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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】非情の選択・後編 / 葛城・深墨

「ああ、もう。何処に行ったんだ」
 道端で息を切らせて深呼吸を繰り返す男が1人。何度か息を吸いこんであげた顔にはうっすらと汗が浮かんでいる。
 彼の名は葛城・深墨。
 走り始めてだいぶ経つが、何処をどう走って来たかあまり記憶にない。とりあえず何処かの住宅街に紛れたことだけは確かだ。
「まずいな。完全に見失った」
 そう口にして額の汗を拭う。
 脳裏に蘇るのは緑銀髪の男――不知火が残した言葉だ。
「早くしないと、あの女の子が……」
 深墨は自らが手にする刀、黒絵に視線を落とすと姿勢を正した。
 一度刃を交えた相手だが、事情を知ってしまっては見捨てる訳にはいかない。彼は一度息を大きく吸い込むと歩きだそうとした。
「――!」
 一歩を踏み出そうとした足が止まる。視線が頭上を向き何かを見据える様に視線が鋭くなった。
 その直後だ。
「これはッ――」
 突如眩い光が彼の視界を奪った。
 咄嗟に目を閉じてやり過ごすが、妙な違和感が身体を包む。そして光が消え去ると、彼は瞼を開けて辺りを見回した。
「……あ? 何処だここ!?」
 叫んだ深墨の眼前に広がるのは瓦礫の山だ。
 さっきまでは確かに住宅街にいたはずなのに、いったいどうしたことか。彼は僅かに鼻を擽る埃っぽい匂いに鼻を擦ると、もう一度周囲を見回した。
――ドオオオオン。
 地響きのような音がして、遠くで爆煙らしきものが上がる。それを見て彼の喉がゴクリと鳴った。
「いったい、どういう状況なんだ」
 訳が分からない。そう口中で呟いた時、彼の耳に聞き覚えのある声が響いて来た。
「――じゃねえだろ、質問に答えろ!」
 目を向けた先に映った人影に目を見開く。
「あれってもしかして……あ、あの子も」
 瓦礫の合間から覗く人影に覚えがある。
 学生服に身を包んだ黒髪の青年は、神木・九朗とか言う青年だ。そして彼に近付こうと足を進めるのは金色の瞳を持つ少年、月代・慎だろう。
「彼らがいるという事は、あの不知火とか言う男も――っ、あれは」
 深墨の目が再び見開かれる。
 九郎の手に掴まれたその先に居るのは、ぐったりと腕を下げた緑銀髪の男――不知火だ。
「やっぱり……でも様子がおかしい?」
 呟くと、今まさに接触を図ろうとする九郎と慎に歩み寄った。
「またまた偶然だね、九郎さん」
「慎、お前もか」
 慎を相手に振り返った九郎の姿を確認して深墨は足を止めた。その姿に九郎は気付いたようだ。
「凄い偶然――いや、その男がいる時点で必然っぽいかな?」
 深墨はチラリと不知火に視線を寄こした。
 その目に映ったのは、腹部に負った深い傷だ。敗れた衣服にはこってりと血が滲み、血液が溢れだすはずの皮膚は赤く焼け爛れている。
 きっと止血のために焼くか何かしたのだろう。
「さっきは怪我なんてしてなかったはずだけど」
 何があったのか推測しようとするが情報が少なすぎる。そもそも怪我をしているのは、不知火だけではなく九郎や慎もだ。
 特に九郎の左腕に傷は酷そうだ。
「うーん、情報不足……」
 そう呟いて肩を竦めた時だ。
「どういうことか説明してもらおうか」
 深墨と同じように疑問を抱いていたのだろう。九郎は掴んだ不知火の胸倉を引き寄せると、凄んでみせた。
 その声に、重く閉じられていた不知火の瞼が上げられる。
「……、説明、するって。今回は全部、な……」
 そうぼやく様に口にすると、不知火は自らを囲む3人を見回して口を開いた。
 そこから語られた言葉はあまりにも身勝手で許しがたいことだった。
 自分の仕事を邪魔する能力者を、華子を使って始末しようとしたこと。それが華子の保護者にばれて制裁を受けたこと。そしてその制裁が大暴れして手に負えなったから、能力者を召喚したこと。
「――テメェ、ふざけんなっ!」
 バンッと、不知火の胸倉を地面に叩きつけるように九郎が放った。
「良かった。あの子は無事なのか」
 ホッと息を吐きながら、地面に転がる不知火を見ていると、慎の声が聞こえてきた。
「俺はこのおじさんが如何なっても良いかな。そもそも、その男の人、何で欠片を始末してくれなかったのかが疑問」
 慎の言葉は確かにその通りだ。
 それに深墨自身、不知火のしたことは許せない。
「俺も、アンタが化け物にやられるのを待ってから退治しても良いかもな」
 そう口にして視線を外す。
 その言葉に不知火は困ったように少し笑って呟いた。
「はは……手厳しい、ガキんちょどもだ」
 疲れたように笑って目を閉じる。それを視界に端に捉えると、深墨は長く息を吐いて黒絵に視線を落とした。
 遠くでは爆音が未だに響いている。
「――とは言っても、誰かが死ぬのを黙って見ているのも嫌だから手伝ってやるよ」
 そう言って身体の向きを騒動が起きている方角に向ける。不知火の言葉が正しければ、この先に砂燐とか言う怨霊がいる筈だ。
「俺はおじさんの安否はどうでも良いや。でも暴れている怨霊は放っておけないから、お兄さんに手を貸すね」
 慎は不知火にではなく、深墨に笑顔を向けるとコキリと指を鳴らした。
 それに同意するように九郎が前に出てくる。
「俺もあの化け物は放っておけない。だから化け物退治はしてやる。で――あいつの弱点は何だ。格は何処にある」
 九郎は言葉を途中で切ると、視線を巡らし不知火を見た。
 元々砂燐を召喚しようとしていたのだ。弱点くらい知っていてもおかしくはない。
「水……核は、胃の中」
 不知火はそう言うと、身体を無理矢理起こして腰に下げたランプを外した。それを3人に向けて掲げる。
「俺様には効かねえが、あんた等になら効く筈だ」
 ランプから溢れだした金色の光が、3人の身体を包み込む。その直後、今まで疼いていた痛みが消えた。
「どういうつもりだ」
 力尽きたように、再びその場に寝転ぶ不知火に、九郎が訝しげな視線を向ける。その言葉に深墨も視線を向けた。
「俺様からの愛情表現よん」
 若干笑いながら言われた言葉に、深墨の眉間に深い皺が刻まれる。そして彼はその表情のまま視線を瓦礫の向こうに向けた。
「……今のは聞かなかったことにしておこう」
 そう呟くと、深墨は砂燐の元に向かった。

