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<東京怪談・PCゲームノベル>


Scene1・スペシャルな出会い / 辻宮・みさお

 外観は普通の喫茶店。しかし足を踏み入れれば、そこはゴシック調に整えられた、必要以上に豪華な雰囲気の喫茶店だった。
 一見、女の子のような外見の辻宮・みさおは、入店早々、「おかえりなさいませ、お嬢様」と出迎えられてしまった。
 まあこうした間違いは慣れているが、今はジーパンにパーカーと男の子らしい格好をしている。もう少し別の対応が合っても良かったのではと考えてしまう。そこに何の違和感もなく、「ご主人さま」に訂正した人物がいた。
「ほら、注文したティーセットだ」
 目の前に置かれた綺麗に盛り付けされたケーキと、高そうなカップ。そこに注がれる紅茶に目を向けてから顔を上げた。
「ありがとうございます……」
 ペコリと頭を下げた先に居るのは、黒のメイド服に身を包んだ少女だ。吊り上がった目とそれを隠すように掛けられた眼鏡が印象的な彼女は、みさおの声を聞くとニヤリと笑って見せた。
「次から初めて入る店は、その場所の情報を仕入れてから入るんだな」
 出迎えの第一声に驚いたみさおは、持っていた大きな鞄を手に硬直してしまった。そこに訂正と共に声を掛けて来たのが、彼女だった。
 みさおが足を踏み入れた喫茶店は、執事&メイド喫茶。普通の店ではなかったことに、まず驚いた。きっとそのことを指摘しているのだろう。
「……すみません」
 シュンッと項垂れたみさおに、少女はフッと笑うとカップを勧めた。
「ウチのオーナー自慢のブレンドティーだ。常連にしか出さない品だが、特別だ」
 確かに良い香りがしてくる。それに手を伸ばそうとしたみさおは、離れてゆく相手にハッとなった。
「あ、あの!」
 慌てて声をかけたせいで、半立ち状態で振り返った彼女と対峙する。だが実際に顔を合わせれば何を言って良いのやら。口をパクパクさせている姿に、少女の首が傾げられた。
「言いたいことがあるのなら言え」
 きっぱりと返された言葉に、更に口がパクパクしてしまう。
 そんな彼に溜息を零すと、彼女は身体ごと向き直って腕を組んだ。その姿に少し迷ってから、みさおは口を開いた。
「え、っと……その、ありがとう、ございます!」
 勢い良く頭を下げると、頭上で結った黒髪がぺたりと前に伸びてきた。
 それを視界に納めて顔を上げると、少女の姿はもうなかった。どうやら彼女は別の接客に向かったようだ。
「はあ……かっこいいお姉さんだね」
 みさおが知っているメイドとは態度も話し方も違うが、あれはあれで良い気がする。
 そんなことを思いながら紅茶を口にすると、香りに違わない優しげな香りが口中に広がった。それに目を細めて、再びノートパソコンに手を落とす。
 カタカタと打ち込むのは、自らが集めたネタだ。それを上手く纏めて使えるようにするのが今回の目的だ。
「よし、こんなもんかな」
 そう言って画面下の時計に視線を落とすと、だいぶ時間が経っていたようだ。いつの間にか紅茶の湯気は消え、客の顔ぶれも変わっている。
「そろそろ帰ろうかな。でも、その前にトイレ」
 みさおは従業員にお手洗いの場所を聞くと、迷うこともなくそこに辿り着くことが出来た。
「うわぁ……すごい、トイレ」
 足を踏み入れたお手洗いは、これまた別の世界だった。
