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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


惨劇 ―山奥の館にて―
●オープニング【0】
「秋だねえ」
 アンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮は、少し色付き始めた山の木々を見てそうつぶやいた。そばにはアリアの姿があり、後ろには店に出入りしている者の姿もある。何だかんだ言われつつも、季節は着実に秋になっているのだ。
 今日は少人数で秋の山へハイキングに――という訳ではなかった。実は仕事なのである。品物を売りたいという相手が山奥の別荘に住んでいるから、こうして足を運んだという訳だ。
「壷……でしたよね」
 アリアが隣を歩く蓮へ尋ねた。
「ああ、そうさ。同業者から話が回ってきてね、収集してた壷を買い取ってほしいってことさ。何でも息子の借金の返済のためだとかどうとか」
 と言って苦笑する蓮。相手はバブルの頃に一稼ぎし財をなしたそうなのだが、その息子がこの時代に大きな借金を背負ってしまったというのは、ある意味皮肉なのかもしれない。
「話がうちに回ってきたのは、その壷の中に妙な紋様らしい物があったらしいからさ。ま、この話を持ってきた相手もまだ実物は見てないそうだけどねえ……」
 などと蓮が言った時であった。
「…………?」
 アリアがふと立ち止まり、ゆっくりと周囲を見回してから首を傾げた。
「おや、どうしたんだい?」
「……いえ、何だか静か過ぎるような気がして」
 再度周囲を見回しながらアリアは答えた。そう言われてみれば、鳥の鳴き声も聞こえてこないし、風が吹いて草木が揺れるなんてこともない。本当に静かなものだ。
「ま、うるさいよりはましだろうさ」
 とは言うものの、蓮もアリアのその言葉が少し気になった様子である。
 やがて一行は目的の別荘のそばまでやってきた。目の前に見えるのは2階建ての洋館で、周囲は壁で囲まれている。そして周囲には他の別荘などもない。
「ようやく着きま……」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 アリアの言葉が男性らしき悲鳴によって掻き消された。一行は突然の出来事に思わず身構えてしまう。
 悲鳴が聞こえてきたのは間違いなく目の前の館からだ。だが辺りは、また静まり返っていた。館で何か異変が起きているのは明らかである。しかし……何が起こっているのかはさっぱり分からない。
「……入ってみるしかなさそうだねえ」
 小さく溜息を吐き、蓮は皆の顔を見回した――。

●何事が起きたというのか【1】
「何、何なのっ?」
 高校生・瀬名夏樹の顔に困惑の色が浮かんだ。その視線は目の前の館から外されない。碧摩蓮が今さっき口にした言葉からして、夏樹だけの空耳などでは決してないのは明らかなのである。
「……ダメだ」
 ぼそりと悔しげにつぶやいたのは夜神潤である。蓮の視線が潤へと向いた。
「何がだい?」
「あの中に人の気配はもう……失われている」
 潤は自らの力によって、館の中の人の気配を手繰っていたのだった。
「そ、それって……!」
 潤の言葉の意味を悟り、夏樹がはっとした。すなわち、館の中には生存者など居ないだということだ。先程の悲鳴の主も、恐らく瞬く間に絶命してしまったのであろう……。
「これは只事ではないわね。……嫌な予感がするわ」
 金髪の美女であるシャルロット・パトリエールはそうつぶやくと、豊満な胸元から何やら小袋を取り出して中から数個の石を手に取った。
「これを」
 と言って、皆にその石を1つずつ手渡してゆくシャルロット。石には奇妙な紋様が刻まれていたが、蓮はそれを見るなりシャルロットに言った。
「ルーンかい」
「ええ。『守り』の」
 小さく頷くシャルロット。この石はただの石などではない、シャルロットの手によって『守り』のルーンが刻まれているのだ。魔術師たるシャルロットにしてみれば、このくらいは雑作もないことであった。
「なるほど。この分じゃ、ある程度準備をしてからでないと入るのは危険だろうからねえ……」
 と、館をちらと見てつぶやく蓮。確かに、館の中に今すぐ入るというのはこうなっては無謀というものだろう。何せ、人間をあっという間に絶命させられるような『何か』が中には居るということだから。
「シャルロット様」
 その時、シャルロットの傍らに控えていた赤髪のメイドであるマリア・ローゼンベルクが口を開いた。
「預けておりましたあれらを……」
 恭しく頭を下げマリアはシャルロットに言った。
「分かったわ」
 シャルロットは答えるや否や、何もない空間に手を入れる仕草を見せた。するとどうだろう、何もない所から赤いボディスーツとフルフェイスのヘルメットが出てきたではないか!
