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<東京怪談・PCゲームノベル>


call?

 鼓膜を揺らす音が何なのかよくわからなかった。
 断続的に続く音。
 電子音。
 …少し経って漸く、そう気付く。

 電子音ならば何の音か。
 聞き覚えが無い…事も無い音ではあるが。

 …。

 携帯電話。
 わかった時点で、ぱちりと瞼を開き、数度目を瞬かせる。
 …自分が今どういう状況にあるのかすぐに出て来ない。
 置かれている状況。目を開いたところで視界に広がるのは漠然と濃い茶色。色だけであってもそれが見える時点で暗くは無い。感じられる適度な明るさと嗅ぎ慣れた書物――古い紙――の微かな匂いとを合わせて考え、見慣れた場所であると――特に問題のある状況に置かれている訳では無いと判断。漠然と濃い茶色に見える、自分の手が届くすぐ側の部分に指先で触れる――堅いが、肌に馴染む感覚。机の天板。と、言う事はここは書斎かと思う。座っているソファのクッションの感覚に意識をやる。こちらも馴染んだ感覚。…書斎で自分の椅子に座っているところと見ていいだろう。
 そう認識し、感じられる明かりの色からして時間を計りつつ――自分の書斎であるなら机上に置いてある筈のコンピュータの位置を同時に確かめる。誰か他者に触れられた形跡も無い。…問題は無い。私の書斎で、私の机。
 感じられる明かりの色が赤みを帯びていない。色で言うなら白。光度が弱めにしてあるのは私の視覚に合わせての照明であるからで時間帯や天候とは関係が無い。ただ、夕方から夜間に使う照明は心地好く休みに入る為に赤みを帯びたものを使っている。逆に白い光は昼日中活動する為に使っている。…可能性を考えた結果、出てくる答えとして今の時間帯は夜では無い。普通に活動時間帯になる筈。
 と、なると。
 自分は何らかの作業中にうたた寝でもしてしまっていたか、と思う。
 鼓膜を揺らす電子音は――携帯電話の着信音は途切れる事無くまだ鳴り続けている。
 もう、結構長い間鳴り続けている気がする。

 …。

 机の天板の上を探り、まだ鳴り続けている携帯電話を手に取る。
 液晶表示を確かめる。
 発信者は、不明。

 …。

 ほんの数回コールして切れるのなら、急ぎの用件と言う訳でもないでしょうし、とは思う。
 けれどこれはその逆に、随分と長く鳴っている。
 と、なると。
 私のこの番号を誰かから聞いたのだろうか、と思う。

 この携帯電話は、仕事用には使っていない。
 だから、その心配だけは、無い。

 が、逆に。

 誰かから私のこの番号を聞いた何者かが、私と見込んで掛けてきた可能性は――無いとは言えない。
 液晶表示を暫く見つめる。
 電話が掛かってきている当の携帯端末から何か有効な情報が読み取れないかと試してみる。…読めたのは自分の所持する品であると言う――元々蓄えてある情報だけ。駄目元ではあったが、発信者まで辿るのはやはり無理か。

 着信音は、止まない。

 …このままずっと放っておく訳にも行かない。
 思い、漸く通話ボタンを押して受話口を耳に当てた。

「はい。…どなたでしょうか」
 名乗る必要は感じない。
 この携帯電話に掛かって来ていると言う時点で、私宛てではあるだろうから。
(あっ、やっと繋がった…よかった! あの、えっと、取り敢えず切らないで下さいお願いします話を聞いて下さいやっと電話が繋がったんです助けると思ってこのままで居て下さいお願いします! あの私今外と連絡取れる手段がこれしかなくて…助けて欲しいんです!)
「…はい?」
(いえあの、私…気が付いたらこの部屋に閉じ込められてて! 外部に連絡出来る手段がこれしかなくて! 駄目元で何度も掛けてみたんですけれど十回目でやっと繋がって! それが偶然貴方だったんですっ!!)
「はぁ…」
 偶然。
 ならば、特に私宛てと言う訳でも無かったらしい。
 …けれど聞き流せるような話でも無い。
 ひとまず、通話出来ている時点で相手も電波の届くところに居るだろう事だけは言える。ならば、とひとまず電波発信元の位置情報を呼び出す事を考える。
(あの、あの…! 聞こえてますよね!? 切れてませんよね!?)
 そう考えている間にも、悲鳴のような声が受話口から鼓膜を揺らす。
 これは、随分と慌てていらっしゃる。
 …ならば安心させるのが先か。
「はい。切れてませんよ。…それより落ち着いて話して頂けませんか? 今キミが居るところはどんなところなのか。…私の方では、キミの話しているその電波の――通話品質から考えるにキミも携帯のようですよね? とにかく位置情報を探ってみますから。…確認しますが携帯にGPSは」
(は、はい! 付いてます)
「なら簡単ですね。すぐわかりますよ。少しお待ち下さいね」
(ほ、本当ですか!?)
「はい。ですから、落ち着いて下さい。互いに行動を起こせば、何とかなりますよ。…これも何かの御縁です。貴方の頼み通り、そこから出る為のお手伝い、させて頂きますよ」
 …私はセレスティ・カーニンガムと申します。取り敢えず、キミの名を聞いてもいいですか?



