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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


勝利よりなにより
 アトラス編集者、三下 忠雄は上司である、碇 麗香にスクープの無理難題を要求され、日頃の恨みを負のベクトルで爆発させる。その事態を察知したローザ・シュルツベルクはその建前にミネルバ・キャリントンを慰み物にしようと企む。

 ○

 アトラス編集ビルのエレベータ内でミネルバ・キャリントンが口をとがらせた。
「麗香、仕事とはいえ三下君に言いすぎじゃない?」
 過度に露出した服装、均整の取れたスタイル。すれ違えば振り向かない男はいないだろう魅力を前にして碇麗香は眼鏡を外して目元を押さえた。
「そうかしら? 毎日目の前で何もせずにおどおどされていたら追い出したくもなるわ。彼には、スクープを引っ張ってこなかったら言ったとおり辞めてもらうわ」
「意地っ張りなんだから」
 この会話を盗聴されているともしらずに碇は言いたい放題の様だ。
 三下は盗聴器を介して向かいのビルの屋上で編集デスクでの会話を聞いていた。盗聴器の開発者、ローザ・シュルツベルクはフォローが出来ないといった風に息を吐いた。
「やっぱり、碇麗香編集長はあなたを辞めさせるつもりで言ってきたみたいね」
 ミネルバに負けるとも劣らないスタイルに知的で落ち着いたその印象は、妖艶な雰囲気を秘めている。
 三下の肩が震えているのが見て取れる。
「良いじゃない、これでふんぎりがついたでしょ?」
「ええ、彼らには思い存分暴れてもらいます」
 三下は携帯電話を取り出すと、碇ファンクラブにもう一つ、違う部隊に連絡を取った。

 ○

ミネルバと碇がアトラス編集ビルのエントランスを抜けると突然轟音が轟いた。
「なんなの?!」
 碇が叫ぶと、二人の男性が目の前に降ってきた。二人は「碇親衛隊」なるハチマキを巻いていた。ミネルバが抱き起こす。
「どうしたの!」
「碇さん、ミネルバさんも逃げてください。麗香ファンだけなら抑えられると思った……のに。ローザ・シュルツベルクまで……」
 男二人が意識を失うと、ミネルバはそこかしこに潜んだ敵意を察知した。どうやら包囲されている様だ。
「出てきなさい」
 ミネルバが構えると、何十人もの男たちが物陰や茂みから姿を現した。
 彼らは「ミネルバファンクラブ(はぁと)」はちまきを一様に頭に締めていた。

 ○

 ローザはしばらくして再度屋上から状況を確認した。いくらミネルバとは言え、一般人を守りながら一個大隊人数を相手に包囲をくぐれるはずが無いと考えていた。
 確かにローザの言うとおり、包囲をくぐってはいなかった。
ただ、拮抗していた。
仲間だったはずのミネルバファンクラブと碇ファンクラブが争っているのである・ビル前の四車線ある道路に人間がごった返していた。
「魅了……か。なら、私が直接行って決着つけましょう」
 ローザはペンダントを握り、精神を集中させて詠唱すると銃に具現化させ、遠く離れたミネルバへと構えた。
 表情は何故か恍惚としていて、およそ銃を撃つ人間の表情ではない。頬が桃色に染まり興奮しているのが見て取れる。それもそのはず、ローザはもうすぐこの指先がミネルバを悶えさせるのだと想像、弾丸にイメージを送り込んでいた。
 息遣いが荒い。ローザは構えた左手をそっと下腹部へ添えると、うねるような熱さとじんわりとした湿り気を感じて。
「好き」
息を漏らすようにつぶやいて弾丸を発射した。


