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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】非情の選択・後編 / 神木・九郎

「あの馬鹿女、何処に行きやがった」
 ぼやきながら周囲を見回す。
 闇雲に走り回り、気付けば住宅街に紛れてしまったようだ。
 神木・九郎は傷ついた自らの左腕を抑えると、一つ息を吐いて路地裏にその身を潜ませた。
 このまま探すにしても、腕の傷が目立ち過ぎてしまう。幸いなことに今の所は一般人に会っていない。
 九郎は腕の傷の深さを確認すると、苦々しげに息を吐いた。脳裏に浮かぶのは、緑銀髪の男――不知火が去り際に残した言葉だ。
「ただでさえ喧しい馬鹿女が怨霊になんぞなった日にゃ、世界規模の大迷惑だぞ」
 そう言いながら皺くちゃのハンカチを取り出す。そして腕に巻きつけると、止血の代わりとした。
「これで良いだろ。後はあの馬鹿女を――」
 九郎が再び歩き出そうとした時だ。
 突如、彼の周囲を金色の光が包んだ。
「ッ、く、何っ!」
 目を焼きそうなほど強い光に瞼を閉じる。そうして光が納まってから瞼を開けた時、景色は一変していた。
「どこだ、ここは」
 鼻を擽る埃の匂い、それに混じる血の匂いに自らの腕に視線を落とす。だが腕の傷だけならそんなに濃い匂いはしない筈だ。
「第1号、到着……」
「!」
 バッと振りかえった先に見えた姿に、九郎の眉が上がった。
「テメェッ、こんなとこに居やがったのか!」
 そう言って掴みかかったのは、瓦礫に凭れて足を投げ出す男、不知火だ。九郎は彼の胸倉を掴むと顔を引き寄せた。
「おい、あの馬鹿女はどうした」
 周囲に視線を向けて、華子がいないことに気付く。そしてもう1つ気付いたものがあった。
 破けて真っ赤に染まった不知火の衣服の隙間から、焼けた肌が見える。状況から察するに、止血のために傷を焼いたのだろう。
 焦げた臭いが鼻につく。そんな中、眉を寄せた九郎を赤い目が見上げた。
「そう、怒るな……っ、そろそろ、他の奴らも――」
「怒るな――じゃねえだろ、質問に答えろ!」
 胸倉を掴んだ相手の身体を大きく揺する。その動きに彼は身動き1つしない。それが余計に九郎の苛立ちを大きくする。
「コイツッ」
 舌打ちをして視線を外す。そこに足音が聞こえてきた。
「またまた偶然だね、九郎さん」
 足音と共に響いた声に目が向かう。
 そこに居たのは頬に傷を受けた金色の瞳を持つ少年――月代・慎だ。
「慎、お前もか」
 彼の頬の傷を見て呟く。そこにもう1つ声が響いて来た。
「凄い偶然――いや、その男がいる時点で必然っぽいかな?」
 不知火に視線を注ぎながら、ぼやくように言葉を発したのは、黒い刀を手にする青年――葛城・深墨だ。彼も全身の到る所に細かな傷が出来ている。
「あんたもか……」
 そう言って九郎の目が不知火に落ちた。
「どういうことか説明してもらおうか」
 こうまで偶然が続くとは思えない。しかも先ほど不知火は『そろそろ、他の奴らも――』と言っていた。それは他の面子がこの場に来ることを知っていたということだ。
「……、説明、するって。今回は全部、な……」
 そうぼやく様に口にすると、不知火は自らを囲む3人の能力者を見回してから口を開いた。
 そこから語られた言葉はあまりにも身勝手で許しがたいことだった。
 自分の仕事を邪魔する能力者を、華子を使って始末しようとしたこと。それが華子の保護者にばれて制裁を受けたこと。そしてその制裁が大暴れして手に負えなったから、能力者を召喚したこと。
「――テメェ、ふざけんなっ!」
 バンッと、掴んだ相手の胸倉を叩きつけるように地面に放った。そんな九郎に残りの2人も、怒りの感情を含ませて不知火に視線を注ぐ。
「俺はこのおじさんが如何なっても良いかな。そもそも、何で欠片を始末してくれなかったのかが疑問」
「俺も、アンタが化け物にやられるのを待ってから退治しても良いかな」
 慎と深墨の言葉に、不知火は困ったように笑い声を零した。
「はは……手厳しい、ガキんちょどもだ」
 疲れたように笑って目を閉じる。その姿を目にした深墨が一度、手にしている愛刀――黒絵に視線を落とした。
 遠くでは爆音が響いている。きっと不知火が語った怨霊とやらだろう。
「――とは言っても、誰かが死ぬのを黙って見ているのも嫌だから手伝ってやるよ」
 そう言って身体の向きを騒動が起きている方角に向けたのは深墨だ。不知火の言葉が正しければ、彼が見据える先に砂燐とか言う怨霊がいる筈だ。
「俺はおじさんの安否はどうでも良いや。でも暴れている怨霊は放っておけないから、お兄さんに手を貸すね」
 慎は不知火にではなく、深墨に笑顔を向けるとコキリと指を鳴らした。
 それに同意するように九郎も前に出る。
「俺もあの化け物は放っておけない。だから化け物退治はしてやる。で――あいつの弱点は何だ。核は何処にある」
 九郎は言葉を途中で切ると、視線を巡らし不知火を見た。
 元々砂燐を召喚しようとしていたのだ。弱点くらい知っていてもおかしくはない。
「水……核は、胃の中」
 不知火はそう言うと、身体を無理矢理起こして腰に下げたランプを外した。それを3人に向けて掲げる。
「俺様には効かねえが、あんた等になら効く筈だ」
 ランプから溢れだした金色の光が、3人の身体を包み込む。その直後、今まで疼いていた痛みが消えた。
「どういうつもりだ」
 力尽きたように、再びその場に寝転ぶ不知火に、九郎が訝しげな視線を向ける。その言葉に慎も視線を向けた。
「俺様からの愛情表現よん」
 若干笑いながら言われた言葉に、九郎は知らずの内に拳を握り締める。
「……この爺、後でブン殴る」
 そう言って九郎は砂燐の元に向かった。

