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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route1・実験の対価は実験で / 宵守・桜華

 閑静な住宅街を、名刺片手に歩く男が1人。
 周囲をきょろきょろと見回しながら、時折名刺に視線を落とす。
「たーしか、この辺りだったんだがな」
 宵守・桜華は脳内に浮かぶ地図を頼りに足を進めている。彼が探すのは執事&メイド喫茶「りあ☆こい」と言う店だ。
 妙に気恥しいその場所に足を運ぶのは、とある事情をもっているから。決してメイドがみたいとか、メイドで目の保養をしたいだとか、そんな不純な動機ではない。
「おっ、ビンゴ♪」
 発見したのは外観が普通の喫茶店だ。
 桜華は名刺を手にしたまま店の扉を押し開けた。
「お帰りなさいませ〜、ご主人さま♪」
 店に足を踏み入れて第一声掛けられた声に、「おおう」と感嘆の声を上げる。そこに水色の髪をツインテールにしたメイドが駆け寄ってきた。
「良いね、良いねえ」
 ほくほくとしながらメイドを眺めて、その目が店内に向けられた。
 ぐるりと見回す店の中はゴシック調の造りの豪華な感じだ。外観からは想像できないほど凝った作りに、またまた感嘆の声が漏れてしまう。
 そんな店の中では数名の執事とメイドが働いているのだが、どう目を凝らしても目的の人物が見当たらない。
「あの〜、ご主人さまは誰かお探しですか?」
 伺うように掛けられた声に、桜華の視線が戻った。
「蜂須賀・菜々美とか言う――」
「ぎやあああああ!!!!」
 桜華の言葉を遮るように、耳をつんざかんばかりの叫び声が響いた。その声に彼の目が悲鳴の元に向かう。
「あれは……」
 彼が目にしたのは眼鏡をかけた吊り上がった目の少女だ。彼女は黒のロングのメイド服を身に着け、接客にあたっているようだ。だがその様子がおかしい。
「ですから、お客様ぁ〜。以前も言いましたけど、この店はお障り厳禁――わかってるよな?」
 片足を使われていない椅子に乗せて身を乗り出す姿はその筋の人と同様に迫力がある。しかも声にはドスが効いており、聞いていても空恐ろしい雰囲気が漂っている。
 客はと言えば、ガクガクと震えながら、彼女の手元を見ている。そして怯えの元――銃が客の額に添えられた。
「わあ! 菜々美ちゃん、待った待った!」
 桜華の前に居た少女が、慌てて菜々美と呼ばれた少女に駆け寄った。そして銃を持つ手を掴んで引っ張る。
「――葎子、邪魔をするな」
 鋭い視線が少女――葎子に飛ぶ。それに怯んだ様子も見せず、彼女は腕を思い切り引っ張った。
「待ってったら、待ってぇ!」
 強引な動きに腕が下げられる。その隙に、葎子は菜々美と客の間に割って入った。
「勇気のある嬢ちゃんだ」
 そう言いながら眼鏡の位置を指で押し上げて歩き出す。向かうのは当然、騒ぎが起きている場所だ。
「駄目だよ。この人はまだ初犯なんだから!」
「初犯がどうした。罪は罪、それを償うのは体で十分だろう」
 若干引っ掛かる物言いだが、言い切った菜々美は銃を持つ手を再び掲げた。そこに手が伸びる――が、その手が触れる前に銃口が別の法を向いた。
「よお、蜂須賀。遊びに来たぜ」
 眉間に突きつけられた銃口をものともせずに、ニッと笑って片手を挙げて見せる。その姿に、菜々美の眉が上がった。
「……貴様」
 彼女の眼鏡に隠れる瞳が細められた。
「あんたが言ってた実験とやらに付き合いに来たんだが……」
 桜華の目がチラリと彼女の足元に落ちた。
 そして下から頭上までを確認するように視線が動く。その奇妙な視線に、菜々美の眉間に皺が刻まれる。
「文句があるのか?」
 低く問いかける声に、桜華はぶんぶんっと大きく被りを振った。
 その上でズイッと身を屈めて顔を寄せる。その顔に意味ありげな笑みが浮かぶ。
 そして――。
「メイドスタイルが眩しいです!」
 嬉々として放たれた声に、菜々美の足が一歩下がった。
 その反動か、意図的かはわからないが、安全装置が軽やかに外される。眉間には銃口が添えられているのだからこの状況は危険だ。
 しかし桜華は言葉を止めない。
「ロングとはわかってらっしゃる。ここの経営者は素晴らしい! うへへへ」
 一見しないでも二見しないでもわかる。
 明らかに不審人物として周囲から見られているであろう桜華を含め、この場の全員に何かが「ぶちっ」と切れる音が聞こえた。
 その直後、ものすごい衝撃が彼の頭を襲う。
「ぬあっ!?」
 後方に吹き飛んだ桜華と、その姿に背を向けて、優雅に足を下す菜々美がいる。どうやら彼女の回り蹴りが、桜華の頭を見事に撃ち抜いたようだ。
「きゃああああ! 菜々美ちゃん、お客様になんてことするのっ!」
「あれは客じゃない。あたしの実験体だ」
「違うでしょっ!」
 すかさず入るテンポの良い突っ込みを耳にしながら、桜華は意識が遠退くのを感じていた。

