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暴虐の右腕(2)
‥‥‥‥壁が近付いてくる。
自分が倒れ込んでいるのだと気付いたのは、全身に鈍い痛みが走った後だった。
(今のは‥‥‥‥)
揺れる意識。このまま目を閉じてしまえば、心地の良い夢の中へと旅立てるのだろうか?
それは、夢ではなく地獄への入り口なのだと誰かが叫ぶ。目は閉じられない。だが意識は意志とは関係なく閉ざされ、酸素の残らない潰れた肺は、呼吸器官としての用を為さずに停止している。
意識が断線する。しかし水嶋 琴美は、床に倒れ込んだ拍子に顔をぶつけて痛みを覚える。その痛みは酸欠によって朧気に揺れていた意識を覚醒させ、倒れ込むはずだった体を抱き起こす。
それは反射にも近い行動だった。揺さぶられていた意識がはっきりしている。痛みによって叩き起こされた思考は瞬く間に回転を始め、自身の状況を把握する。
腹部には鈍い痛みが残っているが、内臓に損傷はない。壁に叩き付けられた際に背中と後頭部を強かに打ち付けたがそれだけだ。骨折もなく、意識が呼び起こされた今、ダメージらしいダメージは見られない。いや、両手足に若干の痺れが残っている。それも数秒で回復するだけの軽度。しかし致命的ともいえる数秒間‥‥‥‥
顔を上げる。そこに立つのは殺人快楽者。その顔には下劣な笑みが浮かび、活きの良い獲物を前にして上機嫌に鼻歌を歌っている。
人が苦しみ、痛みにのたうち、絶望の淵で藻掻く姿を眺めることこそが至高の娯楽なのだと断言するような異常者が、琴美を獲物として認定し、味わえることに喜んでいる。ああ、なるほど。完璧なタイミングで腹部を一撃されている琴美が動けるのは、この異常者が自身の快楽のために琴美を生かし、遊ばせているのだ。
‥‥‥‥手加減されている。
その事実に、琴美は内心で舌打ちする。
(その隙、逃さない!)
手加減されているという事実には腹が立つ。が、それはあくまで感情的な要素だ。脳裏ではその“手加減されている”という事実を、この異常者‥‥‥‥ギルフォードの決定的な隙として認識し、戦略を練り、これからの戦闘プランを変更する。
腹が立っていようが何だろうが、戦場においてはマイナス要素にしかならない。そんな物は忘却の彼方に追い遣り、早々に敵の首を刈り取りにいかなければ殺される。
‥‥‥‥尤も、ギルフォードの一撃を無防備に受けた琴美だったが、まだ自分が負けるなどとは微塵も思っていなかった。
何十本も放ったクナイの中に、無為に終わった一撃は一度もない。クナイでギルフォードの脚を測り、一足で移動出来る間合いを記憶する。腕の可動範囲、頭部、および体全体を使用しての身のこなしの速度はほぼ把握した。初撃の“刺さってから回避行動に移り、間に合う“という怪物じみた反応速度には驚いたが、攻略法はいくらでもある。
戦略は立った。
後は実行に移すだけだ。
「さぁ‥‥仕切り直そうぜ」
ギルフォードが何かを言っている。しかし問答をする気など端から持ち合わせていない。倒れ込んだ姿勢からトレーニングマシンの影に飛び込み、姿を隠す。
「ああん?」
怪訝な声を上げるギルフォード。
マシンの影に飛び込んだところで、身を隠せるわけではない。人よりも大きな機械など用意されていないのだ。身を隠そうとしたところで、小柄な琴美でも全身を隠し通すことなど出来はしない。伏せたところで、ようやく七割が隠れられる程度だろう。
しかしそれでも構わない。そもそも琴美は、身を隠すために影に飛び込んだわけではない。
ヒュヒュヒュン!
