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<東京怪談ノベル(シングル)>


闇夜の者達・参

普段は静けさに包まれる森が、殺気に満ちていた。
暗殺を仕事とし、女性として他を凌駕する程の豊満な肉体を持ち、そこからは想像も出来ないような鮮やかな戦闘術を持つ女…水嶋琴美。
対して、強大な肉体に見合った絶大な力を持つ傭兵…ファング。
しかし…その実力差は時間が経つ程に開いていくように見えた。

「ぐっ…。っ、はぁ…っ、はぁ…!」
琴美の息切れや苦痛の喘ぎは、どんどんと大きくなっていった。身体をぴっちりと覆っているインナーとスパッツ自体には傷もついていないのだが…その下にある華奢且つ豊満な肉体は、悲鳴を上げていた。強大な力で蹴り上げられ、締め付けられた女の身体は、本来の素早さを半分も出せない程に痛めつけられている。
「…ククク。随分と苦しそうだなァ…姉ちゃん。…ま、すぐに楽にしてやるからよ…」
まるで恐怖を琴美に突きつけるかのように、ファングは一歩、一歩とゆっくり近付いてくる。膝にクナイを刺され、鼻骨を折られてもビクともしない巨人。素早さを凌駕する、圧倒的な防御力。…まるで、何も起きていなかったかのようにファングは平然としていた。

…そして、両者の距離はお互いの拳が届くまで近付いた。膝をつく琴美と、それを悪魔のような笑みで見下ろすファング。
先制攻撃は、ファングからだった。
「おらァッ!!」
屈んだ状態の琴美を叩き潰すかの如く、丸太のような太い右腕を思い切り振り下ろす!
「…っ!はっ!」
琴美はそれを見切ると痛んだ身体をどうにか動かし、拳を横へ避ける。そして、地面に叩きつけられた右腕に、素早くクナイを突き刺した。
しかし…鋼のような筋肉にクナイは深く刺さらず、僅かな血液を噴出させただけにすぎなかった。
「もう分かってンだろ?俺にお前の攻撃は…効かねェんだよ!!」
ファングはそのままの体勢で右腕を大きく横へ薙ぐ。見た目からは思いもよらない、素早い腕の動き。避ける事も出来ず、琴美の腹部にファングの肘がクリーンヒットする。
「…っ!ぐ、ああっ…!」
琴美の身体が一瞬宙に浮くと、そのまま後ろへと吹き飛ばされる。受身も取る事が出来ず、琴美はそのまま地面に叩きつけられた。
そしてその琴美の身体に、瞬間移動のように素早く距離を詰めるファング。脚で琴美の胸を踏み潰すと、その豊満な胸は変形し、インナーからはギチギチと張り裂けそうな音がした。
「うぐ、ぅっ…!あああああっ…!く、ぁああっ!」
「肋は痛ェだろ?さっきから散々痛めつけてるからな…ククク」
何度も衝撃を受けている肋骨は、既に何本かは折れているだろう。それを更に痛めつけられては、苦痛は数倍にも増す。単に脚で踏みつけられているだけでも、その痛みは耐え切れない程の激痛となった。呼吸を失いはじめ、意識が朦朧としはじめる。段々と、ファングの脚に体重がかかる。全体重が圧し掛かれば…どうなるか分かったものではない。そうなる前に、脱出しなければ…!
「っ!!」
琴美は、ファングの膝の下…下腿前面の部位に、思い切りクナイを突き刺す。骨が出っ張ったその部分は簡単に骨にまで刃が届く。そしてその痛みは…どんな豪傑でも耐え切れない程の激痛となる。
「グアアアアッ!?」
思わず悲鳴をあげ、脚をあげるファング。失っていた呼吸を取り戻した琴美は、すぐさま寝転んだ状態から立ち上がろうとする。普段なら腰の力を使って素早く飛び起きる事も出来るが…今身体はそんな状態ではない。腕を地面について、ゆっくりと身体を起こそうとする。
…しかし、その時…。
太い腕が、琴美の首を掴んだ。
「っっ!!あ…っ!」
豊満な肉体が、宙へと浮いていく。なんとファングは片腕で琴美の首を掴み、そのまま身体ごと持ち上げたのだ。
遂にはつま先までも、地面から離れてしまった。つまり今は、完全な首吊りの状態。必死に両手でファングの右手を振りほどこうとしても…その握力には敵う筈もない。脚をバタつかせてもがいても、それは余計に自分の首を締め付けるだけだった。
「…本当はこのまま首の骨でもへし折りてェが…そうはいかないんでな」
…やはり、ファングにダメージはないようだった。痛みは感じる。感じるが…それに感けて動きを鈍らせてはくれない。…感情より先に、攻撃本能が己を奮い立たせるのだ。
「わ、たしを…っ、どうする…つもりですか…っ!?」
息も絶え絶えに質問する琴美に、ファングは笑みを浮かべた。
「組織の連中が、お前に色々聞きたがってるんでな。口の聞ける状態で連れてこいって言われているモンだから、このまま殺せもしねェのさ。残念な話だぜ、全く」
「ぐ、ゥ…っ!」
…それは、このまま死ぬより辛いかもしれない、事実。このまま敵組織に連れられたら…自分は何をされる?
拘束の末、拷問?生きたまま死んだような暮らしをさせられるのだろうか。…何にせよ、特殊部隊の一員である琴美としては…自分の組織の事は口には出来ない。だとすれば、このままどうにか逃げなくては…!朦朧とする意識の中で琴美は必死で脱この状態から出をする作戦を考える。…と。
「おっと…!…ふんッ!」
ドスン。
鈍い打撃音がすると…琴美の腹部に、ファングの拳がめり込んでいた。
「…!」
そのあまりの苦痛に、思わず琴美の意識は途切れ、項垂れてしまう。
琴美が意識を失ったのを確認すると、ファングは首から手を離し、自分の肩で琴美を担ぎ上げた。
「抵抗されるとまた面倒なんでな…それこそ、殺したくなっちまう。…おとなしくしてもらうぜ、姉ちゃん…ククク」
意識を失った琴美の魅力的な肢体は、ただ重力のままにファングに担がれる。
獲物を狩った傭兵は満足そうな笑みを浮かべると、ゆっくりと森の奥へと帰っていった…。