 で。
 少し会話を続けた結果、相手からある程度の事を聞き出す事は叶う。
 まず、電話を掛けてきた当の方の名前は、古森媛子さんと仰るそうで。
 電話を通してでも、私と少し話していたら段々と落ち着いて来たようです。…電話を通して耳に届く声や口調、息遣いでわかります。
 相手が幾分落ち着いたかと見たところで、改めて彼女が今現在居る場所についても詳しく伺ってみると――冷たい剥き出しのコンクリの壁で、コンテナのような大きな箱がたくさん置いてある――けれど埃や蜘蛛の巣が酷く、あまり動かした形跡が無い為――、ひょっとすると使われていない倉庫か何かでは無いかと思わせる場所であるとの答え。
 …然程古くない廃工場。
 とりあえずそう仮定する。携帯の電波が届いている時点で、どの程度の施設かもある程度見当は付く。
 それから、彼女が閉じ込められる前の――元居た場所と照らし合わせる。先程聞いた話では、都内――新宿の街中を歩いていたのだとか。学校の帰り道――高校生の学生さんらしく――、ちょっとした用事でいつもは使わない道を通っていたらその内に人気の無い路地に入り込んでしまい、少し不安に思っていたら――その不安の通りに何者かに気絶させられて、気が付いたら今の状況であるのだとか。
 けれどその用事の方はあくまで家族から頼まれたお使いであって、それが攫われて閉じ込められた原因だとは思い難い事。そして同時に媛子さん御本人に、閉じ込められるような覚えは全く無いとの事で。
 …では何か、犯人側の通り魔的な…理由とも言えない理由で、と言う事でしょうか。
 どのくらいの時間閉じ込められていたと思いますか、とも訊いてみる。…外の様子が見えないので今が昼か夜かもわからない。そう聞いた時点で、今は昼間で、何日の午後二時少し過ぎになりますよ、と自身の携帯から日付と時間を読んで伝える。なら一晩は経ってます、との返事。
 受話口を耳に当てながら、手許のコンピュータを操作。今自分が通話している相手の端末を検索、その端末からの電波発信元の位置情報探知を行う。

 …にしても。

 携帯を取り上げなかったとは、犯人も随分と抜けている。…それか彼女は危険人物だとは思われていないと言う事か。それとも…携帯などがあっても外部に連絡が取られても、犯人側は何も構わない余裕があると言う事か。
 ともあれ、そう来るならば――余程変な事をしなければ危害を加える気は無いのでは、と思われる。
 ならば、焦る事も無い。
 彼女を生かしておくつもりであるのなら、犯人側が食事を持って来る等の次の接触までに救出すれば大丈夫だろう。時間の猶予は幾らかある。
 犯人について訊く。心当たりは無い、ならば実際に犯人側の顔は見ているのかどうなのか。…声は聞いた。顔は見ていない。何を言われたのか。…悪いが暫くここに居て貰うぜ。全然悪いと思っていないようなふざけた口調で言われた事が却って怖いような声だった。その声は一人。男だか女だかわからないような――と言うか、明らかに機械で声を変えていたらしい。…それだけの情報では、複数犯かどうかは、わからない。
 携帯で電話が掛けられていると言う事は、少なくとも今手は一応使える状態にある。…一応確かめると、拘束はされていないと言う。ただ、彼女が閉じ込められているその倉庫と思しき場所には鍵が掛けられていて、内側からでは開けられない状況下にあるとか。何かそれらしいものを探し、鍵が開かなくとも扉がこじ開けられそうな…こじ開けるのに使えそうなものも探してはみたのだが見付からなかったらしい。私との通話の最中、改めて私の助言も入れて探してもらってもみたのだが――それでも、同じと言う事で。