 ***

 人生何が起こるかわからないから楽しい。そうは思うが、こうも痛いことが続くとその考えもどうかと思えてくる。
 桜華は涼しげな外の空気を肌に感じながら、頭に濡れたタオルを乗せて腰を下していた。
 ここは喫茶店近くにある神社。人払いの術を桜華が施し、今は人影がない。あるとすれば桜華と彼の前に憮然として腕を組んで立つ少女――菜々美くらいだ。
 既にメイド服ではなく制服に着替えている彼女の姿を眺めながらぽつりと呟く。
「案外、普通の嬢ちゃんなのな」
 こう言葉を零すには訳がある。
 先ほど店で桜華を蹴り倒した菜々美は、喫茶店のオーナーとか言う人物にキツクお説教を喰らったらしい。そのことで機嫌が悪くなっているようだ。
「貴様さえ来なければ……」
 向けられた視線に苦笑が漏れる。
 そもそもの原因は菜々美ではないか。だが彼女からすれば、桜華が来たから騒動が大きくなったとでも言いたいのだろう。
 彼は苦笑したまま眼鏡の位置を整えて口を開いた。
「俺は実験に付き合うために来ただけだ。他に理由は無い! ――で、何をするのかな?」
 ビシッと指を突きつけて言い放つ言葉に、嘘偽りがないはずはない。だがまずは目的を果たすことが先決だ。
 桜華の言葉に菜々美の足が動き、彼女の視線が真っ直ぐに彼を捉えた。
「確か、九字法の実験とか言ってたよな」
 以前会った時の言葉を思い出す。
 自分を実験体に任命した彼女は、九字法の術を極めるための実験に付き合えと言っていた。それ以降の言葉は今のところスルーだ。
 まあ、興味がないわけではないが、あえて触れる必要もないだろう。
「良いだろう、教えてやる。お前は、あたしの弾を受けてそれに関する感想を述べる。これだけだ」
「これだけって……それ、死ぬんじゃない?」
 さらりと言ってのけられた言葉に、鋭い視線が飛ぶ。どうやら機嫌がマックスに悪いらしい。
「い、いや、あれだ。見せてさえくれれば、アドバイスくらい――」
「不可能だ」
 これまたきっぱり言われた。
 その言葉に、若干ムッとする。
「そう簡単に言いきっちゃうわけね」
 彼は頭に乗せたタオルを退けると、のっそり立ち上がって彼女の前に立った。そして人差し指で招いて見せる。その仕草に、彼女の目が眇められた。
「受けてやろう」
 そう言って構えを取った相手に対して眉が上がる。冗談か、それとも本気か定かではないが、正気の沙汰とは思えない。
「……なら、この弾を受けろ」
 菜々美は少し思案してから、銃を取り出すと中の弾を全て取り出して新たな弾を装填した。
 そして銃口を相手に向ける。
「不動明王の力を持つ外縛印を刻んだ弾だ。受けた者の自由を奪い、呪縛の元に消滅へと誘う」
 到底、普通の人間ならば理解できない話だ。
 それを承知の上で言葉を放つ。しかし返ってきた言葉は意外なものだった。
「成るほど、単純な九字法じゃなくて、一つ一つをバラしてそこに宿る意味を弾に込めているのか。不動明王の印は『者』。これが嬢ちゃんの言う、いろいろ、か」
 納得云ったように呟く桜華に、菜々美の目が驚きに見開かれる。
「言ったでしょ。アドバイスくらい出来るって。いや、途中で区切られたから、わかんなかったかな?」
 ニヤリと笑うと、桜華はコイコイと手招いた。
 やはり先ほどの言葉に違わず攻撃を受けようというのか。
 菜々美は少し悩む仕草を見せると、銃の安全装置を外した。
「死んでも化けて出るなよ」
 そう言って引き金に手をかける。
――ドンッ。
 迷いもなく放たれた弾が桜華に迫る。
 通常の弾丸と同じ速さで迫る弾を、桜華は片手で受け止めた。
 掌を貫通する勢いで食い込むそれに、もう1つ手を添えて抑え込む。
「ッ、……これで、どうだっ!」