三点の風切り音が耳に届く。しかし、目の前に広がるのは合計八本の鋭利なクナイだ。狙いは眉間・眼球・喉笛・心臓・肝臓・横隔膜・股間、横隔膜は左右を同時に狙い、八点への同時投擲が行われた。一度腕を振るたびに二、三本のクナイを投擲していたのだろう。全ての狙いをバラバラに、しかし全段急所狙いの正確無比な死に神の鎌。
「しゃらくせぇ!」
右腕を一閃。ガキキィン! と言う金属的な音を残し、まずは心臓と横隔膜を狙う三本を弾き飛ばす。頭部を狙う一撃は首を動かせば軽く避けられる。慌てることはない。クナイがギルフォードに届くまでコンマ二秒。振り払った義手を再度振り回すには十分な時間。飛来するクナイを凝視する。着弾する順番は股間、喉笛、肝臓、眼球、眉間だ。一本一本、速度にばらつきがあり、着弾点も上下に離れている。なるほど、有能だと笑う。同時に離れた場所を攻撃されると、躱すにしても迎撃するにしても非常に困難になる。
琴美の有能さを改めて認識し、ギルフォードはほくそ笑む。
くだらない暗殺者に付け狙われるよりも、やはり獲物は極上の方が良い。実力は申し分なし。後はどう料理をするのかだけだ。
目前のクナイなど問題にすらしない思考回路。しかしそれは正しい。どれだけクナイが正確に急所を狙い、あまつさえ股間などと言う取り返しのつかない急所を狙われているとしても、やはり問題ではない。戦場でなくとも、警備の中に突入すれば、たちまち弾雨の嵐に晒されることになるのが裏世界の常だ。急所のみならず全身を余すところなく、周囲の空間ごと薙ぎ払いに掛かるあの数の暴力と比べれば、このクナイは御しやすい。
股間に放たれたクナイを左腕で殴り付け、軌道を逸らす。クナイの柄の部分を殴り付けたために傷を負うようなこともない。残りは四本。うち二本は首を動かすだけで躱せるのだから、実質弾くのは二本だけだ。
‥‥‥‥それが油断。クナイを弾いた瞬間、そこに飛び込んでくる刺客が居た。
語るまでもなく琴美である。クナイを投擲した瞬間に跳躍していたのか、まるでギルフォードに吸い寄せられているかのようにスゥッと、気配すらなく潜り込む。
「うぉっ!?」
予想すらしていなかった行動に、ギルフォードは声を上げた。
遠距離攻撃と同時に間合いに入る‥‥‥‥これは常套手段だ。むしろ格闘戦を得手としている者としては、是が非にでも身に付けたいコンビネーションである。ギルフォードとて、この行動を取ったこともあるし、取られたこともある。驚愕するようなことではない。しかし琴美の行動は、それをさらに発展させていた。
ギルフォードが予想していなかったのはその点だ。
琴美が現れたのは、クナイを弾いた直後である。しかし琴美の後続として、先に投擲していたクナイがまだ四本も残っている。つまり‥‥‥‥あろう事か、琴美は自分で投擲したクナイを“追い抜いて”追撃してきたのだ。
驚愕により硬直するギルフォード。それにより更に隙が増大する。琴美の手にはクナイが一本。狙いは両膝。急所ではないが、破壊されれば機動力は激減しこれ以降の攻撃を躱す事は絶望的となる。
‥‥‥‥それは容認出来ない。琴美が間合いの外にいるのならば見逃すことも出来たが、間合いに入られてから機動力を削がれるわけにはいかない。それまで笑みを浮かべていたギルフォードの目が細められ、冷徹な意志が宿る。しかし遅い。喉笛狙いのクナイと琴美の一閃は、当時に行われている。
ガッ!
だがそんな完璧な同時攻撃を、ギルフォードは難なく回避した。
「なっ!?」
琴美の目が見開かれる。ギルフォードの左腕は迷うことなく琴美自身の腕を掴みに走り、一瞬で掌握しに掛かる。
喉笛狙いのクナイを迎撃しに掛かると踏んでいた琴美は、舌打ちしながら転がった。ギルフォードの左腕が動くと察した直後、琴美は体を床に投げ出して強引にギルフォードの背後に回り込む。突進していた勢いを乗せていたため、離脱も速い。手にしていたクナイを身代わりに掴ませ、ゴロリと前転しながら反転、再びギルフォードに向き直る。
(あれは‥‥?)