 思考する。

 …抜けているようで、そうでもないのかも。
 犯人側は、正体を悟られないように用心している事は確か。

 ――――――ならば、こちらも心して掛からないと。



 …時々、不安なのかぽつりぽつりと話を求められる。
 そんな事をしている内に、通話相手の電波発信元の位置情報が判明。媛子さんの言う通り、倉庫らしい施設とわかる――呼び出された付近の地図。その倉庫についての情報を更に検索。その場所の使用状況についても何らかの周辺情報が無いかどうか検索する。電波が通じる事実、鍵の付き方、媛子さんから直接伺った倉庫内の状況から想定される情報を片っ端から織り込む。疑問に思った事柄は電話を通して直接訊ねる。
 割り出した場所。確実と見た時点で部下にヘリの準備をさせる――言うまでもなく察して準備してあったらしい。…いい仕事です。部下に対して頷いてみせる。今から向かいますと送話口に告げつつ、検索した情報をPDAに落として、ヘリに向かう――向かおうとする。
 …その為に書斎の椅子から立ち上がった時にはもう、こちらが改めて言うまでもなく、部下の手で移動用の車椅子が先に用意されていた。…書斎の椅子の、すぐ側に。
 有難う御座いますと労う代わりに、また、部下に対して頷いて見せた。
 …媛子さんとの通話はまだ、繋がったままなので。



 ヘリのプロペラ音が入って来るのが少しきついか、と思う。
 電波の問題は無いが、通話中な携帯の音声がやや聞き取り難くなる。こちらの声が聞こえ難くなり、不安がる媛子さんの声が受話口から届く。今ヘリでそちらに向かっているところです。もう少しお待ち下さいね。そう告げると――え、なんですって!? と裏返り気味の素っ頓狂な声が返ってくる。…やはりプロペラ音でこちらの言った事が聞こえなかったのかもしれない。
 ともかく割り出した場所に直行する。
 その場所は、前情報の通りに使われなくなり放置された某社の倉庫だった。調べてみるとその会社自体も倒産している――その時に倉庫も人手に渡っている。その後も辿ってみるとあちこち転々と所有者が変わっており、今その倉庫を所有している者は――どうやら書類上にだけ存在する架空の会社、と相当胡散臭い。
 まぁ、そこまでならよくある事ではあるのだが…そんな不良債権が結果的に人様に迷惑を掛けるような事に使われるのはあまり宜しくないと思うのも道理で。
 少なくとも、少女の監禁場所に使われているようでは頂けない。
 …少女を攫って倉庫に閉じ込めている理由。単純に考えれば身代金目的か、本人の身柄そのものを目的として――であろうが、それにしては携帯を放置と言うのがよくわからない。…倉庫の中と言う場所柄電波は届かないと思ったのだろうか? …にしても不安要素が残るだろう。電源さえ入ればGPSは効く。実際に今こうやって通話が出来てもいる訳だし。犯人側としてはまず取り上げておくのが一番の安全策だと思うのだが。だがこの犯人は――そこに思い至らない程抜けていると考えるには、顔も声も晒していない、と正体を隠す方はやけに徹底していると言うちぐはぐなところがある。
 彼女が携帯を持ったままと言う時点で、彼女自身が犯人側であると言う可能性も思い付く事は思い付く。…だがこの場合それもおかしい。こんな事をすれば真っ先に疑われて然るべきなのに――犯人側であるならば事前にそう想定していそうなものだと思うのに、携帯を持っている事について私に何の言い訳も説明もしない。…そしてそもそも、彼女の声や態度の中に嘘の響きが見出せない。…視覚に殆ど頼れない分、私は他の感覚には自信があるつもりなのですが。
 だからこそ、ある意味一番簡単とも言えるその可能性は初めの時点で消えている。
 媛子さんの手に連絡手段は置いたまま、身柄だけを捕らえておく必要。
 誘拐とか有り触れた理由ではなく、犯人には別の目的が他にある可能性。
 …例えば、わざわざ媛子さんが誰かに連絡を取るよう仕向けたいとか。