 手に纏わりつく痺れるような感覚。きっとこれが彼女の言う呪縛なのだろう。それが完全に発動しきる前に、桜華は強引に腕を引いて掌を下に向けた。
 そしてそれを地面に叩きつける。
――ゴゴゴゴゴォォォッ。
 地響きのような音と共に大地が地震でも来たかのように大きく揺れ始めた。それに合わせて周囲の木々もざわめきだす。
 ハラハラと葉を払い落す草の根を聞きながら、桜華は必死に術を抑え込もうと掌を更に押しつける。そうして地響きが納まると、彼はゆっくりと身を起こした。
 掌からは尋常でない量の血が流れるが、桜華は慌てる様子を見せない。元々、常人よりも早い回復力を持つ彼にとっては、この程度の傷は治る範囲なのだ。
 それよりも気になることがある。傷口から感じる痛み以外の痺れるような感覚。これは彼女の言う術の範囲なのか。
「何か違う術が組み合わさってるか? それとも――んん、どうした?」
 真剣に術の解析を行っていた桜華の手を、菜々美の手が奪い取った。マジマジと傷口を見つめて、キツイ視線が彼に向かう。
「貴様、馬鹿だろ」
 ズバリ言って手が離される。そして彼女の手が軽やかに印を刻んだ。
 この動きには覚えがある。
「九字法、日輪印」
 両の手の親指と人差し指で輪を作りだす印の形。弥勒菩薩が象徴とされる『在』の印だ。
 そこから、温かな光が桜華の手に降り注ぐ。そして徐々に血の流れが止まり、傷は残っているものの止血がなされた。
 そのことに桜華の口から口笛が漏れる。
「自己流にアレンジしてるが良い腕してるねえ」
 そう言いながら手を握ったり開いたりする。
 そのすぐ傍では、不服そうに、そして若干複雑そうに眉を寄せる菜々美がいる。それを見て、桜華はふと彼女の顔を覗きこんだ。
「所でな、嬢ちゃん。俺は大事な事を忘れていた」
 新妙な面持ちで言葉を発する桜華に、訝しげな視線が向けられる。
「俺は名乗ってない」
 声を潜めて言う言葉に、ピクリと眉が動いた。
 これでまた銃口が向けられるだろうか。そう思ったが、意外にも攻撃は来なかった。
 菜々美は呆れたように息を吐くと、腕を組んで視線を寄こした。
「聞くだけ聞いてやる」
 言え。そう顎で促され、桜華は1つ頷くと己の手を差し伸べた。
「俺は宵守・桜華。好きに呼んでくれ。お兄様とか、桜華様とか……ああ、ご主人さまでも――」
 無理矢理、菜々美の手を取りながら発する言葉に、「ぶちっ」と聞き覚えのある音が響いた。
「――貴様は、大馬鹿者で十分だ!」
 そう叫ぶのと同時に、カチリと機械音がする。
 そして……。
――ドンッ。
「ぬおおおおお!!!」
 ハラハラと舞い落ちる髪にいつぞやの光景が思い出される。
 桜華は自らの髪を見ながら、乾いた笑いを零したのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 4663 / 宵守・桜華 / 男 / 25歳 / フリーター・蝕師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】

【 蝶野・葎子 / 女 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】(ちょい役)


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ1へご参加頂き有難うございました。
桜華PCと菜々美の掛け合いは考えるだけでも楽しいです。
その楽しい気持ちが少しでも伝わっていれば嬉しいです。
このたびは本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。