 崩壊したビルの合間に除く不気味な影。それを視界に納められる距離で足を止めると、3人は顔を見合せて各々の役割を確認した。
「じゃあ、予定通り俺と九郎が囮で、慎が弱点攻撃。これで良いかな?」
 深墨の声に皆が頷く。
 それを見止めて、彼は黒絵を鞘から抜き取った。黒光りする刃が化け物へと向けられる。
「行くぞ」
 九郎の声を合図に地面を蹴った。
 深墨の役割は、九郎と共に弱点攻撃の準備ができるまでの時間稼ぎだ。慎ならば弱点に対する攻撃ができると踏んでの結論だった。
 当の慎はすでに弱点攻撃のための準備に入っている。それを承知で砂燐の元まで距離を縮めたのだが――。
「――でかい」
 深墨は呟くと砂燐の姿を見上げた。
 自らの倍はあろうかという身の丈にゴクリと唾を呑む。しかしここで怯む訳にはいかなかった。
 砂燐は深墨たちに視線を向けることなく瓦礫を増やしている。このまま破壊を続けて壊す物が無くなれば、その矛先は一般人が生存する街に向かうだろう。
「暴れるだけしか能がねえなら、叩き潰すだけだ!」
 そう言葉を発して構えを取った九郎は、一気に間合いを詰めて拳を砂燐に叩きこもうとする。しかしその攻撃は砂塵によって遮られた。
 それを目にした深墨が動く。
「瘴気相手なら俺が断つ!」
 九郎の周りに纏わりつく砂塵を黒絵が斬り払った。
「やっぱり、ただの砂じゃない」
 先ほど華子と対峙した時にもしやとは思ったが、どうやら間違いなかったようだ。
 対処方法は大体わかったが、近付けば同じ攻撃が来るだろう。深墨はチラリと慎を振り返った。
 どうやらまだ術は構築段階のようだ。必死に気を練り上げている姿に視線を戻す。
「――でも、やるしかない」
 深墨の声に九郎が頷く。
「じゃあ、俺は後ろから行くよ」
「なら、俺は前からだな」
 2人が同時に駆けだす。
 黒絵を手に砂燐の背後に回った深墨は、刃を鞘に納めると腰を低くして、抜刀の構えを取った。
「1度やってみたかったんだよね」
 そう言いながら砂塵の向こうに見える九郎の動きを目で追う。そして彼が砂燐の前に来ると、深墨は一気に黒絵を引き抜いた。
 閃光と共に切り裂かれた砂の壁。
僅かに出来た隙間に深墨は自らの身体を滑り込ませると、空かさず刃を繰り出す。
 だがそれが思わぬ攻撃を受けて防がれた。
「っ、尻尾!?」
 目の前の視界を遮るように現れた巨大な鱗を持つ尾だ。それが深墨の動きを阻むように攻撃してくる。
「関係ない、斬るだけだ」
 そう言いながら迫る尻尾に一撃を加える。
――グウウウウウ……ッ。
 僅かに引いた尾を追撃して更に刃を閃かす。そうしている間に、九郎も砂燐の間合いに近付いたようだ。
「うおおおおお!」
 気合いの籠った叫びが響き――。
――パンッ。
 何かが破裂するような音がした。
 その直後、砂燐の放っていた砂塵が消え去る。
「今のうちだ、慎!」
 慎に向かって叫んだ九郎に向けて、青白い光の塊が迫るのが見えた。
「危ない!」
 咄嗟に飛び出そうとするが、自らが対峙する尾によって遮られてしまう。しかし案じる必要はなかったようだ。
 慎が放った2匹の蝶が九郎を守護するのが見えた。
「良かった」
 そう口に刃を振り上げる。そして安堵の息を吐くと慎の叫びが聞こえた。
「おじさんからの情報だよ。そいつは怨霊・鬼火って言って、個々に意志をもって攻撃して来るらしいよ!」
 どうやら不知火は皆の様子が気になって近くまで来たようだ。今は慎の近くにでもいるのだろう。
「深墨さん、今の聞こえたか?」
「ああ、聞こえたよ」
 後方に飛び退きながら答える。
 少し砂燐から距離を取ったおかげで九郎の姿が見えた。
「なら、悪いが俺は鬼火とやらの注意を惹くぜ。この化けもんは、葛城さんに任せるよ」
 任せるとは簡単に言う。
 深墨は苦笑を零すと、黒絵の柄を握り直した。
「わかった。引き続き、こいつの相手をするよ」
 そう言って深墨は地面を蹴って砂燐の脇を抜けて前に出た。
「もう少しだけ遊んでもらおうか」
 ニッと笑った深墨に、砂燐が砂の刃と尻尾を繰り出す。それを刃で切り抜ける深墨の横では、九郎が無数の鬼火と対峙していた。
「手が焼けそうだ」
 そう言って若干熱くなった拳を舐める。そうして再び構えを取ると、迫る鬼火を見据えた。
 ゆらゆらと揺れる炎の中にキラリと光る何かが見える。
「あれが核か」
 九郎は呟くと、奥義の構えを取った。
「次は俺の番だね」
 慎は水の属性と水分を充分に含ませた上着を手に地面を蹴った。
 飛躍した身体が迷うことなく砂燐に向かう。そしてその身が砂燐の頭上から舞落ちると、彼は顔面に上着を被せた。
「さあ、属性を解放するよ」
 そう言って指に糸を絡めて解き放つ。
 上着を取ろうともがく砂燐の頭に糸を巻き付けて捕縛する。そしてそこに気を放った。
――ぐあああああああ!
 叫び声が響く中で、大量の水が砂燐に降り注ぐ。しかし攻撃はこれで終わりではない。
「氷結硬化」
 慎が呟くのと同時に氷の属性が糸を伝って砂燐を襲った。
直後、砂燐の体が凍る。今まで動いていた尻尾も、足掻く体も、ピクリとも動かなくなった。
「さあ、深墨さん、そのまま止めを!」
「了解」
 深墨は攻防の為に繰りひろげていた剣技を砂燐の腹部に定めた。
 そして狙いを定めて一気に貫く。
――ギャアアアアア!!!
 深く突き刺さった刃から溢れんばかりの光が零れる。その光を受けて深墨は黒絵を抜き取ると、後方に飛んだ。
 その傍には鬼火を全て消滅し終えた九郎が立っている。彼は硬直した砂燐が砕ける姿を見てぽつりと呟いた。
「何かが変だ」
 そう口にされた言葉の意味は分からない。
 それでも深墨も心のどこかに違和感と疑問を抱いてこの戦いを終結させたのだった。