 …。

 彼女の存在自体が何かの囮、と言う可能性もありますか。
 それで、『誰か』を呼び寄せたい。
 …例えば、『私』を。
 そこに思い至った時点で、改めて媛子さんの閉じ込められていると思しき倉庫の見取り図や構造、これまでに取り揃えた関連しそうな情報を一通り再確認。犯人の正体や、何処までやれる能力があるのか。事前にその『程度』を推し量る為。…それは現場に赴くに当たり油断するつもりもないが、侮っている訳でなく単純に事実として――自らの揮える力と比較して、相手が然程の者とも思えない。

 …まぁ、いいでしょう。
 それもまた一興。
 彼女自身が何かの『囮』で、私がそれに引っ掛かった『獲物』なのだとしても。
 今回のこの『犯人』が、そう簡単に私を扱えるとは思えませんので。

 …取り敢えず、媛子さんの救出は全力で。
 思ったところで運転席の部下から声が掛けられる。
 そろそろ現場です、と。

 受けて、頷く。
 では、宜しくお願いしますね、と、ヘリに同乗している部下たち――警察の特殊部隊の如き装備済みの私兵、一個小隊に微笑みかけた。



 携帯を通じての通話先の様子でも現場の状況は窺える。
 これからそちらに参りますので、と相手方に伝えてはある。受話口からは初めの時と同様――いやひょっとするとそれ以上に途惑い慌てているような反応。…どうかしたのかと思う。これから助けると言っているのだからもう少し落ち着いていてもいいと思うのだが――反応は何故か、逆。

 …媛子さん救助の為にヘリから送り出した部下たちを見送って、数分。
 今度は受話口からも違った音が聞こえてきた。え、と驚いたような媛子さんの声。壁越し、扉越しに何者かに話し掛けられたらしい――少なくとも犯人の声とは違う声、と見たらしい反応に聞こえる。耳を澄ます――今度ははっきり媛子さんの声が、その声に受け答えるのが聞こえた。ここです、私です、と必死になって――信じられないとばかりに驚きに満ちた声。
 程無く、先程の声が再び呼び掛け、それから――何かを破壊するような異音。
 少しして、先程の声――送り出した私の部下の声と媛子さんの声が、何かを隔てたようではなく同じ空間に居るように受話口から聞こえた。
 相手方が通話を代わり、古森媛子さん、確保しました、これからお連れします――と直接連絡を入れてくる。

 …ご苦労様です、と私の方でも労いを返した。
 意外と、簡単に済む。
 ヘリの扉を開け、待つ。
 相手方では、携帯電話も元の持ち主に返された。
 受話口から媛子さんの震える声が聞こえてくる。
(………………うそ、こんなあっさり…)
「嘘ではありません。本当ですよ。…キミは運が良かったと言う事です」
 電話を掛けた相手が私であったのですから。
 部下たちと共に、毛布を掛けられて歩く媛子さんの姿がヘリに近付いてくる。
 ヘリのすぐ脇まで到着したところで、電話越しの声だけではなくやっと直接姿が確認出来た。
 媛子さんはまだ、携帯を耳に当てている。
 …今、受話口から聞こえている音――直接も聞こえている音については敢えて何も言いません。
 女性が泣いてらっしゃる時は、そっとしておいて差し上げるべきと思いますので。
 なので、直接話し掛ける事はしませんでした。
 代わりに、私の方でもまだ通話中のままになっている携帯の送話口に話し掛けます。

