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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route2・見つけた手がかり / 宵守・桜華

 トイレットペーパー、台所洗剤、害虫駆除用のスプレーに、何だか使用方法を知りたくない麦藁の人形など。
 紙袋やビニール袋に入れられたそれらを持って歩くのは宵守・桜華だ。
 重いには重いが、彼からすればこんな荷物はどうってことない。それよりも気にすべきは目の前をスタスタと歩いて行く少女だ。
 黒のロングのメイド服を着て街中を歩くのは、蜂須賀菜々美だ。彼女は手元のメモを見ながらキョロキョロと辺りを見回している。
 そこに好い加減に腕が疲れてきた……気がする桜華が声をかけた。
「蜂須賀。少し休もう、な?」
 明らかにもう疲れましたと言わんばかりの声を発して話しかける桜華に、菜々美の足が止まる。そして向けられたのは、相変わらず冷たく冷え込んだ目だ。
「何か言ったか、大馬鹿者」
 さらりと言われた言葉に、乾いた笑いが漏れる。まあ、こう言われるのは仕方がない。
 だが突き刺さるような冷たい視線だけはどうにかして欲しい。
「仮にも買い物手伝ってるんですがね」
 ぼそりと呟くが、菜々美はそんなことなどお構いなしに歩き出す。
 その姿を見ながら桜華は息を吐き、何故こんな流れになったのかを思い出していた。

   ***

 桜華は自らの記憶を頼りに、菜々美がバイトをしている喫茶店に足を運んでいた。
「さてさて、今日も目の保養……いやいや、喉を潤しましょうかね」
 鼻歌交じりに呟いて扉に手をかける――と、その直後、扉が開かれた。
――ドゴンッ☆
 凄まじい音が響き、その場に蹲る。
 頭を押さえて呻く姿は可哀想だが、そんな彼に追い打ちをかけるように、再度衝撃が走った。
「ぬあっ!」
 顔を仰け反らせた桜華の目に飛び込んできたのは、平然とした表情で彼の頭を踏みつけるメイド――菜々美だ。
「……ひでぇ」
 チラッとスカートの中が見えたような気がしないでもないが、それよりも何よりも痛い。更に頭を下げながら目だけを向かわせる。そこで目が合うと、菜々美は口元にだけ笑みを浮かべた。
「何だ、人がいたのか。危うく踏むところだったぞ」
「踏んでるしっ!」
 鋭い突っ込みを発して、項垂れた。
 よくよく考えるとこんな扱いばかりだ。思い溜息が桜華の口から漏れると、ようやく菜々美の足が離された。
「あー、痛てえ」
 コキッと首を鳴らして目を細める。
 眼前では菜々美が鼻で笑っているのが見えた。
「何かもう、いっそ清々しい扱いで」
 やれやれと苦笑が口を吐く。と、その肩を菜々美が叩いた。
「買い物に付き合え」
「はい?」
 きょとんとして佇む桜華に、歩き出した菜々美が振り返る。その時、彼女の眼鏡がキラーンっと光った。
「断るという選択肢はないぞ。来い」
 相手に二の句を告げさせない勢いで言い放ち、彼女はスタスタと歩きだした。

