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<東京怪談・PCゲームノベル>


Scene1・スペシャルな出会い / クロウ・ハーベスト

「ふんふん、ふふん♪」
 足取り軽く、鼻歌混じりに歩くのは、青髪に青い瞳を持つ、明らかに日本人離れした顔立ちの少年――クロウ・ハーベストだ。
 彼は手にした買い物袋を大きく振りながら楽しそうに歩いている。
 何がそんなに楽しいのかと聞かれると返答に困るが、まあ楽しいことなんてのは、本人さえ分かっていれば本来は事足りるものだ。
「これで喜んでくれるかな♪」
 そう言って見上げた空は清々しい程にどんよりとしている。それでもニコニコと笑みが零れるのは、彼が買い物に出たきっかけが元だ。
 例えそれが、他人からみればパシリと呼ばれる部類のお遣いだったとしても、本人は楽しいのだから仕方がない。
「あ、そうだ。折角だから、お気に入りだって言ってたお店でケーキでも買ってこう」
 名案を思いついたとばかりに口にして、くるりと踵を返す。そうと決まれば急がなければ。
 何せクロウにおつかいを頼んだ人物は、待たせたら待たせた分だけお叱りが返ってくる。まあ、買い物を頼む以上は、誰だろうとそうだろう。
 クロウは買い物袋を手にしたまま、記憶を頼りに道を進んだ。そして目的地に近い角を曲がると、唐突にその足が止まった。
「何だろう、あれ」
 目の前に佇む黒い影に目を瞬く。
 人のようだけど人ではない。細身だけど腹だけがぽっこり膨らんだその姿は何とも異様な雰囲気を醸し出している。
「?」
 ここで逃げれば良いものを、クロウは目を瞬くとそちらに歩いて行った。
 後の彼の言い分では、こっちが近道だから仕方がない。とのことだが、これが拙かった。
――グウ、グルルルル……。
 どう聞いても獣の鳴き声にしか聞こえない声が届く。その声は紛れもなく前方の生き物からしているのだが、近付くにつれて判明する、生き物の奇妙さに目が泳ぐ。
 餓鬼のように膨らんだ腹と、骨ばった黒く薄汚れた体。全身からは腐敗臭のような異臭もしてくる。
 しかもその口からは涎を垂らし、ギョロリと剥いた目がクロウの事をじっと見ていた。
「あー……少し、ヤバそう」
 そう言いながら、今さらながらに足が止まる。
だが遅かった。
 奇妙な化け物は、クロウの足が止まるや否や、突然飛びかかって来たのだ。
 それに慌てて足を後退させるが、逃げきる前に腕が掴まれてしまう。しかもその力は想像を遥かに超えていた。
 ガサリと音を立てて買い込んだ荷物が落ち、それを目にしたクロウの目が化け物に向かう。
「っ、……」
 ギリギリと骨が軋みそうなほどに強く握る手に、振り払おうと動く。しかしやんわりと振っただけの動きでは解くことが出来なかった。
「……っ、あー。悪いんだけど、急いでるから離してくんねえ?」
 そう言いながら強引に腕を引き寄せる。
 しかしピクリともしない。
 それどころか逆に、もう片方の腕も掴まれて、かなりな割合でピンチだ。
そもそも、ここまでの間に逃げる隙はあった気がするのだが、どうやらクロウ自身が危機感を持てなかったようだ。あっさり捕獲されて逃げ場が無くなっている。
「……流石に、マズイかもな」
 ぽつりと呟いて天を仰いだ時だ。
 太陽が隠れているのにも関わらず、彼の視界にキラリと光る物が飛び込んできた。そしてそれがクロウと化け物の間に降り注ぐ。
――グギャアアアア!!!
 叫び声を上げながら化け物が体勢を崩した。
 その直後、彼の腕を掴んでいた手が離される――否、離されたのではなく、切り離されたのだ。
 しっかりとクロウの腕を掴んだままの手が切り口も綺麗に切断され黒い血を噴き出している。
 それを見た彼の目が僅かに見開かれた。
「なに……」
 掠れた声で呟き目が動く。
 化け物と、自分の間、日本刀を振り下ろしたままの状態で動きを止める人物がいる。
 その人物は、化け物の身体が完全にクロウの元から離れるとゆっくりと姿勢を正した。
 クロウよりは僅かに低いがそれでも長身の部類に入る青年が、チラリと視線を寄こしてくる。しかも向けられる目は右目だけ。もう片方の目は、眼帯に隠され伺う事が出来ない。
「あの、今のって――」
「邪魔だ、退いてろ」
 青年はそう呟くと、クロウから目を外した。
 そしてその目を、失った腕を抑える化け物に向ける。
「この異臭は黒鬼か。喰らうしか能の無い化け物が、こんな昼間から出歩くとはな……よっぽど腹が空いてたのか?」
 ニヤリと笑って刀に着いた黒い露を払う。
 そうして獲物を構え直すと、彼は怒りの形相を浮かべる化け物――黒鬼に向かい直った。
 その姿を見ながらクロウは自らの腕に視線を落とす。
 すでに黒鬼とか言う化け物の手は離れて地面に落ちている。少しだけ、掴まれた時の感覚が残っているが動かすには問題なさそうだ。
「痣にはなりそうだけどな」
 わきわきと手を動かして呟く。
 腕も振って見るが動きに問題はなさそうだ。
「うん、いけそう」
 そう呟くと、クロウは刀を構える青年の隣に立った。
 そしてニッと笑って身構える。
「……何をしている」
 低く威圧する声に、クロウはニッコリ笑うと一気に駆けだした。
「俺が襲われたからね。ただ護られるなんてゴメンだ」
「オイッ!」
 青年の制止の声など何のその。
 言葉を発して走り出した速度は、通常の人間の倍はあるだろうか。俊足と呼ぶには異常なほど早い足に、青年の目が僅かに見開かれる。