 ――――――よく頑張りましたね。御褒美にお望みの場所までエスコート致しますよ。媛子嬢、と。



 それから。
 保護した媛子嬢から話を聞き、当人の了承を得て携帯も借り受けた上で改めて、ざっと集めたこの件の資料を調査し直してみました。…解決はしたのですが、やはり何か腑に落ちないので。
 と、媛子嬢の携帯には――最新のリダイヤル以外には私の携帯番号は見当たらず。
 そんな筈はと青褪める媛子嬢。…これもまた嘘を吐いているような反応ではありません。
 他のリダイヤルや着信履歴番号の相手も確認してみましたが、主に間違い電話や公衆電話。媛子嬢に改めて確認もしてみましたが、私の事を以前から知っていた、と言う事も無いそうで。財閥リンスターの名は知ってはいても私個人の事は特に知らない程度でしかなく。交友関係の中で私の事を知っている人が居るかどうかも調べて――と言うかあまり根掘り葉掘りプライバシーを暴いても媛子嬢に悪いと思うので、メモリされているお名前を自分の記憶に照らし合わせる事だけをしてみましたが、誰の名も特に記憶にはありませんでした。
 実際に媛子嬢救助に赴いた部下たちにも、媛子嬢が閉じ込められていた現場の様子を聞いてみます。
 と、犯人らしい人は一応外で見付けたそうなのですが…あっさりその方の自由を奪う事は出来、媛子嬢救出任務に殆ど支障は無かったとの事。
 用心していた割には、拍子抜けです。
 …まぁ、獅子は鼠を狩るのも全力でとも言いますし、結果が出せた以上はそれで用心した事を後悔する気は無いですが。
 ただ、この拍子抜けする程あっさり捕まえられた犯人らしい人物について引っ掛かる点が一つ。ボディチェックの結果、何故か御札や術具の類を持っていた事です。
 それも、持っているのが日常のような――そんな持ち慣れた風の持ち方で。

 …なので、アンティークショップの碧摩蓮さんや、元IO2捜査官な画廊『clef』の真咲誠名さんにBar『暁闇』の真咲御言さん、お使いになる術からして御札関係は専門分野らしい空五倍子唯継君、と言った、その辺の事に詳しそうな方にそれらの品を確かめてもらう事もしてみました。

 結果として、その犯人らしい人物はドレイン系――他者の霊力や魔力を吸収し己が物とする系統の術を好んでお使いになる術者のようだとは判明しました。…それも、そちらの能力を使う分には、相当強力な。
 どうやらこの方は、『こちら』の世界の住人と見てよかったようです。

 …となると、本当に――電話に出たのが私でよかった、と思います。
 財閥総帥の私であったから、超常的な能力は何も持たない――けれど物理的な戦闘や工作には長けた部下を即座に差し向ける、と言う選択肢があった訳で。そして、そうだったからこそ、あっさりと媛子嬢を助ける事が出来たのかもしれない。
 もし私が部下を恃まず単独で動いていたのなら、これ程簡単に済まなかった可能性がある。
 …犯人らしき人物の持っていた御札や術具、ボイスチェンジャー。それらから何か情報が読み取れないかと読んでみた結果、私の携帯電話に媛子嬢からの電話が掛かって来た理由もやっとわかったので。
 それはどうやら、媛子嬢の無意識から来る能力であったらしい。
 …危機に瀕すると、助けを呼ぶ。
 そこまでならば誰であっても同じだろうが、この媛子嬢の場合、その助けを求める相手が――何故か、霊力や魔力の強い能力者になるのだと。
 どうやら、特定条件下でのみ、無意識の内に能力者を引き寄せる能力があるらしい。
 この犯人が何処でその事に気付いたのかまではこれらの道具からは読み取れなかったが、それを利用する為に媛子嬢を攫った事までは読み取れた。
 なら、私の方でこれからしておく事は二つ。

 媛子嬢に注意を促しておく事――必要ならばこちらの手で保護をしても構いませんし――がまず一つ。
 それから。
 事情をお伝えした上で、犯人の方の身柄を警察に託す事。

 …結局、私の管轄と言うより、ただの誘拐事件で済んだ訳ですからね。

【了】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■1883/セレスティ・カーニンガム
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

■NPC
 ■古森・媛子(こもり・ひめこ)/閉じ込められていた通話相手

 □碧摩・蓮(名前のみ)
 ■真咲・誠名(〃)
 ■真咲・御言(〃)
 ■空五倍子・唯継(〃)

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          ライター通信
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 いつも御世話になっております。
 今回は発注有難う御座いました。殆ど納期ぎりぎりとお待たせしております。
 …前回お渡ししたノベル時、結構色々と酷かったのでさすがに愛想尽かされただろうか(汗)と思いつつ、再び発注頂けたので安堵しているところです(…)

 内容ですが…今回は総帥様と言う立場らしく余裕を持って解決、と言った方向で。一見無防備に囮に引っ掛かったようでいながら、むしろ犯人側を潰す為にわざと引っ掛かっているような感じになりました。セレスティ様だとどうもそういう感触になりがちです。
 そしてプレイングでああ書かれていたので折角なので…眠っているところを起こされたような導入にもしてしまいました(え)。なので冒頭、セレスティ様の反応が暫く鈍めになってます…。

 …如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、また機会を頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