 ゴテゴテに装飾された洗面所。そこに飾られた白い薔薇が芳香剤代わりの甘い香りを放っている。しかも便器はピカピカで、これも陶器で出来ていてお金がかかっている。
「……緊張して出るものも出ないかも」
 ぽつりと呟きながら、みさおはお手洗いの個室に入った。
 そのころ、店内では騒ぎが起きていた。
「ひぃぃぃぃっ!! な、なんなんだ、この店はっ!!!」
 店の一角から響く悲痛な叫び声に、みさおの目が瞬かれる。そしてお手洗いを出た彼が目にしたのは、想像以上の光景だった。
「あらん、お客様? この店はお触り厳禁――知らなかったなんて言葉で片付けるなよ」
 眼鏡を光らせ、ドスを効かせて囁くのは、先ほどみさおの対応をしてくれた少女だ。その彼女の前には完全に怯えた客らしき男と、テーブルの上に突き刺さったナイフがある。
「はわわ……なにが起きたの?」
 お手洗いから出るに出られなくなったみさおは、扉の隙間からそのやり取りを眺めた。そこに響いたベルの音に再び目を瞬く。
「あ、みんな、奥に……」
 みさおは従業員のほとんどが店奥に入るのを見送ると、急いで席に戻った。そして鞄とノートパソコンを持ち上げてレジに向かう。
「あ、あの、お会計をお願いします」
「かしこまりました」
 残っていたメイドに声を掛けて、会計を済ませる。そうして外に出た操は、驚きの光景を再び目にすることになった。
「はわわわ……今度はなに!?」
 目の前に現れた奇妙な生き物。
 餓鬼のように膨らんだ腹と、黒く骨ばった体。身体全体が腐敗したような匂いを放つその生き物は、みさおを目にすると物凄い勢いで突進してきた。
「うわあああ!」
 驚いて咄嗟に鞄を構える。
 どうして逃げなかったのか後になって疑問に思ったが、咄嗟の場面で逃げることなど普通は出来ないという結論に至った。
「うぅ……う?」
 目を閉じて化け物の攻撃に備えていたのだが、いつまで経っても化け物が与えるはずの衝撃が来ない。
 恐る恐る目を開けて、鞄の隅から顔を覗かせる。
「あっ!」
 本日何度目の驚きだろう。
 彼の目に飛び込んで来たのは、化け物の前に立塞がる少女の姿だ。
 学生服に身を包んでいるが、間違いない。
「さっきのお姉さん!」
 みさおの声に、チラリとだけ振り返った吊り上がった目は間違いないだろう。先ほど接客してくれたメイドだ。
 彼女は化け物に視線を戻すと、ニヤリと笑って懐から銃を取り出した。
「ちょうど良いところに実験体がいたものだ」
 そう言いながら弾を装填する。その姿は手慣れており、こうした騒動が初めてではないと伺わせる。
「あ、あの……」
 何か手伝います。そう口にしようとしたが、それを少女の目が遮った。
「黒鬼はあたしの獲物だ。邪魔しないでもらおう」
 言うが早いか、彼女は数発の銃弾を黒鬼と呼んだ化け物に放った。
 それが全弾見事に命中する。
 ダラダラと緑色の液体を流しながらよろけた黒鬼の濁った眼が、ぎょろりと少女を捉える。そこには明らかな殺気が浮かんでいる。
「弱いな。このままだと消滅しかねない」
 聞こえた呟きから察するに、生きたまま捕獲したいのだろうか。だが、捕獲したところでなんのメリットがあるのか、みさおにはわからない。
 彼はその場でじっと成り行きを見守るだけだ。
「まあ、消滅するなら大した実験体でもない、か」
 キランッと眼鏡を光らせた直後、残りの弾が放たれた。
 凄まじい音と共に黒鬼の身体が弾に弾かれて宙に浮く。そこにもう取り出されたもう一丁の銃が黒鬼の眉間めがけて銃弾を放った。
――ギャアアアアアア!!!