「手品?」
 目をぱちくりとさせる夏樹。まあこれが普通の反応であろう。その一方で、蓮は面白い物を見るかのような視線をその何もない空間へ向けていた。
「手品ではないわ」
 マチェットやSMGであるスコーピオンなども取り出しながら、シャルロットがつぶやいた。そして取り出された物たちは全てマリアに渡される。
「ありがとうございます。では……」
 マリアはシャルロットに礼を言うと、メイド服に手をかけようとした。
「え、ここで着替えをなされるんですか?」
 意外そうにアリアがマリアに尋ねる。
「はい、もちろんです」
「……別に構わないけど、出来ることなら物陰にでも行って着替えてくれないもんかねえ」
 さらりと答えたマリアに対し、蓮はアリアをちらと見てから苦笑して言った。
「ここで着替えてはダメなのですか? 何故です?」
 と、きょとんとして尋ねるマリアであったが、結局蓮の言う通り近くの物陰に行き着替えるのであった。
「さて……と」
 物陰に向かうマリアの背中を見ていた蓮が、潤の方へと向き直った。この会話中もなお、潤は館の中の気配を探っていたのである。
「どうだい、相手は」
「恐らく単数……しかしこれは……」
 蓮の問いかけに答える潤の顔は厳しげだ。
「人じゃないんだろう?」
 しれっと言う蓮。潤がそんな蓮をちらっと見た。
「……よくそれが分かったものですね」
「あんたがさっき言ってたろう。『人の気配は失われている』って。だったら何か居るんなら、人じゃないって考えるのが自然さ。で、どこなんだい?」
「2階ですよ」
 場所を問われ、潤は即座に答えた。
「そうかい。なら、踏み込んで一気に2階を目指すべきかねえ……」
 そう言って、蓮は館の2階部分を見つめた。が、それを聞いた潤がぽつりつぶやいた。
「何も踏み込んで2階を目指さなくとも方法は――」

●準備完了【2】
 マリアが赤いボディスーツとフルフェイスのヘルメット――レッド・デビルに身を包み、マチェットを腰に携えスコーピオンを手にして戻ってくると、他の皆も館の中へと入る準備は出来ている様子だった。見ればアリアの手にも槍――ロンギヌスの槍が握られているではないか。
「蓮様。館へはどのタイミングで入るのでしょうか」
 マリアがそう尋ねると、蓮は潤の方へ顔を向けて質問に答えた。
「それを今から説明してもらうのさ。じゃ、頼んだよ」
 潤は蓮に頷くと、皆の顔を見回してから話し始める。
「今から相手の居る2階の部屋と直接空間を繋ぐ。そして……相手がこちらへ動き次第、周囲に結界を張るつもりだ」
 潤としては他人の館ゆえ、戦闘不可避な状況ではあるがなるべく中を荒らしたくはなかったのだ。そして蓮からは、中は戦うには手狭だろうという意見が出たので、このような方法を取ることとなったのである。あと結界を張るのはあれだ、これもまた周囲に影響を与えないようにするためだ。まあ、相手の逃亡を防ぐ意味合いもあるのだが……。
「つまり」
 銃身が切られて短くなっているショットガンを手にしたシャルロットが口を開いた。
「遠慮は無用、ね」
 シャルロットのこの言葉に潤がこくりと頷く。
「了解しました」
 マリアもそれに合わせてつぶやいた。夏樹はといえば、この場に漂い始めた妙な緊張感に気付いていた。
(……もしかして、霊的な相手なの……?)