   ***

 肉の焼ける匂いがする。
 目の前では九郎、慎、そして自分を襲った少女、華子と名乗る少女が奪い合うようにして焼肉を食べていた。
「ちょっと、その肉あたしのでしょ!」
 そう言って九郎の取った肉を、華子は横から奪い取った。
「なっ、何しやがんだ、この馬鹿女!」
 そう言いながら、華子の前にある肉を奪い去る九郎を見てぽつりと呟く。
「どっちもどっち……」
「だよね」
 慎は黙々と自分の分だけの肉を焼いて、時折それを深墨の皿に入れてくれている。
「結局、おじさんはどっかに行っちゃったし、訳がわかんないままだったね」
 慎の声に頷く。
 深墨たちが砂燐を倒したあと、不知火の姿は忽然と消えていた。そしてそこに目の前で肉を争奪している少女、華子が現れたのだ。
「襲ったお詫びに焼肉って……そんなことでチャラになる戦いじゃなかった気が……」
「気にしたら負けだよ」
 そう言って1人納得したように頷く慎に習って、深墨も肉を口に運んだのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】
【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】
【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】

登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 星影・サリー・華子 / 女 / 17歳 / 女子高生・SSメンバー 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
非情の選択・後編にご参加いただきありがとうございました。
もしかするとPL様が想像している深墨PCとは、
性格が変わってきてるかもしれないと思いながらも、ドキドキと執筆させていただきました。
読んで少しでも楽しんで頂ければ、本当にうれしい限りです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。