 ○

 ミネルバは一瞬たりとも気は抜いていなかった。
だが撃たれたのだ、しかしその後が変だった。どこを撃たれたか分からない。なんと言えばいいのか、下腹部が異様に熱い。膝が震えて、少しの衣擦れで力が抜けていく。全身が性感帯になったみたいに。
自分が集中できない為に敵勢力を魅了して戦わせていた兵士たちの動きが緩慢になってきた。このままだと捕まってしまう。しかし、力を込めようにも、立つのもままならない。
いつの間にか、ミネルバは爆風でずれた眼鏡をそのままに恍惚とした表情に口もとをだらしなく開け、腿から膝元にかけて透明な滴が滴っている。
「どう? 私の特製バレットの味は?」
「ローザ……」
 ミネルバの息が浅く連続している、何かをねだっている犬に見えなくも無い。
「あらあら、可愛いわねミネルバ。ご褒美あげるから、待っててね」
 ローザが大勢の間を抜けてヒールの音をたてて近づいてくる。
「余計な手出しは無用よ編集長さん」
 麗香がミネルバの横で鉄パイプを握りしめている。
「三下君のクビを取り消すなら助けてあげてもいいわよ。どうする?」
 返答は早かった。
「分かった、取り消すわ」
「良かったわね、三下君。じゃあ、私はミネルバをもらって帰るわ」
「話が違うわよ」
 語気は荒くないが、麗香の目つきは鋭い。
「約束どおりあなたに危害は加えない。それだけ」
 麗香は急いでミネルバの腕を自分の首に回して逃げようとするが。
「っっっっっっっっっ!!」
 触れるだけで、ミネルバは艶やかな声をあげてがくがくと震える。麗香は同じ女性としてどうすればいいか、分からなくなってきていた。
 そうこうしている間にも、ローザは数メートルまでやってきていた。
 鉄パイプを拾い構えるも麗香は圧倒的な迫力に気おされてしまった。
ローザは麗香が萎縮したのを確認すると、倒れこんだミネルバのあごを指ですくった。
「ぁぁぁぁぁぁっん!!」
その刺激だけでも、ミネルバは絶頂を迎えた嬌声をあげて倒れこんだ。
「楽しいのはこれからよミネルバ。一人で果てちゃいや。私も一緒に。ね?」
 ローザの淫猥な勝利宣言に観念したのか、ミネルバはそっと目蓋を閉じる。
 魅了によって操られていた兵士の動きが完全に止まった。
 瞬間。
 ミネルバはローザの唇に、自身の唇を重ねていた。
「なっ!」
 その場にいた麗香、三下、そしてローザも驚きを隠せない。
 ただ、その時点で勝敗が大逆転していたのである。
 
 ○

 しばらくして、ローザは両手を拘束した状態で魅了から開放された。意識が回復していくにつれ、ミネルバの声が届いてきた。
「危なかったわ、口付けで全精力をこめて魅了するしかなかった」
 既に抗争は終わり、あれだけ人で溢れていた道路は閑散としていた。
 ローザは身の回りの状況を吟味して、自分は負けたのだと理解した。
「後一歩でミネルバを奴隷に出来たのに。残念だわ」
 ローザは俯くもすぐに顔をあげて。
「ねぇ、私はこれからどうなるの? ミネルバの慰み者になるの?」
 ミネルバは理解が出来ないといった風。
「何を言っているの?」
「だって私は戦いに敗れたのよ。それくらいの覚悟は出来ているわ」
ローザは首を横に振って。
「そんなのいらないわ。要求することなんてない」
「駄目よそんなの!」
 ローザは勢いよくたちあがると、ミネルバにすり寄った。
「私の身体使って……ね?」
「いらないって!」
「なによ!!!」
 ローザは激昂すると、握っていたペンダントを剣に変えて縄を断ち切った。
「そんなの駄目。絶対駄目。抱いて、ミネルバ私をめちゃくちゃにして!」
「もう! しつこい!」
 辛抱できずミネルバが逃げ出す。
「あ! 待って、ミネルバー!!」
 追いかけるローザ。その場には、碇と三下の二人。
「三下君」
「はい!」
「カメラに入ってる写真すべて現像。原稿も明日昼までに提出。以上」
「はい……」
なんだかよく分からないが、自分の首はつながったのだとどぎまぎしたまま合点する三下だった。




 【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【八一七四 / ローザ・シュルツベルク / 女性 / 二十七 / シュルツベルク公国公女/発明家】
【七八四四 / ミネルバ・キャリントン / 女性 / 二十七 / シュルツベルク作家/風俗嬢】



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■         ライター通信          ■
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 初めまして。
 どのあたりまで描写できるか頑張ってみました。気に入っていただけると嬉しいです。