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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜Extra〜】


「説明、いる?」
 そう問われ、首を振る理由はスザクにはなかった。だから、当然のように頷こうと……したところで、問いを発した人物――珂月の姿がぶれるのを目にして、思わず動きを止める。
 輪郭が溶け、色彩が薄れ――瞬きのうちに再構成される。
 そして、先まで珂月が立っていた場所には、夜色を纏う青年が存在していた。
「静月さん……?」
 殆ど無意識に、名を呼ぶ。
 気付けば周囲は夕闇に包まれている。徐々に夜へと移行していく空を見て、目の前で起きた不可思議な現象――これで二度目となるそれの理由に思い至った。
 珂月と静月――初めて会ったときに静月に聞いた限りでは、記憶と身体を共有する関係にあるという二人。
 陽が沈んだから静月に変わったのだ――と、そこまで考えて、やっと自分の思考が落ち着いてきたのを自覚する。
 さっき珂月に、過去に囚われて呆然としていたところを見られて恥ずかしかったため、少々混乱気味になっていたのだ。
(だって、記憶を思い返したって何にもならないもの)
 珂月の言からすれば、珂月も、そして静月も、スザクが何を見たのかは知らないらしい。
 良かった、と思う。自分が見たものなんて、二人は知らないほうがいい。
「タイミングが悪かったな。……それも計算の内か――いや、それは流石にない、か」
 小さく呟いて、静月はスザクに向き直った。スザクもつられるように彼に向き直る。
「先程珂月が問うたが、改めて問おう。……説明は、必要か?」
 静かな――感情の読めない瞳に見つめられつつ、スザクはこくんと頷いた。
「そうか。……では、場所を移動しよう。立ち話というのも何だし――あの『呪具』が貴女にどのような影響を与えるかも分からない。どこか、希望の場所は?」
 訊ねられて、少し考える。
 人の多い場所に行く気にはならない。先程見た――『過去』の情景もあるし。
 人気が少なく、話をするのに向いた場所――そう考えて、近くに小さな公園があることを思い出す。ひっそりと存在する寂れた公園――日中ですら人の姿を殆ど見ないそこならば、話をするにはちょうど良いのではないだろうか。
 そう伝えれば、静月は特に反対することもなく頷いた。
「では、そこに。――案内して貰えるだろうか」
 淡々と言う静月に、スザクは「もちろん」と答えたのだった。

  ◆

 向かう途中、自販機で買った飲み物を手に、スザクと静月は公園のベンチに座っていた。
 自販機でスザクが選んだのは、温かい無糖の紅茶だ。冷えた手に、缶からじんわりと伝わる温もりが心地良い。
 対して静月が選んだのは、無糖のブラックコーヒーだった。スザクが奢ると告げた瞬間、無表情ながら物言いたげな顔をしていたのだが――暫くスザクを見つめ、小さく溜息をついて選んだのがそれだった。
 話を聞かせてもらうのはスザクの方なのだから難しいことを言わずに受け取って欲しい…と思っていたのが伝わったのだろうか。
 どんなのが好きなのかな、と少しばかり興味を持って見つめていたスザクの前で、大して迷う様子もなく――というか即決で選んでいたが、静月はコーヒーが好きなのだろうか。イメージとしてはぴったりだが、何となく値段で選んでいたようにも思える。100円だったし。
 そんなことを考えていると、不意に隣の――静月の気配が動いた。
「もう暗い。あまり遅くまで貴女を引き止めるわけにもいかないからな。簡潔に言おう」
 一口、コーヒーを嚥下して
「あれは『呪具』だ」
 ぽつり、と静月が言う。スザクは小さく首を傾げた。
「……うん、『呪具』って?」
「『力』ある道具――今回の場合は『心を喰らう』との言い伝えを持つ鏡だった。私と珂月には、ある目的がある。その目的のために探し当てたものだったのだが、封印が綻びていたのか何なのか、貴女を標的として発動した。恐らくは、貴女と珂月との間に縁ができていたからだろうが……こちらの不手際だ。すまなかった」
 頭を下げられて、スザクはちょっとびっくりした。そういえば珂月にも同じように頭を下げられた。
「そんな、謝らなくても。理由も分かったし……」
 それに、と何とか静月に頭を上げてもらって、スザクは続ける。
「スザクはむしろ、呪具よりも静月さんと珂月さんに興味があるのだけれど」
「……私達に?」
 怪訝そうに静月が眉根を寄せた。
「だって、その『呪具』って、きっと二人が一人の状態だからこそ必要なものなんでしょう?」
 言えば、ぴくり、と静月の表情が動く。その反応に自分の予測が間違っていなかったと知って、スザクは少し俯く。
「……せっかく探し物を見つけたのに、スザクが壊しちゃったのよね?」
「違う」
 即答だった。驚きに思わず顔を上げたスザクを、静月が静かな瞳で見つめる。
「壊したのは珂月だ。確かに、あの呪具が貴女を標的として発動しなければ壊すことは無かったが――元はといえば、珂月が貴女と縁を結んだのが原因と言える。だから、貴女が壊したのでもないし、貴女がそれを気に病むこともない」
 何の気負いも無い――ただ事実のみを述べる声音だった。それでいて、反論を許さないような揺るぎのない意志が感じられる声。
 しかし、そうは言われても、やはり自分のせいのような気がする。ああいう物は、その辺にごろごろしてる物ではない。きっと、多くの時間をかけて探し当てた物だったのだろう。
 責任を感じる。だが、そう言っても、やはり静月は否定するだけだろう。
 だからスザクは、
「もう一度探すなら協力するから。珂月さんにもよろしくって伝えておいて」
 驚いたように、静月は僅かに目を瞠った。次いで目を細め、ゆっくりと瞬く。考えるような間をおいて、静月は再び口を開いた。
「……気持ちだけ、受け取っておこう。珂月には一応伝えておくが、恐らくは私と同じ結論を出すだろう。私達の問題に、貴女を巻き込むわけにはいかない。どのような危険があるかも分からないからな。だが、」
 言いさして、静月は一瞬躊躇するように視線を彷徨わせた。が、またすぐにスザクを見る。
「――その気持ちは、嬉しく思う」
 そう言って、微かに――本当に微かにだが、笑みを浮かべたのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・すざく)/女性/16歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、黒蝙蝠様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Extra〜」にご参加くださりありがとうございました。

 『呪具』に関して、静月から説明――だったのですが、殆ど説明してませんね…。
 当たり障り無いところだけ伝えたという感じです。巻き込むつもりは無いので。
 申し出を受け取ることはしませんが、気持ちだけ有り難く、ということでこんな感じに。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。