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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


あやかし荘・秋の非常事態宣言!
●オープニング【0】
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
 秋11月――あやかし荘に柚葉の悲鳴が響き渡った。そして、ばたばたと廊下を走る音が聞こえてきた。
「うるさいのぢゃ! 柚葉よ、何をしておるのぢ……お?」
 その悲鳴を聞いて不機嫌そうに管理人室から出てきた嬉璃は、柚葉の変わり果てた姿を見て目を丸くする。
「ふぇ〜〜〜〜〜……」
 涙目の柚葉は何故だか全身柿まみれになっており、おまけに頭にはいがぐりが2つばかりくっついていたのである。嬉璃が目を丸くして当然だった。
「な、何があったのぢゃ?」
「奥から木の化け物が襲ってきたんだよっ!!」
 嬉璃の問いかけに柚葉はそう答えた。奥というと……森の方からということになるか。
「木の化け物ぢゃと? 詳しく話すのぢゃ、柚葉よ」
「えっとね、えっとね、柿を投げてくるのと、いがぐりを投げてくるのがいっぱい! ボクが見た時は10体以上は居たよっ!!」
「……柿の木と栗の木の化け物ということぢゃな」
 柚葉の説明を改めて言い直す嬉璃。しかしすぐにあることに気付きはっとした。
「ちょっと待つのぢゃ。奥からということは……彼奴らはこっちに向かっておるのぢゃな!?」
 その嬉璃の言葉に柚葉はこくこくと頷いた。それはつまり、ここを突破するとその木の化け物たちは外へと出てしまうということで……。
「それは不味いのぢゃ! 柚葉よ、人を集めるのぢゃ!! 彼奴らを外へ出す訳にはゆかぬ!!」
 かくして、あやかし荘は木の化け物との戦闘状態へと突入したのである。

●誰の手でも借りたい【1】
「むぅ……」
 10数分後――嬉璃は管理人室の前で腕を組み、渋い顔で立っていた。そこへばたばたと柚葉が小走りで戻ってきた。
「どうぢゃ、柚葉?」
「ダメ〜! みんな出かけちゃってるよっ!!」
 嬉璃の問いかけに柚葉が返したのは悲痛な叫び。さらに嬉璃の表情が渋くなる。
「……困ったもんぢゃ。このままでは為す術もなく彼奴らを外へと出してしまうのぢゃが……」
 木の化け物を迎え撃つべく、柚葉に命じて人を集めさせようとしたのだが、それはこの場に他の者たちが居てこそ出来る方法。人が出払ってしまっているこの現状では、そもそも集めようにも集められないのである。
「恵美の奴も出かけておるしのぉ……」
 あやかし荘管理人である因幡恵美もまた、間の悪いことに留守にしていた。状況はことごとくあやかし荘側に不利に働いている。
「いっそこうなったらボクたちも出かけちゃう?」
「大馬鹿者! そうなれば、この一帯は大混乱に陥るのぢゃぞ!!」
 困惑した様子でそんなことを言った柚葉を、大声で叱り飛ばす嬉璃。と、そんな時であった。玄関の方から明るい声が聞こえてきたのは。
「こんにちはっ☆」
「む?」
 嬉璃がくるっと振り返ると、そこにはバッグを持ったソール・バレンタインの姿があった。
「どうしたの、大きな声なんか出して?」
 きょとんとした様子で嬉璃へと尋ねるソール。それはそうだろう、ソールは現在あやかし荘が置かれている状態など知らないのだから。
「おお! 柚葉よ、救いの女神が降りてくれたのぢゃ!」
「ほんとだねっ!」
「え、救いの……女神? な、何だか照れちゃうなあ……この姿で女神だなんて言われちゃうと」
 事情を知らぬソールは、嬉璃と柚葉の会話を聞いて照れた笑みを浮かべるのであった……。