しなる鞭‥‥‥‥いや、まるで触手のようだった。
クナイは全て空中で弾かれていた。琴美を迎撃‥‥それも捕まえようとしていたために、ギルフォードはその場から一歩たりとも動いていない。しかし琴美を迎撃するために腕を動かし、気を逸らしていたギルフォードには、クナイを躱すような暇はなかったはずだ。それを右腕一本で弾くなどあり得ない。
あり得ないと思っていた。そう、人間の腕ならば‥‥‥‥
ギチギチと機械的な音を立てて軋んでいる右腕。事前に得ていた情報から、その右腕が義手であると言うことは知っている。しかしこれはどうしたことだろうか? つい数瞬前まで、ギルフォードの義手は人間の腕の形態を取っていた。人間の社会で生きようとするならば、それが理想の形だろう。
だがクナイを弾いた右腕は何本もの節を作って四方に分かれ、まるで昆虫の手足のような形状に変化を遂げていた。
「はっ!?」
呆気に取られているような時間はない。背後を取った琴美は、すぐさまギルフォードに斬りかかる。投擲したクナイの他に、まだ袖口に一本のクナイを隠し持っていた琴美はそれを引き抜き、躊躇いなく腎臓目掛けて背後から刺突する。もちろん、ギルフォードがこちらを振り返ればそれだけで狙いは逸れてしまう。しかしそれで構わない。この間合いなら、琴美はいくらでも“合わせる”事が出来る。
「このアマッ!」
ギルフォードが体を反転させ、裏拳を放つ。変貌した義手がギギギギと軋みを上げ、まるで生物のように触手を走らせ、琴美の体を引き裂こうと奔っている。
‥‥‥‥だが、そこには誰も居ない。琴美はギルフォードが反転するのと同時に、背中を追うようにして回り込んでいた。純粋な力比べならば、男のギルフォードには叶わないだろう。しかし足の速さで忍びが負けるわけにはいかない。ギルフォードが長身で、琴美が小柄な体格であることもあり、死角に滑り込んで移動することはそう難しいことではない。
加えると、琴美は足音を完全に殺す術を身につけている。無音の暗殺者が自らの死角を走り回り、引っ掻き回されているのだ。ギルフォードは舌打ちし、苛立たしげに琴美の体を拘束した。
「――――え?」
唖然としたのは琴美だった。
琴美は今、ギルフォードの体にクナイを突き立てる形で止まっている。刃の先端はギルフォードの肌に微かな傷を付け、そこから漏れ出た血液がクナイを滴り、琴美の指に触れている。クナイに触れることで冷めたのか、ギルフォードの血はまるで雨水のように冷たかった。
だがそれと同時に、焼きごてを押し当てられたかのような痛みが腕に走る。
クナイを持ち、ギルフォードに差し出していた琴美の右腕。
違うことなく腎臓目掛けてクナイを差し込もうと伸ばされていた右腕は、まるで鋸のような刃を付けた鞭によって拘束されていた。
「ふ――――ぁぁああああ!!?」
目を見開き思わず腕を戻そうとする。しかしそれは、食い込んだ刃を更に深めるだけだった。痛みは麻痺しておらず、痛覚は肉を切り裂き骨にも達しているのではないかという痛みを忠実に伝えてくる。
琴美も、これまで激痛に耐えるための訓練を積んできてはいた。しかし腕に食い込む刃の痛みは、これまで受けたことのある痛みとは次元の違う激痛だった。ギルフォードの裏拳によって振り回された義手は、振り回されながらも変形していたのだろう。鋸のような刃を鞭のようにしならせ、琴美の腕に巻き付き急所狙いの一撃を食い止めていた。
そしてなお、この刃は琴美の腕に食い込んでいっている。
まるで自らの意志を持つかのように、ギチギチと笑いながら、蠢き肉を切り裂き神経を撫で付け骨にまで食い込みバキバキと砕きに掛かる。
‥‥‥‥そんな痛みを、訓練の過程で与えられるわけがない。
激痛に身を捩らせるような自由すら与えられず、鞭を掻きむしり必死に外そうと足掻きに掛かる。しかし骨にまで食い付いている刃は外れない。だが無理だと直感しても、もはや冷静な判断など望むべくもない。血飛沫が体を濡らし、琴美の体を染め上げる。
「うるせぇよ。人の耳元で叫んでんじゃねぇ!」
ゴッ――――!