   ***

 よくよく考えれば、酷過ぎるものだ。
 だが断れない。
「……ゴネたらきっと怖いから」
 ハハッと乾いた笑いを零して、菜々美の背を追いかける。
 そうして買い物を終えると、彼女がある提案を持ちかけてきた。
「この前の実験で確認したいことがある。付き合え」
 この前の実験と言えば、菜々美が扱う九字法の実験だ。それで確認したいことがあるとすれば、人が往来する場所では出来ないだろう。
「それじゃあ、この前の神社にでも行きますか」
 桜華の言葉に菜々美はすんなりと頷いた。
 その事が客に奇妙だったが、まさかそれが嫌なことの前兆だとは思いもしなかった。
「あー……蜂須賀が素直だとこんな特典があるんだな」
 ぼそりと呟いて首筋を擦る。
 神社の足を踏み入れた直後に感じた禍々しい気。そして鼻を擽る獣臭に息を吐く。
 当然菜々美も異変に気付いたらしく、自前の銃を手に口角を上げている。
 実に頼もしい限りの反応だ。
「悪鬼の気配だな。この辺りに潜んでいる」
 そう言いながら九字の法を刻みこんだ弾を装填する。それを目にした桜華の足が下がった。
 感じる気配からして大した相手ではないだろう。これならば菜々美1人でどうにでも出来ると踏んだのだ。
 そして気配を探ることほんの僅か。
 ザワザワと木々のざわめく音が響き、突如閃光が走った。
「甘い!」
――パンッ。
 菜々美の手にする銃が火を噴いた。
 途端に上がる術の火柱に、閃光の元となったものが転げ落ちる。そして土を巻いて地面に転がったその身が、ゆっくりと起きあがった。
 金色の鬣に金色の瞳。まるでライオンのような姿をした獣が、受けた攻撃の衝撃に頭を振って立ち上がるのが見える。
「コイツは珍しい。自然発生しないともっぱらの噂の獣鬼じゃん」
 自然発生しないとは、つまり何らかの形で生成されたモノを指す。つまり、目の前に居るのは生産された悪鬼と言うことだ。
「蜂須賀、良い実験体になるんじゃないか?」
 これまでの菜々美の行動や発言パターンを考えれば、こうした考えに行くのは当然だろう。
 桜華はそう口にして菜々美を見た。
 だがどうにも反応がない。
 当の菜々美は桜華の言葉に答えずに、前方を見据えている。そんな中で、カチリと安全装置のはずされる音がした。
「捕縛……いや、解呪か」
 ぽつりと呟き、菜々美の足が地面を蹴った。
「え、おい!」
 一気に間合いを詰める姿に目を見開く。
 獣鬼は本来近距離型の鬼だ。
 遠くからの攻撃にはめっぽう弱く、菜々美が射程距離範囲で銃を撃てばそれで終わりになるはず。だが、彼女は間合いを詰めて獣鬼の攻撃範囲に入ろうとしている。
 豊富な知識を持つ彼女が、獣鬼の弱点を知らないとは考えにくい。
「気紛れか? まあ、俺はこのまま見物でも……ん?」
 獣鬼の間合いに入った彼女の指が引き金を引いた。
 そこから上がったのは白い光を放つ陣――以前桜華を実験体に試した、不動明王の力を持つ外縛印の弾が放った術だ。
 対象の奪い、呪縛の元に消滅へと誘う陣が獣鬼を覆う。だが何か様子がおかしい。
 菜々美は弾が獣鬼の周囲に納まるのを確認すると、銃を仕舞った。
 変わりに印を結びだす。
「オン・キリキャラ・ハラハラ……」
 唱えられているのは九字法解呪の文言だ。
「何してんだ」
 九字法の術を自ら放って、それを解く文言を口にする。まるで何かを試すような行為に桜華の眉間に皺が寄る。
 そして解呪の文言が三回、呪文が唱えられると指が弾き鳴らされた。
――パンッ!
 膜が破れるような音がして、術が解かれる。
 解かれたのは当然、菜々美が放った九字法の術だ。
そして案の定、中に納まっていた獣が菜々美に襲いかかった。
「! ……、ぅ……」
 避け間もなく降り注いだ爪に、菜々美の腕が切り裂かれる。流石にこれには苦痛の声が漏れた。
 だが彼女は再び印を刻みだす。
「おいおいおいおい、何してんだ!」
 意味が分からない。
 そう呟いてふと思い出した。
「獣鬼は自然発生しない……まさか蜂須賀、獣鬼を解呪しようってのか?」
 そう考えれば彼女の行動にも納得がいく。
 まずは九字法の弾を使って捕縛し、その合間を縫って獣鬼だけを解呪しようとした。しかしそれが上手くいかずに結局自分の術を解くことになってしまったのだ。
 理論上、出来なくはないだろう。
 だが他者の術を解くのは並大抵の業では出来ないはずだ。それを自分の術を掻い潜って行うなど成功は極めて低いはず。
「そういう無茶は死ぬぞ」
 やれやれと息を吐いて観戦から一転、桜華は指をぽきりと鳴らした。
「予定変更だな」
 彼は獣鬼と菜々美の間に割って入ると、迫る獣鬼の攻撃を真正面から受け止めた。
「貴様!」
「ボケっとしてんな! さっさと片付けろ!」
 渇を入れるような怒鳴り声に、菜々美の眉が上がる。しかし文句は返ってこなかった。
 再び彼女は印を刻むと、解呪の文言を唱え始めた。
 やはり桜華が思ったとおりだ。
 理由は分からないが、菜々美は獣鬼の解呪に乗り出している。ならばそれを手伝うしかない。
「少しだけ、本気だしちゃうよん」
 そう言いながら拳を握り、それを獣鬼に向かって叩きこむ。だがそれは囮でしかない。
 避けようと地面を蹴った後ろ足。それに習って上がった前足を空かさず掴む。そして背負い込むように引き寄せると、一気に地面に叩き落とした。
「獣の一本背負い……なんちゃって」
 ニヤリと笑うが、それで終わらせる訳にはいかない。彼の役割は、菜々美が解呪を行うまでの獣鬼の足止めだ。
 桜華はそのまま抑え込むように獣鬼の足を絞った。
 これには苦しそうな声が聞こえるが、獣相手に手加減する必要もないだろう。
 そうこうしている間に解呪の準備が整ったようだ。
「――オン・バザラドシャコク!」
 パチンッと菜々美の指が鳴った。
 それと同時に獣鬼の身体が硬直する。まるで金縛りにあったかのように動きを止め、その直後に獣鬼の身体が粉砕された。
 そこに舞い降りた一枚の紙。それを菜々美の手が掴む。
「……」
 じっとそれを見つめる彼女の腕を、何かが掬いあげた。
 目を向ければ桜華が傷ついた菜々美の腕を取っていた。そして傷を確認するように、袖をまくって応急処置を施してゆく。
「何をしている」
 菜々美の低い声に桜華の目が上がった。
 彼女の腕に巻かれているのは、買い出しの際に購入したフキンだ。
「ハンカチとかいう気の利いたものがあれば良かったんだが、俺そう言うの無いから」
「そう言うことではない」
 菜々美はそう言い放って、桜華の手から腕を引きよせて睨みつけた。
 こういう反応も慣れてはきたが、思わず苦笑が漏れてしまう。
「別に何がどうとか聞くほど野暮じゃないけどね。今のはちと肝が冷えたぜ」
 そう言って肩を竦める。
 その言葉と仕草を見て菜々美の視線が手にしている紙に落ちた。
「……どうしても確かめたいことがあった」
「確かめたいこと?」
 何だそりゃ。桜華の眉が上がった。
 それに菜々美の目が桜華に向かう。
 そこに浮かんでいたのは今までの刺々しい笑みではない。
「協力感謝する。おかげで、手掛かりを見つけた」
 そう言って紙を握り締めた菜々美は、初めて笑みと呼べる表情を桜華に向けたのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 4663 / 宵守・桜華 / 男 / 25歳 / フリーター・蝕師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ2へご参加頂き有難うございました。
なんだか菜々美が桜華PCにずいぶんと酷いことをしておりますが、
その掛け合いも含めて楽しんで頂ければな〜……と思っております;
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。