 となれば、夏樹も適切な行動を取らなくてはならないだろう。全ては相手の姿を目の当たりにしてからのことだ。
「では……」
 潤がそう言うと、他の皆は弧を描くように散らばった。そして皆が見つめる中、目の前の空間がゆらり揺らぎ、次の瞬間には全く異なる空間がそこには現れていた。
「うっ……何この匂い!」
 その途端辺りに異臭が漂い始め、夏樹が思わず手の甲で鼻を押さえた。それは何か肉が腐ったかのような匂いに、もう1つ別の匂いが混じっていて――。
「……血の匂いだねえ」
 出現した空間を見据え、蓮が言った。その言葉に、誰も異論を挟む者は居ない。何故ならば目の前では、紫色で小兵の相撲取りほどあろうかという大きさの肉塊が、床に倒れている血まみれの若い男の身体に覆い被さってゆっくりと脈動していたのだから……。

●一気呵成【3】
「参ります!」
 言うが否や、マリアの構えたスコーピオンが火を吹いた。装弾された弾丸が全弾肉塊に向けて撃ち出された。が、さほどダメージを与えた様子がないことは見て分かる。しかし、肉塊の意識をこちらへと向けるには十分過ぎる攻撃であった。
 肉塊は一瞬動きを止めると、男の身体からずるりと降りた。そして外観からは想像出来ないほどの速さで振り向いたかと思うと、一同の居る方に目がけて大きく跳んできたのである。そこにはただ、無数の鋭い牙のついた大きな口があるのみだった。
 今度はその口の中に目がけて、マリアのスコーピオンから弾丸が放たれる。
「ゲアァッ!」
 声らしき音を発したかと思うと、体内に着弾した衝撃で肉塊は少し押し戻されて地面に落下した。その瞬間出現した空間は消え失せ、周囲に結界が張られた。もちろん潤のやったことである。
「……グ……ググ……ゲッ……」
 だがダメージとしては微々たるものだったようで、肉塊は攻撃をした主――マリアを見付けるとそちらへ向きを変えた。
「ガァァァッ!!」
 そして肉塊がマリアへと向かったその時、横からタックルを仕掛けた者が居た――獣化した夏樹である。まあ傍目には、虎のコスプレをした娘が当たっていったようにしか見えないのだけれども、それはさておき。
「これでも喰らいなさいよ!!」
 夏樹は腕の回りに炎を発生させると、肉塊にのしかかり何度も叩いた。腕にまとった炎が肉塊を焦がす度に、辺りにさらなる異臭が漂ってゆく。
「グゲァガァァァッ!」
 叫んだと同時に肉塊が大きく震えた! だが……震えただけである。
「ゲ……? グ……?」
 まるで戸惑うかのような肉塊が発する声。肉塊が本来したかったのは夏樹への攻撃だった。けれども、それは叶わなかったのである。
「攻撃は封じた! 今のうちに!」
 潤が皆へ言った。そう、結界を張った後すぐ、肉塊の攻撃を潤は封じていたのだ。
「どいてください!」
 アリアが夏樹に向けて叫んだ。夏樹が跳ね退くと同時にロンギヌスの槍が投げ付けられ、肉塊を背後から貫いていた。
「ゲゴォォォォォッ!! ヂグァァァァァッ!!」
 左右へ大きく揺れる肉塊。それはのたうち回るという表現がしっくりくる動きであった。いつの間にやらシャルロットは、その正面に離れて立っていた。
「滅びよ邪悪なる者よ! 必殺――」
 光り輝く十字架が、シャルロットから肉塊目がけて放たれる!