●戦闘開始【2】
「……とんでもないことに巻き込まれちゃったなあ」
 事情を把握したソールの口から、そんなつぶやきが発せられた。その両手には何故かボクシンググローブがはめられている。
「こんな時にやってきた自らへの天命だと思うのぢゃ!」
 と言うのは、もちろん嬉璃である。その隣には柚葉の姿もある。3人は木の化け物が現れたという森の方へと向かっていたのであった。
「それもスポーツジムからの帰りだったなんてね!」
 柚葉がソールの方に顔を向けて言った。なので、ソールがボクシンググローブを持っていたという訳だ。
「穏便に済ませたいんだけどなぁ」
 ふう、と小さく溜息を吐くソール。出来ることなら、その気の化け物たちを説得したいと考えていたのだが……。
「それは彼奴らの出方次第ぢゃろ。まあ……柚葉への行為を見る限りでは、決して友好的ではないと思われるのぢゃがな」
「柿とかいがぐりとかぶつけられたんだよ!!」
 嬉璃と柚葉が口々に言った。確かに汚れた柚葉の格好などを見ると、友好的ではなさそうだということはソールにも容易に想像がつく。
「でもさ」
 ソールが2人に向かって素朴な疑問を口にした。
「どうしてそうなったのかなぁ? 理由を知りたいよね」
「……それなのぢゃよなあ」
 嬉璃がそう言って口をへの字にする。
「ボクが普段から入ってる所では、あんなの今まで見たことはなかったけど……」
 首を傾げる柚葉。ということは、柚葉が足を踏み入れている所よりも奥からやってきたことになる訳だが……?
「あっ!」
 突然柚葉が短く叫んで前方を指差した。
「居たよ! あいつらだよっ!」
 柚葉の指差す10数メートル先に居たのは、身の丈1メートル強といった大きさの柿の木と栗の木たち数体であった。柚葉が言っていたよりも数が少ないことから、一部は別の場所に居るのであろうと思われた。
「はて……?」
 今度は嬉璃が首を傾げる番であった。
「もっと大きいのかと思っておったんぢゃが……」
「僕も」
 嬉璃のつぶやきに頷くソール。しかし、それ以上疑問を話し合っている暇はなかった。3人の接近に気付いた木の化け物たちが、枝をまるで腕のように動かして柿やいがぐりを投げ付けてきたからである!
「来たっ!!」
「いきなりぢゃな!」
 頭を抱え逃げようとする柚葉と、ソールの背後へと隠れようとする嬉璃。ソールへも柿が2、3個飛んできたが、上体を前に屈めるようにしてそれらをかわし切った。ジムのボクシングで習ったダッキングが、妙な所で役立ったものである。
「やめなよ!」
 ソールがじりじりと近付いてくる木の化け物たちに向かって叫んだ。
「せっかく実った実を投げるだなんて、可哀想じゃないか!」
 しかしそれが聞こえているのかいないのか、木の化け物たちは近付く速度を緩めることなく迫ってくる。
「しょうがないや……」
 ソールははぁ……と溜息を吐くと、戦闘に居る木の化け物との距離を詰めていった。そして右ストレートを木の化け物目がけて放つ。
 ところが、である。木の化け物はその右ストレートの衝撃をしなることによって吸収し、ダメージをかなり軽減したのだ。逆にそのしなった反動で、枝を鞭のように打ち付けてきたではないか!
「わっ!!」
 その攻撃を、ソールは左のパリィによって慌てて払い除けた。少しでも遅ければ、ソールの肩口にでもミミズ腫れが出来ていたことであろう。
(これは……このままじゃ埒が明かないかも)
 目の前の木の化け物の手強さを感じ取ったソールは、さっと身を翻すと近くの物陰へと飛び込むように走っていった。
「えーっ、何で逃げちゃうのー!!」
 柚葉からそんな声が飛んできたが、いやいやソールは何も逃げた訳ではなく――。

●一撃必殺【3】
 時間はものの1分もかからなかっただろうか。『マジカル・チェーンジ!』などという声がソールの走り込んだ物陰から聞こえてきたかと思うと、次の瞬間にはいかにも魔法少女なコスチュームに身を包んだ美少女がそこから飛び出してきたのである。
「太陽と月の女神ソルディアナ参上!!」
 びしっとポーズを決め、その美少女はウィンクと投げキッスを放った。手には先程までソールがつけていたのと同じボクシンググローブをはめた状態で。
「すごーい! 今日はあっという間に着替……むぐぅ! むがもがっ!!」
「おお、お主は確かソルディアナ! この危機に駆け付けてくれたのぢゃな!!」
 嬉璃は柚葉の口を両手で塞ぎながらソールに……もといソルディアナに言った。
「もう暴れるのはやめなさい!」
 ソルディアナは嬉璃に向かってこくっと頷いてから、木の化け物たちへと言い放った。けれども木の化け物たちは、止まることなくなおも近付いてくる。
「そう……それ以上暴れるというのなら」
 次の瞬間、ソルディアナの両手のグローブに炎がまとわれた!
「これをお見舞いせざるを得ないわ」
 そしてソルディアナが、右のグローブを先頭の木の化け物の少し手前の地面に向けて振るうと、何と火球がそこへ目がけて撃たれたではないか!
 その途端、木の化け物たちの動きがぴたりと止まった。威嚇だったので火球は決して当たってはいないのだが、そこはやはり木。化け物であっても火は怖いようで……。
 ソルディアナが無言で睨み付けている中、しばし動きを止めていた木の化け物たちは方向転換を行い、森の方へと引き上げていった。
「もがが……ぷはぁっ! 見て、戻ってくよ!!」
 嬉璃の手から逃れた柚葉が指差して叫んだ。
「うむ、引き返してゆくようぢゃな……」
 その光景を見つめながら頷く嬉璃。かくしてソルディアナによる威嚇の火球1つで、あやかし荘は危機を脱したのである。

●後日談【4】
 後日、嬉璃は人手を改めて集めると、木の化け物たちがやってきたと思われる森の奥へと柚葉の案内で向かわせ調べさせた。すると森の奥にあった非常に高く太い木の幹に、ナイフが突き立てられているのが発見されたのである。
「誰がやったのかは知らぬがずいぶんと酷いことをしたものぢゃな。その行為に木が怒って、彼奴らを送り出したのぢゃろう……」
 とは嬉璃の言葉である。この言葉はすなわち、森の奥にはそれを可能にするだけの霊力が存在するということを言っているようなものだ。
 さてはて、何者がこのような真似を行ったのか。手がかりはつかめなかったが、非常に気になる所である――。

【あやかし荘・秋の非常事態宣言! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7833 / ソール・バレンタイン(そーる・ばれんたいん)
          / 男 / 24 / ニューハーフ/魔法少女? 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全4場面で構成されています。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、ある意味怖く、ある意味コミカルな様子でもある、木の化け物の襲撃のお話をお届けいたします。
・こうなった原因については本文最後の方でちょこっと触れている訳ですが、いったいどこの誰がそんなことをしたのでしょうね。言い方を変えれば、何者がそこまで忍び込んだのかということでもあるのですが……。
・何気にこのお話、高原の他のお話と微妙に繋がっていたりします。と書くと、もしかするとピンとくるかもしれませんね、色々と。
・ソール・バレンタインさん、4度目のご参加ありがとうございます。はい、木は火に弱い……大正解です。という訳で、本文の通り木の化け物たちを引き上げさせることが出来ました。ただまあ今回は1人だけでしたから、そこまでで精一杯になってしまいましたが……。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。