本日二度目の衝撃。悲鳴を上げていた口内が血に染まり、胃液を交えて吐き出された。
この衝撃も腹部への一撃だったが、程度が違った。先程の一撃は、あくまで間合いを離して仕切り直すための一撃。琴美の体を壊さないようにと、気を遣って放たれた一撃だ。
しかし今回はそうはいかない。本気で激昂しているのか、容赦のない一撃は内臓をも傷つけ、一番下の肋骨二本を完全にへし折り、それだけでは飽きたらず背骨にまで鋭い痛みを与えてきた。
琴美の体が持ち上がり、サンドバッグのように天井に飛ばされた。一撃目のように壁に飛ばされるようなことはない。右腕が鞭に絡め取られているため、飛ばされようにも飛ばされなかったのだ。間合いは開かず、振り子のように宙を舞い、汚らしい鮮血と胃液を撒き散らす。
‥‥‥‥その鮮血が、ギルフォードに掛からなかったのは双方共に幸運だっただろう。
ギルフォードに取っては体を汚さずに済み、琴美は更に激昂したギルフォードの追い打ちを避けられたのだから。
ズダン!
床に叩き付けられる。鞭に絡め取られているため、間合いはやはり開いていない。自らがぶちまけた血溜まりに叩き付けられ、無様に痙攣する。刃を食い込ませたままで引っ張り回された右腕は、既に腕としての面影を残すばかりとなり、腕としての機能は完全に死んでいた。いっそ、断ち切られてしまえばこの痛みからも解放されるのに‥‥‥‥琴美は自分から切り捨ててしまおうかと左手をピクピクと痙攣させ、クナイを使い切っていたことを思い出した。
「おー、イテテ‥‥‥‥微妙に刺さってたか。血が出てるぜ」
ギルフォードは倒れた琴美を見ようともせず、自身の傷を気に掛けている。
琴美がクナイで付けた傷は、その全てが掠り傷程度のものだ。精々針の先を差し込んでしまった程度の‥‥‥‥殺し合いの場においては、傷としてカウントすることすら恥になりそうなほど、微々たる傷。
しかしその傷すらも許せないのか、ギルフォードは「ちっ」と舌打ちし、忌々しげに琴美の腕を踏み付けた。
ブシュゥゥゥッと、まだ残っていた血が噴き出している。
「――――」
「あーあ。やっばいか。楽しもうと思ってたんだが、もう終わりか」
ギルフォードはそう呟くと、つまらなそうに義手を元の形状に戻していた。
琴美の体に食い込んでいた刃は瞬く間に畳まれ、紐状となって傷口から離れていった。まるで蛇だ。自分の意志を持ち、自身の力だけで、器用に対象から離れていく。傷口からポタパタと琴美の血と肉が僅かに漏れていたが、それももはや今更だ。潰された腕は、少し前から痛みすら鈍くなっていた。それが痛覚が麻痺したからか、それとも自分が認識出来る痛みの臨界点を超えてしまったからなのかは分からない。
「壊れちまったな‥‥‥‥どうするかね」
潰すか、犯すか、どうでもいいが、大して楽しめそうにない。腕を潰したこともあり、出血が酷すぎる。何をするにしても、大量失血によるショック死で死に至るだろう。
‥‥‥‥いや
案外、もう死んでいるのでは?