 断末魔の叫びをあげて消滅する黒鬼にみさおは驚くばかりだ。
 だが少女は驚きと言うよりは落胆が大きいようで、ぽつりとこんな事を呟いた。
「勿体ない事をした」
 そこにみさおが声をかける。
「あの、ありがとうございました」
 終始を見守ることで戦闘を終えたみさおは、ホッと安堵の息を吐くと、鞄を足元に置いた。
 それがカタカタと揺れだす。
「あっ、ダメだよ!」
 慌てて鞄を抑えようとするが遅かった。
 中から飛び出して来たのは、赤い顔に白のモヒカン頭、ゴーグルをした奇妙な赤鬼の人形だ。上半身プロテクターとレザーパンツを着た人形は鞄の上に立ち、みさお目掛けて飛び上がった。
 それがストンッと彼の右手に嵌る。
「ほう、変わったパペットだな」
「!」
 いつのまに傍に来たのだろう。興味深そうに人形を見るのは、黒鬼を倒した少女だ。
 彼女は眼鏡と眼鏡の奥にある瞳を輝かせて、それを見つめていた。
『なんだよ〜。もう終わっちまったのかよ〜』
 少女の顔を見ながら、人形が喋りだした。きっとパペットであることから、みさおの腹話術か何かだろう。
 だが先ほど動いていた様子からも想像できるように、ただの腹話術ではないはずだ。それは少女も同じ考えらしく、何やら呟いている。
「腹話術……いや、何かの術が埋め込まれているのか?」
 伺うような視線がみさおに向けられた。
 それを受けた彼は目を瞬いて首を横に振る。
「ふ、普通の人形です」
『なぁに言ってんだ。俺様は超貴重な天乃・ジャック様だぞ!』
 ふんぞり返って言い張る人形に、クッと少女の口角が上がった。
「そうか、ジャック。お前、あたしの実験体にならないか?」
 伸ばされた手に、みさおは目を瞬き、ジャックは首を傾げる。その仕草に、少女の笑みは深まるばかりだ。
「なに、難しいことはない。少々手荒な事はするだろうが、死にはしないだろう」
「死にはしないって……」
『手荒な段階でアウトだ!』
 自分を助けてくれたことには変わりがないし、出来ることなら協力したい。だがジャックを失う訳にもいかない。
 彼は少女とジャックの双方を見比べると、右手を差し出した。
「あの、どうぞ、使ってください」
 にっこり笑ったみさおに少女の目が少しだけ驚くように目を見開いた。若干困惑した雰囲気が漂うが、みさおはそんなことなど気にせずにジャックを差し出しす。
「助けてもらったお礼です。どうぞ」
『俺様の意見は聞かないのか!』
 騒ぐジャックを他所に、みさおは「どうぞ」と促す。その姿に初めて目元にも笑みを刻むと、少女の手が伸びた。が、その手が不意に止まる。
――チリリリリ……。
 呼び鈴のような音に、彼女の眉間に皺が寄った。
「――呼び出し、か」
 取り出されたのは携帯だ。
 メールか何かを確認して、不意に目の前に名刺が差し出される。
「今度店に来る時は、指名すると良い。その時にでも、ジャックとやらを弄らせてもらおう」
 そう言うと彼女はくるりと身を反転させた。
 彼女が向かうのは、先ほどまでみさおがお茶していた喫茶店だ。
 彼はその姿を見送り、ハッとなって叫んだ。
「あ、ありがとうございました!」
 その声に少女の手があがる。こうして彼女は店の中に消えた。そしてあとに残ったのは、彼女が残した名刺だ。
 そこに書かれていたのは、「りあ☆こい」という店名と、蜂須賀・菜々美という少女の名前だった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8101 / 辻宮・みさお / 男 / 17歳 / 魔道系腹話術師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、朝臣あむです。
このたびは「りあ☆こい」シナリオへの参加ありがとうございました。
みさおPC様につられてだいぶ菜々美が大人しくなっていましたが、如何でしたでしょうか?
今回のお話がPL様のお気に召していただけることを祈りつつ、感謝の気持ちをお伝えします。
このたびは本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。

※今回不随のアイテムは取り上げられることはありません。
また、このアイテムがある場合には他シナリオへの参加及び、
NPCメールの送信も可能になりました。