「シャイニングクロス!!」
「ヂグゴガァァァァァァァァァッ!!!!!」
 光り輝く十字架に正面から貫かれた肉塊はそのまままばゆい光に包まれ、そして塵となって世界より消え失せた。残されたのは、先程まで肉塊を貫いていたロンギヌスの槍のみで――。

●原因探索【4】
「なるほど、こいつが原因のようだねえ」
 蓮は何やら紋様の刻まれた欠片を手に、やれやれといった様子でつぶやいた。場所は館の地下室である。そこには収集されていた物らしき壷がいくつも置かれていて、床には数個分の割れた壷の欠片もまた散らばっていた。
 館の中は肉塊のものらしき悪臭と血の匂いで満ちていた。それでも中を調べてみると4人分の遺体が見付かった。恐らく息子夫婦であろうと思わしき若い男女が2階で、使用人らしき初老の男が1階で、そしてこの館の主らしき中年男の遺体が地下室で各々見付かったのである。いずれの遺体も、特に身体が血まみれになっていた……とだけ言っておこう。それ以上詳しく説明したくもない。
 そして館の床や階段には、地下から何かが這いずってきて2階へと昇っていった跡が残されていた。そのことから原因は地下にあると分かり、一同は地下室へと降りてきたのである。
「見るといいよ、読めるだろう?」
 蓮はそばに居たシャルロットにその欠片を渡すと、自らは床に散らばっているまた別の欠片を拾い上げた。
「これは……ヒエログリフね」
 ヒエログリフとは古代エジプトで使われていた文字の一種である。それが刻まれた欠片がここにあるということは、割れたのは古代エジプトの壷であるということだろうか?
「ええと、『邪悪なる』……え?」
 はっとして蓮を見るシャルロット。蓮は別の欠片を見せてこう言った。
「こっちには『2つに分ち』とあるよ。たぶん探したら『封じた』なんてのも見付かるんじゃないかねえ」
「……どういうこと?」
 夏樹が怪訝な顔で蓮とシャルロットを交互に見ている。
「あの肉塊は壷に封じられていた……そういうことか」
「ああ。恐らく2つに分けてだろうさ。肉体と精神か、どういう風に分けたかは知らないけどさ」
 納得したような潤のつぶやきに、蓮は大きく頷いて言った。
「これはあたしの推論さ。けど、大きく間違っちゃいないだろう。ここの主人が売ろうとしてたのはその壷たちだったんだろうさ。そしてあたしたちが来る前に、最後によく見ておこうと思ったんだろうね。だがその最中に手が滑り……もう1つの壷とぶつかって割れた、と」
「それにより封じられし者が解き放たれ、このような惨劇が発生したということですね?」
「……そう考えるのが自然だろう?」
 マリアの言葉に答える蓮。だとすれば、何故ここに館の主らしき遺体があるのかも納得出来るというものである。
「さて。どう警察には話したもんかねえ……」
 そう言って蓮は、大きく溜息を吐いた。

【惨劇 ―山奥の館にて― 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
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【 7038 / 夜神・潤(やがみ・じゅん)
                / 男 / 青年? / 禁忌の存在 】
【 7947 / シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)
           / 女 / 23 / 魔術師/グラビアモデル 】
【 7977 / マリア・ローゼンベルク(まりあ・ろーぜんべるく)
                   / 女 / 20 / メイド 】
【 8114 / 瀬名・夏樹(せな・なつき)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全4場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、壷が登場してこのシチュエーションとしては非常にオーソドックスな展開のお話をここにお届けいたします。
・オープニングを書いた時点では多少手間取るかな……とも思ったんですが、ふたを開けてみたらとても皆さんに優位に戦闘が進んだように思います。言い換えれば、それだけ皆さん適切な行動を取っていたということなのですが。
・あと生存者なしというのはオープニングの時点で確定していたことですので、皆さんの行動によってそうなったのではないですから、そこにつきましては誤解なきよう。
・シャルロット・パトリエールさん、初めましてですね。ええと、シャイニングクロスはあの肉塊に非常に大きな効果を発揮しました。ということはつまり、あれがどのような存在であったかは自明かと。いい攻撃でした。あと、OMCイラストをイメージの参考とさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。