「いーきーてーいーまーすーかぁ?」
琴美の髪を掴み、顔を持ち上げる。誰もが触れることすら憚られる長髪は遠慮容赦なく掴まれ、何本かの髪がブチブチと悲鳴を上げて引き抜かれた。仰け反るように持ち上げられた体からは、着物に染み込んでいた血が絞られたかのように滴り、白み掛かっていた肌は紅一色に染まり掛けている。
泣いて許しを請いに掛かるのならば、まだ楽しみがいもあるというものなのだが‥‥‥‥
「マジで死んだか?」
ギルフォードは溜息混じりに目を伏せ、呆気なく息を引き取った暗殺者を放り出し――――
自身の首に巻き付いた肉の感触に仰け反った。
「な、ん!」
「なんだ!?」と言いたかったのか‥‥‥‥
首を絞められながら、後頭部に掛かる重さに耐えかねて仰け反り、倒れ込む。後頭部に掛かっていた重さは、ギルフォードからしてみれば片手で持ち上げられる程度の重さだった。しかしそれは、あろう事か後方に向けてギルフォードの体を引き、強引に体を押し倒したのだ。
「――――つ!」
倒れ込む瞬間に目を奔らせる。二人目の暗殺者か? 否。この部屋には、ギルフォードを含めても二人の人間しかいない。ならば答えは一つだ。琴美はギルフォードが自分から視線を切った瞬間に意識を取り戻し、呼吸も戻して跳躍し、ギルフォードの首に膝を掛けて締めに掛かった。
背後から死に神の鎌のように食い込む琴美の膝は、万力のように締まっている。外すことは容易ではない。このまま倒れ込めば、ボキリと首が折れるかも知れない。
(これで!)
倒したと、琴美は確信した。
腕一本は痛かった。しかし腕一本で敵を倒すことが出来るのならば、問題はない。体の痛みも腕の痛みも、全て意識の外に追い遣っている。戦場で痛みを気にしていては死に繋がる。先程の琴美を見ればそうだろう。痛みに震えていては、相手の攻撃を受けるがままとなる。
しかしその痛みによって意識を覚醒させた琴美は、腕を踏まれても悲鳴を上げず、死に絶えた様相を演出した。髪を掴まれようと耐え抜き、勝機を再び手にしたのだ。
(このまま倒れ――――)
このまま倒れてしまえば、琴美の勝利は目の前だ。首を折ることが出来なくとも、まだ琴美には左腕が残っている。頭部を固定している今なら、頸動脈を狙うことも出来るだろう。得物はある。床に落ちている何本ものクナイ。弾かれながらも床で出番を待ち続けていたそれらを拾い上げて攻撃に移るまで、一秒と掛からない。
だがしかし、それも‥‥‥‥
あくまで、ギルフォードが倒れたらの話である。
「ぬぅぅうう!!」
倒れ込もうとしていたギルフォードの体が持ち上がる。いや、耐え抜かれた。琴美の体を持ち上げ、絡まった脚を強引に引き剥がす。頸動脈を締められ、常人ならば失神しているであろう攻撃だというのに、それをものともしていない。
‥‥‥‥自分が相手にしているのは、本当に人間なのだろうか?
ここに至り、琴美はそんなことを思い浮かべた。
「らぁぁああ!!」
放り投げられる琴美。床に叩き付けられなかったのは幸いだっただろう。壁に叩き付けられるはずだった琴美は宙で反転し、体勢を整えて‥‥‥‥壁に叩き付けられる。出血の影響か、目が霞む。脚もふらつき、もはや走り回れそうにない。何より腕一本が機能を無くし、バランス感覚が崩れている。
フラフラと揺れる琴美の体を、ギルフォードが歯軋りしながら睨め付ける。
死に体の雑兵に不覚を取りかけたと言うことが、この快楽殺人者のプライドを傷つけていた。
「殺す。お前は、念入りに殺してやるぜ!」
狂ったような笑い声を上げながら、殺人者の右腕が琴美の体を蹂躙した‥‥‥‥
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