 崩壊したビルの合間に除く不気味な影。それを視界に納められる距離で足を止めると、3人は顔を見合せて各々の役割を確認した。
「じゃあ、予定通り俺と九郎が囮で、慎が弱点攻撃。これで良いかな?」
 深墨の声に皆が頷く。
 それを見止めて、彼は黒絵を鞘から抜き取った。黒光りする刃が化け物へと向けられる。
「行くぞ」
 九郎の声を合図に地面を蹴る。
 九郎の役割は、深墨と共に弱点攻撃の準備ができるまでの時間稼ぎだ。慎ならば弱点に対する攻撃ができると踏んでの結論だった。
 当の慎はすでに弱点攻撃のための準備に入っている。それを承知で砂燐の元まで一気に距離を詰める。
「暴れるだけしか能がねえなら、叩き潰すのみ!」
 九郎は万全になった拳に力を込めると、それを叩きこんだ。そこに砂燐の放った砂塵が舞い上がる。
「くっ!」
「瘴気相手なら俺が断つ!」
 九郎の周りに纏わりつく砂塵を、深墨の愛刀・黒絵が斬り払った。
「やっぱり、ただの砂じゃない」
 深墨の呟きを聞きながら、良くなった視界に構え直す。
「砂をぶっ潰せれば攻撃は届く、か」
 呟いて拳に視線を落とす。
 後方では必死に気を練り上げている慎がいる。
「――でも、やるしかない」
 深墨の声に九郎が頷く。
「じゃあ、俺は後ろから行くよ」
「なら、俺は前からだな」
 2人が同時に駆けだす。
 黒絵を手に砂燐の背後に回った深墨を視界に納め、九郎は前に回り込む。彼は砂塵を舞い上がらせるその姿を見据えて、地面に手を着いてからそれを握り締めた。
「さあ、こっちに注意を向けてもらおうか」
 そう言いながら彼が大きく腕を掲げる。そして放たれたのは物凄いスピードで放たれた石だ。
 次々と放たれる石に、砂燐が僅かに怯む。そして反撃をしようと砂塵の中から砂の刃を繰り出してきた。
「当たらねえよ」
 向けられる砂の刃を寸前のところで交わしながら距離を縮める。そして砂塵が舞い立つその位置まで来ると、踏み込むの足に力をこめ拳を低く下げた。
「ぶっ壊す」
 視線の端には深墨が抜刀の構えを取るのが見える。そして彼が刃を抜くのと同時に、九郎の拳が砂塵を叩いた。
 無数の砂が皮膚を裂くが関係ない。拳を突きつけたまま身体を突っ込む。
「うおおおおお!」
――パンッ。
 何かが破裂するような音がした。
 その直後、砂燐の放っていた砂塵が消え去る。
「今のうちだ、慎!」
 慎に向かって叫んだ九郎の視界に、青白い光が見えた。
「結界を張って!」
 離れた位置で状況を見ていた慎が叫ぶ。
 それに合わせてサポートに回るために身を寄せていた2匹の蝶が九郎の前に立塞がった。
 鱗紛の膜を張り結界を作り出す蝶の元に青白い炎が激突する。
――パンッ、パンッ!
「助けられたか……」
 響く音に表情を引き締めて態勢を整える。
 そして小さく息を吐き、足に力を込めると、慎の叫びが響いてきた。
「おじさんからの情報だよ。そいつは怨霊・鬼火って言って、個々に意志をもって攻撃して来るらしいよ!」
 どうやら不知火は皆の様子が気になって近くまで来たようだ。今は慎の近くにでもいるのだろう。
「深墨さん、今の聞こえたか?」
「ああ、聞こえたよ」
「なら、悪いが俺は鬼火とやらの注意を惹くぜ。この化けもんは、葛城さんに任せるよ」
 砂塵の壁は消えた。
 後は慎に攻撃をさせる手段を講じれば良い。
 となれば砂燐の注意を惹き、なおかつ攻撃できる隙を作る必要がある。
「わかった。引き続き、こいつの相手をするよ」
 そう言って深墨は地面を蹴って砂燐の脇を抜けて前に出た。
「もう少しだけ遊んでもらおうか」
 ニッと笑った深墨に、砂燐が砂の刃と尻尾を繰り出す。それを刃で切り抜ける深墨の横では、九郎が無数の鬼火と対峙していた。
「手が焼けそうだ」
 そう言って若干熱くなった拳を舐める。そうして再び構えを取ると、迫る鬼火を見据えた。
 ゆらゆらと揺れる炎の中にキラリと光る何かが見える。
「あれが核か」
 九郎は呟くと、奥義の構えを取った。
「喰らえっ!!!」
 拳に集中させた気を一気に叩き込む。
――シュウウウ……。
 まるで水が蒸発するように溶けた鬼火を見送り、次に拳を叩き込む。
 その姿を離れた場所で眺めていた慎は、手にしている上着に視線を落とした。
「次は俺の番だね」
 そう言いながら、水の属性と水分を充分に含ませた上着を手に地面を蹴った。
 飛躍した身体が迷うことなく砂燐に向かう。そしてその身が砂燐の頭上から舞落ちると、彼は顔面に上着を被せた。
「さあ、属性を解放するよ」
 そう言って指に糸を絡めて解き放つ。
 上着を取ろうともがく砂燐の頭に糸を巻き付けて捕縛する。そしてそこに気を放った。
――ぐあああああああ!
 叫び声が響く中で、大量の水が砂燐に降り注ぐ。しかし攻撃はこれで終わりではない。
「氷結硬化」
 慎が呟くのと同時に氷の属性が糸を伝って砂燐を襲った。
直後、砂燐の体が凍る。今まで動いていた尻尾も、足掻く体も、ピクリとも動かなくなった。
「さあ、深墨さん、そのまま止めを!」
「了解」
 深墨は攻防の為に繰りひろげていた剣技を砂燐の腹部に定めた。
 そして狙いを定めて一気に貫く。
――ギャアアアアア!!!
 深く突き刺さった刃から溢れんばかりの光が零れる。その光を受けて深墨は黒絵を抜き取ると、後方に飛んだ。
 その傍には鬼火を全て消滅し終えた九郎が立っている。彼は硬直した砂燐が砕ける姿を見てぽつりと呟いた。
「何かが変だ」
 普段の怨霊とは消滅の仕方が微妙に違う。そのことに違和感を覚えるが確証がない。
「凍らせたせい、なのか?」
 そう呟くと、九郎はもやもやとした感情を胸に抱えたまま拳を見詰めたのだった。

