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<東京怪談ノベル(シングル)>


闇夜の者達

「…ここまで来れば、大丈夫…」
 暗闇が包む、深夜の森の中。月明かりだけが頼りの暗闇を一人の少女…水嶋琴美は疾走していた。闇に紛れるように身にまとったインナーとスパッツの上には、薄手の着物のような上着と、ミニのプリーツスカート。見る者を魅了する豊満な肉体と黒髪を揺らしながら、琴美は走っていった。
 立ち止まり、辺りを見渡すと荒くなった息を静めるように深呼吸をする。
 …その手には、一枚のメモリーカード。既に琴美は敵対組織の施設へと侵入し、データを易々と入手。誰にも見つかる事なく撤退経路を駆けていたところであった。
 百戦錬磨の琴美にとっては、侵入任務などお手の物。誰にも見つかる事なく、目的を果たし消える…。…自分を見つけた者がいれば…消すまで。今回も完璧に仕事はこなせそうだ。
「さて…もう少し…」
 未だ、敵組織のテリトリーは抜けていない。この深い森一帯が敵の拠点。敵施設の情報を持ち出して森を抜けるのが、今回の任務だった。…そして、その任務ももうすぐ終わる。琴美の顔には自然と小さな笑みが浮かんでいた。
 手に持ったメモリーカードをギュッと握ると、再び木々を掻き分けて琴美は走り出した。流石にこの距離を走れば、汗も滲む。だがそれ以上に…琴美はこの森の中に自分を狙う追っ手がいないのかを警戒していた。身体に密着するインナーやスパッツにじわりと汗が滲むのを肌で感じる。…まだ油断はできない。そう思っていた矢先…。
「…ッ!?」
急に木陰から出てきた銀色の何かに、琴美は前方の進路をふさがれる。
「しゃあッ!!」
…何か、ではない。それは…尋常ではない殺気を放つ、一人の男だった。
 男は琴美の目の前に飛び出すと同時に、丸太のように太い右腕で正拳突きを琴美に向けて放つ。琴美はそれを見切ると、拳を避けつつ前方に跳躍。空中を一回転し男を飛び越え、膝をついて地面に着地する。すばやく男の方を振り向き、武器であるクナイを両手に構えた。
「…ほう…俺の攻撃を見切るとは…やるじゃねぇか」
 月光の下、男はにぃと笑い、拳法のような構えを取る。白く長い体格に加え、その身体の至るところが無駄なく鍛えられている。…間違いなく、この男…敵の雇った傭兵だ。琴美はそう悟った。
「…あなたは…」
「俺の名はファング。組織に金で雇われたモンだ。ちょいと鼠が入り込んだと聞いたが…こんな姉ちゃんだとはな。折角面白く闘えると思ったのによォ…」
 ファングと名乗る男はその笑みで赤の瞳を歪ませると、拳を鳴らしてゆっくりと琴美に近付く。しかし…その男の動作に、琴美も思わず笑ってしまう。
 恐らく自分の事を、単なる女スパイか何かだと勘違いしているのだろう。でなければこんなに隙だらけの状態で自分に近付く筈がない。…完全に、ファングは油断をしている、琴美はそう踏んだ。…しかし、実際は違う。こんな風な体格のいい相手など何人も相手をしているし…その全てを倒してきている。確かな自信が琴美にはあった。
「…油断をしていると、後悔しますよ」
「そうかい。それじゃあさせてもらおうか…なッ!!」
 ファングは腕を伸ばせば琴美に触れられる距離まで近付くと、再び拳を琴美に振り下ろす。
 その瞬間、大きな胸が激しく揺れると、琴美は上空に再び跳躍しファングの拳を避ける。今度は飛び越える為ではない。振りかぶり、スパッツに覆われた長く肉付きのいい右脚で、ファングの頭目掛けて蹴りを放った。それは、女の蹴りとは思えない程凄まじい威力を持っている。
 …ゴキッ!
 鈍い音がファングから聞こえる。…決まった。琴美はそう確信し、地面に着地する。
 …しかし、見上げた男の表情は…悪魔と見違えるかのような、邪悪な笑みだった。
「くくく…いい蹴りじゃねぇか、姉ちゃん」
 曲がった首を再び真っ直ぐにすると、閃光のようにファングの腕が琴美の胴目掛けて振られる!しまった…回避が間に合わない!反射的に琴美は両腕で腹部を防御するが…。
「…ッ!あ、ぐっ…!」
 まるでハンマーを振り下ろされたような、圧倒的な打撃。その重い攻撃を受けて琴美の身体はいとも簡単に後ろに飛び、地面に落とされる。
「ぐあっ…!」
「少しは楽しめそうだな…女ァッ!」
 ファングは楽しそうに拳を鳴らすと…今度は走って、倒れた琴美に接近してくる。その腕で身体を捕まえようとするつもりだ。
 痛みに感けている場合ではない。琴美は倒れた身体を素早く起き上がらせると…接近してくるファングに対し、身体を仰け反らせる。
「何ッ!?」
 バク転をするように後ろに回る身体。そしてそこからもう一度、稲妻のような速さで…ファングの顎目掛けてサマーソルトキックを放つ。凄まじい威力を持った琴美の蹴りは、そのままファングの顎に直撃した。…しかし…素早くその脚は、ファングに掴まれてしまう。直撃はした筈なのに…ダメージがほとんどない!
「…あ、ッ…!」
「ククク…捕まえたぜ、女ァ…」
 ファングは脚を片腕で掴んだままゆっくり立ち上がると、琴美の身体は逆さまに宙に浮いてしまう。戦闘服の上着やスカートが捲れ、インナーとスパッツに隠された豊満な身体のラインが月明かりに照らされる。ファングはそれを見てニィ、と笑った。
「なかなか素早いようだが…動きさえ封じればどうという事はなさそうだな」
 ファングは空いている片腕を振りかぶる。…がら空きの琴美の身体に、打撃を与えるつもりらしい。しかし…琴美はすぐさま、両手に持っているクナイをファングの膝に突き刺す!
「ぐッ!!」
 流石にこの攻撃はファングにも効き、琴美を掴んでいた腕を離してしまう。地面に着地した琴美は体勢を整え、もう一度…今度は相手の心臓目掛けてクナイを振る。
 …しかし、琴美の脇腹に重い打撃が再び圧し掛かった。
「っ、あァッ!」
 ファングの蹴りの方が琴美のクナイより先に入ってしまった。その重い蹴りに再び琴美の身体は宙に投げ出される。
 受身を取り、倒れこむ前に琴美はクナイを構えるが…。
「く、ゥ…っ!」
 身体へのダメージは深刻だ。脇腹からくる鈍い痛みが、身体中に駆け巡るかのような痛み。これでは…満足に動けない。
 そんな琴美の痛がる様子を見て…ファングはまた、悪魔のように笑うのであった。
「楽しませてくれるじゃねェか…。…燃えるぜ…!」
 膝からの出血も気にせず、ファングは…心の底から楽しそうに、琴美に近付いてくる。それとは対照的に、深刻なダメージを受けている琴美は、苦痛に顔を歪ませているのであった。
「くっ…!…どうすれば…ッ!」
 琴美のスピードを圧倒する、肉弾攻撃。…事態は、琴美の劣勢。しかし…諦めるわけにはいかない。ゆっくりと近付いてくるファングに対し…琴美は痛みに耐えながら、戦闘態勢をとった。