾はふっと笑った。


 油断が時として致命傷となる。
 真吾が放ったパンチは見事竜也の腹部に決まり、彼は膝を付いた。詰った息を吐き出せば唾液が少し落ちた。
 だが当然それで負けるほど弱い竜也ではない。彼もまた真吾より小さな身長を逆に逆手に取り胸元に素早く入り込むと相手が防御の構えを取る前に顔に右ストレートを叩き込んだ。


「――っ! ……やるじゃねーか」
「お前こそ」
「手加減すんなよ?」
「お互いにな。大体俺そんなに器用じゃねーしさ」


 ラウンドを重ねる度に相手の強さを思い知らされる。
 リング下で自分達を囲む会長やコーチの視線が痛いが、それはそれで見る価値があると思われるという誇りがあった。
 殴り、殴られ。
 時々リングに伏して、なんとか起き上がって……。


 そうやって公式戦さながらの4ラウンドは一進一退で進む。
 気付けば全てのラウンドを終え、審判や会長、コーチ達の採点では引き分けで終わった。


「……はぁー、やっぱ簡単には叩き潰せねーってことか」
「そりゃお互い様だっつーの」


 タオルとスポーツドリングを差し入れられ、二人はリング下のベンチに並んで座る。有り難く貰ったばかりのタオルで汗を拭うと叩き込まれた体に痛みが走り、どちらからともなく小さな唸り声を漏らした。



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 練習試合後、二人はジムを後にした。
 ジム付属のシャワールームにて汗を流した後二人は普段着に着替え、並んで帰路を歩む。リング上では戦いあう中だが、リングの外ではライバルであり、親友なのだ。


「そういやお前の婚約者って子とはその後どうなんだよ」
「ん。順調順調。お前の方こそ何か面白い話とかないのか?」
「あー、そうそう。俺のクラスにさギリシャから留学生が来たんだけどよ。これがまたすっげー可愛いんだ。あと劇に興味があって、先日俺と同じ劇団に所属したよ」
「へぇー、そりゃ女の子っていう潤うが出来てよかったじゃん」
「婚約者持ちには叶わねーって」


 近況を話し、背中を叩きあったりとプロボクサーである二人も「男子高校生」としての顔を見せる。
 やがて交差点に辿り着き二人の道は分かれた。


「んじゃまたな、真吾!」
「おう、次こそは負けないぞ」
「そりゃ俺の台詞だっつーの!」


 はっはっは! と竜也が豪快に笑う。
 その声を聞いて真吾は肩を竦めると片手をひらりと振りながら相手に背を向けて自分の家に帰るため道を歩き出す。竜也もまた鞄を肩に掛けるようにしながらその場を後にした。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8178 / 常原・竜也 (つねはら・りゅうや) / 男 / 17歳 / 高校生/プロボクサー/舞台俳優】
【7343 / 鬼山・真吾 (おにやま・しんご) / 男 / 17歳 / 高校生/プロボクサー/退邪士】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました。
 ライバルのボクシング風景、そして二人の他愛のない?日常を表現させて頂きました。ちなみに男同士の拳の交し合いは好みです。