   ***

「ちょっと、その肉あたしのでしょ!」
 そう言って九郎が取った肉を、横取りするのは華子だ。それに九郎の眉が上がる。
「っ、何しやがんだ、この馬鹿女!」
 鋭い視線を飛ばして、九郎の箸が華子の前にある肉を根こそぎ奪ってゆく。その姿を見ていた深墨が呟いた。
 彼らが今いるのは焼き肉店だ。
 九郎たちが砂燐を倒したあと、忽然と姿を消した不知火の代わりに華子が現れた。そして現れ襲撃したお詫びに焼肉をおごると言い出し、今に至る。
「どっちもどっち……」
「だよね」
 慎は黙々と自分の分だけの肉を焼いて、時折それを深墨の皿に入れてくれている。
「結局、おじさんはどっかに行っちゃったし、訳がわかんないままだったね」
 慎の言葉に根こそぎ奪った肉を口に入れた九郎が、ふと思い出したように隣で焦げた野菜をもそもそ突く華子に視線を向けた。
「おい、馬鹿女」
「……なによ、馬鹿男」
 よほど肉を取られたことが悔しいのか目も向けやしない。
「お前、きちんとコーヒー奢れよ」
「はあ!?」
 素っ頓狂な声を上げた華子に、九郎はしれっとして新たな肉を焼き始めている。
 焼き肉は今回の手間賃。コーヒーは前回の手間賃。そう言うことなのかもしれない。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】
【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】
【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】

登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 星影・サリー・華子 / 女 / 17歳 / 女子高生・SSメンバー 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
非情の選択・後編にご参加いただきありがとうございました。
華子が絡むとキャラが崩れてしまう九郎PCには頭が下がるばかりです;
それでも読んで少しでも楽しんで頂ければ、うれしいです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。