 その間にもクロウは黒鬼の間合いに入り、無造作に腕を掴んでいた。そして背負い投げの要領で臭う体を引きよせて地面に叩きつける。
――ドンッ!
 コンクリートを硬い石が叩くような音が響き、黒鬼が地面に倒れた。そこに空かさず動きを封じる様に腕を掴んで羽交い絞めにする。
 その表情は先ほど走り出した時とは一転して無表情で何の感情も伺えない。
 青年はそんな彼の顔を見てから、腰を低く日本刀を構えた。
「助けは要ったのか? まあ、良いけどな」
 ぼそりと苦笑して呟いて地面を蹴った。
 向かうのはクロウが抑え込む黒鬼の元だ。
 居合いの要領で刃を薙ぎ、それが躊躇いもなく黒鬼の身体を切り裂く。
――イギャアアアアアアッ!!!
 断末魔の叫びが響き、黒鬼の体が硬直した。直後、黒い煙のようなものが昇り、悪しき塊は姿を消す。
 鼻を突く異臭は変わらないが、黒鬼の姿が無くなったことでそれも和らぎ始めている。青年は黒鬼の存在が完全に消えたのを確認すると、刀を鞘に納めた。
「いやあ、助かったよ」
 汚れた手を叩きながらクロウが近付いてくる。その姿に目を向けると、青年はスッと背を向けた。
「ちょっ!」
 そしてそのまま歩き出そうとする青年の服を、慌てて掴んだ。それに合わせて、彼の足が止まる。
「……何だ」
 明らかに苛立つ声だが、クロウはそんなことなどお構いなしに笑みを向ける。そして言い放った言葉がコレだ。
「連絡先教えてくれよ」
「……あ?」
 屈託のない笑みを浮かべて掛けられた声に、青年の眉が深く寄った。だがクロウは気にしない。
 更に笑顔を向けて話しかけている。
「いやさ、助けてもらった礼をしたいんだ」
 にこにこと発する言葉に偽りはないだろう。
 本当ならこの場で礼をしたいところだが、自分が何をしようとしていたかを思えばそれは思い留まれる。
 だから提案したのだが……。
「要らねえ」
 きっぱり、すっぱり返された言葉に、今度はクロウが驚いて目を瞬く。だが服を掴んだ手は離さなかった。
「いいや、それはダメだろ。助けてもらった以上はお礼をするべきだ。と言う訳で、連絡先をプリーズ♪」
 スッと差し出された手に青年の目が落ちる。
 長々と時間を取ってそれを見詰めた後、彼の口から重く長い溜息が洩れた。
「あ、ちなみに、俺の名前はクロウ・ハーベスト。クロウって呼んでくれ」
「……」
 すっかりマイペースに話を進めるクロウに、もう一度溜息が洩れる。これ以上、何かを言っても負けそうな気がする。
 そんな判断でもしたのだろう。根負けしたように彼が差し出したのは一枚の名刺だ。
「うん? 何だこれ」
 そう言いながらも目はしっかりと名刺を捉えている。そこに書かれている名前は『鹿ノ戸・千里』。
 その周辺には、どこかの店らしき店名と、その住所や連絡先が載っている。
「礼は要らねえ。けど、したいってんなら好きにしろ。大抵はその店に居る」
 そう言って歩き出そうとした千里の服を、クロウがグイッと引っ張った。
必然的に仰け反るような形で動きを止めた千里の不機嫌な視線が向かうのだが、やはりクロウは気にしないようだ。
 まじまじと名刺を眺めて、ふむと頷くとそれをポケットにしまった。
「了解。んじゃあ、その店で礼を果たすということで、よろしく」
 ニッと笑ってようやく手が離された。
 それを見計らって千里が歩き出す。その足取りが若干面倒そうなのは気のせいではないだろう。
「あ、そうだ!」
 何かを思い出したように手を叩いたクロウに、千里はげんなりと溜息を零す。しかし彼は足を止めると、律儀に視線を寄こしてきた。
「何だよ」
 早くしろ。そう言外に告げて言葉を待つ。
 その姿を見て、クロウは満足そうに笑うと軽く手を挙げて見せた。
「ありがとな!」
 素直と言うか、真っ直ぐと言うか、調子の崩れる相手だ。
 千里は笑顔のクロウを見ると、やれやれと肩を竦めて歩きだした。その際に礼の言葉に応えるように片手を上げて見せる。
 それに応えるようにクロウは手を振って彼の事を見送った。
 そして姿が見えなくなってから、貰った名刺を取り出して視線を落とす。裏を返せば、そこには手書きのアドレスが記されていた。
「メアドだ」
 ぽつりと呟き、何となくそのアドレスを目で追う。それからポケットにしまうと、腕の時計に視線を落とした。
「やべっ!」
 よく見ればかなりな時間が経っている。
 クロウは慌てたように買い物袋を持ち上げると、急いで目的を果たしに駆けて行ったのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8135 / クロウ・ハーベスト / 男 / 15歳 / 中学生(留学生) 】

登場NPC
【 鹿ノ戸・千里 / 男 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、朝臣あむです。
このたびは「りあ☆とも」シナリオへの参加ありがとうございました。
千里チョイスですね!
きっと梓以外は友達いないと思いますので、
どんな感じに友人関係を築いていくのかまったく見えません;
それでも楽しんで頂けたなら、嬉しい限りです。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。
このたびは本当にありがとうございました。

※今回不随のアイテムは取り上げられることはありません。
また、このアイテムがある場合には他シナリオへの参加及び、
NPCメールの送信も可能になりました。